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6.
洗濯機の回る音を聞きながら、一人用の炬燵でぼんやりとしていた。いつの間にか深く眠っていたらしく、気が付くと全身が痛くなっていた。
癖になっている動作でスマホを取り、SNSを開く。ミトンが新しい短い作品を画像で投稿していた。
彼女にしては珍しく、軽やかで明るい作品だった。どことなく春めいている。
外はまだ寒いが、暦の上では春が近い。
「いいですね。この背景の色合いもさわやかで春っぽいですね」
コメントを投稿してから、これじゃ背景の感想しか言っていないと気づく。背景を見せたくて投稿したものじゃないだろうに。コメントを追加しようとしたが、彼女が表現しているものをより拙い言葉で繰り返すだけの文になりそうで、どうしても言葉がまとめられなかった。
妙な時間に昼寝をすると、自分が世界から切り離されてしまったような気分に襲われる。どこか、不安定な足場から滑り落ちていきそうな、振り落とされないように必死でしがみつかないと、このまま自分が不定形になって霧散してしまいそうな。目を覚ましたい、と感じる。目は覚めているのに。抜け出せない重苦しい夢を見ているような気持ちになる。
私は卓上に転がっていたボールペンと、町内会が入れていった裏が無地のチラシを取って、何も考えずいくつか線を引いた。何を描くつもりなのか、初めは分からなかったが、ひとつ、線を足すごとに、その先にある別な線が見えて、私は無心に手を動かした。
紙面にいくつかの人影が現われ、カーブを描いて下る並木道の風景が浮かび上がった。
それは確かに私が今さっき「見た」景色だった。
焦る気持ちを抑え、夕食をとり、風呂に入る。それから邪魔なものをすべて片づけて、絵の続きを仕上げた。
ミトンからは、私の感想へのお礼のリプライが来ていた。「ありがとうございます! ありがとうございます~」顔の絵文字がいくつも続く。いろんな笑顔の。これ、いくつ種類があるんだろう。
上手く感想が言えてないのに、と思い、逆に申し訳なくなってしまう。
描いた絵を影ができないように撮影し、紙の縁が見えなくなるようにトリムする。スキャナがあれば良かった。それに、ちゃんとした紙があれば良かった。チラシの文字が透けて見えそうになっている。
彼女へのリプライとして投稿しようと思ったが、なんとなく気後れして取り消した。結局、「ファンアート」とだけ書いて投稿した。