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舗装された道が急に途切れて、薄暗い小さな林に迷い込む。ミトンは砂利の敷かれた小道をざくざくと進んでいく。歩き慣れた道のようだ。
小道は二回ほどカーブしたあと、急勾配のボロい階段に繋がった。
登り切ると、そこがもう海岸だった。
「ほんとだ。近い」
強い風に、声がかき消されそうになる。
銀色の空は暗くなり始めていて、海の上をどこまでも覆っていた。もしあれが何かの「底」だとしたら、あまりにも巨大だ。人間の手に負えるようなものではない。
これは結局、やはり「雲」の一種なのではないか。今まで見たことがないタイプの、気象現象ではないだろうか。どうしてこんなふうになるのか、まるで分からないけれど。
波は荒く、灰色の水がいたるところで砕けて白く泡立っていた。
海岸には誰もいない。
私たちは波打ち際に向かって歩いていった。
自然とまた、手を繋いでいた。ミトンの手は相変わらず氷のように冷たく、その手が徐々に力を込めて私の手を強く握った。
私たちはかなりそれに近づいてから、やっと足を止めた。
男が、というか、男だったものが、砂の上にうつ伏せに倒れていた。四つん這いになりかけて硬直してしまったような、奇妙な姿勢だった。
紙のように真っ白な横顔と、手が見える。
黒い、つやのある布が彼の全身を覆っている。サーファーの格好だ。ボードは見当たらない。
妙に清潔だな、と私は思っていた。もっと、虫やら動物やら鳥やら、集まってきて目も当てられない絵になるのかと思っていた……それは映画の見すぎなのか。もしくは、冬だから、とくにここ数日すごく冷え込んでいたからか。
「本物?」と、ミトンもだいぶズレたことを言った。「なにこれ。え? 死んでる?」
「生きてはいないですね」と私は言った。「やだなあ。通報しなきゃいけないんじゃん?」
「リッチー……落ち着いてるね……」
「いや、落ち着いてない。落ち着いてないよ」
本当に落ち着いていたら、こんな落ち着き払ったことを言うはずがない。生き返らないよな、などと、支離滅裂な考えが浮かんできて、目を離せない。
ミトンが先にスマホを取り出した。
砂に半分埋もれた、血の気のない横顔。まるで、その身体に巡っていた血液がまるごと抜き取られてしまったかのような……乾いて清潔な遺体だ。
何かが奇妙な気がする。でも、奇妙な遺体と奇妙でない遺体を区別できるような知識が私にあるわけではない。
ミトンがスマホを取り出したきり止まってしまったので、私は彼女からそれを受け取って一一〇番を押した。数字を三つしか押さないのに電話がかかるというのはとても不思議なことだった。