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3 巻き込まれ転生で、生死をかける「かくれんぼ」が始まるのも、お約束なのか?(ゴキブリ視点)

他の話と同様に、これはあくまで自称主人公視点の話であり、筆者の思想信条とは一切関係ありません。

私は人間の記憶を持っている。いわゆる輪廻転生という奴で(補足1)、閻魔様の計らいで(補足2)、幸か不幸かゴキブリになった(補足3)。快適な家、不自由しない食料、適度な娯楽(補足4)を兼ね備える、こたつのあるワンルームが私の住処だ。家主はOL。前世のころ憧れていた彼女の、だらけきった姿(補足5)を毎日目にしている。


このグータラ女には叔母がいて、ここから2時間ぐらいの距離に住んでいるらしい(補足6)。女が母親と電話している会話から想像するに、彼女が奇麗好き過ぎると愚痴を零ししていた母親よりも、さらに奇麗好きのようだ(補足7)。


その叔母が訪問してきた。彼女は部屋を見るなり

「散らかし過ぎでしょ。ちょっと簡単に掃除するよぅ!」

と女を駆り立てて、早速、掃除を始めた。どうやら母親に頼まれていたようだ。


どんな「叔母」なのだろうか、と私が押し入れのふすまから様子をうかがっていると、突然ふすまが開いて、目(触覚)がくらんだ。


次の瞬間、斜め上から帚らしき圧を感じた私は、真っすぐに飛び出して、台所のゴミ箱裏を目指した。ゴキブリはとっさの方向転換が苦手なのだ。


だが、相手は上だった(補足8)。鋭い足音と共に、帚らしき棒が頭上を覆って来るのを感ずる。不味い(補足9)。


そう思った瞬間、目もくらやむ光が広がって、次の瞬間には冷たい床の上を走っていた。


「パーン」


という音が直ぐ横から聞こえて、風圧で足下が緩んだが、ともかくも帚をかわした。あの光に助けられたらしい。


それにしても、床の触感や空気の湿気が異なる。まるで全く別の部屋に移動したかのようだ。いや、そんなことを考えている暇はない。目の前に突っ立っているコスプレ集団(補足10)の合間を縫って、一気に部屋の隅まで到達し、なんとか部屋から逃れた。そのまま逃げるうちに、窪みらしき薄暗い所に到達して、やっと一息つくに至る。


どうやら異世界に来てしまったらしい(補足11)。これが「お約束」の「巻き込まれ」という奴なのだろう(補足12)。ということはゴキブリの生き延びにくい環境の可能性が高い(補足13)。


-----------------------


なんとか逃げ延びて、1日になる。その間に、ここが異世界であることを確認し、同時に厨房の場所と隠れるのに都合のよい場所も確保した。厨房は食料だけでなく、機密事項以外の最新情報も集まって来る場所だ(補足14)。


当然ながら、異世界召喚の話も仕入れた。召喚は2人で、帚使いの名手である「女の叔母」(なので今後は「箒母」と呼ぼう)の他に、ゴキブリ叩きの得意な高校生がいるらしい(補足15)。両者とも特別な魔法が使えて、かつ「勇者」と呼ばれて丁重に扱われている。目的は確かに邪神の封印らしい(補足16)。


となれば、あの危機一髪の状況を召喚魔法で救ってくれたこの世界のために協力するのも悪くはない(補足17)。封印は4年後で、普通のゴキブリだと、その前に寿命が尽きてしまうだろうが、異世界転生特典とやらで寿命も延びそうな予感がある(補足18)。となれば、老体を鞭打って、邪神封印の旅に参加すれば、来世に向けた功徳となるだろう(補足19)。


しかし、私は考えが甘いことを思い知った。異世界の2日目にして、私の隠れ家を清掃員の連中に見つけられ、いきなり追われる羽目になったのだ。新しい隙間を見つけるも、数日後にはシャボン液を流し込まれた。徹底的にゴキブリを駆逐するらしい。その間に得た情報によると、箒母がゴキブリの潜みそうな場所や卵を生みそうな場所を清掃員に教えて、建物全体の消毒を始めたそうだ。


ただし、その理由は、私でなく、もう一匹のゴキブリへの対策らしい。そう、メスゴキブリも一匹、召喚に巻き込まれたらしいのだ。しかも子持ち(補足20)。それが一匹だけだと分かれば、誰だって、ゴキブリ本体と共に、卵鞘の駆除に当たるだろう。


それからというもの、私の生活は目まぐるしい。ゴキブリ退治の名手である勇者2人(「箒母」と「高校生」)に見つからないように、それでいて邪神封印の旅に乗り遅れないように勇者の近くを徘徊し、さらに卵鞘を清掃隊の先に見つけるミッションもこなしているのだ(補足21)。運良く私が子孫を残せたら、理性的で清潔なゴキブリになるだろう(補足22)。


こうして、超難度「かくれんぼ」が始まったが(補足23)、このホラーじみたミッションを私は実は楽しみにしていたりする(補足24)。


以下の補足はゴキブリ君によるもので、補足3と補足22を除いて、筆者はその内容に関知しません。


(自称主人公視点による補足1)

人から動物に転生した場合は人間時代の記憶が残り、人間への転生の場合に限り前世の記憶を失うというのが伝統的な輪廻転生だが、一口に輪廻転生と言っても中国と日本ではかなり温度差があり、中国では人から人への輪廻が基本でよほどのことがないと畜生道には落ちないが(だからあんなに人口が多いのかも)、日本では必ずしも人から人への輪廻ではなく、脊椎動物であれば驚くに値せず(雨月物語の和尚様なぞは琵琶湖の鯉に転生しても動じない)、手塚治虫「火の鳥」鳳凰編の某努力家ようにミジンコに転生させる描写すら心情的に成り立つ。それにしても同じ火の鳥の中でも鳳凰編が飛び抜けて「凄まじい」と思うのは、やはり「苦労して成功した者が、歳を取ると弱者への弊害になっていく」というパワハラの本質をえぐっているからではないだろうか。


(自称主人公視点による補足2)

東アジア圏の人口から概算すると、閻魔様は、200年前の昔ですら平均1日1万人の処理をしていた勘定になる。仮に現世の1日が冥界の1年に相当するとしても(西遊記では天界の1日が人間界の1年に相当していたし、地獄が長く感じられる現実を考えると、この仮定は不当ではない)、休日無しで毎日30人ほど休み無く処理しなければならない。その場合の一人当たりの審理時間は15分から20分。これが20世紀の人口爆発で10分の1になったとなれば、なるほど異世界の神様が引き抜く隙もできるというものだろう。


(筆者による補足3)

拙作短編「伝説の転生先」に、この主人公らしきゴキブリが登場している。


(自称主人公視点による補足4)

昔はテレビだったけど今はゲームとネット動画が主流らしい。とはいえ、家主の女はテレビ派のようだ。


(自称主人公視点による補足5)

グータラとも言う。家でくつろぎきって充電しているから、仕事場ではシャキっとしてユーモアもある人気者になれているのかもしれない。彼女の実態を知った時はちょっと幻滅したけど、今では、これだから彼女は魅力を保てているのだと納得している。夫婦というのもそういう諦念で成り立っているのではあるまいか? 私は未婚のままゴキブリになったから、正確なことはわからないが。


(自称主人公視点による補足6)

田舎で2時間というと車で100kmを意味し、アメリカの田舎だと200km近くを意味するが、私の住んでいる街では公共交通機関を使った距離を差し、道路距離は50kmぐらいとなる。人によっては自転車距離としての50kmを指すこともあって、私の同級生にそんな男がいた。


(自称主人公視点による補足7)

奇麗好きは必ずしも整理が得意とは限らない。取り出す効率が高まるようにと、あえて平面状に、しかも縦横を揃えずに散りばめてい紙類を、「整理」と称して母親が勝手に奇麗に重ねてしまい、どの書類が何処にあるのか分からなくなった経験とか、セット食器のうち使う分の食器だけを別のところにまとめておいていたら、いつのまにかセットごとの場所に戻されていた経験とかは、多くの人間にあるのではあるまいか。


(自称主人公視点による補足8)

相手とは、もちろん女の叔母だ。かの有名な米国の猫VS鼠アニメでは、猫すら帚でぶつ描写もあったから、ゴキブリを帚で潰すのが当たり前の時代の「叔母」は育っただろうし、日本の公衆衛生が米国より遅れていた時代の生まれの母親族に、帚使いの名手がいても不思議は無い。そこで敬意を表して、この「叔母」のことを今後は「帚母」と呼ぶことにしよう。


(自称主人公視点による補足9)

ゴキブリであることを満喫している今生のグータラぶりを顧みると、次の輪廻転生はもっと厳しい環境になりそうな気がするから、簡単に死ぬ訳にはいかない。というのは表向きの「逃げた」理由で、実際にはゴキブリの本能に従ったまでだけど。うむ、段々ゴキブリに染まった気がする。


(自称主人公視点による補足10)

コスプレとしか言いようの無いかぼちゃズボンに刺繍入りシャツで、まるでシラノ・ド・ベルジュラックやナポレオンの映画に出て来るような連中の格好だった。


(自称主人公視点による補足11)

輪廻転生で家主の女のところに居候するまでは、「異世界モノ」というものを知らなかったが、この女が見るテレビ番組に、その手の転生恋愛ものが多かったので、なんとなく「お約束」が分かるようになった。


(自称主人公視点による補足12)

ゴキブリまで巻き込むとは、さすが万能の「お約束」だと感心した。いや、呪いの類いか。後から「シンクロ召喚」の性質だと聞き知って(第2話の補足12参照)、それで命が助かったから一応は感謝しているが、複雑な気分ではある。


(自称主人公視点による補足13)

「お約束」どおり、「水洗・下水道完備」の「現代並みに清潔」で「欧州大陸の湿度しかない」「石の建造物の多い」ひんやりした世界だった。それは、鼠には優しいが、ゴキブリには住みにくい環境だ。やっぱり「巻き込まれ」は呪いかも知れない。


(自称主人公視点による補足14)

皆が昼食を食べる食堂に隣接して、かれらの雑談が耳に入るほか、会議のためのお茶を運んだりする時に、機密事項以外は給仕にいるいないに関わらず話を続けるので、自然と情報がメンバーに集まって来る。それを厨房のお茶の時間に交換する。稀に機密と思われる情報すら入って来ることがある。スパイは先ず厨房に就職することを目指すべきだと今回つくづく思った。


(自称主人公視点による補足15)

私の居候先の女のほうは、召喚現場に居合わせず日本に残ったようだ。掃除をするのに邪魔とばかり、清掃溶剤や除虫剤の買い物に行かされたためだと後から効いた。となると帰ってみたら叔母が蒸発していた、という事件になるのかな。


(自称主人公視点による補足16)

駄目な方の召喚というか拉致も異世界モノでは半分ぐらい占めるから、この点だけははっきりさせないと、私の行動も変わって来るのは言うまでもない。


(自称主人公視点による補足17)

「巻き込まれた者が鍵を握る」というのが異世界召喚ものの「お約束」だと思う。それはお約束ではなく、ご都合主義? どっちでもいいけど、ともかくこの予感はきっと正しい。だって私は主人公なのだから。


(自称主人公視点による補足18)

冬さえ越えることが出来れば数年生きられるが、ご都合主義で寿命がもっと長くという予感はできっと正しい。だって私は主人公なのだから。


(自称主人公視点による補足19)

異世界で輪廻転生できるかは分からないので、私の打算は「取らぬ狸の皮算用」で終わる可能性もあるが、閻魔様の存在を知った以上は、この世界にも閻魔様がいるかもしれないと信じて、功徳を積むのは間違っていないと思う。だって、生に未練の強い私は、絶対に成仏しないだろうから、来世が気になるじゃない。


(自称主人公視点による補足20)

これでも私は人間だったころの記憶を持っており、子持ちゴキブリの意味ぐらい分かる。私以外のオス遺伝子をもつゴキブリが繁殖するということで、メスゴキブリへの同情はあまりない。


(自称主人公視点による補足21)

メスゴキブリとコミュニケーションが取れるとは思わないから、それぐらいなら卵を数個だけ持ち運んで、生まれたのがメスだったら大切にするのが、生存戦略としては正しい。適齢期の女を全部助けようするハーレム野郎と一緒にしてもらわないで欲しいのだ。必要最小限だけを助けて、生存に特化するような主人公がいてもおかしくないではないか。


そう思っていた時もありました。最新情報では、私がこう決意する前にメスゴキブリは駆除され、卵鞘も残っているかどうか分からないらしい。だから私は僅かな希望の為に危険を犯すという、分の悪い賭けをしていることになる。ハーレム主人公を笑えないや。


(自称主人公視点による補足22)

ゴキブリのうち、害をもたらすのは1%程度だと思う。むしろ、ゴミ等の掃除屋として役に立つ存在の筈だ。特に私のように糞が散らからないように気をつけるゴキブリなら、アレルギー問題すら起こすまい。


(自称主人公視点による補足23)

第3者からみれば馬鹿みたいな危険を犯すのは、御都合主義ってやつで、主人公に許された特権だと思う。だった私は主人公(以下略)。夏のホラーのキーワード? それは報告者の都合で書き足したのだそうです。


(自称主人公視点による補足24)

これも「主人公」の正しいあり方ですよね?



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