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5-2

 ミトンの新しいアカウントからさっそくフォローされ、「昨日はありがとうございました」とメッセージが来た。

「とても楽しかったです。また機会があったら遊びましょう。今度はランチとかしたいですね!」

 私は同じトーンで返信をしながら、こういうやり取りをしてその後二度と会わなかった人ばかりだ、と思った。

 そういう考え方をしてはいけないんだろう。でも事実だもの。

 ミトンは少し間を置いてから続きのメッセージを送ってきた。

「怪我のことで驚かせてしまってすみません……」

「もう終わったことで、今はもう解決してるんです。これからは楽しいことしかありません。海岸の事件はびっくりしましたけどね」

 もう解決した……にしても、かなり新しい傷だった。おそらくひと月も経っていないだろう。

 何かしらのトラブルがあって、アカウントを乗り換えたことで収束したのだろうけど。そもそもこんな事態になるほどのトラブルというものが想像できない。

 それに、私はずっとミトンのアカウントを見ていたつもりだったが、そういう兆候は感じられなかった。

 感じやすい子なんだろうか。悪く言えば、妄想的というか……。

 面倒な子だったら嫌だな、という気もしてしまうのだった。


 結局、海岸のサーファーの遺体は大学生だったらしい。しかも、全国的に名の知れた私大のサーフィン・サークルの一員だったので、マスコミは同じサークルの学生たちを「取材」対象として追い回しているようだった。

 遺体の第一発見者たる私のところには、まったく音沙汰はなかった。といっても、知らない電話番号からの着信は音が出ないように設定しているので、いくつか来ていた不在着信のなかに報道関係者からのそれが含まれていても、気付くはずはなかった。

 そもそも、私はこの事件に関わったことを誰にも話さず、ネットにも書いていないから、警察が私の情報を直接漏らさない限りはマスコミには知れようもないはずだが。

 それでも、一応ミトンには個別メッセージで聞いてみた。

「こっちにも来ませんよ」ミトンの返信は三十分ほどで来た。

「ならいいんですけどね。だいぶ報道がうるさいから」

「他に事件らしい事件もないですからね。みんな家にこもっていて暇なんだろうし……」

「まあ、しかもちょっとした猟奇殺人でもありますしね」

 全身の血が抜かれていた、という報道だった。さらに、辺りには血痕がほとんどない。血はどこへ行ったのか。誰が、何の目的でそんなことをするのか。

 やはりあの、空に何度も現れる銀色の「雲」と関係があることで、あれには何らかの害意があるのではないか。匿名性の高い場所ではさっそくながら「地球外から侵略目的で来る何者か」についての言及が繰り返され、またそれに対して「不謹慎な妄想」と激しく反論するような向きも現れて、ある種のお祭り騒ぎが始まっていた。

「ほんと変なことに巻き込んですみません」と、ミトンは謝っている絵文字とともに送ってきた。

「いえいえ。ミトンさんのせいではないです」

「私が犯人だって言ったらどうしますか?」ミトンはその後ろに古風な「(笑)」をつけた。

「ええ?」と書いて、私は先にそれだけ送信し、その続きをゆっくり考えながら書いた。「ミトンさんが犯人なら、何かお考えがあってのことだと思いますね」

「そういう人に見えてますかね?」

「いえ、全然ありそうにもないです」

 しかし私の脳裏に、彼女の手首に刻まれた激しい傷痕の列が浮かんだ。


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