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5-3

 ああいう攻撃性はどうやって生まれるものなのだろう。彼女の作品や、SNSでの言動から見えていたはずの人間性と、あの傷の生々しさが私の中で結びつかない。悩みのない人間には見えないけれども、その悩みが暴力として噴出するタイプとも思えないのだ。それはたぶん私が、色々な面で何も知らないから、というだけなのだろうが。

「どうも犯人らしき人は挙がってるらしいですね」と、ミトンは送ってきた。

「そうなんですか?」

「同じサークルの学生のひとりが、状況的にはそうらしいって」

「ああ、だからマスコミもしつこいんですね」

「証拠固めが終われば週末か週明けにも逮捕なんじゃないかっていう……こっちとしてもさっさと終わってほしいですねー」

「まったく。こんなときに余計なことしないで欲しい。というか、いつでもしないで欲しいけど」


 ミトンの言葉通り、週明けに同じサークル内の学生が「死体遺棄」容疑で逮捕された。

 警察は状況を発表しつつ、ネット上の馬鹿騒ぎに対して釘を刺すかのように「猟奇殺人ではない」と説明を加えた。


 単に海岸で刃物で刺され、失血死した、というだけのことらしい。遺体の損傷が少なかったのは、寒さや、ウェットスーツが肌のほとんどを覆っていたこと、そして大量の出血をしたために身体が急激に「乾いた」状態になったことなどによるもので、特に珍しい経過ではないらしい。血液が持ち去られたというのも間違いで、ただその場の砂に染みこみ、その上を波と風が綺麗に洗ってしまっただけ。実際に警察はその下の砂を大量に回収し、状況に見合うだけの血液成分の存在を確認したとのことだった。

 ネット上のお祭りは「煽り報道」をしたマスコミ叩きに移り変わった。

 ミトンが新しいアカウントで「エイリアンより日本の警察のほうが血液の収集に熱心だよ」とつぶやいたので、私はちょっと笑ってしまった。


 少し気になることと言えば、捕まった大学生がかたくなに容疑を認めないことだった。動かしがたい証拠が複数あるにも関わらず、「身に覚えがない」の一点張りだという話だった。殺人犯なんてみんな最初はそう言うものだという気もしたが、ミトンは何かのおりにふと、

「現実にその人だったとしても、その人自身にとっては違うのかもしれない。なんとなく、他人事には思えないんだ」

と、投稿した。


 私はしばらくその投稿だけをスマホに表示して、ぼんやりと何かに思いを馳せた。


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