表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/49

4-2

 チェーンの牛丼店は、空いていた。入って一瞬、営業していないのではと思ったほどだ。

 私とミトンは窓際のボックス席に向かい合って座った。

「なんだか静かですよね」ミトンは言った。「街から人が減ってるみたいに見えちゃう」

「実際減ってても気づきませんよね、これじゃ」

「うん」ミトンの表情は先ほどよりもリラックスして、少し楽しそうに見えた。

「やっぱり、あの変なやつの向こうには何かいるんでしょうかね……」私は町の上に広がる銀色の雲を見て、ずっとぼんやりと思い浮かべていたことを口にした。「気付いたら地上に誰もいなくなってて、みんな空に吸い込まれてたりして」

「そんな映画あった気がする」と、ミトンは笑った。

「飛行機とかは普通に飛んでるんでしたっけ」

「あんまり影響は無いらしいですよね。普通の雲と同じで。でもかなりの便がキャンセルされてるみたいです」

「そうなんだ」

「ツアー旅行とかは、ほぼキャンセルみたいで。だから観光地とか大変でしょうね」

「どういう害があるのか分からないから、なんだかよく分かりませんよね。みんな、念のため、って感じなんでしょうか」

「そうですねえ。気分悪くなる人多いらしいですけど。精神的なものだろうって話ですね」

「うーん。精神的なものでも、充分、害ではあるね……」

 空の色が違うだけでこんなにも大きな影響があるとは。しかし普通の暮らしをする人間にとっては、空は逃れようのないものだし、頭上を覆うものはそれしかない。屋外の景色の半分は空なのだ、とも言える。もしかしたら半分以上か。

 杞の国の人々が空が崩れないか心配したという故事が、今ではあまり馬鹿馬鹿しいものに思えなくなってきた。

「リッチー」ミトンはふと窓の外から目を戻し、切れ長の綺麗な目で私を見た。「私ね、もうすぐツイッターのアカウントを引っ越そうと思います」

「あ、そうなの? どうして」

「なんか最近、雰囲気悪いでしょ」ミトンはまた少し笑った。「いったん、仲いい人だけにしようかと思って」

「ああ……それがいいかもしれませんね」

 この騒ぎが始まって以来、SNSも荒れやすくなっている。

「新しいの作ったらこっちからフォローすると思うんで。リクエストしてもらえれば、すぐ許可します」

「わかりました」

「すみません、お手間を取らせて」

「いやいや、そんなこと」私は苦笑した。「ミトンさんの居心地いいようにしてくださいよ。私はミトンさんの作品が読めればそれでいいんで。あ、もしかして作品も移動を?」

「作品も、うーん、いったん下げるかもしれません。すみません。でも、どこかでは読めるように考えておきます。共有フォルダとかにするかも」

「ああ……割と、そうやって配布してる人もいますよね」

「すみません」

 ミトンはやや目を逸らして、溜息をついた。それは、思わず漏れ出してしまったような、無意識なものに見えた。

 何か嫌なことがあったのだろうな、と思った。しかし、こちらからしつこく聞き出すのもおかしい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ