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3.
ミトンの家はこぢんまりとした二階建てのアパートだった。灰色の階段をのぼって通路の突き当たり、角部屋だった。
風は弱いが、とても冷たい。思わず首をすくめて、口元をマフラーの中に埋めてしまいたくなる。チャイムを鳴らそうとしたとき、
「リッチー!」
通路を小走りに来たミトンが勢いよく抱きついてきたので、私はびっくりした。
この前と違うコートを着ている。真っ白で、襟と袖口にふわふわの白いボアが付いていた。
彼女の髪から、さわやかな柑橘系の香りがした。
顔を上げたミトンの目は潤んでいた。一瞬、泣いているのかと思ったほどだ。
どうしたの、と聞く暇もなく、彼女は私の手を取って通路を足早に引き返していく。冷たく乾いた手だった。私自身、冷え性なほうだと自覚していたが、ミトンの手はもっと冷たかった。
「どうしたの」灰色の階段を降り切って歩道に出てから、私はようやく口にした。
ミトンはようやく立ち止まり、急に自分のしていたことに気づいたような顔で、素早く手を放して引っ込めた。
「あっ……、あの、すみません」
「いや、何も、別に……」私は笑った。「家にいると思った。出かけてたの」
「ごめんなさい、部屋が片付かなかったので」
「そんなの、別にいいのに」
「いえ、でも……どこか、出掛けましょう。家にいると気分が沈んじゃって。すみません、急に予定を変えて。家が良かったですか?」
「いや、ぜんぜん」
私たちは並んで歩き出した。狭い歩道だった。車道との間は低いガードレールに仕切られ、電柱が食い込むように立っている。その脇に差しかかるたびに私たちは横並びをやめ、どちらかが先に通らなければならなかった。
空は相変わらず銀色に固まっている。太陽も青空もまったく見えないが、薄曇りの日と同じ程度の明るさがある。ただ、夕暮れが近づいているので、そのぼんやりとした明るさも刻々と弱まりつつあった。