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刹那の風景 第四章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ダイヤモンドリリー : また会う日を楽しみに 』

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『 追いかけっこ? 』

Twitter始めました。

https://twitter.com/usuasaand6



【 セツナ 】


軽いお昼寝から目覚めた子供達と使い魔達と一緒に、

カルロさん達がタルマ(・・・)さんが転んだをやろうと話している。

かなりの人数が集まり、酒肴の三番隊のメディルさんが鬼に決まった。


達磨さんが転んだではなく、タルマさんが転んだ。

達磨ではなくタルマ……。

アルトが結婚祝いにジョルジュさん達に贈った、

目つきの悪いピンクのタルマが、一瞬脳裏に浮かんだが、

「ひぃぃぃ」という声が耳に届いたことで、霧散した。


「ど、ど、どうしてもう、真後ろにいるの!?」


彼女のその言葉に、

現在静止している人達が、必死に笑いをこらえて、

体が動かないようにたえていた。


しかし、メディルさんが驚くのも無理はないと思うんだ。

彼女の「はじめの一歩」から始まり、

そして「タ~ルマさん~が、こ~ろんだ!」と振り返った瞬間、

メディルさんの眼前に、ヴァーシィルの顔があるのだから。

がっつり目があっていたし……。


ちなみに、ヴァーシィルは一切の音を立てずに、

近づくのを得意としているが、今回はその場から動かず、

ただ体を伸ばしただけだった……。


「え? え? え? これ、どうしたらいいの?

 どうしたらいいの? 次で終わらない? 終わらない?」


混乱している彼女の様子に、

静止している人達の体がぷるぷるしている。

結構動いている人もいるのだが、

ヴァーシィルがメディルさんの視界を遮っているので、

彼らが動いていることに彼女は気がついていない。


「ね、ね、これ、ずっと私が鬼にならない!?」


あちらこちらで、たえきれず噴き出して、

うずくまっている人がいるのだが、

やはり、メディルさんは見えていない。


開始早々、混沌としている様子に、

黒達がお酒を飲みながら笑っている。

僕の隣に座っているセリアさんが「面白そうネ」といって、

ニヤリと笑ったが、見なかったことにした。


結局、アルトがヴァーシィルの体を叩いて、

「体を伸ばすの禁止!」と告げたことで、

ヴァーシィルは最初の位置に頭を戻していた。


メディルさんは、ほっと息をついてから、

気を取り直して、アルト達に背を向けたのだが、

彼女の次の「タルマさんが転んだ」のかけ声は、

ものすごく早口になっていた……。


ヴァーシィルの動きに怯えながら、

遊んでいるメディルさんに心の中で謝っていると、

近くに座っているエレノアさんが僕を見た。


「……セツナは遊んでこないのか?

 誘われていただろう?」


アルト達に一緒に遊ぼうといわれたのだが、

時計を見ると、そろそろプリンが出来上がる頃だったので断った。


「僕はこれからお菓子作りの仕上げをする予定なので」


エレノアさんにそう答えると、

サーラさんが目を輝かせて会話に混ざる。


「セツナ君がお菓子を作ったの?」


「はい。ジャックのレシピを参考にして作ってみました。

 僕も初めて作ったので、

 上手くできているといいのですが」


「……ああ、セツナしか知らないものなら、

 バルタス達が手をだすわけにはいかないな」


エレノアさんの言葉に、バルタスさんが頷き、

「どういった食べ物か想像がつかん」と楽しそうに話すと、

エレノアさんとサーラさんが驚いたように、数度瞬き、

そしてにっこりと笑った。


「……未知の菓子か。それは楽しみだ」


「すごく楽しみね」


それからしばらく、エレノアさん達と話していたが、

僕は厨房にいくために席を立つ。

僕と同時ぐらいに、

バルタスさんとニールさんが、待ってましたとばかりに、

とてもよい笑みを僕に向けてくれたのだった……。



氷の入った保存庫からプリンを取り出し、

そのうえに生クリームと果物を数個盛りつけていく。

僕の手元をじっと見ていたバルタスさんとニールさんが、

完成品を見て目を細めた。


「美味そうだな……」


「生クリームと果物をのせると

 華やかになりましたね」


二人がそんなことをいいながら、

僕の手順をなぞるように、

保存庫からだしたプリンに、

手際よく、生クリームと果物を盛りつけていく。


僕もそれなりに早く手を動かしているのだが、

二人が盛りつけをする速度に追いつくことができなかった。


そう、時間がかかることなく盛りつけが終わる。

ニールさんが、お盆にのせたプリンを一度保存庫へと戻した。

どうして戻すのだろうと疑問に思っていると、

バルタスさんから声がかかった。


「セツナ、これは冷菓だろう?」


「はい」


「わしとニールで飲み物を入れてから、

 一緒に持っていくから、お前さんは先に戻っとけ」


そうか、飲み物を入れている間に、

プリンが常温にならないように、

保存庫に戻してくれたんだ。


「では、お願いしてもいいですか?」


「任せとけ」


「よろしくお願いします」


バルタスさんとニールさんが、

頷いてくれたのを見てから厨房をあとにした。



庭から聞こえる賑やかな声に、

まだ、皆で遊んでいるんだなと思っていたのだが、

庭にでた僕の目に映った光景は、

必死な顔で走り回っている人達の姿だった……。


「どうして、皆、走っているんだろう……」


「遊びが変わったのヨ」


そんな、僕の疑問に答えてくれたのは、

楽しそうに笑っているセリアさんだった。


「……遊んでいるんですか?

 それにしては、皆……余裕がないように見えますが」


「『猟犬』という追いかけごっこをしているのヨ」


『猟犬』というのは、

追いかけっこみたいなものだが、

終始鬼が変わることはなく、始めに時間を決めて、

その時間内に何人捕まえることができるかという、

遊びだったはずだ。多分。


「追いかけっこ……?」


「追いかけっこヨ、

 子供達が脱落するまでは、平和だったノヨ」


セリアさんの言葉に、アルト達を探すと、

アルト達は早々に捕まったようで、

息を切らせて、地面に寝そべっていた。


最初は、子供達と

サーラさん以外の月光のメンバー、

レイファさん以外の剣と盾のメンバー、

サフィールさんと酒肴の二番隊から四番隊が参加して、

ほのぼのとした追いかけっこだったらしいのだが、

子供達がいなくなった時点で、

ルールを変更したようで、

倒れたら脱落ということになったらしい……。


楽しそうで何よりだと思うが、

魔法が飛び交い、剣で迎撃し、

能力を使っての追いかけっこは、

やりすぎではないだろうか……。

いや、もう彼らがやっているのは、

追いかけっこではない。


ダウロさん達もかなり本気で戦っている。

戦っている……。


鬼はどうやら、

エレノアさんとアラディスさんのようで、

三番隊のクローディオさんが、

姿を消していたアラディスさんに、

蹴飛ばされて、吹っ飛び、

少し離れたところでは、

エリオさんが、エレノアさんに投げ飛ばされていた。


エレノアさんとアラディスさんが、

すごく楽しそうだ……。


「……」


剣と盾が参加するのは、

珍しいなと思いながら眺めていると、

クスクスと笑いながら、

サーラさんが僕の隣にきた。


「エレノアちゃんが、すごく楽しそう」


「どうして、こんなことになっているんですか?」


「夕食に向けて、お腹を減らすと話していたけど、

 きっと、アルトと遊びたかったのね」


「アルトは、もう脱落しているようですが……」


「そういうこともあるわよ……多分」


こうして話している間にも、酒肴の人達やビートが、

蹴飛ばされたり、投げ飛ばされたりして、

次々と倒されて脱落していっている。


子供達は、体力が回復したのか拳を握って、

「エレノアさんに捕まるな!」と、

一所懸命に応援し始めていた。


しばらく、エレノアさん達による、

酒肴狩りが続いていたのだが、

とうとう、残っているのは黒と白だけになった。


クリスさんもアルヴァンさんも、

二人に捕まらないように、

逃げたり、戦ったりしながら生き延びていたのだが、


最初に、アルヴァンさんがエレノアさんに投げ飛ばされ、

続いて、クリスさんがアラディスさんに蹴飛ばされて脱落した。

二人とも全力で応戦していたようで、

力尽きたのか全く動いていない……。

大丈夫だろうか?


そして、残るのはアギトさんとサフィールさんだけになった。

クリスさん達を追いながら、エレノアさん達は、

アギトさん達にも手を伸ばしていたのだが、

アギトさんとサフィールさんは、危なげなく躱していた。


「絶対、捕まってやらないわけ!」


「反対に、私が土をつけてやろう」


サフィールさんとアギトさんが、そう宣言すると、

アラディスさんが、二人の顔を交互に見てから、

鼻で嗤った……。


どう考えても、二人を煽っているとしか思えない。


予想通り、アラディスさんのその態度に、

アギトさんとサフィールさんが殺気立っている……。


アラディスさんは、エレノアさんの呪いが解けてから、

少し雰囲気が変わったように思う。

以前は、アギトさん達に対して無難に接していたのが、

最近はこうして感情を見せることが多くなっていた。


「嫌な予感がする……」


アルト達を巻き込むことはないだろうが、

アギトさんやサフィールさんは、

エリオさん達が倒れていても、

気にすることなく、

アラディスさんと戦いそうで怖い。


僕は、アルト達や地面に座っている人達が、

巻き込まれないように、

転移魔法でこちらへと移動させた。


「あー、すまん、動けなかった」


「悪い」


「巻き込まれるのを覚悟していたっしょ……」


酒肴の人達やエリオさん達は、

まだ息が整わないのか呼吸が荒いまま、

僕にお礼をいってくれた。


ぜぇぜぇと辛そうにしているのに、

それでも、周りに仲間が集まったことで、

黙っていることができなくなったのか、

彼らは口々に話しだした。


「やばい。まじ、死ぬかと、思った」


カルロさんの呟きに、皆が一斉に頷く。


「エレノアさん達の動きを、目視するのも難しいのに、

 能力を使われたら、もう、何がなんだが……わからん」


「背後に立たれたときは、

 鳥肌と冷や汗がすごかった……」


ため息をついて感想を述べたフリードさんに、

ダウロさんが腕の辺りをさすって答える。


「私達は、手加減されていたけど、

 カルロ達には、容赦なかったわね……」


「アラディスさんに、

 蹴飛ばされなかったし」


ルーシアさんとキャスレイさんが、

そういって苦笑している。


「それでも、楽しかった……。

 こんな経験は初めてだ。

 また……機会があれば参加したいな」


最後にセルユさんがそう締めくくると、

座り込んでいる人達が皆「楽しかった!」と笑いあった。


楽しそうに語っている酒肴の人達を横目に、

クリスさんとアルヴァンさんは、

体をゆっくりと起こし、

深くため息をついてから口を開いた。


「エレノアさんの能力の対処の方法が思いつかない」


「同感だ……。エレノアさんとアラディスさんに組まれると、

 崩せる気がしない……」


「ここまで、エレノアさん達に能力を使われたのは、

 初めてだったから、戦いにくかったな。

 だが、次はもう少し保つことができるはずだ」


「そうだな。次こそは……」


二人はそういって苦笑してから、

アギトさん達の方へと視線を向け、

色々と考察を始めたのだった。


僕は彼らの話を黙って聞いていたのだが、

クリスさんが少し顔色を悪くして、

「そこまでするのか?」と呟いたのを耳に入れて、

こちらに被害がでないように、魔法を詠唱し、

この場に結界を張った……。


理由は、アギトさんの剣が蒼色に輝いたからだ。

かなりの魔力が籠められているに違いない。


子供達は、アギトさんの剣が蒼色に輝いたことに、

歓声を上げている……。

まぁ……めったに見ることができないだろうし、

子供達にとっては楽しい経験かもしれない……。


それに、エレノアさんとアラディスさんなら、

大きな怪我をすることもないだろう。


そんなことを考えていると、

エレノアさんが、結界を張ったことに気付いたのか、

チラリと僕を見て楽しそうに笑った。


「あ……。エレノアちゃんが本気でいきそう」


彼女のその表情にサーラさんが苦笑する。


「結界を張らなくても、大丈夫かもしれませんけどね」


「アギトちゃん達の目の色が変わっているから、

 結界を張って正解だと思う」


「……」


そこからは、手に汗握る攻防が目の前で繰り広げられ、

皆が息を飲んで見つめていた。

アギトさん達は逃げるのではなく、

向かっていっているので、

もう完全に追いかけっこではないが、

黒対黒の戦いは見応えがあった。


アギトさんとサフィールさんは、

いつも言い合ってばかりいるのに、

不思議なほどに息がピッタリと合っている……。


以前、ビートが『親父達の連携は本当に洗練されていて、

綺麗なんだ。その間に誰も入る事が出来ないほど……な』と、

話していたことを思い出し、確かに綺麗だと思った。


お互いがお互いのことを理解しているから、

できる動きとでもいうのだろうか、

自由奔放に動いているように見えるのに、

お互い邪魔しあうことがない……。


エレノアさんとアラディスさんも、

息が合っているが、この二人の場合は、

エレノアさんが動きやすいように、

アラディスさんが立ち回っているように思えた。


決められた時間まであと少し……。

あと数十秒たえれば、アギトさん達の勝ちだというところで、

エレノアさんが、アギトさんを蹴飛ばし土をつけ、

アラディスさんも、サフィールさんを蹴飛ばして土をつけた。


エレノアさん達なら、

投げ飛ばすという選択肢もあっただろうに、

一切、躊躇することも、

手加減することなく蹴飛ばしていた……。


やはり、二人はとても強かった……。


「うわぁぁ、すごく悔しいわけ!」


むくりと起き上がって、サフィールさんが、

不機嫌という感情を隠すことなく叫んでいる。

アギトさんも苦々しい表情で立ち上がり、

膝の土を払って、大きくため息をついた。


「はっ、私達に勝とうなんて100年早い」


アラディスさんがそういって、

とてもいい笑顔を二人に向けたのだが、

それが気に入らなかったのか、

アギトさんとサフィールさんは、

射殺せそうな視線を、アラディスさんに向けたのだった。


そんな彼らを、一歩引いたところで、

エレノアさんがどこか懐かしむような瞳で見つめ、

そして静かに言葉を紡いだ。


「……貴殿達、三人とも本当に強くなった」


彼女のこの言葉に、それぞれが目を見開いて、

エレノアさんを凝視した。


「どうしたわけ?」


サフィールさんが何かを探るように、

エレノアさんを見ている。


「……いや、ふと、そう思っただけだ。

 なにせ、アラディスは騎士見習いの頃から、

 アギトとサフィールは学院に通う頃から見ているからな」


「……」


「……三人ともよくここまで研鑽を積んだ」


そういって、エレノアさんが柔らかい笑みを彼らに向けた。

彼女のその言葉と笑みに、アラディスさん達は呼吸も忘れて、

エレノアさんを見つめていたけれど、

三人ともすぐに我に返って、悪態をつき始めた。


「エレノア!

 こんな悪ガキどもと同じにしないでくれ!」


「僕は、こいつらと一緒にされたくないわけ!」


「私が強くなったのは確かだが、

 この二人と同じにして欲しくはない!」


同時に同じようなことを口にして口論し始めた彼らに、

エレノアさんは、呆れたようにため息をつき、

言い合っている三人を放置して、

こちらに歩いてきたのだが、

彼らに背を向けたエレノアさんは、

とても幸せそうな笑みを浮かべていたのだった……。



子供達も酒肴の人達も、

興奮冷めやらぬという感じで、

色々話していたのだが、

段々と落ち着きを取り戻し、

今は少しぐったりとしていた……。

暴れすぎたのだと思う……。


そんな、状態だったのだが、

バルタスさんとニールさんの登場で、

彼らの視線が一斉に二人の手元に集まった。


「セツナが作った菓子だ、

 わしも食ったことがないから、説明はできん!」


バルタスさんの説明ではない説明に、

ほとんどの人が僕を見た。


「師匠、新しいお菓子を作ったの?」


アルトも尻尾を振りながら僕を見る。


「うん。酒肴の人に手伝ってもらいながらね。

 僕も作ったのは初めてだから、

 上手くできているといいんだけど……」


「すごく美味しそうだから、

 大丈夫だと思う!」


自信満々に答えてくれるが、

これで美味しくなかったら、

どういった感想がでるんだろうと、

少し気になった。


バルタスさんとニールさんが、

プリンと飲み物を配っていってくれる。

カルロさん達も動こうとしたのだが、

まだ体力が戻っていないのか動けないようだ。


バルタスさんから「座っていろ」といわれて、

大人しく座っていた。


「セツナに感謝して食ってくれ!

 それから、おかわりはないからな!」


バルタスさんの合図で、皆が食べ始める。

あちらこちらから「美味しい」や、

「こんな食べ物初めて!」や

「柔らかい、甘い」などの声が聞こえてきた。


僕も一口食べてみるけれど、

どこか懐かしい味がした……。


口々にお礼をいわれるなか、

場違いなというか、どこか真剣味を帯びた声が届く。


「瓶に入っている……初めて見る……」


その声はミッシェルで、

彼女はまだプリンに手をつけておらず、

真剣な目をしてお菓子を見つめていた。

ふと、彼女の近くにいるナキルさん達を見ると、

彼らもミッシェルと同じように、お菓子と向き合っている……。

その眼差しは、酒肴の人達と同じものだ……。


観察を終えたのかミッシェルは、

そっとプリンをスプーンで掬って「柔らかい」と感想を呟き、

パクリと食べて、その目を大きく見開いた。


「……」


「ミッシェル? どうしたの?」


一口食べて動かなくなったミッシェルに、

エミリアとジャネットが心配そうに声をかけた。


「すごく、すごく、美味しいから驚いたの……」


「食べるのがもったいないぐらい美味しいよね!」


「不思議なお菓子だよね」


ミッシェルは二人に頷くと、

真剣な顔でもう一口、プリンを食べてから、

彼女はトッシュさんを見た。


「お父さん……」


「どうした?」


「卵と、お砂糖と、ミルクはわかったんだけど、

 この甘い香りの正体がわからない……。

 知っているような気がするんだけど」


トッシュさんはミッシェルの問いに、

苦笑を浮かべて首を横に振った。


「ミッシェル。探究心が旺盛なのはいいことだが、

 その質問はここですべきではない」


「あ……ごめんなさい」


「セツナさん、申し訳ない」


ミッシェルが眉根を下げながら僕を見て謝り、

トッシュさん達も僕に頭を下げてくれた。


「気にしなくていいですよと、

 いいたいところだけれど、

 トッシュさんの仰るとおり、

 他の場所では気を付けた方がいいね。

 でも、ここでは、

 色々と思ったことを、いってくれて大丈夫だよ」


「ありがとうございます!」


「ありがとうございます」


僕が許可をだしたからか、

ミッシェルが同じ質問をトッシュさんにしていた。


「多分これは、ラニユの葉の香りではないだろうか」


トッシュさんが、少し考えてから、

ミッシェルに答えていた。


「ラニユ?」


「甘い香りのする葉だが……。

 葉自体に、甘みはなく、

 香り煙草などに使われることが多い。

 私も香りがいいだけの葉だと思っていたのだが、

 こんな使い方があるとは思ってもみなかった」


「そうなんだ……。

 色々使えそうだよね」


「確かに。クッキーとも相性がよさそうだ」


「バターの香りも好きだけど、

 ラニユの香りのクッキーも美味しそう……」


ミッシェルは楽しそうにそういって、

プリンをパクリと美味しそうに食べる。


そんな二人の会話を、ナキルさんとシャンテルさんは、

微笑んで聞いていたが、ケニスさんだけは思案するように、

食べ終わったプリンの容器をじっと見つめていたのだった。



ふと、アルトの感想が聞こえてこないことに気が付いた。

もしかして口に合わなかったのだろうかと思い、

アルトを見ると、アルトは耳を寝かせて空の瓶を見つめていた。


「アルト? 美味しくなかった?」


「……もうないの?」


アルトに声をかけると、プリンの感想ではなく、

耳を寝かせ、悲しそうな目でそういわれた……。


アルトの反応から、かなり気に入ったことがわかる。

バルタスさんが、最初におかわりはないと話していたから、

しょんぼりしていたのだろうか……。


「そんなに気に入った?」


「うん。もっと食べたいって思った」


「そう。プリンが固まるまで時間がかかるから、

 今から作ると、夕食後になるけどいい?」


ハルを離れたら、プリンを作るのは難しくなる。

それほど気に入ったのなら、食べさせてあげたい。


「作ってくれるの?」


「うん。夕食後でもいい?」


「大丈夫!」


「それじゃあ、さっそく作ってこようかな」


僕の言葉に酒肴の何人かが立ち上がり、

厨房へと向かっている。どうやら、手伝ってくれるようだ。


僕も、アルトのささやかな願いを叶えるために、

席を立とうとしたのだが、「あの、セツナさん!」と、

呼び止める声が聞こえ、僕はそちらへと視線を向けたのだった。




書籍関連に『 星の空に 』という、掌編をUpしました。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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