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2-1

 2.


 出勤するといつもの常連客がいつものクレームを入れていて、レジ脇で浜という若者がいつもの喧嘩腰で応対していた。

 大の男ふたりが「ドキンちゃん」の顔がついたコップを間に置いて言い争っているさまは滑稽の極みなのだが、本人たちは口論に夢中で気付かないらしい。客の男が主張するのは要するに、長く商品棚に残っていたために劣化しているから定価より安く売れという話であり、浜はそれを撃退すべく「どうしてそう思うんですか」「そういうことはしてませんから」「キャラクターものは値下げしないことになってますから」と矢継ぎ早に言い返していた。

 バックヤードの店長を呼んできてしまえば済むことなのだが、浜は近ごろ、この手のクレーマーを自分で撃退してみせることに熱意を燃やしていた。サンドバッグ替わりにおちょくって虐めていた新人の若者が辞めてしまったので、新たなライフワークということだろう。そして客の男も、この店に粘着して色々な商品を値下げさせて買うのがライフワークのようだった。

 元はといえば、店長がいけないのだ。本来は在庫セールのために使っていたはずの値引きシールを、面倒な客を早く帰らせるための「飴」として使い始めた。それで、ごねれば安くなると気づいた者たちが積極的にクレームを入れるようになった。そして、ついにはこうしてクレームをスポーツのように楽しむ人間を呼び寄せることになったのだ。


 店の雰囲気は悪くなるいっぽうだし、売上もだんだん下がっている。近頃は、値引きが必要と判明した品物はその場では売らない、という新ルールを設けて対応しているが、一度ガタついてしまった信用はそう簡単に戻らない、どころか、現在進行形で下落し続けているに違いなかった。だって、自分ならこんな店に二度と来ようと思わない。浜と常連男との言い争いはどちらの言い分もただ聞き苦しく、浜は自分が正義と思っているのかもしれないが、傍目にはどちらも近寄りがたい同類に見える。


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