2話 結界の聖女候補生、ヴィルナ・ガエターナ・クナップ
目の前に現れた藍色の髪の騎士。それは未来の私が恋する騎士だ。
朝の洗礼に向かう私とヴィーちゃん。私達、聖女候補生は日常的にはシスターと同じような修道服を着せられます。
礼拝堂についた頃には、数名の聖女候補生と護衛騎士。それから神父さんにシスターの皆様が朝の礼拝をおえて雑談などをしていました。
「遅いですよ、聖クリスチナ。聖ヴィルナ」
「申し訳ありませんシスター・タチアナ」
私より先に頭を下げるヴィーちゃん。つられて私もとっさに頭を下げます。
私達を叱りつけた緑髪の綺麗な女性。細く開いた目から、翡翠の瞳がしっかりとこちらをロックオンしています。
彼女はシスター・タチアナ。
私達が生活している国立聖女候補生育成館。長いのでみんなは宿舎と呼んでいる小さな木造のお屋敷の脇に添えてある私達と護衛騎士くらいしか利用しない寂しい教会のシスターです。
何故私達しか利用しないかと言いますと、国立聖女候補生育成館とは、元々は無人島だった場所をほとんど開拓せずに聖女の育成の地として選定されたからです。
偶然立ち寄る人がいたら、それはもう遭難です。
「あのー? 朝の洗礼を済ませたいので小皺の増えるお説教はここまでというのはどうでしょうか?」
「…………そうですね。そうしましょう。どうせ聖ヴィルナに非はないのでしょう。ここで時間を取らせるのは申し訳ないわ。聖クリスチナは後で私の所に来なさい」
「はーい」
シスター・タチアナが怒って礼拝堂から出ていくところを見送ってから私はヴィーちゃんにウィンク。
「逃れちゃいましたね」
「いやいやいや、アンタは思いっきり捕まっていたじゃない」
「良いのですよ。聖女候補生は聖痕が浮かんでいる間は聖人なんですよ。修道女のタチアナより偉いんです! つまりそういうことです!!」
「そういう問題じゃないと思うのだけど」
教会での力関係において聖女候補生は教皇の次に偉い枢機卿に在籍する聖女の候補生。
候補生の段階ですでにそれなりの地位を与えられています。何故なら私達は神に選ばれた証、聖痕があるのですから。
「クリスチナは聖痕が浮かんだ日のことを覚えていたりするの?」
「えー? 実は覚えていないんですよね?」
「そうなの? そういう人もいるものなのね」
「まあ、覚えているんですけどね」
私達は突然聖痕に選ばれる。それまでの暮らしがどんな環境であろうと、関係ない。
ヴィーちゃんは元々は商家の娘だったそうです。
「何よ、やっぱり覚えているんじゃない。それでアンタは家族から引き離されて不安じゃないの?」
「…………うーん、まあ見ての通りですよ私。不安そうに見えますか?」
「そうよね、聞いた私が馬鹿だったわ」
今ここで私が意味深なことをいえば、きっと心優しいヴィーちゃんなら、自分だけが辛いと思ってはいけないと考えちゃいますよね。だから私は、辛そうな表情を見せない。彼女の前にいる私は、ノー天気で明るい、悩みのなさそうな女の子だ。今の私だからこそ、彼女は怒りながらも、楽しく会話ができるんです。
私は頭がいいので、貴女が暗い表情を作らない選択肢を選ばせて頂きます。
今回もありがとうございました。