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7話 聖水の聖女、アレッサンドラ・ラファエラ・チマッティ

 食事を終えた後は、特にすることはありません。また就寝時間まで自由行動なのです。


 私はとある人がいる場所求めて、夜の散歩をしていると、彼女は腰まで浸かることができる川を前にして服を脱ぎ始めていました。



「覗きか?」

「えへへ、良い身体してますね?」

「本当に覗きみたいなリアクションをするんだな」



 水色の髪が腰まで伸びた鋭い目つきの女性。青い瞳が私を捉えます。



「ダメですよサーシャさん。護衛も呼ばずに出歩いちゃ」

「護衛を呼んで水浴びをする趣味はなくてな。それとお前だって誰も連れていないじゃないか」

「私も水浴びがしたかったので。ここではお風呂って二日に一回じゃないですか。贅沢は敵みたいな空気なんとかなりませんかね?」


 お風呂は二日に一回。明日の朝、朝の礼拝の前の時間に全員まとめて狭い大浴場に詰め込まれます。



「日中だとそこら中に歩いている護衛騎士に気付かれてつけられかねないからな」

「でも就寝時間を守らないとですからね?」



 私も着ている修道服を脱ぎ、畳んでから川に足を突っ込みます。冷たい水に足を突っ込んでいるはずですが、不思議と温かいといいますか、癒されるそう言った感覚が私の身体に伝わってきました。



「不思議か?」

「聖痕が浮かんだその日から、不思議なことだらけですよ」

「あたしもだ。これはあたしの聖痕の力みたいなものだから警戒しなくていい」

「はーい」



 肩まで浸かっているはずなのに、冷たいと感じずに心地よさだけが全身を包み込み、汚れが落ちるというよりは消え去っていく感覚でした。

 サーシャさんのこの力は、聖女の力と言っても過言ではないのでしょう。

 あらゆる水を聖水に変える能力。また、魔力を聖水に変える能力。聖水という言葉が曖昧でどこまで作用があるかは不明ですが、少なくとも冷たいはずの水をそう思わせなかったり、体中の汚れを消したりする力はあるみたいです。


 やはり、彼女が一人で水浴びをしに行くタイミングについてきて正解でしたね。


 ほんのり光る川の水には、他の生き物も安らぎを求めて集まってきます。そこには獰猛な獣までやってきてしまいましたが、川の水を口にして一瞬で安らいでしまいました。



「聖女候補生ね。あたしは力だけなら一人前なんだろうね」


 川の水を左手ですくって、指の隙間から垂れ流しながら、サーシャさんは呟きました。確かにサーシャさんは、ステフお姉ちゃんほどではありませんが、粗暴な点があります。

 それでも、ここにいる全員は、聖痕が浮かんだ。その一点の理由で、教会から同列として扱われることになります。



「サーシャさんが聖女として選定されたら、最初に何をしますか?」

「最初? そうだな、あたしは誰かの財産を奪わなければ生活ができないという人達を少しでも減らしたいね」

「良いじゃないですか。サーシャさんも立派な聖女候補生ですよ」



 私と違う。聖女として働こうと考えている。与えられた役割を全うしようと考えている。この人は紛れもなく聖女候補生だ。

 私みたいに、聖痕が浮かんで力を得たから流されるようにしてここに来た人間とは違うんだ。

 もっと言えば、私はヴィンセント様に恋する未来を見てその恋に憧れた。だから聖痕の発現を国に申告し、この島にやってきたのだ。


 そして私は、最後に選ばれる聖女が誰か知っている。この島に来る前から。

 ただし、私の能力は何もしなければ未来がそうなるというだけで、何か行動を起こして未来を書き換えてしまった場合、それ以降の出来事は次に能力が発動するまで分からなくなってしまう。

 ですが何度未来を見ても、最後に選ばれる聖女が誰かだけは今の所変わりませんでした。

 その未来がどんなことになるかも、私は知っている。だから私は…………



「クリスチナ。お前は聖女になりたいか?」

「なりたい…………いいえ、なります」

「それは国の為か?」

「他の誰でもない私の為です」

「…………」

「…………」



 サーシャさんは真っすぐ私の瞳を見つめ、私もその瞳を見つめ返します。互いの視線は一切ぶれません。



「建前すら言わないんだな。正直者のお前こそ聖女に相応しいのかもな」

「少なくとも聖痕が浮かびました。それが結果です。貴女も私も」



 私は聖痕のある額が良く見えるように、灰色の前髪をかき分ける。サーシャさんそれを見て、初めてクスリと笑いました。



「なんですか?」

「いや、お前にもそんな立派な表情ができたんだなと思ってな」

「できますよぉ! もう!」

「悪い悪い」



 私が頬を膨らませながら怒ると、サーシャさんは目を細めて笑ってくれました。二人で川から上がり互いの髪を拭きます。

 修道服に袖を通すと、私達は教会まで誰にも気づかれない様にこっそり戻っていきます。

 はじめはサーシャさんが先頭を歩こうとしましたが、私はサーシャさんの肩を叩き、先に歩かせて貰いました。



「サーシャさんばかり聖痕の力が割れてしまうのは申し訳ありませんので、私の力もちょっとだけお見せします。誰にもバレずに戻って見せましょう」

「へえ、やってみろよ」

「少し特殊ですので、能力までは話せませんが、今ここで役に立つことを、私は知っています」


 私の自信ありげの表情に、サーシャさんは納得して付いて来てくれました。草むらの向こうには数人の騎士様と聖女候補生。

 倉庫の近くには明日の食糧などを運ぶ仕事をしている聖女候補生とその護衛の為に付き添いで立たされている騎士様。

 教会の近くでは祈りを捧げているシスターたち。その誰もから怪しまれることもなく歩き、視線が向かないタイミングで通り抜けます。



「次の角を二十三秒後にあそこの物陰まで歩いてください」

「騎士達から丸見えだぞ」

「走らなければ大丈夫です」



 私の行った通り、そのタイミングで物陰まで普通に歩くと、騎士たちは誰もこちらを見ません。

 そして最後は宿舎の窓を開けてそこから潜り込みます。

 これで私達が騎士も連れずに敷地外に出たことを知る者は誰もいません。



「ほーん。奇跡を起こす力か何かか?」

「それは正解で不正解ですね。聖痕の力はすべて奇跡ですよ」

「まあ、それもそうなんだが」



 はぐらかすとサーシャさんはそれ以上は追及してこようとしません。そういうところは、サーシャさんやステフお姉ちゃんの良いところだと思います。

 二人からは粗暴だけど、優しいお姉ちゃんと言った印象があります。逆にモニカお姉ちゃんは私を犬か何かと勘違いしているのではないでしょうかと思いますが、可愛がられていることに違いありません。

 聖痕が発現した以上、個人差はありますが、誰かを傷つけるような邪な思想を持つ者はいないと言って良いでしょう。


 ですが、それはあくまで聖女候補生に限った話。誰の家族や関係者にも、聖女にさせたいという思想や、親族を聖女にして利用したいという人間は必ずいます。


 いずれこの離島生活でも、誰かを聖女にさせようとする何者かが、重大な事件を起こそうとするのでしょう。

 それ自体は過去の聖女候補生の試験に何度もあり、護衛騎士たちが配置されているのもその予防でもあります。離島で行われることだって、侵入者がわかりやすいようにするのが目的です。



「それじゃあたしは部屋に戻るな」

「はーい。おやすみなさーい」

「おう、夜更かしするなよ?」

「混んだお風呂に入れなかったら、明日もお願いします」

「ははは。お前の力はバレずに何かするには便利だな」

「聖痕消えちゃいますよ?」

「聖女候補生二人の総意だ。多分正しいだろ」



 そう言ってサーシャさんは、豪快に笑いながら自室に戻っていってしまいました。

 もうすぐ就寝時間。私も特に理由がありませんので、既にヴィーちゃんが戻っている部屋に向かいました。

今回もありがとうございました。

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