6-3
エアコンのスイッチを入れ、部屋が暖まるまで布団の中で待ちながら昨日のミトンの作品を見返した。
彼女の作品の緩急やバランス感覚が好きだった。繰り返し心地よく味わえる。でも、その良さを人に伝わるように説明するのは難しく、同じように感じる人がいるはずという確信も持てない。
部屋が暖かくなると自然と眠気が戻ってきて、途端にアラームが鳴り出した。
早起きをしたんだった。
仕事を休んでしまいたいな、と思う。今の店長は緩くて、休みたい日は急に電話して休みますと言えば済んでしまう。だから、サボり癖が付いてしまうと止まらないだろう。それが怖くて、無理にでも出勤する。
せめてもう少し時給が高ければやる気が出るのに……とはいえ、それなりに長く続けているので当初より時給が百円ほど上がったけど、特にそれでモチベーションが上がったり能力の向上を感じるわけでもなかった。
面白味がないわりに力仕事が多いし、雰囲気も良くない店だから、新しいバイトが入ってきてはすぐに辞める。手首を痛めたとか体調がすぐれないとか、言い訳をして去っていく人はマシなほうで、急に無言で出勤しなくなる人も多い。中途半端に都会が近いので、有能な人間や常識的な人間はそちらへ流れてしまうのだろう。
けど、誰にでもできるどうでもいい仕事をこなすだけというのは、すごく気楽だった。
出勤すると店長と真山が目の色を変えて何かしていた。店長はデスク周り、真山は戸棚の中身をひっくり返している。
「どうしたんですか」
「売上ファイルが行方不明」真山は大袈裟なほど青ざめた顔で言った。
「売上ファイルって……あの緑色の?」
「そう。木村さん知らない?」
「いえ、わかりません。昨日出勤してないですし……」
「はー」店長が顔を上げずにデスク下の引き出しを調べながら、とても大きな溜息をついた。
「けど、あんなもの盗む人いないと思いますけどね……」
「元の、場所に、戻せ、つってんだよ、な」店長は引き出しを蹴って閉めた。
「でも私じゃないですよ。私ぜったいに戻しますもん」と真山は自信満々に言った。
「私も必ず戻しますよ」
私は一応、言いながら、華やかなことが何も起きないというのは平和だな、と考えてしまった。