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刹那の風景 第四章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ダイヤモンドリリー : また会う日を楽しみに 』

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『 悠久 』

【 セツナ 】


視線の先で、楽しく語らいながらも、

チラチラとこちらを気にしている、フリードさん達が目に入った。


アギトさん達が戻ったのに、

エリオさんだけが、戻らなかったから心配しているのだと思う。

彼の恋情は、黒のチームの人達に筒抜けだったから……。


そんなエリオさんは、椅子に座ってぼんやりとしていた。

僕との会話が終わり「俺っちも、そろそろ戻るっしょ」と呟いたきり、

微動だにすることなく、この場に留まっている。


あちらに戻りたくないというわけではなく、

ただ、立ち上がる気力が足りないのだと思う。


心と相反することを受け入れるのは、

自分が思うよりも精神力を削られるものだから。

それが、大切なものであればあるほど、心は疲弊する。


エリオさんがゴホッと咳をした瞬間、我に返ったように僕を見た。


「あ……。悪い。俺っち、邪魔だよな。すぐ移動するっしょ」


そういいながらも、彼は立つことができないでいた。


「アルト達はまだ、楽しく話しているようなので、

 エリオさんがよければ、僕に付き合ってくださいませんか?」


「……いいのか?」


「はい。喉が渇いたので、お酒でも飲もうかなと」


「あー……。ずっと、話してたんだよな。

 俺っちでよかったら、一緒に飲むっしょ」


僕は鞄から一升瓶を取り出す。


「リシア酒? でも、見たことのない瓶と銘柄だな」


お米があるということは、日本酒もある。

ここでは、リシア酒というけれど……。


「お酒が好きな人が多いのに、

 リシア酒は、あまり飲まれていないですよね?」


「リシア酒は高いっしょ?

 リシア酒1本で、普通の酒なら3本~4本は買えるから、

 リードっち達は、特別なことがない限り買わない」


「なるほど。嫌いなわけではないんですね」


「あいつらに、嫌いな酒なんてあるのか?」


「……」


「このウィルキスは、宴会のときに、

 親っち達、黒が数本用意してくれていたから、

 今までで一番、リシア酒を飲んだしょ。

 あと、セツっちが珍しい酒や食い物を分けてくれたから、

 楽しい休暇だった。今までで一番楽しかったっしょ……」


エリオさんは何度も楽しかったと繰り返す。

それはまるで、自分に言い聞かせているように思えた。

哀しい、切ない記憶だけではないのだというように。


「……セツっち」


ふと、何かに気が付いたようにエリオさんが、

恐る恐る口を開く。


「なんで、俺っち殺気を向けられてるんだ?」


僕は一升瓶の封を切って、グラスにお酒を注いでから、

エリオさんの背後に視線を向ける。

すると、オウカさんとオウルさんが、

椅子から腰を浮かして一升瓶を凝視している。


そして、確かに酒肴のカルロさん達が、

エリオさんに殺気を放っていた。


「多分、このリシア酒が、

 非常に珍しいものだからだと思います」


「俺っち、なんか、全員に見られてる気がするっしょ」


そういいながらも、エリオさんは振り向くことはせず、

少し緊張したように、一升瓶を見ている。


「エリオさんを見ているというより、

 一升瓶を見ているんでしょうね」


「……そんなに、珍しいものなのか?」


「このお酒の銘は【悠久】といいます。

 初代総帥シゲトが初めて世にだした、

 リシア酒だといわれています」


かなでが花井さんから譲り受けた遺産の一つだ。

リシア酒のストックも潤沢にあるのだが、

今まで一度もだしたことはなかった。


「は?」


「なので、今、現存しているのは、

 僕が持っている分だけだと思いますよ」


「は!?」


オウカさん達が驚いているところを見ると、

彼らも実物を見るのは初めてなのかもしれない。

火災で資料やら何やら失われたそうだから……。


鞄の中には、花井さんの時代のものも、

多く入っているようだけど、

かなでは、それを花井さんの一族に、

渡すことはあまりなかったようだ。


なぜ、かなでが、それらを渡さなかったのか、

今の僕には知る由もない。


「それ、珍しいというより貴重な酒っしょ!?

 飲んでいいものではないしょ!?

 初代記念館に寄贈するほどのものっしょ!?」


初代記念館とは、

リシアの本国籍を持つ人だけが入ることができる場所だ。

僕はまだいったことがない。次にハルを訪れたときにでも、

行ってみようか。


「もう、封を切ってしまいましたし、

 お酒は飲むものですよ」


エリオさんの前にグラスを置くが、

手に取ろうとしない。


僕は【悠久】の言葉の意味を話して一口飲む。

エリオさんは、しばらく【悠久】の文字を眺めてから、

意を決したようにグラスに口を付けた。


「んー?」


飲み込んでから、首をかしげ、もう一口飲んで僕を見た。


「美味しいとはいえないかな?」


「美味しいとはいえないっしょ」


エリオさんはそういって、ちょっと残念そうに、

残りのお酒を眺めている。


確かに、お酒の味としては、洗練されたものではなかった。

だけど、この世界で作られた、最初の日本酒。

何もないところから作られた、リシア酒。

沢山の試行錯誤を重ね、完成したのが、

僕の手の中にある、この【悠久】なのだと思う。


「美味しいとはいえませんが……。

 初代が、この【悠久】を作り上げてくれたから、

 今、この時代にいる僕が、

 美味しいリシア酒を飲めるのだと思います」


それはお酒だけではなく、今僕が、こうしていられるのも、

花井さんがかなでに、すべてを譲ってくれたからだ。

花井さんからかなでへ、かなでから僕へ……。


(花井さんは、

 どんな気持ちでこのお酒に【悠久】と名付けたのだろう)


僕はもう1本お酒を取りだして封を切り、

新しいグラスにお酒を注いだ。


「これは俺っちでも知ってるっしょ……。

 親っちが買えなかったと話していたぞ」


一番美味しいと評価されているリシア酒だ。

数量限定で中々手に入らないらしいが、

僕の鞄の中には、それなりの数が入っている。


それは、かなでが酒蔵に投資し、その取り分であるお酒を、

ハイロスさんがせっせと、かなでの鞄に転送してくれていたからだ。


その他にも新しいお酒がでたら、彼が購入して、

送ってくれていたようだ。


別れの挨拶をしに行ったときに、

そういったものの継続をどうするかと聞かれ、

現状維持でとお願いしている。


お金を渡すといったのだが、

かなでから預かっているものがあるから、

それがなくなったら伝えますと断られた。


正直、お金がなくなっても彼は何もいわない気がするので、

折を見て渡そうと考えている。


「……うまい。

 リシア酒って、こんなにうまかったのか」


エリオさんが軽く目を見張って呟き、

ゆっくりと、グラスの中のお酒を飲み干した。


「なんだろう。言葉が思いつかないんだけどさ、

 こう、すごく豊かな感じがする」


グラスを眺めながら、深く息をはき出し、

心のそこからだろう言葉を響かせる。


「初代は、すごいよな……。

 本当にすごい」


「僕もそう思います」


「初代総帥は、どんな人だったんだろうな?」


それは僕も気になるところだ。

多分、今、この時代を生きている人間の中では、

僕が一番、花井さんのことを知っているかもしれない。


だけど、彼がどんな想いでこの世界を生きていたのか、

どうして、リシアという国を建国しようと思ったのか、

そういったことは分からない。


ただ、彼がこのリシアという国を、

本当に愛していたということだけは分かる。


「どんな人だったんでしょうね」


「そうだな、俺っちが想像するに……」


「想像するに?」

 

「絶対にリシアが滅びることはないと断言するほど、

 揺るぎない自信をもっていた人っしょ」


「どうしてそう思うんですか?」


「世に出す初めての酒に【ゆうきゅう】と銘を付けたということは、

 リシア酒は、未来に在り続けると考えたからっしょ」


エリオさんは自信満々にそう告げるが、

在り続けると考えたのか、在り続けてほしいと願ったのか、

それとも、別の意味がこめられているのか、僕には分からない。


「それは、この国、リシアが【ゆうきゅう】であることを、

 疑わなかったからだと思うっしょ」


そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

やっぱり僕には、花井さんの想いはわからない……。


だけど、楽しそうに「それから酒好き!」とか、

「生まれたときから、人を惹きつける魅力のある男!」とか、

憧れを宿した瞳で、エリオさんが語り続けるから……。


(……)


エリオさんが想像する花井さんで在ればいいと、

彼が、この国の人達が、望む姿であればいいと、

そうあればいいと僕は思った。


ガーディル5番目の勇者、花井重人ではなく、

リシアを建国した、初代シゲトとして……。

【悠久】にこの国の人達の中に、生きていく。

忘れられることなく……。


「セツっち?」


「はい」


「セツっちは、そう思わないか?」


だから、僕は花井さんの過去も、かなでの過去も、

何もかもを一旦飲み込んで、ただ一言。

「僕もそう思います」と答えた。


エリオさんのグラスにもう一杯注ぐ。


「後ろからの視線がすごく痛い気がするっしょ……」


そういいながらも、エリオさんは絶対に振り返らない。

彼は、【悠久】が注がれたグラスを持ち、

残りを一気に飲み干してから、グラスを持ち替え、

新しく注いだお酒に、ゆっくりと口を付けて飲み、軽く息をつく。


「初代の時代の酒と、今代の酒。

 俺っち達は、時代を超えた酒を飲んだ奇跡の男っしょ!」


(時代を超えた酒か……)


花井さんが、リシアを建国したのが4500年以上前だ。

そう考えると【悠久】がいまだに鞄の中に入っているのは、

確かに、奇跡のように思える。


時代を超えた酒を最初に飲んだ(かなで)が、

残しておいてくれたことに感謝しなければ。


そんなことを考え、内心で笑いながら、

僕も今代のお酒を口へと運ぶ。


エリオさんが豊かなと表現した意味が分かる。

心に響くお酒だ。


花井さんにも飲んでもらいたいと心の底から思う。

きっと、一番、このお酒の出来を喜ぶ人は彼だと思うんだ。


「なぁ、セツっち」


「はい」


妙に真剣な眼差しで、エリオさんが僕を見る。


「もし、初代がこの酒を飲んだら、喜ぶと思うか?」


「とても、喜ばれるんじゃないでしょうか」


なぜか、考えることなくスッと滑り落ちるように、

言葉がこぼれ落ちた。


そのことに、自分自身驚くが、

エリオさんが、幸せそうに目を細めて僕を見るから、

そちらの方に意識を持っていかれる。


「エリオさん?」


「そうか。なら、今のこのリシアを、

 初代は誇ってくれるよな?」


彼の思惑がよくわからない。

だけど、花井さんはきっと誇ってくれるだろう。


「きっと、誇りに思ってくださいますよ」


エリオさんはそれで満足したのか、大きく頷くと、

すんなりと席を立つ。


「さて、俺っちも……」


椅子の背もたれに手をのせ、何かを言いかけるが、

その言葉は途中で消えた。彼が何かをいう前に、

僕が先に行動する。


今更、立てなかった理由など考察する必要はないのだから。


「エリオさん、このお酒も持っていってください」


「……あいつらに、

 まとわりつかれるのは嫌すぎるっしょ……」


「持っていかないとサフィールさんに、

 ここでの会話を根掘り葉掘り聞かれると思いますが……」


「ぜひ、持っていかせていただきたく!」


「……」


「サフィさんには、

 セツっちに詳しく聞いてくれと伝えておくっしょ!」


エリオさんは、早口でそう告げると、

僕から酒瓶を受け取り、皆がいる方へ一歩足を踏み出し、

そして一度止まる。


一瞬何かを思案したあと、

酒瓶を脇に抱えて僕の方へと振り返る。

そして、空いた手をポケットに入れて、

布の袋に詰められた何かを机の上に置いてから、

自分の表情を隠すように背を向けた。


「中を見てもいいですか?」


「ああ」


袋の中を確認すると、沢山の花の種が詰められていた。


勿忘草(わすれなぐさ)の種ですね」


「セリっちが一番好きな花なんだろう?」


「そのようです」


「正直、これを渡すか……すごく迷った」


勿忘草の花言葉は、『私を忘れないで』『誠の愛』『真実の友情』だ。


「だけどさ、『真実の友情』ってことで、

 二人の墓碑にまいてやってほしいっしょ」


「はい。必ず」


「……頼む」


エリオさんはそれっきり何もいわず、

今度こそ皆の元に戻っていく。


エリオさんを心配していたフリードさん達が、

彼の心を慰めるように騒ぎながら、

賑やかに迎え入れているのをしばらく眺めていた。


やるせない想いを、

軽く息をつくことで切り替える。


しかし、机の上に置かれた布の袋を手に取り、

鞄にしまう途中で、ふと、ノリスさんの言葉が脳裏に響いた。


『伝えたい気持ちや託したい想いを、

 花はそのまま届けてくれるんです』


(エリオさんが、

 セリアさんに伝えたかった気持ちは……)


僕は鞄の中から、紙とペンを取り出す。

簡単に、用件を記し、布袋に入っている種を

必要になるだろう魔導具と一緒に、クッカへと送った。


「師匠?」


「うん?」


「何してるの?」


セリアさんとの話が終わったアルト達が、

僕の前にいて興味津々というように、消えた手紙を見ている。


「クッカに頼みたいことができたから、

 手紙を送っていたんだよ」


「そっか」


アルト達に椅子に座るように促す。

少ししょんぼりした雰囲気はあるが、

それは仕方がないことだ。



軽く話をしてから、皆と同じように薬の入った革袋を渡す。

渡すときに、必ず、医療院に行って医師の判断に従って、

服用するように伝えることも忘れない。


旅の空の下では、診察してもらうなど到底無理なことだけど、

彼らはこの町で暮らしているのだから。


「あと、これを返しておくね」


僕は預かっていた銀線細工のペンダントが入った木箱を、

一人一人に渡していく。


「壊れないように魔法をかけて、

 落としてもこの木箱に戻るようにしておいたよ」


ミッシェル達が嬉しそうに受け取り、

目を輝かせながら銀線細工のロケットペンダントを見つめている。


「あれ、中に何かはいってる?」


「本当だ!」


最初に、クロージャが声を上げ、

セイルが、彼に同意するように声を上げた。


「何が入っているんだ?」


「何だろうな?」


ワイアットとロイールが、

そういいながら首をかしげている間に、


ミッシェルとジャネットとエミリアが、

木箱からペンダントを取り出し、

透かしの入ったロケットチャームを開けた。


「ミルフォーリアの蕾?」


「あ、本当だ」


「可愛い……」


「師匠?」


最後にアルトが、

ミルフォーリアの蕾を確認してから僕に顔を向けた。


「店主は、ミルフォーリアをいれるために作ったと、

 話していたでしょう?」


「うん」


「あの日のミルフォーリアではないけれど、

 何も入っていないのも寂しいから、入れておいたんだ。

 自分達の宝物が見つかったら、入れ替えるといいよ」


僕の説明に、皆が嬉しそうに頷いてから、

「ありがとうございます!」と、とても元気なお礼をもらった。



アルト達と黒のチームの人達の楽しそうな声を聞きながら、

僕は使った机と椅子を片付けていた。


自分が座っていた場所を片付け終わり、

セリアさんが居た場所に向かうと、彼女はそこに独り座り、

アルト達がいる場所を見つめていた。


今の彼女の姿は、皆には見えていないようだ。

微動だにせずに、アルト達や黒のチームの人達を、

眺める彼女の眼差しは、まるで、その光景を忘れまいと、

脳裏に焼き付けいているように見えた。


「セリアさん」


僕に気が付いてないようなので、そっと、声をかけると、

セリアさんが驚いたようにこちらを見て、

楽しそうな、それでいて寂しそうな笑みを浮かべた。


「……今は何もいわないでほしいワ。

 どんな言葉を聞いても、きっと、泣いてしまうかラ」


「……」


僕はセリアさんから視線を外し、彼女に背を向ける。


しばらくして、僕の背中に「ありがとう」と

小さな呟くような声が届く。


セリアさんがいた場所を振り返ると、

そこにはもう、彼女は座っていなかった。

その場の机や椅子を片付けてから、僕も皆の元へと戻った。



皆の元に戻り、様々な果物に彩られたプリンをアルト達と食べ終えた。

そこまでは、確かに平和だったんだ……。


だけど、今、僕はお酒を飲みながら、

オウカさんやサフィールさんに、質問攻めにあっていた……。


エリオさんが、ある程度は説明してくれているだろうと、

期待していたのに、彼はすべてを僕に丸投げし、

一番隊の人達が、秘蔵していたリシア酒の飲み比べに参加していた。


エリオさんが、チラリとも僕を見ないのはわざとだと思う……。

まぁ、確かにこの勢いで説明を求められると逃避したくなるのは、

理解できる。


僕の目の前で、オウカさんとオウルさんとサフィールさんが、

口論している姿から視線を外し、

アルト達の楽しそうな声が聞こえる方へと顔を向けた。


プリンを食べ終えたアルト達は、寝る場所を決めるために、

クロージャ達や使い魔達と一緒に庭を歩いていた。

セリアさんも子ども達にねだられて、

一緒に過ごすことにしたようだ。


笑い声は聞こえるけれど、

どんな会話をしているのかは分からない。

ただ、本当に楽しそうだというのは伝わってくる。


アルトの持つランタンの灯りが揺れる。

あのランタンは、アルトがラギさんから譲り受けたものだ。


先頭を歩くアルトの姿に、

ラギさんと歩いた日のことを思い出す。

『家に帰るためだけに、魔導具を使うのはもったいない』、

そういって、僕達にランタンを使うことを勧めてくれた彼のことを。

その日から僕とアルトは、町の中では魔導具ではなく、

ランタンを使うようになっていた。


ハルの町中では、街灯が設置されていることもあり、

ランタンを使うことはなかったけれど……。


柔らかい灯りが揺れる。

持ち手が、アルトからセイルに代わり、

セイルからワイアットへと、次々に先頭が入れ替わっていく。

手渡されていくランタンは、とても丁寧に扱われていた。


「セツナ」


「はい」


呼ばれた方へ顔を向けると、

酒肴のルーシアさんとシュリナさんが立っている。


「どうかしましたか?」


二人はまだ口論を続けている、

サフィールさん達を目に入れないようにしながら、

用件を口にした。


「あのね、

 セリアさんから贈り物をもらったでしょう?」


「はい」


「それで、私達も何かお返しをしたいと思ったんだけど、

 セリアさん幽霊だから、物が持てないでしょう?」


「そうですね……」


「食べられないし、飲めないし……」


「……」


「朝から花を買いに行くつもりではいるのよ。

 だけど、それだけじゃ足りない気がして……。

 手紙を一緒に渡そうと思っているんだけど、

 セリアさんに知られたくないの」


「なるほど」


「だから、何かいい案がないかと思って」


僕達の話を、周りの人達も聞いていた。

セリアさんに何か返したいという想いは、皆同じなのだろう。


「でしたら……こんなのはどうですか?」


ルーシアさん達に、案を一つ話す。


「どうして、すぐにそんなことを思いつけるの?」


「僕がリペイドにいたときに、

 懇意にしていた花屋さんが、

 貴族家の婚約のための贈り物として考案し、

 そのあと、流行ったんです」


「そうなんだ」


リペイドの花屋というところで、

オウルさんとマリアさんが、一瞬僕を見たが、

すぐに、それぞれの会話に戻る。


「もちろん、手紙を書いてもらってもいいですし、

 手紙が苦手なら、リボンだけでも気持ちは十分伝わるかと」


「そうね。

 とても素敵だと思うわ」


「花はどうしようかしら?」


「クッカに頼んで僕の方で用意しましょうか?

 必要でしたらリボンも用意しますよ」


「お願いできる?」


「わかりました」


「セリアさんはどうするの?」


「浴室の更衣室に机と椅子を用意するので、

 そちらで準備してもらうのはどうでしょうか?」


この家の浴室も更衣室もかなり広い。


「あー、それなら怪しまれないわね」


「セリアさんが浴室に行かないように、

 僕が足止めしておきますから」


「わかったわ。更衣室の準備は私達でするわ」


「お願いします」


僕は鞄の中でリボンを作り、彼女達に渡す。

花はクッカから届き次第、更衣室に転送できるように、

机の上に魔導具を置いてもらうことになった。


エリオさんと目があうが、

彼は少し困ったように笑うだけで、特に何かをいうことはなく、

フリードさん達と、リボンに記す言葉を考え始めている。


「セツナ」


シュリナさんがエリオさんを気にするように、

小さな声で僕を呼ぶ。


ルーシアさんがシュリナさんをそれとなく隠し、

カルロさん達が、エリオさんの意識をこちらに向けないように、

色々と話しかけているように見える。


「カルロ達から伝言があるの」


「伝言ですか?」


「うん。明日、ちょっと羽目を外すが大目に見てくれって」


「……何をするつもりなんだろう?」


「私達には計画を教えてくれないから分からないけど……。

 エリオのためだって話してた」


「……」


「花を渡そうっていったのも、カルロ達なんだ」


「そうなんですね。

 カルロさんに分かりましたと伝えてもらえますか?」


「うん」


シュリナさんが嬉しそうに笑い、

ルーシアさんと一緒にアニーニさん達のところへと、

戻っていった。



(……)


ふと、視線を感じそちらに顔を向けると、

アルト達が僕を見ていることに気が付き、

軽く手を振ると、嬉しそうに手を振って返してくれる。


どうやら、今日の寝床が決まったようだ。

アルト達は寝ないつもりでいるようだけど、

多分、途中で寝てしまうだろう……。


(明日……)


リシアでの最後の夜が更けていく……。




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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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