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刹那の風景 第四章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ダイヤモンドリリー : また会う日を楽しみに 』

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『 釣り大会の結果:前編 』

いつも小説を読んでいただき、ありがとうございます。


ドラゴンノベルス様から、3月5日(火曜日)に、

『刹那の風景5 68番目の元勇者と晩夏の宴』が、

発売となります。


今回はドラゴンノベルス様5周年記念ということもあり、

初版本のみ、栞が同封されます!


詳しくは、活動報告及びX(旧Twitter)を見ていただけると嬉しいです。

どうぞ、よろしくお願いいたします。


緑青・薄浅黄


【 セツナ 】


あれが美味しい、これが美味しいと賑わう声を聞きながら、

僕もアルト達に勧められるままに料理を食べていた。

子ども達の尽きることのない話に耳を傾け、時々相槌を打つ。

テンポよく移り変わっていく話題は、とても小気味よかった。


そこそこお腹が満たされてきたところで、

釣り大会の勝者が発表されることになった。


今は席を移動して、

釣り大会のチームごとに別れて座っていた。

しかし、僕のすぐ後ろにアルト達が座っているので、

正直、さっきと変わった気がしない……。


アルトと子ども達はずっと元気一杯だ……。

本当にずっと話しているが、疲れないんだろうか……?


そんなことを考えていたのだが、

バルタスさんが話し始めたので、そちらを向く。

彼は、サーラさんから渡されたメモに目を通したあと、

「大物を釣った上位三人の名前を発表する!」と声を上げた。


「1位はもう全員が知っているとおり、クリスだ!

 美味い魚だったな!」


サーラさん命名の『一番大きな魚を釣ったで賞』は、

もう全員、結果を知っていた。

だからだろう、バルタスさんは、

サクッと1位から発表することを選んだようだ。

それだけ、クリスさんが釣った魚はとても大きかった。

正直よく釣れたなと、感心する。


クリスさんが立ち上がると、あちらこちらから声が上がる。

「美味かった、また食べたい」という声に、

彼は苦笑を返し、軽く手を振ってから座りなおした。


「次に、2位はシルキナ!

 大きさはクリスには及ばなかったが、

 美味い魔物を釣ったな!」


酒肴の三番隊のシルキナさんは、照れながら立ち上がり、

「偶然釣れたんだけど、お刺身にしたから食べてね」と、

一言いってから座った。


彼女の言葉にアルトが「俺、まだ食べてない」と呟き、

お刺身がある場所を確認している。

発表が終わったら取りにいくつもりなのだろう。


今回、魔物でも魚の形をしていたら、

魚として認めることになっていた。

しかし、イカのような魔物とか、クラゲのような魔物は、

除外されている。


魔物の扱いは、自分達で調理しないのであれば、

酒肴に売ってもいいし、

ギルドに持っていってもいいことになっている。


冒険者であれば、魔物をギルドに持っていけば、

買い取りと同時に、

ランクを上げるためのポイントも、加算されるためだ。


そのためビートやエリオさんは、酒肴には売らず、

ギルドに持っていくといって、キューブにいれていた。


酒肴の若い人達は、自分達で食べるか、

ギルドに持っていくかで悩んでいたが、

結局自分で食べることに決めていた……。


アルトに狩ったもの全部食べていたら、

ギルドのランクが上がらないといっていたが、

彼らは大丈夫なんだろうか?


まぁ、アルトと違い、しっかり依頼を受けているから、

大丈夫なんだろう……多分。


冒険者ではない、子ども達やその保護者の人達は、

魚も魔物も酒肴に売ることにしたようで、

数日分の魚を確保すると、あとは全部引き取ってもらっていた。


僕とアルトの魚は、アルトとセセラギ達と相談しながら、

売るものと売らないものを分けた……。


アルトが釣ったものは、ほぼ鞄の中にしまったが、

調理が難しそうなものは、説得して酒肴に買い取ってもらった。

この厳選が、今日一番僕の精神力を削ったと思う。


「そして、3位はナキル! 

 残念ながら食べるのに適さない魚だったが、

 カルロ、ニールを抑えての入賞だ!」


バルタスさんの声で、思考していたのをやめた。

ナキルさんは自分が呼ばれるとは思っていなかったのか、

少し目を丸くして立ち上がった。


バルタスさんに何か一言といわれ、

「食べることができなくて残念ですが、

入賞できて幸せです」と嬉しそうに笑っていった。


サーラさんが「1位と2位とは違い、3位は接戦だった」と、

話しているのが耳に届く。

それから、カルロさんが悔しがっている声も……。


ナキルさんが座るのを待って、バルタスさんが、

「勝者に拍手を!」といって手を叩き、

この場にいる全員が、3人に惜しみない拍手を贈った。

各個人の結果は後ほど、魚拓を飾ってある場所に、

張り出してくれるようだ。


落ち着きのない空気の中、続いて、個人戦と団体戦の、

『魚を沢山釣ったで賞』が発表され、

さらに盛り上がりを見せた。


個人戦の順位は、1位がロガンさん。2位がトッシュさん。

3位にアルヴァンさんが入っていた。


団体戦の順位は、1位がアルトのチーム。2位がジゲルさんのチーム。

3位が酒肴の二番隊のチームだった。


入れ食い状態だったので、個人戦も団体戦も、

誰が入賞しても不思議ではなかったが、勝敗を決めたのは、

常日頃、魚釣りをしていることが鍵だったんじゃないかと思う。


魚を釣り針から外し、餌を付けるという動作に、

慣れているかが、勝敗の分かれ目だったのではと思っている。


魚が釣り針から外れないとか、餌がすぐなくなるとか、

釣り針で指を刺したとか……そういった声が沢山聞こえていたから。


あと、今回は、クリスさんのように、

大物を狙っている人が多かったこともあげられる。


大物専用の仕掛けを用意して釣り、

魚がかかっても、釣り上げるのに時間がかかっていたので、

その差もでたのだと思う。


この点を踏まえて、入賞したチームを見てみると……。


1位のアルトのチームは、

全員がよく釣りにいっているので、釣りに慣れている。

クリスさんのような大物を釣るのには、

適さない仕掛けだったけれど、色々な種類の魚を釣り上げていた。


今は1位になれたことを喜んで、

ロイール達と一緒に、ものすごくはしゃいでいる。

皆からも「おめでとう!」と声をかけられ、

それぞれが、嬉しそうに受け答えをしていた。


3位の二番隊も全員が魚釣りの経験者だ。

まぁ、食べることに命を懸けている酒肴は、

全員釣り経験者らしい。


ただ、釣りにいくより狩りにいく方が好きなため、

あまり釣りにはいかないようだ。

釣りよりも狩りに力を入れているのは、

リシアは港町でもあるため、自分で釣らなくても、

魚を安く仕入れることができるからだろう。


そんな酒肴は、クリスさんほどではないが、

誰が一番大きな魚を釣るかで、盛り上がっていたはずだ。

確か、二番隊も大物を狙っていると思っていたのだけど……。

彼らの話を聞いてみると、どうやら違ったみたいだ……。


「セツナが賞品を用意するって話してたから、

 僕達は最初から、団体戦の入賞を目指してた。

 大物狙いで、クリスさんに勝てるとは思えなかったし」


二番隊のセルユさんの言葉に、

一番隊と三番隊のシルキナさん以外の酒肴のメンバーが、

しまったという顔をしたのが、少し面白かった。


「お前、騙したのか!?

 俺達に『正々堂々勝負だ!』とかいっていただろ!」


カルロさんの責めるような声に、セルユさんが首をかしげる。

確かに、僕もセルユさんとフリードさんが、

そんなことを話しているのを聞いている。

だから、大物を狙っていると思っていたのだ。

そして、他のメンバー達を煽りに煽っていたはずだ。


「人聞きの悪い……。僕達の作戦勝ちでしょう?」


「……」


「釣り大会なんだから、

 勝負はあの時点から始まっていたんだ」


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


「賞品のことを忘れてた!」


「くやしぃぃぃ」


三番隊から五番隊のメンバーが、

本当に悔しそうに、叫んだり、うめいたりしている。

二番隊の策略にはまったことが、心の底から悔しいと、

のたうち回っていた……。


「個人戦も狙っていたんだけど、

 釣りを趣味にしている人達には、さすがに勝てなかったな」


「確かに」


「トッシュさん、

 釣り針から魚を外すのすごく早かったし……」


「ロガンさんの手際もすごかったよ」


そんな彼らを見て二番隊の人達は、

自分達の作戦が成功したことを喜びながら、

個人戦で入賞できなかったことを、少し悔しそうに話していた。


酒肴の人達の話を聞いて、周りの人達が苦笑している。

喚くのをやめないカルロさんは、ニールさんに蹴飛ばされていた。


そして、僕達のチームは団体戦2位という輝かしい結果だった。

アルト達やセルユさん達のチームと同様に、

ジゲルさんチームも魚釣りの経験がある人ばかりだった。


ロイールの兄であるロガンさんは、

リシアにきてできた友人に、釣りを教えてもらったそうだ。

時間が合えば、その友人と釣りにいくと話していた。


ミッシェルの両親であるトッシュさんとシャンテルさんは、

釣り好きの両親から釣りを教えられ、

自分達も子ども達に釣りを教えたと笑っていた。

どうやら、お二人は幼馴染みという関係だったらしく、

今でも、お互いの両親と一緒に魚釣りにいっているらしい。


チームのリーダーを務めたジゲルさんは、

海釣りは初めてだといっていたが、

バートル湖での釣りの経験と、

娘さんと釣りにいっていた経験から、戸惑うことはなかったようだ。

娘さんと釣った魚を一緒に食べるのが、

幸せだったと少し寂しそうに語ってくれた。


そして僕はといえば、カイルの経験から海釣りも慣れてはいたが、

途中手を止めて、色々としていたので足を引っ張っていたと思う。

それがなければ、もしかすると1位になれたかもしれない。


そのことを、ジゲルさん達に謝ると、

トッシュさんが「その分、私達が頑張りました」といい、

彼の言葉に、シャンテルさんも、ロガンさんも、ジゲルさんも頷いた。


「セツナさんが、主催者側だということは、

 最初からわかっていたことでやんすよ」


「……」


「だから、あっし達でセツナさんの分も、

 沢山釣り上げようと、話していたでやんす。

 そのために、トッシュさんとロガンさんが、

 あっしの仕掛けをつくりなおしてくれたでやんすよ」


「ミッシェルから釣り大会があるときいて、

 最初は個人戦の入賞を狙っていましたが、

 セツナさんと同じチームになったので、

 団体戦も狙っていきました。

 セツナさんに、私達から贈り物ができてよかった」


ジゲルさんとトッシュさんが、真面目な顔でそう告げる。


「ロイールも釣りが得意なので、

 負けないように頑張りました」


「アルト君達には、負けてしまいましたけどね」


ロガンさんは、弟とも勝負していたのだと笑い、

シャンテルさんは残念そうに笑った。


「魔物の処理をセツナさんや黒の方々が、

 受け持ってくださったから、あっし達は、

 のんきに釣りだけを楽しめたでやんす」


「魔物が釣れなければ、結果はまた違ったものに

 なったかもしれませんわね」


僕達の会話を、ジゲルさん達だけではなく、

周りの人も聞いていたのだろう。

大会に参加していた皆が頷き、

黒達に感謝の気持ちを伝えていた。


そして僕も、団体戦2位という栄誉を贈ってもらえたことを、

ジゲルさん達に、心から感謝したのだった。



ちなみに、釣れた魔物の処理を請け負っていた、

黒達は黒達で、こっそり競い合っていた。

黒達とアラディスさんとで、

重量勝負をしていたことを、知っていた。


なぜ僕が知っているかというと、

僕も誘ってもらえたからだ。

しかし、使い魔達が張り切ってうろうろしていたので、

不測の事態に備えて、参加するのはやめておいた。


彼らの勝負は、普通に釣り上げた魚だけではなく、

自らが釣り上げた魚と魔物。

そして、倒した魔物の重量も計上できるようにしていた。


大雑把に自分達が受け持つ範囲を決めていたことから、

自分の周りが魔物を釣り上げるかどうかという、

運要素もあったと思う。


釣り上げられた魔物を倒し、

持ち上げるだけで重さがわかる魔導具を使い確認する。

そして、その数字を箱の側面に刻む。


なので、黒達とアラディスさんの入れ物には、

沢山の戦果が刻まれていた。


黒とアラディスさんの勝負の結果は、

今はまだわからないけど……。

僕はサフィールさんが、勝利するだろうと思っている。

多分、黒達もそう思っていると思う。


その理由は、珍しくフィーが参戦していたからだ。

黒達が手を離せないときに倒した魔物の重さを、

サフィールさんの入れ物に付け足していたから。


きっと、勝者になる予定のサフィールさんは、

全員から、お酒をおごってもらえるに違いない。

そしてその横には、楽しそうに笑うフィーがいるのだろう……。



ゲーマーズ様の限定版で、短編を書かせていただきました。

有償特典となりますので、

ご予算に余裕があれば手に取っていただければ幸いです。

詳しくは、活動報告及びX(旧Twitter)にて!


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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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