『 想いを共に 』
【 セツナ 】
酒肴の一番隊と話し終わったところで、
セリアさんと話していた人達も席を立った。
そして、軽くため息をつきながら、
こちらへくると少し疲れたような表情で僕を見た。
「私達が彼女に呼ばれることはないと、
思っていたが……」
そういって、苦笑しながら椅子に座ったのはオウカさんで、
そのあとに、エリアルさんとリオウさんが続いた。
確かに、セリアさんからオウカさん達の話はあまり聞かなかった。
たまに話題にあがるとそれは、
オウルさんとマリアさんから聞いたことを、
僕に話していただけだったから。
だから、オウカさん達がセリアさんからの贈り物に、
困惑するのも仕方ない……。
「セリアさんは、この国が好きだと話していましたよ。
次に生まれてくるなら、この国がいいともいっていました。
なので、その期待を込めた贈り物かもしれませんね」
その期待の中には、
リシアが今のまま変わりませんようにという願いと、
僕が過ごしやすい国であるようにという願いも含まれているらしい。
贈り物を用意するときに、彼女が笑ってそういっていた。
「そうか。そうならば、その期待に応えなくてはな」
オウカさんが手元の贈りをものを見て、気負うことなく頷いた。
「セツナは?」
リオウさんの声に、彼女の方へと顔を向ける。
「セツナは、この国が好き?
この国は……貴方の帰る場所になった?」
不安そうに瞳を揺らしながら、リオウさんが僕を見る。
彼女の問いは、僕の中でいまだ答えがでていないことだった。
アルトがじっと僕を見ているのは、
僕がすぐに答えを返さなかったからだろう。
「そうですね……。好きか嫌いかでいえば好きですよ。
この国は、とても息がしやすい気がするので」
「……」
「でも、帰る場所という意味では、
わからないとしか、答えることができません。
ずっと、旅の空の下で暮らしてきた僕には、
正直、実感がわきません……」
帰りたいと望んだ場所が帰る場所だというのなら、
僕の望む場所はここではない。
未来はわからないけれど、今はまだ。
だけど、そんなことを話せるはずがなく、
実感がないということだけ伝える。
「そう。そうよね。
セツナがハルにきて、数ヶ月で実感なんてないわよね」
リオウさんがそういって苦笑する。
だけど次の瞬間、僕達の前に座る3人が同時に口を開いた。
「ならば、私は幾度も君に伝えよう。
この国がセツナの帰る場所であると」
「でしたら、わたくしは何度でもセツナに伝えましょう。
ハルが、貴方の帰る場所であることを」
「だったら、私は何度も貴方に伝えるわ。
ここがセツナの帰る場所だって」
オウカさん、エリアルさん、リオウさんが、
まるで示し合わせたように同じ言葉を僕に告げた。
リオウさん達も驚いたのか、家族で顔を見合わせて笑う。
そして、次に口を開いたのはオウカさんだった。
「君がハルを旅立つ度に『行ってきなさい』と送り出そう。
そして、君がハルに帰還する度に『お帰り』といって出迎えよう」
彼は僕を見て静かに話す。
「そんなやり取りが普通になるまで、
いや、普通になっても繰り返し伝えていこう。
ハルが、セツナの故郷になるように」
オウカさんはそういったあと、
アルトにも顔を向けて「もちろん、アルトもな」と告げる。
「アルトの仮国籍取得の申請は受理しておいた。
アルトも無事にセツナとハルに戻ってくるように」
優しく笑うオウカさんに、
アルトが嬉しそうに「はい!」といって頷いた。
「そろそろ向こうの話が終わるようだ」
オウカさん達は、僕が返事をする前に席を立った。
そして、僕は一人一人と握手していく。
そのときに、エリアルさんが、
「ハルマンの話は断ってもいいのよ」といい、
オウカさんが「確かに」と笑ってから僕に背を向ける。
リオウさんも、彼らのあとをついていこうとしたのだが、
立ち止まり振り返って真剣な瞳で僕を見た。
「……ギルドがある町についたら、
必ず、居場所を報告してね」
「……」
僕は彼女からそっと視線を外すと、
リオウさんは今度はアルトを見て、お願いしていた……。
「私は、彼女と話したことがないのだけど……」
「私も今回が初めてだったような気がするが……」
「私は数回、アルト達と一緒にお話しさせてもらったわ」
苦笑しながらそういったのは、
ナンシーさんとハルマンさん。
二人の娘であるメディラさんは、セリアさんとアルト達が、
話しているところにでくわしたことがあったようだ。
セリアさんが、メディラさんだけではなく、
ナンシーさんやハルマンさんにも贈り物を贈ったのは、
「せっかくの食事会で疎外感を覚えるのはダメよね」ということで、
用意していたものだ。
ハルマンさん達もオウカさん達と同じで、
少し戸惑っていたようだが、
それでもセリアさんの気遣いが嬉しかったのだろう、
大切そうに、贈り物の箱をなでていた。
「そうだ、セツナ君。折り入って頼みがあるのだが」
ハルマンさんが、贈り物から視線を外し僕を見てそう切り出す。
彼のその言葉に、ナンシーさんが深くため息をつき、
メディラさんはハルマンさんをチラリと見てから、
アルトと話すことを選んだようだった。
「あの釣り堀を、是非とも残してくれないか!」
「……」
「私は釣りが好きなんだ!」
「海で釣ればいいのではないでしょうか?」
「海では、今日釣ったような魚は釣れない!」
拳を握って力説する彼に少し身を引く。
ハルマンさんは、たたみかけるように、
僕が作った釣り堀の素晴らしさというものを、
懇々と説明してくれるが、僕の心に響くものはない……。
ハルマンさんを止めてほしくて、
ナンシーさんに視線を向けるも、彼女はまるっと僕達を無視して、
アルトとメディラさんと楽しく話していた……。
「いろんな魚を釣ってみたんだよ。
でも、時間がなくてなかなか釣りにいく時間がとれない。
だけど、あの釣り堀なら短時間で色々釣れるだろう?」
「確かにそうですが……」
「維持が大変だというのなら諦める。
だが、そうでないのならば、
あの釣り堀を残して欲しい」
ハルマンさんの懇願に、どうしようかと考える。
あの状態を維持するだけなら難しいことではない。
僕の魔力を使わなくても、有り余る精霊玉を数個使うだけで、
数十年単位で維持できるはずだ。
(どうしようかな……。
残せば、酒肴の人達も喜んでくれると思うけれど)
そんなことを考えていると、
視界の隅にチラリと執事姿のハイロスさんが映る。
彼は僕に軽く手を振ると、次に連なった知恵の輪のようなもの……。
実際は彼の疑似本体を軽く揺らし、笑って消えた。
(地上は苦手だからこないと話していたのに、
僕に気をつかって、顔を見せてくれたのかな?)
いつから彼がここにいたのかはわからないけれど、
ハイロスさんが疑似本体を揺らしたということは、
地下迷宮に釣り堀を作ってもいいですよと、いう意味かもしれない。
それなら、黒のチームやハルマンさん達だけではなく、
ハルの住人達も楽しめるかな……。
とりあえず、ハルマンさんには前向きに検討しておくと伝えると、
「それは、検討だけして実行されないということでは」といわれたが、
曖昧に笑っておいた。
諦めないハルマンさんに、ナンシーさんとメディラさんが、
ずっと呆れた眼差しを向けていたが、
最後まで、彼が気付くことはなかった……。
『師匠、釣り堀残しておくの?』
アルトがこっそりと心話で話しかけてくる。
『うーん。どうしようかな。
あのままだと、訓練のときに邪魔になるんだよね』
『そっかー』
『残しておいてほしい?』
『俺は旅にでるし、
セイル達もここにこれないと思うから、
どっちでもいいと思う』
『そう……』
アルトがどちらでもいいというのなら、
別にここにある必要はないだろう。
だとしたら、やはり地下迷宮に作ってもらおうか。
使い魔を通して魔法を刻めるので、
作るのはさほど問題にならないだろう。
釣り堀の管理もハイロスさんがやってくれるはず。
魔物が釣れても、彼なら簡単に処理できるだろう。
そういったことから、ここの釣り堀は消して、
地下迷宮に釣り堀を作ることに決めた。
ちなみに、新しい階層が作られると、
地下迷宮の中の掲示板に、案内がだされるようなので、
そのときまでハルマンさんには秘密にしておこうと思う。
しょんぼりしているハルマンさんには、悪いと思うけれど、
僕と地下迷宮の関係を問いただされるのは、面倒でしかないから。
最後に、フェルドワイスの巣蜜と、
フェルドワイスの結晶の依頼を受けるように頼まれ、
握手して終わる。
アルトは、メディラさんとナンシーさんに、
色々と気を付けるようにいわれて、
少し疲れた表情をしていた……。
ハルマンさん達が、ここから離れ、
5分ほど時間が経った頃に、
涙が止まらないマリアさんを慰めながら、
オウルさん達が僕達の前に座った。
セリアさんとオウルさんとマリアさんの話が、
皆より少しだけ長かったのは、
それだけ繋がりが深かったからだろう。
サクラさんが居なくなったマリアさんの寂しさを、
セリアさんが埋めるように、
彼女はまめに、マリアさんとオウルさんを構いにいっていた。
あまり話すことができないマリアさんの代わりに、
オウルさんが困ったように笑いながら口を開く。
「知らない間に、そばにいて驚いたり、
色々悪戯もされたが……彼女がいてくれたから、
私もマリアも、サクラのいない寂しさに慣れることができた」
「……」
「だから……。もう二度と会えないと思うと、
寂しさが募るね……」
オウルさんの言葉にマリアさんが、
哀しみに堪えるようにぎゅっと拳を握った。
オウルさん達との話は、
セリアさんとサクラさんのことが中心だった。
謝られたり、愚痴をいわれたり、お願いをされたり。
そして最後に、アルトと握手するときに、
オウルさんが、寂しそうに笑ってアルトに話しかけた。
「アルト君。セリアさんを水辺に送る旅に、
私達の想いも一緒にもっていってくれるかい?」
「うん。いいけど、どうやって持っていくの?」
「……彼女を水辺に送るときに、
セリアさんが、僕達のところに戻ってこれますようにと、
願ってほしいんだ」
「うん。俺は、オウルさんとマリアさんの……。
ううん、皆の想いも一緒に持っていくよ」
アルトの言葉に、オウルさんとマリアさんが、
軽く目を見張ってから、優しく笑って頷いた。
『サフィール、フィーちゃん』とセリアさんが、
邂逅の調べを呼ぶ。
僕とアルトの前には剣と盾のメンバーである、
エレノアさん、アラディスさん、クラールさん、
レイファさん、アルヴァンさん、そしてヤトさんが座る。
どうやらセリアさんは、剣と盾とヤトさんを、
一つの家族として呼んだようだ。
珍しくエレノアさんがぐったりとしていて、
アラディスさんは、意気消沈するように肩を落としてる。
セリアさんに何をいわれたんだろうと気になるが、
絶対に聞くなといわれているので、聞くことはしない……。
だけどアルトは、エレノアさんらしからぬ姿に、
「エレノアさん、大丈夫?」と本気で心配していた。
彼女は苦笑してから背筋を伸ばし、「大丈夫だ」と告げると、
意識を切り替えたのか、いつものエレノアさんに戻った。
「貴殿は、私達がいなくても、
酒の飲み方に気を付けるように」
そう僕がエレノアさんに注意されている横で、
アルトはヤトさんに「ギルドのある町についたら、
セツナにギルドに顔をだすように教えてあげてほしい」と、
リオウさんと同じことを話していた……。
アラディスさんからは、
エレノアさんの呪いを解いたことへのお礼と、
僕達が困ったときは、必ず力になるということをいわれる。
レイファさんは、アルトに「これから話すことは、
誰にもいわないで」と口止めをしてから、
エレノアさんに、リヴァイルからの手紙を、
渡したことへのお礼をいわれた。
「エレノアは、あの手紙を大切に身につけているの」
小さな袋に手紙を入れて持ち歩いているのだという。
エレノアさんに顔を向けると、柔らかな笑みを浮かべて頷く。
「貴方が手紙の返却を求めなかったから、
あの手紙はエレノアの心の支えの一つになった」
レイファさんが自分のことのように、
嬉しそうに話した。
「手紙の返却?
あの手紙は、エレノアさんのものですよ?」
リヴァイルが、エレノアさんに渡せと、
僕に託したものだ。
「竜族の持ち物などは、とても高価なものでしょう?
あの手紙は、竜族が自らの手で「許す」と綴った。
神の従が「許す」と記した手紙に、
どれほどの値がつくか……」
「は?」
「え? 知らなかったの?」
「知りませんでした。
そもそも、どうやってあの手紙を竜族が記したものだと、
判断するんですか?」
「え? そこからなの?」
アルト以外の人達から呆れたような視線が僕に集まる。
クラールさんとヤトさんが、
僕とアルトに竜族がかかわったものに関することを、
簡単に教えてくれた。
竜族の持ち物や文字には、竜族の魔力が宿るらしい。
それは、持っているだけで幸運を引き寄せるといわれているらしく、
目の色を変えて手に入れようとする人が多いらしい……。
竜族の魔力や精霊の魔力を判定する魔導具もあるらしく、
鑑定依頼がギルドにくることもあるらしい。
確かに、人間と精霊と竜族では魔力の質が違う。
「精霊の魔力判定の依頼は、それなりに本物もあるが、
竜族の魔力判定の依頼は、ほぼ偽物だ」
「そうなんですね……」
教えてくれたヤトさんに頷いた。
ヤトさんとクラールさんが話し終わったところで、
エレノアさんが口を開きかけるが、
彼女よりも早く僕が声をだす。
「その手紙は、エレノアさんのための手紙ですよ」
「……そうか。ありがとう」
エレノアさんが、胸元をそっと押さえて微笑む。
その仕草で、あの手紙が彼女にとって、
本当に大切なものになったのだと理解した……。
『師匠』
『うん?』
僕達の話を黙って聞いていたアルトが、
心話で話しかけてくる。
『トゥーリとクッカからの手紙は、
誰にも見せない方がいいよね』
『そうだね』
リヴァイルから届く、
くだらないやり取りのメモもこれからは、
ゴミ箱に捨てるのではなく、燃やそうと決めた……。
クラールさんからは、
彼に刻まれていた魔法を解除したお礼をいわれる。
これは、本人も知らない間に魔法をかけられていたらしく、
最近、エレノアさんが気が付いたらしい。
どうやら、ガイロンドではよくあることらしく、
家督争いがおこらないように、連れ子などに才能があった場合、
枷となる魔法をかけられることがあるのだと聞いた。
クラールさんに刻まれていた魔法は、
戦闘能力をかなり削ぐものだった。
それでも、彼はガイロンドでは騎士となり、
祖国を離れてからは、冒険者として力を発揮していた。
白のランクにあがるには少し力が足りなかったが、
それでも強いといえる人だった。
きっと、クラールさんは、折れず、曲がらず、
たゆまぬ努力をしてきたのだろう。
その枷が解けたことで、彼本来の力を取り戻し、
今はその力の制御を中心に訓練をしているようだ。
手加減ができないようで、
訓練の相手が黒とアラディスさんに限られてしまうため、
歯がゆい思いをしているようだけれど……。
今までの努力と経験から、力の制御さえ覚えれば、
すぐに白のランクにあがっても不思議ではない。
多分、さらに努力を重ねれば、
黒のランクにも手が届くかもしれない。
だけど、多分、クラールさんもアラディスさんと一緒で、
黒にはならず、白のランクに留まるのだろうな……。
黒のランクの制約は、重いものが多いから。
アルヴァンさんからは「黒のランクにあがれたら、
手合わせを願いたい」といわれる。
彼のその眼差しから、ここで断っても、
何度も願われるだろうことが予想できた。
なので「黒のランクに上がれた祝いとしてなら」と返事をすると、
彼は珍しく嬉しそうに笑い「それがいい」と満足そうに頷いた。
そして、ヤトさんからは特に何かをいわれることはなかった。
ただ、「セツナの帰る場所は、この国だということを忘れるな」と、
静かに告げただけだった……。
全員と握手をし、剣と盾のメンバーが立ち上がる。
それぞれが椅子の配置を直し、次の瞬間全員が椅子から一歩下がった。
そして、一糸乱れることなく、6人がリシアの騎士の礼をとった。
言葉は何もない。
ただ、数秒、全員が真っ直ぐに僕を見つめていた……。
「セリアは、優秀な魔導師だったんだな。
僕はもっと、彼女と話すべきだったわけ……」
邂逅の調べのサフィールさんが、
無表情でそんなことを話す。
僕はセリアさんとサフィールさんが、
どんな話をしたのかは知らないので、答えようがない。
けれど、セリアさんが優秀なのは知っている。
「僕の知らない古い魔法を、
いくつか餞別として、教えてくれたわけ!」
「そうなんですね」
サフィールさんが、セリアさんから教えてもらった魔法を、
嬉々として話してくれていたのだが……。
途中から雲行きが怪しくなっていた。
「どうして僕は、
セリアが生きていた年代を知ろうとしなかったわけ!?」
「……」
話しているうちに、自分自身に怒りだしてしまった……。
自分の近くに、1000年前の魔法や文化を知る人がいたのに、
気付かずに時間を過ごしていた自分に、腹が立つそうだ……。
皆、セリアさんに気をつかって、
彼女の過去を詮索しないようにしていた。
話さなくても問題のない事柄だったので、
僕も話題にしなかったし、セリアさんも何も話さなかった。
(まぁ……サフィールさんに聞かれたとしても、
セリアさんは答えなかっただろうな……)
話したが最後、姿を見せる度に、
質問攻めにあうことがわかっているから。
だから、最後の最後で、
サフィールさんが興味を持ちそうな魔法を選んで、
餞別として渡した。
サフィールさんは飽きもせず、愚痴をこぼしている。
彼と契約している精霊のフィーは、
そんなサフィールさんを完全に無視して、
アルトと楽しそうに話していた……。
できればこちらも、気にかけてほしい。
「そうだ。セツナ」
「はい」
「これを渡しておくわけ」
忘れるところだったと呟きながら、
サフィールさんが、ポケットから小さなノートを取り出し、
テーブルの上に置いた。
「これは、僕が研究している歴史だったり、
魔法だったりを記したノートなわけ」
「……」
「今日渡すために、ほとんど寝ずに書き上げたわけ」
「……」
「もし、旅先で情報を手に入れたら教えてほしいわけ」
黙ってノートを手に取って、ペラペラとめくってみていく。
答えられることがかなりあるが……。
表情にはださずそっとメモ帳を閉じて、頷いておいた。
ここで知っていることを伝えると、
明日旅立つことができなくなりそうなので、
黙っていることを選んだんだ。
時期を見て、話せることだけ伝えていこうと思う……。
サフィールさんの話が終わり握手をする。
最後にフィーの小さな手を握ると、
フィーが精霊語で『セツナが、世界を愛せなくても。
フィー達はセツナを愛しているのなの』と、
少し寂しそうに笑っていった。
『だから、人には解決が難しい問題に遭遇したら、
周りにいる精霊たちに声をかけるのなの。
必ず、精霊達はセツナの声に応えるのなの』
フィーの言葉を肯定するように、
風が僕の頬や髪をなでていく。
『覚えておくのなの』
『うん。覚えておくよ。ありがとう』
僕の返事にフィーは満足したように頷いて、
そっと手を離す。
そして、その手を軽く振ってから、
サフィールさんと歩いていった。
サフィールさんがフィーに、
「何を話していたわけ?」とか、
「どうして、精霊語で話すわけ?」とか、
「教えてくれてもいいと思う」とか、
フィーに文句をいいながら離れていく。
その後ろ姿をぼんやりと眺めていると、
アルトが話しかけてきた。
「皆、師匠にハルに帰ってくるようにって、
いっていくけど、師匠はハルに帰ってきたくないの?」
アルトが不思議そうに首をかしげて僕を見る。
「そんなことはないんだけど、
トキトナでギルドに寄らなかったり、
サガーナにいったり、リシアにつくまで、
音信不通になったりしたから……」
実際のところは、僕の戸惑いや人嫌いなどに気付いた人達が、
僕を心配して声をかけてくれているのだけど、
そんなことをアルトに話すつもりはない。
「あー。釣りしたりしてたもんね。
だから、リオウさんやナンシーさんやヤトさんが、
俺にギルドに寄るようにいうんだ……」
「……」
「でも、魚釣りは大切だよね?
ギルドにいけなくても仕方ないと思うんだ」
アルトの言い分に、思わず笑う。
「そうだね。
まぁ、できるだけ町についたらギルドにいくようにするよ」
「うん。俺もそれがいいと思う。いかなかったら、
次に会ったときに、絶対、ガミガミいわれそう」
「……確かに」
ガミガミいわれている未来の自分を想像して、ゾッとしたので、
できるだけギルドに顔をだすようにしようと決めた。
土を踏む音が耳に届く。
アルトとの会話を終わらせ前を見ると、
月光のメンバーが僕達の前に立っていたのだった。





