『 食事会での朝食 』
【アルト】
家に戻ると、すでにいろんな種類の料理が並んでいた!
家の中を見学したそうな、セイル達に、
「あとで案内するから、先にご飯を食べよう」と声をかける。
珍しいものも多いから、見てまわりたい気持ちはわかるけど、
俺は、お腹がすいて死にそうだから先にご飯を食べたい!
料理が用意されている場所へいくと、
その場にいた人達が「おかえり」とか、「よくきたな」とか、
「しっかり食えよ」とか、みんなに声をかけてくれた。
そうやって、黒のチームの人達が声をかけてくれたからだろう。
みんなの緊張が解けて、肩から力が抜けたようだ。
まぁ、この間の大会でずっと一緒に過ごしていたようなものだから、
黒のチームのメンバーに少し慣れていたのもあると思うけど。
ただ、黒から声がかかったときは、
ちょっと緊張していたみたいだった。
しっかり返事できていたし、多分、そのうち慣れるかな?
挨拶が終わったのを見計らって、
3番隊のクローディオさんが、俺達に大きめのお皿を渡してくれた。
やっとご飯が食べられる!
「今日は、ずっと料理がおいてあるから、
好きなときに好きなものを自分でとって、食ってくれ。
食事会が始まったら、料理は外に並ぶからな
使い終わった皿は、この形の机に置いてくれ」
そういって、みんなの背丈くらいの丸い机を指さした。
「それから、新しい料理を食べるときや、
おかわりをするときは、遠慮なく新しい皿を使え」
クローディオさんにそういわれて、
それぞれが嬉しそうに頷き、
お皿に好きなものを、好きなように盛り付けていく。
「朝からすげぇ豪華だな!」
セイルの言葉に、クロージャが頷く。
セイルは目についたものを、お皿にのせていっているけど、
クロージャは、全部の料理を見てから選ぶようだ。
「全種類食べるのは無理そうだよな」
「夜までには、全部食えるんじゃないか?」
「あー、それならいけそうか?」
ワイアットの残念そうな呟きに、
ロイールが真面目な顔で、その呟きに答えている。
1日かけて、ここにあるものを全部食べようと、
計画している二人を見て、このままだと、
他の料理が食べれなくなりそうだと思い、
口を挟むことにした。
「ワイアット、ロイール」
「なんだ?」
「どうした?」
「今日は酒肴の人達が交代しながら、
ずっと料理を作るって、話していたよ」
「まじか?」
「ここにあるものを、
外に並べるんじゃないのか?」
俺の言葉に、二人だけではなく、
全員の手が止まる。
「余ったら並べると思うけど、
今日はみんないつもより動いて、
お腹がすいているはずだから、
朝ご飯でなくなるんじゃないかな?」
さっき、エリオさんが「腹減った、腹減った」と、
フリードさんにいっていたのを見ている。
「……」
「昼からは、マグロとダルクテウス、
それから、師匠が狩ってきた大型の魔物の肉と、
大会で食べたスクリアロークスも調理されるから、
今の調子で盛り付けていくと、
きっと、すぐにお腹いっぱいになると思う」
俺の忠告に、それぞれが自分のお皿に視線を落とした。
「あと、釣り大会で自分で釣った魚も焼いてもらえるから、
それも食べないといけないし」
「……」
「みんなは俺より食べる量が少ないから、
最初は一口ずつ取って食べて、好きな味だと思ったら、
もう一回、取って食べたらいいんじゃないかな」
「もう、遅いかもしれないわ……」
ミッシェルが自分のお皿を眺めて、
困ったようにため息をついた。
「俺は、まだ何も取ってないから、
よかったら俺がもらうけど、どうする?」
彼女の頭の上で、デスが自分が食べると、
いっているようにみえるけど、
ミッシェルは気が付いていない。
ちなみにデスの分は、
別のお皿に取り分けられている。
「お願いしてもいい?」
「アルト、私も……」
「私もお願い!」
ミッシェルに続いて、エミリアとジャネットも、
自分のお皿を見て、そういった。
「俺も」
「じゃあ、俺の皿にも入れてくれ」
エミリア達だけではなく、ロイール達も、
量を減らして欲しいといったところで、
クロージャが苦笑しながら、まだ何も盛り付けられていないお皿を、
みんなの前に差し出した。
クロージャは、俺と一緒でどれを取るか悩んでいたので、
まだ何も取っていなかった。
俺とクロージャで、ミッシェルのお皿から一口分を残して、
料理を自分の皿に移していく。ミッシェルが終わったら、
エミリアとジャネット、セイル、ロイール、ワイアットと続いた。
俺にしてみれば、全然足りないけれど、
みんなにとっては、少し少ないぐらいの量に、
なったんじゃないだろうか。
俺はそこから、自分の好きなものを盛り付けていった。
料理を盛り付けて満足したところで、
よく知っている足音が聞こえて、顔を上げると、
師匠が部屋に入ってくるところだった。
ご飯を食べるためにきた師匠に、
ダウロさんが近づき「お前も早く食べろ」といって、
お皿を渡していた。師匠は、お皿を受け取って、
ダウロさんと、二言三言話してから俺達の方にきてくれた。
師匠は優しく笑っているんだけど、
どこか、ちょっと疲れているように見えた。
どうしたんだろう? 何かあったのかな?
気になったけど俺が聞く前に、
師匠が話しかけてくれたから、あとで聞くことにした。
「アルト、お帰り」
「ただいま、師匠」
「みんなもよくきたね。
今日は、沢山食べて、沢山遊んでいくといいよ」
「はい! 招待してくれて、ありがとうございます!」
師匠の言葉に、みんなが一斉に口を揃えて、
お礼をいっていた。ピタリと揃っているのは、
酒肴のお店で、何回か練習していたからだ。
「うん。皆にとってよい一日なりますように」
師匠にそう返されて、照れたように笑う、
女の子達が可愛かった。
みんなとの挨拶も終わったところで、
「僕のことは気にせず、先に食べてね」といってから、
師匠は俺達から離れようとした。
それを、クロージャが師匠を呼んで止める。
「あの、セツナさん」
「うん?」
クロージャの呼びかけに、
師匠は動きを止めて、
体ごとクロージャの方へと向き、
優しく笑って返事する。
「なにかな?」
「あの、弟妹達に、
貴重な肉と魚をありがとうございました」
そういって、クロージャが頭を下げると、
セイル達も慌てて頭を下げた。
貴重な肉というのは、
師匠が狩ってきた、大型の魔物のことだ……。
豚に牙をはやして、巨大化したような魔物だ。
凶暴で、力も強いらしく、
周りの木をなぎ倒しながら向かってくると、
図鑑には書かれてあった。
あと美味しいとも書かれていたので、
俺が食べたいと思っていた魔物でもある。
だから、食べることができるのはすごく楽しみだ。
だけど、師匠はその魔物を誰にもいわずに、
こっそり狩りにいったのは、ちょっと許せなかった。
大型の魔物を狩るなら、俺も連れていって欲しかった!
そう思ったのは、もちろん俺だけではなく、
エリオさん達や酒肴の人達も同じだったみたいで、
師匠に文句をいっていたのを覚えている。
そのときの師匠は、困ったように笑っていたけど、
多分、本心では困っていなかったと俺は思う!
クロージャ達が一生懸命話すのを聞きながら、
俺は、ふと、師匠と二人で帰ったときのことを思い出した。
あのとき、師匠はフィガニウスとは違う肉も食べたいかと、
俺に聞いていた。
そうか、師匠はあのときから、
魔物を狩りにいく計画をしていたんだ。
俺のために、そして多分……クロージャ達のために。
クロージャ達が、師匠に頭を下げているのを見て、
そう思った。
クロージャ達は自分達だけが、
美味しいものを食べることに、
罪悪感を抱いているのだと俺は気が付いていた。
多分、師匠も気が付いたのだと思う。
だから、師匠は大型の魔物を狩ってきて、
孤児院でも食べることができるように、
配慮したのかもしれないと思った。
「兄姉達も、弟妹達も喜んでいました」
「どういたしまして。喜んでもらえたのならよかった。
肉も魚も……どう考えても、食べきれないからね。
知り合いにも配っているから、気にしないでね」
「ありがとうございます」
「うん。多分、それでも、まだ余ると思うから、
気に入ったら持って帰ってくれる?
肉は、ハルの住人には格安で売りにだされているし、
遠慮しなくていいから。ロイールもミッシェルもね」
「はい!」
笑顔で返事をするクロージャ達を見て、
俺もいつか、師匠のように大切な人の大切な人も、
笑顔にできるになりたいと思った。
「ほら、料理が冷めないうちに食べておいで」
師匠に早く食べるように促される。
頷きながら「師匠も一緒に食べよう」と誘うと、
師匠は、小さく笑ってから、
「料理を取ったら、いくよ」といってくれた。
誘わなかったら、
師匠はきっと、俺達とは違う場所で食べていたと思う。
それでもよかったのかもしれないけど、
なぜか、俺は師匠とみんなと一緒に食べたいって思った。
空いている席に座って、みんなで食べ始める。
師匠は、お皿にサラダとパンをのせてこっちにこようとしたのを、
ルーシアさんとセルユさんにつかまっていた。
「どうして、サラダとパンしか食べないの!
普段も少ないのに、今日はもっと少ないじゃない!」
「セツナ、僕ももっと食べるべきだと思うよ。
ほら、肉も食べないと」
セルユさん達の、
あれも食え、これも食えという声がここまで届いている。
「セツナさんは、あまり食べないんだな」
そのやり取りを見て、ワイアットがそう口にする。
「うん。朝はとくに食欲がないみたい」
「そうなんだ」
俺達が話している間も、
師匠とルーシアさん達との攻防は続いていたが、
師匠の言葉で終わりを告げた。
「僕は、サガーナから送られてきた新酒と、
マグロの刺身を楽しみにしているので、
朝は少なくしているんです」
「マグロの刺身……」
「サガーナの新酒」
「僕は今日一日、料理を食べながら、
のんびりお酒を飲む予定なので、
朝はこれで十分です」
「それなら仕方ないのかしら?」
「お腹いっぱいじゃ、楽しめないしね」
セルユさん達がそう結論づけて、
やっと、師匠を解放した。
それでも、ルーシアさんにソーセージを、
セルユさんに目玉焼きをお皿にのせられていたけれど。
師匠が、おかずが増えたお皿を見て、
ため息をつきながら、俺の隣に座った。
「師匠、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「なんか疲れてる?」
ずっと気になっていた、
師匠が疲れている理由を聞いてみる。
師匠が疲れているのは、ソーセージと目玉焼きを、
お皿にのせられたからじゃないと思うし。
俺の言葉に師匠が苦笑する。
「ああ……。セセラギが……」
師匠が疲れている理由を、話しかけたところで、
ミッシェルの隣で大人しく、ご飯を食べていたデスが、
忌々しそうに、歯をカチカチとならす。
「……」
いきなり、威嚇し始めたデスに、
師匠が話すのをやめて、デスを見る。
どう見ても威嚇しているだろう姿を見て、
全員が食べる手を止めているのに、
ミッシェルだけが、よくわからないことをいった。
「デス? 歯に何か詰まったの?」
そうじゃない。そう思ったのは俺だけじゃないはずだ。
デスは、ミッシェルに話しかけられて嬉しかったのか、
葉っぱの手を振って、「大丈夫」と伝えている。
「歯になにもはさまってない?」
そう聞くミッシェルに、
デスは、歯を見せていた。
ミッシェルが気にかけてくれたからか、
デスの機嫌はなおったようだ……。
二人のやり取りを見て、
師匠が小さく肩を震わせて笑って、
本当に小さな声で「笑いを堪えるのが苦しい」と呟いた。
デスがセセラギに嫉妬していることを、師匠も知っている。
そして、ロイール達も……。
知らないのは、ミッシェルだけだろう。
そろそろミッシェルに、
デスが、セセラギに嫉妬しているんだってことを、
教えてあげたほうがいいだろうか?
そんなことを考えながら、
ミッシェルとデスを見ていたけど、
知らなくても問題なさそうなので、黙っていることにした。
デスはミッシェルに気付かれないように、隠しているみたいだし、
余計なことはしない方がいいかもしれない。
「それで、セセラギがどうしたの?」
そう決めて、デス達から視線を外し、
師匠に話の続きをねだる。
口の中に入っているパンを飲み込んでから、
師匠は口を開いた。
「セセラギが、アリアケとシノノメのご飯を、
横から取って食べてしまったんだよ」
「え?」
「ご飯を取られた、アリアケ達がものすごく怒って、
セセラギを突きながら、追いかけ回したんだ……」
それは絶対に怒る。
俺も勝手に取られたら、絶対に怒る。
「食い意地の張ってる、セセラギが悪いと思う」
「確かにね、僕もそう思ったんだけど……。
今日の果物は、アリアケ達の好物だったから、
セセラギへの攻撃が容赦なくて、
仲裁するのが大変だったんだ」
「ああ、あの果物美味しいもんね。俺も好き」
ジャネットとエミリアとミッシェルが、
果物の種類を気にしているみたいだったから、
教えてあげると、知らないと首を横に振った。
「元々、こちらの大陸にはない果物だからね、
知らないのも無理はないかな。ここの庭に実っているから、
あとで食べてみるといいよ。他にも珍しい果物もあるし」
師匠が簡単に、別の大陸の果物の説明をしていく。
その説明を、俺も含めてみんなが興味深く聞いていた。
ただ、どうして、別の大陸の果物が、
季節関係なく、ここに実っているのかという疑問は、
ジャックの家だったからという理由で、片付けられた。
師匠に話を聞いたら、食べたくなったので、
あとで食べにいこうと誘ったら、
ミッシェルが一番喜んでいた。
食べたことのない果物が食べられるといって、
すごくウキウキしながら、デスに喜びを伝えている。
その楽しそうなミッシェルの姿につられるように、
デスが体を揺らして踊り出す。
その踊りが面白くて、俺達だけではなく、
周りで話を聞いていた人達も、笑っている。
みんなが笑顔になっているのを見て、
今日一日、こうやって、ずっと、
笑っていられたらいいなと思った。
ミッシェルとデスが落ち着くのを待って、
脱線した話を元に戻した。
セセラギがどうなったのかが気になる。
「それで師匠、セセラギはどうなったの?」
「逃げ切れなくなって、キュウキュウと鳴きながら、
僕の服に潜り込んできたから、
アリアケ達に、新しい果物を用意することを約束して、
許してもらったよ……」
「セセラギは今どこにいるの?」
「疲れたのか部屋で寝ているよ」
「そっか」
アリアケとシノノメは、
帰ってきたときに、ソファーで寝ていたのを見ている。
シノノメ達も、怒り疲れたのかもしれない。
「まぁ、セセラギも懲りただろうから、
これから人のものを取ることはしなくなるかな?」
「うーん、微妙だと思う」
俺が、首を横に振って否定すると、
師匠が「やっぱり、そう思うよね」と苦笑した。
そして、そのあとに続けて、
「ちょっと、厳しく躾けていこうかな」と呟いてから、
ため息をつき、ルーシアさんに入れられたソーセージを、
食べ始めたのだった。
sime様が描いて下さったイラストに、
掌編をつけていますので、
こちらも読んでいただけると嬉しいです。
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