1 勇者は女子よりゴキブリを追いかける(勇者クン視点)
これはあくまで勇者クン視点の話であり、筆者の思想信条とは一切関係ありません。
勇者クンによる補足? なにソレ美味しいの?
(7.28 言い回しのみの微修正)
俺はクラスで男子連中から勇者と言われている。それはゴキブリを見たら、反射的に叩き潰すからだ(補足1)。
手許にスリッパや蠅たたきがあるとは限らないので(補足2)、大抵は、手にとれる範囲にあるものを使う。連中は直ぐに姿を隠すからだ。
自宅でゴキブリが出て来るのは(補足3)、大抵は俺が台所兼居間(LDKってやつだ)のこたつで俺が勉強を始めたりマンガを読んだりして静かにしている時だ(補足4)。いや、視線が低い分、こたつに入っている時が一番目につきやすいと言うべきか。
そんな時に、届く範囲で叩けるモノは限られている。だから俺の教科書やマンガは汁色になっている。
その癖で、学校でも、つい教科書やノートで叩いてしまう(補足5)。ズボンのポケットにティッシュは入っているが、教室でゴキブリが出て来ることは滅多にないので、ポケットに入っているもので叩き潰すという判断は俺には無理だ(補足6)。そんな判断を挟んだら「脳思考+脳から脊髄までの神経伝達時間」という無駄なコンマ2秒で、ゴキブリは逃げてしまう。素早い奴らと戦うには脊髄で判断しないといけない。
ゴキブリを見つけ、女子生徒が悲鳴を上げるか上げないか(補足7)のタイミングで叩き潰し、そのあと教科書をポケットのティッシュで拭きながら、以上の話をするところまでが様式美だが(補足8)、俺はいつも蛇足を加えてしまう。
本を使うぐらいなら、手で叩き潰して、そのあと丁寧に手洗いした方が衛生的だという持論だ。だから、実は近くに教科書やマンガ、新聞が無い時(補足9)にゴキブリが現れた場合、その手法をとる事も多い。蛇や蜂のように噛み付かれる恐れれがないのだから、直手でも怖くない。そして、ゴキブリを逃す衛生面のリスクを考えたら、こちらのほうが絶対に正しい。
でも、ここまでクラスメートに話すと、7割以上の確率で(補足10)「汚い」「不衛生」と男子からすら罵られ、女子に至ってはあからさまに俺を避ける。それでついたあだ名が勇者だ。その心は「近づくのは恐れ多いが、遠巻きになら見たくなる動物園のパンダ的存在」らしい。
解せない。確かに世の中の9割以上は科学的思考が出来ないという噂はある(補足11)。でも、それが正しいなんて、俺は信じたくない。
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その日も、ゴキブリを見つけ、漫画本で叩き潰そうとしていた。その瞬間、目もくらやむ光が広がって、次の瞬間、おれは冷たい床の上に立っていた。
「パーン」
惰性で床を叩いたものの、対象物から僅かにずれ、ゴキブリは一目散に逃げて行った。あれは子持ちとみた(補足12)。
久々の撃破失敗に2秒ほど呆然としていたが、我に返るや、そこが自室の畳でない事に気がついた。なんじゃ、これ?
少し離れた所を2匹のゴキブリは走っている。
その近くには母親年代より上とおぼしき小母さんが(補足13)、俺と同じように睨みつけるよな惚けるような顔で立っていた。
以下の補足は勇者クンによるもので、筆者はその内容に関知しません。
(勇者クンによる補足1)
強い光に瞳孔が小さくなる「反射」ではなく、梅干しを見たら唾液がでる「条件反射」に近いけど、この手の「大脳を通じず脊髄が指令する」行動は、ふつう「反射的」って言うよね。
(勇者クンによる補足2)
というか、それが普通でしょ? そもそも蠅たたきはハエを潰す道具であって、ゴキブリを違って見える範囲であちこちに移動するので、ゴキブリほどの緊急性はないし。
(勇者クンによる補足3)
連中は台所や、押し入れのある和室が好きなんだよね。だから学校や外出先より自宅の方がゴキブリ密度が高いわけで。
(勇者クンによる補足4)
一応自室はあるが、冷蔵庫やポットに近いところのほうが便利だから、大抵はこっちにいる。っていうか日本人なら畳に正座かあぐらが正しい勉強スタイルでしょ? 居間が畳? いいでしょ、別に。絨毯よりは健康的なんだから。
(勇者クンによる補足5)
たまに筆箱を使う。さすがに携帯では叩かない。ちなみに俺はガラケー派だ。代わりに家にはマックと巨大スクリーンがある。スマフォの小さな画面は、勇者である俺の性に合わないのだ。
(勇者クンによる補足6)
そこまでの判断をして尚も反応の早い連中は、ハンドボールのキーパーや競技カルタをやったら大成できるだろう。
(勇者クンによる補足7)
俺の観察によると、本気で怖くて悲鳴を上げているのは半分以下だ。怖がらないと「可愛い女子」とか「女子の仲間」思われないから、あえて悲鳴を上げている女子が結構多いとみた。要するに、40年前の流行語「ぶりっ子」「ハマチ』って奴だ(流行当時は男性向けの媚という意味だったが、いつの間にかに女子同士の探り合いという意味に変わったんだよね)。こうやって、中学・高校でジェンダー固定概念が育つんだね。
(勇者クンによる補足8)
この段階で、教科書が黄ばんでいる理由に気付かれて、女子から少しだけ距離を取られる。悲しい。
(勇者クンによる補足9)
こたつ・お茶・和菓子3点セットのような至福の時は大抵そうだ。
(勇者クンによる補足10)
3度話して3度とも引かれた。回数が少ないから統計的信頼性は弱いが、仮に4度目に引かれなかったとしても7割5分になるから、俺は勝手に7割以上と思うことにしている。どうせ女子の考えることは分からないのだし。高校の統計学の試験だと7割以下であると仮定した場合に3回続けて出る確率を求める話になるけど、こんな確率事態があやふやな事柄でそこまで厳密に考えるようではゴキブリは殺せない。
(勇者クンによる補足11)
そんなことを、複数の有名な人が言っていたような気がする。理性的判断をしながらも「空気」優先して行動に移さないという「判断」をする場合、理性的判断が出来ない人間と観測上区別がつかないから、それは科学的にも歴史学的にも「理性的判断」とは言わないんだよね。だから9割。もしかしたら8割だったかも知れないけど。
(勇者クンによる補足12)
ゴキブリは一回の交尾で複数回分の精子を貯めるので、子持ちは何度でも繰り返し卵を産む。それはあたかも単為生殖のようで、繁殖力の高い理由の一つだ。
(勇者クンによる補足13)
女性の年齢は本当に分からないから、お袋より老けていて祖母より若いというところまでしか分からなかった。っていうか、それ以上に詳しい年齢情報って高校生にとって意味ある?