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刹那の風景 第四章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ダイヤモンドリリー : また会う日を楽しみに 』

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39/43

『 握手 』

ドラゴンノベルス様から本日、

『刹那の風景5 68番目の元勇者と晩夏の宴』が、発売されました!

初版本は、ドラゴンノベルス様5周年記念ということで、

栞が同封されております。

Webと同様に、書籍も応援していただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。


【 セツナ 】


僕が立ち上がると、アルトが不安そうに「師匠」と呼ぶ。

クロージャ達も不安そうにこちらを見ているのは、

この時間が終わるかもしれないと思っているからだろう。


「セリアさんのお願いを叶える準備をするんだよ。

 少し時間がかかるからね」


「あー。俺も手伝う?」


「大丈夫。思う存分食べるといいよ。

 でも、まだ、プリンが残っているから、

 セイル達は食べ過ぎないようにね」


最後の言葉は、アルトにつられて食べ過ぎないようにと、

セイル達の顔を見ていった。


今まで僕が座っていたところを、

中心として、周りにテーブルが配置されているので、

新しくテーブルと椅子が配置できるところまで移動する。


ほどよいところに、

鞄から丸テーブルと7脚の椅子を取り出し配置する。

その、一つの椅子にセリアさんが陣取る。


そして、そこから少し間を開けて、

同じように丸テーブルと7脚の椅子を配置し、

その上に木箱をのせた。


皆が興味津々というように、こちらに顔を向けている。

そんな彼らに、「申し訳ありませんが」と前置きしたうえで、

僕とセリアさんからのお願いを話す。


「セリアさんが、ハルを発つ前に、

 お別れをいいたいそうです」


僕の言葉に空気がザワリと揺れた。


「内緒の話もしたいようなので、

 彼女が座っている席の周りは、

 音を遮断する結界を張ることになります。

 お手数をおかけしますが、名前を呼ばれたら、

 彼女のそばにいってあげてください。

 よろしくお願いします」


「よろしくネ」


僕とセリアさんがそういうと、

皆がそれぞれ複雑そうな表情を浮かべながら、

僕達の方を見て頷いた。


最初にセリアさんが呼んだのは、

ジゲルさん、ロガンさん、トッシュさん、シャンテルさん、

ナキルさん、ケニスさんだった。


セリアさんが、「慣れない場所で、

呼ばれるのを待つのは緊張するわヨネ」といっていたけど、

最初に呼ばれるのも、緊張するんじゃないだろうか……。

せめて2番目とかの方がよかったのでは? と思ったけれど、

セリアさんのための席だから、いわなかった。


セリアさん達が何を話しているのかは、わからない。

彼女から絶対に聞くなといわれている。

なので、僕は僕でセリアさんに頼まれている準備をしようと、

用意した席にいこうとした。


しかし、僕を呼ぶ声が聞こえ振り返る。


「……泣かずに話せる自信がない」


そういったのは、キャスレイさんで、

彼女に同意するように、「寂しい」っていってしまいそうと、

シュリナさんが続く。


皆が複雑そうな表情をしていたのは、

決して、セリアさんと話すのが嫌なのではなく、

彼女との今生の別れをあらためて、認識するのが、

嫌だったのだとわかっている。


それは、そうだろう。

誰だって……二度と会えなくなる別れなど、

喜べるはずがない。


「泣いてもいいんじゃないでしょうか」


「でも……」


セリアさんに未練が残るかもしれないと、

考えてくれているのだろう。


「寂しいと伝えてあげたらいいんじゃないでしょうか」


「……」


「お互いに、未練が残る別れ方をしなければいいんです」


「どういう意味?」


「離れるのは寂しい。

 でも、また、このリシアで会えるのを楽しみにしている。

 水辺にいって、このハルでの再会を願っている。

 そういう想いをセリアさんに、

 伝えてあげるといいのではないでしょうか」


セリアさんの寿命はもうとっくに尽きている。

それは、変えようのない事実だ。

だけど……この世界では、

望んだ場所に生まれることができるらしいから。


「どう言いつくろっても……。

 別れは寂しいものです。悲しいものです。

 それをごまかさず、伝えればいいと僕は思います」


「そうかな……」


「はい。ただ、彼女を引き止める言葉は、

 いわないでください」


僕といれば、魔力が減ることはない。

だから、こうして人の目に映ることができ、

話すことができる。


でも、それだけだ。

食べることもできず、飲むこともできない。

誰かに愛されても、応えることもできず、

誰かを愛しても、触れることもできない。


僕は、そんな時間を過ごしてほしくない。

幽霊でいることを、よしとしてほしくはない。


「最終的に、セリアさんがこの世に未練を残しても、

 僕は……必ず彼女を水辺に送ります」


セリアさんが、イフェルゼアと出会い、

この世に留まりたいと願っても、

僕はその願いだけは、叶えないと決めている。


「だから、セリアさんが生まれ変わってきたいと、

 そう思えるような……別れの言葉を伝えてあげて下さい。

 よろしくお願いします」


「うん。わかったよ」


「そうする」


キャスレイさんとシュリナさんが、

しっかりと返事し、その他のメンバー達も力強く頷いた。


ふと、ミッシェルが不安そうに、

自分の家族を見ていることに気が付く。

家族が呼ばれたのに、自分だけ呼ばれなかったことが、

気になっているのかもしれない。


「ミッシェル」


「はい」


僕の呼びかけに、びっくりしたようにこちらを見る。


「ミッシェルは、アルト達と一緒に呼ばれると思うから、

 それまで待っていてくれる?」


「はい!」


安心したように笑って、

元気よく返事をする彼女に頷き、

僕は用意した場所へ移動し席に着く。


しばらくして、セリアさんから心話で、

『セツナ、お願い』と声が届いた。

僕は、包装された小箱が詰め込まれた木箱を取り出す。

その中から、ジゲルさん達の名前が記された小箱を、

向こうのテーブルの上に転送した。


それはセリアさんが、

僕に借金をしながら買い集めた贈り物だ。

その請求は、彼女の恋人であるイフェルゼアに、

支払ってもらうことになっている。


正直……。

利息も含めて、すごい金額になっているので、

返済にかなりの時間がかかると考えられる……。

必ず、全額返済するまで取り立ててほしいといわれているので、

きっちり支払ってもらおうと思っている。


セリアさんは、返済が終わる頃には、

前向きに生きようとしてくれるだろうと、

考えているみたいだが、僕なら踏み倒すと思う。


まぁ、そういったことも含めて、

踏み倒さないように、彼に借金を背負わせたのだろうけど。

僕は、竜であるイフェルゼアに対抗できる力があるから、

そう簡単に、彼を死なせることはないと思ってくれているのだろう。

それだけ、彼に生きてほしいということだ。


それならば、僕はセリアさんの期待に応えなければならない。

僕が狂気にのまれそうになる度に、彼女は僕を正気に戻してくれた。

彼女の恩に報いるためにも……。



ジゲルさん達が、セリアさんに何かをいいながら席を立つ。

そして、しんみりしたまま、僕が座っている場所へときた。


「どうぞ、おかけ下さい」


少し戸惑いながらも、用意した椅子に座ってくれる。

そして、それと同時ぐらいに、セリアさんが、

『クレイグ、ディック、ベリノ、サリム、タッソ』と、

酒肴の五番隊の名前を呼んでいた。


「あっしは、明日からセツナさんと旅するでやんすが、

 ここに座っていても、いいでやんすか?」


「気にしないで下さい。

 僕からはお礼と、今日の食事会に参加してくれた、

 お土産を渡したかっただけなので」


そう告げると、アルトが早足でこちらにきて、

「俺も、皆にお礼をいいたい」といったので、

アルトの分の椅子もだして、話をしていく。


そうして話が一段落したところで、

僕はテーブルの上に置いた、

箱の中から薬をいれるための、

革財布のような入れ物を選んでもらう。


その中には、解熱剤、化膿止め、解毒薬、

頭痛薬、腹痛薬、二日酔いの薬を、

各3包ずついれてある。


「この薬は、僕が調薬したものです。

 この入れ物に入れている限り、悪くなることはありません」


そんな高価なものはもらえないと、トッシュさん達がいうが、

僕は首を横に振った。


「僕は……。このハルに帰ってきたときに、

 今日集まってくれた人達が、健康でいてくれることを望みます。

 ようは、僕の自己満足なので貰ってやって下さい」


クッカが作って、僕が調合した薬ならば、

医療院で売られているものよりも、効果が高い。

単調な風邪でも……簡単に命を落としてしまう世界だ。


アルトが大切に想う、友人達が笑っていられるように、

僕達に心を傾けてくれる人達が、

病気で辛い思いをしないことを願って、薬を渡すことにした。


「副作用のある薬ではありませんが、

 医療院へいけるときは、

 医療院へいって、診察してもらってから、

 服用される方がいいと思います。

 僕から貰った薬があると、クオードさん達に話せば、

 診察料だけですむと思いますので」


「大丈夫なんでやんすか?」


「薬自体は、冒険者ギルドや医療院で売られているものと同じです。

 違うのは、上位精霊の契約者である僕が魔法を使い、

 調薬していることと、その薬草をクッカが育てていることです」


「……」


「なので、医療院で作られる薬よりも効果が高いので、

 なくなるまでは、こちらを飲んでもらえると早く治ります」


「今日だけで、色々貰いすぎでやんすね……」


「そう思われるかもしれませんが、実はそうでもないんですよ。

 アルグギアーレの肉は、アルトが食べたいといったから、

 狩ってきました」


アルトがそうだというように頷く。

魚だけでいいといわれたら、僕は狩りにいかなかったはずだ。


「魚は皆さんが釣ったものと、大会のときのものですし、

 賞品は……精霊様の贈り物のとして、採ってきた残りです。

 この家のものも、庭のものも、ジャックの置き土産ですしね」


労働力も……僕は釣りができるようにしたぐらいだ。

その他の準備は、黒と黒のチームで用意してくれた。


一番大変だったのは、朝から晩まで料理を作ってくれた、

酒肴だと思う。


「プリンも……手伝ってもらいましたし」


そういいながら、トッシュさんとケニスさんを見ると、

彼らは同じような表情で笑った。


「なので、今回のために、皆さんに用意した贈り物は、

 この薬入れと薬だけなんです」


そもそも、この食事会は、

アルト達とセリアさんのために計画したものだ。

その計画に、快く頷いてもらえなければ、

彼らのために集まってくれなければ、

こんなに、楽しい時間にはならなかった。


「だから、僕からの感謝の気持ちということで、

 受け取っていただけると嬉しいです」


僕の言葉に、皆が頷いて受け取ってくれる。

トッシュさん達やロガンさんが、そのあと、

アルトに二人を許してくれてありがとうと告げ。


アルトはもう全然気にしてないから、

忘れてほしいといって笑った。


話も終わり、彼らが席を立ったのだが……、

トッシュさんが、どこか切実な眼差しで僕を見た。


「セツナさん、私と握手をしてもらえないだろうか」


「はい」


右手を差し出すと、彼は両手で僕の手を握る。

そして、「どうか。どうか……、

無事にハルに戻ってきていただきたい」と告げた。


僕は内心で戸惑いながらも、「必ず戻ります」と

笑って約束する。


そして、シャンテルさん達にも同じことをいわれ、

握手を交わした。


どうしてと考え、ハルの人達がリシアの守護者を、

本当に大切に想ってくれているのだということを、

思い出す。


(かなでは……ハルに帰ってこれなかった……)


かなではハルの人達にとって、希望の星だった。

『希望の星を、失う恐怖は私にもわかるかな』といった、

風の精霊の言葉が脳裏をよぎる。

『セツナは、彼等の新しい希望ということかな』

そういわれたことも……。


まだ、花井さんやかなでのように、

この国を愛せるかはわからない。

だから、守護者としてどうしていけばいいのか模索している。

いつか、答えがみつかるかもしれないし、

ずっとみつからないかもしれない。


だけど、今、彼らに約束できることが一つある。


「大丈夫。僕はアルトと一緒にハルに戻ってきます」


「はい。守護者様のご帰還をお待ちしております」


トッシュさん達は、ほっとしたように笑ってから、

楽しそうにミッシェルの方へと戻った。



セリアさんから合図が届いたら、小箱を転送し、

僕とアルトも、お礼と贈り物を渡していく。


酒肴の五番隊は、アルトによく試作品を食べさせてくれていた。

一番僕達に料理を作ってくれていたのも、五番隊だ。


そんな彼らが、アルトに「俺達はずっとハルにいるから、

俺達の料理が食べたくなったら、すぐに帰ってこいよ」といい、

僕には「お前はもっとしっかり食え」といった。


これでも、黒達と同盟を組んでから食べる量は増えている。

正直これ以上増やすのは無理だ……。

だけど、無理だというと話が終わらなさそうだったので、

頷いておくことにした。


やはり最後は、僕とアルトと握手をして終わる。

僕達の声も向こうには聞こえていないはずなので、

トッシュさん達とのやり取りを見ていたのだろう。



次に僕達の前に座ったのは、四番隊だった。

カルロさん、ダウロさん、オルフェさん、

キャスレイさん、シュリナさんだ。


アルトに「大丈夫?」と聞かれているのは、

キャスレイさんとシュリナさんで、

目を真っ赤にして、いまだに涙が止まらないようだった。


この二人は、

よくセリアさんとおしゃれ談義をしていた。


ダウロさん達も寂しさを隠そうとはせず、

僕とアルトに「何かあったら、絶対に相談しろよ」と、

いってくれた。


カルロさんが、

トキアを北大陸に連れていってもいいかと聞いてくるが、

ダメだとはっきり断った。


オルフェさんが、鞄に入れようとしたら、

阻止するから大丈夫といっていたけど、

あまり安心できない……。

トキアには気を付けるようにいっておこうと思う。



「何度もいうが、サガーナの酒は人間には強い。

 だから、水で薄めて呑め」


僕の前に座るなりそういったのは、クローディオさんだった。

酒肴の三番隊、クローディオさん、イーザルさん、コルトさん、

メディルさん、シルキナさん、彼らの隊は獣人で構成されている。


彼らからの言葉は、僕には酒を飲み過ぎるなという忠告。

アルトには、時々、ハンクさんやロシュナさんに、

顔を見せてやってくれといった。


アルトは嫌そうに頷いていたけれど、

時間ができたら、一度サガーナにいこうと決めた。


あとは、エイクさん達の話をしてから贈り物を渡した。

彼らは、僕達と入れ違いでリシアにくることになっているようだ。

酒肴は、一番隊のブライアスさんとクレマンさんと、

五番隊以外のメンバーは、北の大陸にいくことになっている。


なので、エイクさん達のことは、ブライアスさん達と、

剣と盾にお願いしていくことになるかもしれないと話していた。

黒のチームは面倒見のいい人が多いから、大丈夫だろう。

安心して、リシアで生活してほしいと願った。


そして、握手をしたあと、彼ら全員が僕に頭を下げてくれた。

「アルトを、よろしく頼む」と、

それから「ラギさんの武術を教えてくれてありがとう」と……。


ラギさんの技術が、サガーナの獣人達に引き継がれていくのなら、

それは本当に喜ばしいことだ……。



セリアさんからの贈り物である小箱を、

大切にそうに抱えて、目の下を赤くしたルーシアさんが口を開く。


「さっきは、迷惑をかけてごめんなさい」


「迷惑と思うことは何もありませんでした。

 だから、気にしないで下さい」


「ありがとう」


まだ何か話したそうにしていたが、

時間が足りないと思ったのだろう、

彼女はそこで一旦口を閉じた。


ルーシアさんが所属しているのは、二番隊だ。

メンバーは、セルユさん、フリードさん、ルッツさん、

ルーシアさん、アニーニさんの5人だ。


彼らは僕の薬が定期的に欲しいと告げた。

特に、食べ過ぎの薬と二日酔いの薬を中心に……。


僕が食べ過ぎず、

飲み過ぎなければ薬は必要ないということを伝えると、

苦虫を噛み潰したような顔をする。


まぁ、薬については、

バルタスさんにも頼まれているから大丈夫だと伝えると、

安堵したように息をついた。


「北の大陸にも、美味しい魔物と酒があるからさ」


セルユさんの言葉に、「確かに」と僕が頷いている横で、

フリードさんとルッツさんとアニーニさんが、

アルトにリペイドのお勧めの屋台を聞いてメモしていた。


情勢を見てリペイドまで、足を伸ばすかどうかを決めるようだ。

一応サクラさんに、酒肴がリペイドにいくかもしれないということを、

伝えようと心の中にメモしておいた。


握手をしたあと、ルーシアさんとアニーニさんが、

僕とアルトを見て、「体調が悪いと思ったら、

すぐに戻ってくるのよ」と、先日と同じことをいった。


僕もアルトも「そうします」と答えたが、

それでも、不安そうにしていたのは、

セルユさんの話と関係があるのかもしれない……。



「セツナよー」


バルタスさんが苦笑しながら僕を呼ぶ。

僕とアルトの前には、歴戦の冒険者が座っていた。

酒肴の一番隊、バルタスさん、ニールさん、ブライアスさん、

クレマンさん、ラフルさんだ。


バルタスさんとニールさんとブライアスさんとは、

よく話していたけれど、クレマンさんとラフルさんは、

ここにいないことが多かった。


この二人はウィルキスの間、

ギルドから頼まれた、学院の講師の依頼を受けていた。

なので、いつも忙しそうにしていた。


途中、病気の流行があって、

薬の材料を採取しにいったり、してくれていたから、

さらに彼らの時間が圧迫されたのだと思う。


だけど、一番の理由は、授業に使う魔物を、

自分達で狩りにいっていたからというのが大きいらしい。


普通は学院で用意してくれた物を使うようだが、

こだわりが強い彼らは、それでは満足できなかったようで、

料理を教えるうえで、使用する材料を全部自分達で用意してたと、

酒の席で、ニールさんがため息をつきながら話していた。


僕は自室にいることが多かったので、

飲み会などで話をするぐらいだったのだが、

アルトは、授業で作った料理を貰っていたようで、

今も尻尾を振って、どの料理が美味しかったと話していた。


「お前さん、これから旅する費用は大丈夫なのか?」


バルタスさんが、セリアさんから受け取った小箱を一度見てから、

心配そうに僕を見る。


幽霊がお金を使うことはできないので、

彼女にとりつかれている、

僕の懐事情を心配してくれたのだろう。


「大丈夫です。

 ギルドに色々買い取ってもらいましたから」


「確かに……心配することはなさそうだがなぁ」


そういって、まだ机の上に置かれている、

フェルドワイスの結晶の方に顔を向けて苦笑した。


あとで、オウカさんにフェルドワイスの巣蜜と、

フェルドワイスの結晶も買い取ってもらう予定だ。


バルタスさんの「まぁ、なんだ……」から始まり、

そこにニールさん達が加わり話が綴られていく。

そのほとんどが、体に気を付けろということだった……。


僕とアルトもこれまでのお礼をいって、贈り物を渡す。

彼らとも握手をしたあと、ブライアスさんが、

スッと半分に折られたメモを僕に渡した。


首をかしげて中を開くと、

そこにはびっしりと魔物の名前が記されている。


「……これは、この魔物を見つけたら、

 連絡しろということですか?」


僕の問いかけに、

ブライアスさんとクレマンさんとラフルさんが、

とてもいい笑顔で、親指を立てて「そうだ」と告げた。


「お前らよ、こそこそ何を書いているかと思ったら……」


「そういうところ、全然変わりませんね……」


バルタスさんとニールさんが、呆れたように3人を見ているが、

ブライアスさん達は気にすることなく笑う。


最後の最後で、こんなお茶目な面もあったのかと知る。

どこか、ラギさんを彷彿とさせるやり取りに、

思わず笑みがこぼれたのだった……。



『刹那の風景5 68番目の元勇者と晩夏の宴』



挿絵(By みてみん)



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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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