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刹那の風景 第四章  作者: 緑青・薄浅黄
『 カンガルーポー : 驚き 』
5/43

『 僕と古代神樹 : 前編 』

【 セツナ 】


 訓練を終え、朝食をとり、七時五十分前に、

待ち合わせ場所である酒肴の店へと移動したのだが、

僕達が一番最後だったようで、

オウカさん達やヤトさん達、アルトの友人やその家族、

そしてジゲルさんも僕達の到着を待っていたようだ。


酒肴のお店は、テレーザさんが開けていてくれたみたいで、

今日はテレーザさんと共に暮らしている人達もこの場に居て、

飲み物を配ったりして働いてくれていた。


彼らのその姿を見て、酒肴のメンバー達が手伝うために、

厨房へと移動していく。アルト達は友人達の所へ、

姿を見せている風の精霊は、ミッシェルと話すためだろう。

いそいそとアルトの後ろをついていった。

そして僕は……オウカさん達につかまっている……。


オウカさん達にも一通り巨大な樹の正体を話したのだが……。

彼らは話の途中から顔色をなくしていた。

そして、周りの人達も同様に驚いたのだろう。

賑やかな声が響いていた店内が一瞬静まり返ったが、

すぐに前以上に賑やかな空気を取り戻した。


わいわいと、古代神樹について語る人達を横目に、

オウカさんが深くため息をつきながら言葉を零した。


「そんな貴重な樹を、私達が管理するのかね?」


オウカさんのこの言葉に、彼の想いが集約されていると思う。

精霊達が今まで守り通してきた神の遺産の管理……。

もし何かあったらと考えると喜びより不安の方が大きいのは、僕も理解できた。

だから、僕も持って帰って欲しいと願ったのだから。


「ジャックより……セツナ君が運んでくる試練のほうが難題かもしれない」


オウルさんがぼそっとそんなことを呟き、

マリアさん達やヤトさんが深く頷いているが、決して僕のせいではない。

僕だって、今日の朝まで知らなかったのだから!


「精霊達が育てるそうですから、場所だけ貸したと思えば……」


「それは精霊様のお言葉かね?」


オウカさんが溜息をつきながら、確認をとるように僕を見た。


「はい。精霊達が持ち回りでお世話に来るようですよ」


「そうならば、他国への説明は今聞いた内容をそのまま伝えることにしよう」


他国への説明か……。確かにエラーナ辺りが知れば、

色々と干渉してきそうだが……。

僕の思考を読んだのか、それともオウカさんも同じことを考えていたのか、

オウカさんが軽くため息をついてから、口を開いた。


「精霊様が自ら育てる場所を選ばれ、

 自ら育てられるのなら、他国が口出ししてくることはないだろう」


オウカさんの言葉に、確かにと僕も頷いた。


風の精霊が蒼露様の次に大切にしている宝物なのだと話していた。

その宝物を奪うために画策したりすれば……。

きっと、それなりの報復を受けるに違いない……。


「下手をするとすべての精霊を敵にまわすことになりますしね」


「恐ろしいことになりそうだ……」


オウカさん達との話が一段落し、ジゲルさんの側へと移動する。

今日のジゲルさんは冒険者の恰好ではなく、商人に近い姿だった。

ジゲルさんのそばには、ミッシェルの家族やロガンさんがいる。


軽く挨拶をしながら、そろそろ移動することを伝えると、


「古代神樹の周りの壮大な人波をかきわけていくでやんすか?」


古代神樹の周りにはそれはもう……沢山の人がひしめきあっている。

ジゲルさんはここに来る前に古代神樹を見てきたが、

近寄ることができなかったと語った。


「あっしは……あの中を歩く自信がないんでやんすよ」


ジゲルさんの言葉にジゲルさんの周りにいる人達が、同意するように頷いた。


「古代神樹がある場所は、隔離された領域になっているようなんですよね」


「隔離された領域でやんすか?」


「古代神樹が植えられたのは、確かにハルの大地なんですが、

 そこを起点に魔法をかけたらしく、現在ハルにいる人間すべてを

 収容しても有り余る場所を創ったみたいですよ」


僕の説明に皆の視線がこちらを向いた。


「精霊が創り出した……幻想の世界とでもいうのかな?」


「それは……すごいことでやんすよ……」


確かに凄いと思う。

魔法で仮想世界を創り出すのだから。

僕では臭覚と味覚の再現ができないため、

精霊達と同じものを創るのは、今の段階では無理だ。


「僕もそう思います」


ふと、風の精霊がミッシェルのために創った幻想の世界に

いったい……どれほどの精霊が集まったのだろうかと考えたが、

僕はすぐにその思考を振り払った。

つつがなく終了し、速やかに解散してくれることを願っておこう。


「隔離された領域への転移はできないらしいので、

 手前まで転移魔法で移動してから、歩くことになりますが……。

 ジゲルさん達に隠蔽魔法をかけて、周囲からは見えないようにしますね」


「いいでやんすか?」


「はい。悪目立ちするのは避けた方がいいかと僕も思います」


きっとジゲルさんは自分がというより子供達と子供達の家族のことを考えて、

先ほどの言葉を口にしたのだと思う。

彼は大勢の冒険者の前を歩くだけで、委縮するような人ではないから。


「ありがとうでやんすよ」


「いえ、忠告をありがとうございます」


僕のお礼にジゲルさんが苦く笑いながら頷き、僕の腕を数度軽く叩いた。

僕達のやり取りを見て、ミッシェルのご両親やロイールの兄であるロガンさんも、

僕に頭を下げてくれた。


移動の準備ができたところで、目的地へと向かうために、

人の輪から少し離れた所に転移すると、僕達に気が付いた人たちが、

僕やオウカさん達、ヤトさんや黒達の名前を呟き、

その呟きが周りの人間達に次々と伝播していき、本当にわずかな時間で、

その声が大地を震わせるほどの歓声に変わった。


耳に届く暴力的ともいえる歓声に、冒険者以外の人達の顔色が少し悪くなった。

彼らには僕達の姿しか見えていないと告げると、硬い表情を浮かべながらも、

しっかりと頷いているので大丈夫だろう。


魔法で見えないようにしている人達を中心に、

周りを僕達で囲み歩き出す。古代神樹の入口と見られる場所は、

ロープが張られ立ち入ることができないようにされていた。

僕がジゲルさんと話している間に、ヤトさんが指示を出したようだ。


先頭を歩くのはオウカさん達で、名前を呼ばれた方向へと視線を向け、

軽く手を振りながら歩いていく。時々、飛んでくる質問に冗談を交えながら、

返答しハルの住人達を楽しませていた。


「しゅごしゃたまー」


そんな中聞こえてきた舌足らずな僕を呼ぶ声に、

思わずそちらの方へと視線を向けた。


視線を向けた先には、小さな女の子が母親と思われる女性に、

手を繋がれながら僕を呼び、周りの声に負けないように、

一生懸命声を張り上げて昨日の花火が、

すごく綺麗で楽しかったのだと伝えてくれていた……。


目を輝かせながらすべての気持ちを伝えようとするその姿に、

幼い頃の鏡花の姿を思い出す。


『おにいたん』


どこか遠い場所で……僕を呼ぶ鏡花の声が聞こえた気がした……。


僕を呼ぶ女の子の声に、オウカさん達みたいに返事をしてあげればいいと、

僕の思考がそう告げるが……なのに、なぜかその思考に従うことができなかった。

それでも……。それでも……何かを返してあげたい。


そう思った時にはもう足を止めていた。


「師匠?」


僕が足を止めたことで全体が止まる。

オウカさん達も立ち止まり振り返り僕を見ている。


僕は腰につけてある携帯ポーチから精霊玉を取り出し、

その魔力を使い魔法を構築し発動する。


僕が魔法を発動したことで、広範囲にしっとりとした雨が降り注いだ……。

いきなり降り出した雨に皆が驚いたように空を見上げ、少し騒然となったが、

その雨が魔法で創り出されたものであり、体が濡れることがないと気が付くと、

徐々に騒ぎがおさまっていく……。


そして……雨が降りやみ、最初にその現象に気が付いたのは僕を呼んでいた女の子だった。


「おかーたん、きれい!!」


母親の方へと視線を向け指をさし、自分が見つけたものを大切な母親に教えようとしている。


「大きな虹ね!」


「にじ?」


虹を見るのが初めてだったのだろう、女の子が首を傾げながら母親に、

空に浮かんだモノの正体を教えてもらっていた。


空にかけた虹に気が付く人が徐々に増え、くっきりと浮かび上がる虹の美しさと、

その大きさに先ほどとは違った歓声が上がった。


『お兄ちゃん。虹がでたよ!!』


ベッドの上にいる僕に、鏡花がそういって窓を開けてくれたことを思い出す。

鏡花と二人で見た虹は……空気に解けそうなほど薄く淡い虹だったけれど……。

誰にも気が付かれないように魔法を発動し自分自身に魔法をかけた。

僕の中から零れ落ちていくように消えていく記憶を……失わないように。

家族の記憶がよみがえる度に、僕は僕に魔法を刻んでいっている……。



女の子の関心が僕から虹へと移り、母親と楽しそうに話しているのを横目に、

僕はゆっくりと歩みを進めた。そんな僕の背中に「ありがとうごじゃいます!」と

女の子の声が届いたが……僕は振り返らなかった。


僕が歩き出したことで、

虹を見て話が弾んでいたアルト達も慌てて歩き出している。

あと少しで古代神樹の入口へ着くというところで、

僕の耳に微かに僕の名を呼ぶ声が響いた。


どこかで聞き覚えのある声に、誰の声だろうと内心首を傾げていたその時、

何かが僕の正面に現れそして抱き付かれる……。


「……」


いきなり現れたその人物に、周りの時間が一瞬止まったように感じた……。


「セツナ!」


そして、僕の耳元で嬉しそうに僕の名前を呼んだのは……光の精霊だった。


「どうしてここに居るんですか?」


僕の第一声に、オウカさん達が慌てたように僕を見ていることに気が付く。

もう少し丁寧に聞くべきだったと思い至るも、もう遅い。

驚きすぎて思わず脳裏に浮かんだことが、そのまま声に出てしまったんだ。


「風の精霊がお兄様を植えようっていうから来たの」


お兄様というのは古代神樹のことだろう。

神々の物語が事実だとすると、古代神樹は精霊達よりも先に生まれているはずだ。

しかし……お兄様を植えようという言葉はどうかと思う……。


「お兄様を植えるには、すべての最古の精霊の魔力が必要だから」


嫌な予感がする……。


「私は光を司る最古の精霊の一人」


光の精霊がこの言葉を口にすると同時に、ここに居るすべての人達が跪き、

そのスペースがない人達は頭を下げていた。


僕も膝をつこうとしたのだけど、光の精霊が抱き付く力を強くしたので、

動くことができなかった。


「本当はちょっと怒ろうと思っていたの」


光の精霊が穏やかに笑いながら物騒なことを告げた。

すぐ傍に跪いているオウカさん達の顔色が更に悪くなっていた……。

もしかしなくても、今このハルにはすべての最古の精霊が集っているのだと、

光の精霊が暴露したばかりだ。上位精霊の物騒さは昨日経験している。

馬鹿な人間が馬鹿をすれば……どんな事態になるのか想像したくもない。

そんな中での怒ろうと思っていたという言葉だ……。


「僕が何かしましたか?」


だけど、僕は光の精霊が優しいと知っている。

彼女は蒼露様の魔法から僕を守ろうとしてくれた精霊なんだ。

僕のために……蒼露様と共に泣いてくれた精霊だ。

そして僕に最初の祝福をくれた精霊だった。

怒っていたとしても、そう酷いことにはならないはずだ。


「次は私が、加護をつける予定だったの」


ぷんぷんと頬を少し膨らませながら光の精霊がそう告げる。


「僕は……」


「セツナが祝福を喜んでくれていたのは知っているけれど」


光の精霊が僕の言葉を遮って、僕を真っ直ぐに見ながらそう告げた。


「次に会った時は、絶対に加護をつけようと思っていたの」


それは僕のせいではないですよね……。


「加護の順番で何かが変わるんですか?」


「祝福と違って、加護は魂に定着するまで少し時間がかかるんです」


なるほど。あの日は、蒼露様が僕に加護をくれたから。

光の精霊は僕に祝福をくれたのか。


「なのに風の精霊が抜け駆けした」


光の精霊が僕のそばにいた風の精霊に、

ジットリとした視線を向けた。

風の精霊の姿は、僕と光の精霊にしか見えていない。


「昨日からずっと謝っているかなって」


「許してないもの……」


光の精霊と風の精霊の言い合いが終わる気配がない……。

内心どうしようかと悩んでいると、

僕の服の裾を軽く引っ張った人がいた……。

そっと視線を下げると……オウカさんと目が合う。

オウカさんが声に出すことなく「魔力が濃すぎる」と僕に告げた。


はっとして周りに視線を向けると、

殆どの人間の呼吸が早くなっており顔色も悪かった。


慌てて、精霊の魔力を遮るために風の精霊と光の精霊の周りに結界を張る。

精霊の魔力が遮断されたことによって、周囲の人達がホッとしたように息をついた。


魔力の密度が高くなると、体に負担がかかるといわれている。

押しつぶされるような圧迫感を覚えるらしい。


僕が魔法を発動したことで、風の精霊達が口論をやめた。

風の精霊がミッシェルの傍へといき、心配そうに顔をのぞき込んでいる。

その距離は近すぎると思うのだが……ミッシェルには見えていないから、

問題はないのだろう……多分。


この状況を見て、光の精霊が諦めたようにため息をついた。


「本当はもっとゆっくりセツナと話していたいのだけど、

 最古の精霊が同じところに集まるのは、

 魔力の密度が増してしまうから……あまりよくないですね」


少し寂しそうに僕を見つめてから、光の精霊が僕から離れた。


『蒼露の樹のそばなら、蒼露の樹が魔力を一定に保ってくれるから、

 気にしなくてもいいのに』


光の精霊が心話でそう告げたから、僕も心話で答えを返した。


『そうなんですね』


光の精霊は真っ直ぐに僕を見て真剣な表情を浮かべながら口を開いた。


「今回は諦めて戻ります。だけど、次は絶対に私が加護をつけるから、

 忘れないでくださいね」


「はい。ありがとうございます」


「約束ね」


そういって、嬉しそうに笑う光の精霊のその表情に、

息をのむ音が周りに溢れた。

彼女の笑みは……やわらかな日差しの中にいるような、

あたたかい気持ちになるようなそんな……笑みだった。


光の精霊が消えたことで、オウカさん達が立ち上がり、

何かいいたそうに僕を見ているが、この場での追及は止めてくれたようだ。

光の精霊の加護が僕に与えられるのだと知ったハルの住人達の騒ぎようで、

会話することさえ困難な状況になっているからかもしれないが……。


とりあえず、そんな喧騒の中から逃げるようにして、

古代神樹への入口へと足を踏み入れたのだった。



精霊によってつくられた入り口をくぐると……。

そこは……唯々、美しいと形容される様な場所だった。


子供達の感嘆の声が響き、大人達は一瞬息をつめ、そして静かに息をついている。

花々が咲き乱れ蝶が舞う広大な大地の先に、巨大な古代神樹がそびえたっている。

所々に見たことがない小動物が草をはみ、ネコ科の動物だと思われる数匹が、

じゃれ合いながら楽しそうに遊んでいる。


古い古い神話の物語に(えが)かれる場所。

神に守られた場所。何の憂いもなく、心から安らげる場所。

古代語でエディアール(神々の楽園)と呼ばれる場所は、

このような風景が広がっていたのではないだろうか……。


「驚いたかなって?」


圧倒されるほどの美しさに魅せられている僕の横に、

風の精霊が姿を見せ、僕の顔を見上げながら誇らしげにそう告げた。


「驚きました」


僕は素直に頷いて答えると、僕の言葉に同意するように、

周りの人達も頷いていくが、その視線は目の前の景色から離れてはいなかった。


「ずっと見ていたい気持ちはわかるかなって。

 でも、別の場所も見て欲しいかな」


風の精霊が僕達に歩くように促し、

僕達は見たことのない様々なものを目に入れながら、

彼女の後ろをついて歩いた。


好奇心旺盛な子供達が「あれはなんだ?」と疑問を口にするたびに、

知っている誰かがその問いに答えていく。


そして誰も答えることができないものに対しては、

風の精霊が優しく答えてくれていた。


面白い動きをする植物を見つければ楽しそうに笑い。

風の精霊が、ここに存在するものは美味しく食べることができるものばかりだと、

告げたことで酒肴のメンバー達は子供達と競うようにして、

あれこれと口に入れていた。


だけど……今日ばかりは酒肴だけではなく、

全員が一つ二つ口に入れ食べた感想を語り合っている。


その光景は……誰もが幸せそうで、

誰もが満ち足りた笑みを浮かべていて、

思わず周りを見渡していく……。


剣と盾のメンバーが嬉しそうに笑んでいる先には、

アラディスさんがエレノアさんの口元に紫色の実を運んでいるところだった。

とても甘くておいしいのだと力説している。


美味しいものをエレノアさんに食べさせたい一心で、

自ら食べさせるという行為に気が付いていないようだった。

エレノアさんはそんなアラディスさんを柔らかな表情で見つめていた。


その近くでは、アギトさんとサフィールさんが、

サーラさんに自分の気に入ったものを捧げながら、

どちらの方が美味しいかを口論していた……。

サーラさんはそんな二人を愛おしそうに眺めながら、

二人が差し出したものではなく、

クリスさんが手渡したものを口に入れている……。


「アルト! 一つの枝になってる実の色が全部違うぞ!」


セイルの声が聞こえた方へ視線を向けると、

沢山の実をつけている低木が見える。

その低木の枝に実っている実は、一つ一つ色が違っているようだった。


「あ、桃色と黄色だと味が違うよ!」


ジャネットの言葉に、子供達が様々な色の実を口に入れて、

何の味に近いのかをいい合っている。ワーワーと騒ぐ子供達のそばには、

彼らの家族とジゲルさん、そして風の精霊がいる。

ミッシェルのきらきらと輝く笑顔が見れて、風の精霊はとても幸せそうだった。

ちなみに、今日もミッシェルの頭の上にはデスが乗っており、

アルト達と一緒になって、食べ物の味を楽しんでいるようだ……。


大体が美味しいと思われるものなのだと思うが……。

時折、妙な味のものもあるようで……その辺りは悪戯好きな精霊の仕業だろう。

アルト達には風の精霊がついているために、妙なものには当たらないと思う。

風の精霊が魔法を発動して、色々消しているのを目にしているから……。


そして……その消したものに当たっているのが、

酒肴の若い人達とエリオさんやビートだった……。

美味しいものを引いた時と不味いものを引いた時の表情の違いが面白い。

多分、風の精霊を含め周りにいる精霊達に遊ばれているのだと思う。

だけど、美味しいもの不味いもの両方の味を楽しんでいるのが、

彼ららしいのではないだろうか。


そんな彼らを、バルタスさんはテレーザさんと一緒に微笑まし気に眺めながら、

一番隊の人達と美味しいものだけを的確につまんでいっていた……。

的確につまめているのは、カルロさん達の表情のおかげだろう……。


少し離れた場所では、オウカさんとオウルさんとヤトさんが、

この後の段取りについて話し合っているようだ。

その横でオウカさん達の伴侶であるエリアルさんとマリアさんが、

ハート形の実を手に取り口に入れ、美味しかったのだろう。目を輝かせている。


リオウさんは、オウカさん達のそばで話を聞いているように見えるが……。

彼女の目線は……ハートの形をした実に釘付けになっている。

そんなリオウさんに気が付いたヤトさんが小さく笑い、

ヤトさんが笑ったことで、オウカさんとオウルさんが彼女に気が付き、

溜息をつきながらも、リオウさんに「食べるといい」と告げ、

自分達も話を中断し、伴侶に手渡された実を口に入れて笑いあっていた。


僕には眩しいくらいの……優しく幸せな光景がそこにあった……。

なぜか胸が痛くなるほどの……幸せな光景が……。


そこにあったんだ……。



10月5日(月)ドラゴンノベルス様より、

『刹那の風景1』を出版することになりました。

詳しくは、2020年6月1日の『刹那の風景書籍化のご連絡』以降の

活動報告に記述しておりますので、よろしければご覧ください

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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