6-2
投稿してすぐに後悔した。余計なことだったかもしれない。
怒られるようなことはしていないはずなのに、何かを表現してしまったという不安で身体が重くなる。だから、SNSに向いていない。そういうことで気分がガタつくなら、アカウントなんか持たなければいい。もしくは、ずっとROM専でいれば良かったのだ。
ぐちゃぐちゃした気分で布団に入り、スマホで明日のシフトをチェックして、浜と被っていることに気付いてまたうんざりした。彼がいるときに限ってろくな客が来ない。あいつがいつも喧嘩腰だから、同類を呼び寄せているのだろう。
もう、働く店を変えようかな、などと思う。この「雲」の騒ぎが終わったら……でも、いつ終わるんだろうか。当分、終わらないのかもしれない。こんなふうに訳も分からず「雲」が出るたびに外出禁止令が出る暮らしが、長続きするはずはないと思うが、しかし打開策がないまま二年も三年も長引けばきっと日常になってしまうだろう。世間はたちまち適応して、元からそうでしたがという顔で生活を作り直すに違いない。そしてたぶん私は、十年経っても、「この雲が消えたら転職する」とか言ってるんだろう。
もう少しスマホを見ているつもりだったが、眠ってしまった。
毎朝のアラームの時刻より一時間早く目覚めて、SNSを開くと見たことない数の通知が溜まっていた。
ミトンが私の投稿に気付いて、コメント付きでシェアしてくれていた。ミトンのフォロワーたちから「いいね」とシェアが繰り返されたようだ。私の今までの投稿の中では一番人気の投稿になっていた。
ミトンのコメントは何投稿にも分かれて続いていた。
「リッチーさ~ん~」
「すごい! すごい!!!」
「ありがとうございます。本当にうれしいです。感激!」
「言葉がでない……」
泣いているのか笑っているのかよく分からない絵文字がいくつも並ぶ。本当にたくさんあるんだな。
私は返信をした。「シェアありがとうございます。喜んでいただけてよかったです。イメージを壊してないといいんですが」
「とんでもない、もう、イメージ通りです。完璧です」
ミトンの喜びようが想像以上だったので、投稿して良かったんだ、という実感が湧いてきて、胸のつかえが取れた。
ミトンが自分の作品を公開するときも、こんな気持ちを味わったりするのだろうか。彼女ほどの腕前で色々なモチーフを鮮やかに形にできるなら、なんの気後れも必要ない気がするけれど。しかし彼女のSNSでの態度はいつも謙虚で、ときには卑屈だった。
ウェブ上で発信しているアマチュアの創作者たちは傷つきやすい人が多い。私が好んでそういう人ばかりフォローしているのかもしれないが、アフィリエイトブロガーや動画投稿者とは一風違った「付き合いづらさ」をまとっている人ばかりだ。
ミトンは他人に害意を向けるタイプの人ではないから、私は安心してフォローしていられるが、それでも傍目に明らかなほど機嫌が悪い日はよくある。唐突に、掛ける言葉に困るほど激しい自己批判を始めたりする。これほどの高い能力を持っていても安心できないものなのか。客観的に考えればそれは理想が高すぎる、自分自身への我儘が過ぎるという事なのだろうけど。
ミトンの最新の独り言が画面に表示された。
「私はゴミのように無神経な人間なのになぜ周りの人は私に親切で礼儀正しいんだろうね……」
「いいね」を押しづらい。しかし五名くらいの人がさっそく「いいね」を押しているようなので、私も押した。