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4.
「不要不急」の用事で外出していたことについて、私とミトンは三度ほど嫌味を言われた。それ以外には、サーファーの遺体を見つけたときの状況と、今後の連絡先を聞かれただけで、私たちはあっさりと帰された。
帰り道、ミトンは押し黙っていた。と言っても、もともとお喋りが弾んでいたわけでもないので、行きとそれほど雰囲気が違う感じもしなかった。
空は変わらず銀色の硬質な「雲」に覆われ、辺りは日が暮れて急激に暗くなっていた。地上にはいつも通りの暗闇が訪れているのに、空のそれは、うすぼんやりと明るい。
見上げていると、あまりにも不安な景色に、頭がくらくらとしてきそうだった。
「大丈夫?」と、私はミトンに聞いた。「なんだか変なことになっちゃいましたね。すみません。家でゆっくりしてれば良かった」
「いえ、私が誘ったんですから」ミトンは首を振った。
「なんだか最近、物騒なんですかね……」私は言って、思わず溜息をついた。「あれはサーフィン中の事故という感じじゃないですよね。実際に遭ってみると、やっぱ気持ち悪いですね」
「そう、うん……」ミトンは曖昧に頷いた。
「すみません。もう違う話をしますね」
「いえ、いいんです」ミトンはその端正な顔を一瞬だけきゅっとしかめて、「びっくりしたんです」と言った。
「そうですよね」
「もう、なんか、なんというか……」ミトンは何か息苦しそうに、ちらっと銀色の空を見るそぶりをしてから、すぐまた地上に目を戻した。「変な言い方かもしれないけど、私の人生にこんな変わったこと起きるなんて思ってなかったというか」
「うん。そりゃね……そうですよ、それは」
「リッチー」ミトンは急に私の手をしっかりと掴んだ。
その手はやはり、氷のように冷たかった。
「ご飯を食べに行きませんか? この先の、『松屋』だけど、あそこなら短縮営業だけどまだ開いてるはず」
「あ、いいですよ」
「ごめんなさい。こっちの都合ばかり言って」
「いや、いいんですよ。私の都合なんてないんだから」
「ふふ」ミトンはようやく、弱めの笑顔を見せた。
彼女が笑うと、端正な顔が一段と人形のように可愛らしくなった。
私はなんとなくほっとした。