雨の街。
僕の住んでいる街はいつも雨だ。
一年中雨の日ばかりで、空はいつも鼠色の雲で覆われている。
だから僕は一度も青空を見た事がない。
青空ってどんな物なのか?
この街ではそれは本の中にしかない。
だから僕は、街の図書館へ行っていつも青空の本を眺める。
青にも様々な色があるんだって。
薄い青に濃い青。紫がかった青に赤みがかった青。
どれも空の色。
「いつか本物を見てみたいなぁ…。」
この街も昔は晴れている日の方が多かったそうだ。
いつも眺める空の本にはこの街の歴史が書いてあった。
いつからか少しずつ雨の日が増えていって、晴れの日がどんどん少なくなって。
気づいたら雨の日ばかりになっていたそうだ。
僕は本を読むまで何か大きな出来事があって、ある日突然雨の日ばかりになったんだと思っていた。
でも、毎日少しずつ少しずつ太陽や青空が消えていった。
だからどうやって青空に戻すのか、誰にも戻し方が分からないらしい。
この分厚い雲を晴らす方法ってなんだろうか…?
巨大な扇風機でたくさん風を送る?
それとも、空に雲を消す薬を打ち上げてばら撒いてみる?
けれど、そもそもこの雲の正体が分からないから対処のしようがないみたいだ。
ずっと同じ雲がそこにある訳じゃない。
消えては増えてを繰り返して常に新しい雲がそこにある。
たくさんの大人達が調べているけれど、詳しい事は分からないらしい。
でも、僕は雨が好きだ。
だから別にいつも雨でも構わないと思っていた。
ポツポツ窓に当たる音。
傘にバチバチ当たって跳ねる水滴。
水溜りを泳ぐアメンボ。
…ま、洗濯物が乾かないのは困るけどね。
ある日。
差出人のない手紙がポストに届いた。
空色の封筒。
僕には手紙をくれるような誰かはいないから開けて読むか迷った。
でもこの手紙は、もしかしたら今の僕をやめるキッカケになるかもしれないと思ったんだ。
…ただの勘だけど。
勇気を出して開けてみた手紙には短い一文。
「"西"へ向かって。私に会いに来て。」
…なんだこれ?
私って誰だ?
…西?
西に何があるんだろうか?
手紙の右下には七色が綺麗に並んだアーチの絵が描かれていた。
これは…なんだろうか?
「これを探せって事…?」
僕は手紙と一晩中にらめっこをして考えた。
空が少し明るくなる頃、夜中に強くなっていた雨が優しく弱まった。
まだ降っている雨の中を歩く為、いつも履いてる長靴とお気に入りの雨ガッパを着て。
僕はそっと玄関のドアを開けた。
「…いってきます。」
背負ったリュックには少しの食料と2着分の着替え。
大好きな空の本を眺められなくなるから、前におこづかいを貯めて本屋さんで買った小さな空の図鑑を持った。
青空とあの綺麗なアーチを探す旅。
鼠色した僕の心はここに置いて行こう。
"私"と名乗った君に会う為、僕は西へ向かって歩き出した。