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刹那の風景 第四章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ダイヤモンドリリー : また会う日を楽しみに 』

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28/43

『 食事会の前に…… 』

【 セツナ 】


武闘大会が終わり、祭りも終わり、ハルの人々の生活が通常に戻りつつあった。

そんな中、僕はといえば、旅の準備を進めつつ、

アルト達との約束を守るために、色々と奔走してもいた。


かなでが伝えることができなかった魔法をオウカさん達に伝えたり、

アギトさん達のこれからの予定を確認したり、

ハイロスさんに僕の予定を伝えたり、

ジゲルさんと準備するのものを話し合ったり、

セセラギが食べる小魚を仕入れたりと、

着々と旅立つ準備を整えていった。



オウカさん達にお願いされたこともあり、ハルに刻まれている魔法を教えた。

僕が教えられるものだけでもかなりの量があるので、

オウカさん達が絶句していたが、伝えるべきことは全部伝えられたと思う。


短時間で詰め込んだので、リオウさんは四苦八苦していたけれど、

オウルさんが魔導具で記録をとっていたから、

それを見返して頑張ってものにして欲しいと思う。


オウカさんとオウルさんには、魔法だけではなく、

彼らに残されている魔導具などの使い方も伝えた。

二人が「長年の謎が解けた」とスッキリとした表情を浮かべていたのが面白かった。

一族でずっと研究していたらしい。


花井さんが創った魔道具は、古代魔法が中心で解析が難しく、

かなでが創った魔道具は、意味がわからない物として継承されていた……。


かなでが調整していた魔導具の点検をしたり、

不具合がでているものは修正したりと、必要なことは全部できたと思う。

もし何かあったら、家にいるトキアに話しかけて欲しいと伝えると、

オウカさん達がなんともいえない顔をして僕を見た。


「犬に話しかけるのかね?」


「……」


オウカさんが犬に話しかける想像をしたのか、リオウさんが吹き出した。


「犬に相談する私達の姿は、周りにはどう見えるのだろうか……」


オウルさんのこの言葉で止めをさしたのか、

リオウさんがお腹を抱えて笑い出したのだった。



アギトさん達は、僕とアルトが旅立ったあと、

月光とサフィールさんとで、トリアに向かうことになったと話していた。

トリアに向かう目的は、チームを抜けた冒険者の足取りを追うことらしい。

生きていないことはわかっているが、

その原因を探ることができるのなら探りたいといっていた。


アギトさん達には悪いけれど……その理由を彼らが知ることはないだろう。

その前に僕が、そこにいるだろう者を竜国に帰すつもりだから。

色々と思うところがないわけじゃない。申し訳ないとも思う。

それでも僕は、セリアさんの望みを叶えると決めた。

だから、彼らに詳しいことを語るつもりはない。


セリアさんは姿を消して僕達の話を聞いていた。

彼女のその瞳が悲しそうに揺れるが、僕は彼女に何もいえなかった。

ただ、彼らに届くことのない「ごめんなさい」が、

空気に滲んで消えていくのを、彼女のそばで聞いていた。



ハイロスさんには、夜中にこっそり抜け出して会いにいった。

食事会でギルスとヴァーシィルを呼び出すことを伝え、

2体の大きさを変更できるか試してみたが、問題なく大きくなっていたので、

子供達の希望を叶えることができそうで、ほっとした。


ハイロスさんに、旅の大まかな予定を話しセリアさんの依頼が終わったら、

リシアに戻る予定でいることを話した。


正直、彼女の依頼が終わってからの予定はまだ考えていない。

リシアから船に乗って、ヌブルやミグリスにいくか、

それとも、リシアの隣の国であるバートルにいくか、

この辺りの予定はリシアに戻ってきてから、

アルトと相談して決めようと思っている。


話のついでに、近いうちに今回リシア国籍を取得した、

アギトさんとサフィールさん、

そしてアルヴァンさん以外の剣と盾のメンバーがここにくることを教えると、

ハイロスさんが楽しそうに笑う。

そして「あの悪ガキどもが、どんな顔をするか楽しみです」といった。


彼は、このハルで一番長く存在しているので、

沢山の人の人生を眺めてきたのだと語る。


「初代の一族を、何度も怒らせる……。

 いえ、ジャック風にいえば切れさせて、

 ここまで本国籍を与えられなかった人間を、わたくしは知りません。

 彼らはきっと、ずっとわたくしの記憶に残り続けるのではないでしょうか」


アギトさんとサフィールさんは、一体何をしてきたんだろう……。

正直、よく黒になれたなと思う。

丁寧な口調のハイロスさんに悪ガキといわれるほどのなにか……。


「……」


詳しい話を知りたいかと問われたが、丁重にお断りしておいた。

これは聞かない方がいい案件だと思う。


僕のために作られた領域で、

かなでが手をかけた日本の風景を眺めながら。

僕達は、時間の許す限り色々と話をして楽しい時間を過ごした。

食事会にも誘ってみたが、外にでるのは好まないということなので、

ハルに戻ったらまたくることを告げて彼との別れを済ませた。



ジゲルさんは僕とアルトと一緒にリシアを離れるため、

準備が整い宿屋を引き払ってから、こちらにくることになっていた。

数日前に幌馬車と馬を購入したと話していたので、

ジゲルさんとの旅は馬車の旅ということになりそうだ。


僕の鞄の中に食料などが大量に入っているけれど、

ジゲルさんが、旅の間の食料を用意してくれるといっていたので、

その代わり、その食材や水が傷まないように、

木箱や水樽に時の魔法をかけて渡しておいた。


トキトナで開くお店は、

ジゲルさんと僕の共同店舗ということになるので、

僕ができることはきちんと協力しようと思ったからだ。


まぁ、ジゲルさんからは、

あまり時の魔法は使わないようにと苦言をもらったが、

彼は苦笑しながら受け取ってくれた。


今回の旅に、使い魔を連れていくことを伝えると、

ジゲルさんは会えるのが楽しみだと笑ってくれる。

僕の使い魔が強いことを武闘大会を見ていて知っているので、

トキトナまでの道中は安心して眠れそうだといっていた。

確かに、かなり過剰戦力気味だと僕も思う。


使い魔はしまうこともできるけど、

できるだけ彼らには色々なものを見せてあげたいと思っている。

将来、自分のなりたいものを見つけることができるように。

僕やアルトと一緒に、様々なものを見ていくといいと思ったから。



リシアを離れる準備が大体終わり、

あとは食事会の準備を残すのみとなっていた。


食事会は、アルトの希望で子供達は朝から遊びにくるらしい。

昼頃にミッシェルの家族とロガンさん、

時間が空き次第オウカさん達やヤトさん、

ナンシーさん達がくることになっている。

医療院のクオードさんにも声をかけてみたが、

仕事が忙しいということで断られた。


食事会では、いつ参加しても食事を取ることができるようにするつもりだ。

というか、酒肴の人達は一日飲むつもりでいるので、

料理が途切れることはないだろう。


彼らがいうには、酒と肴は切り離せないものらしいので……。

つまみは絶対に必要だと力説していたのを酒の席で聞いた気がする。


料理のメインは、ダルクテウスとマグロになっているが、

アルトにも話したように、肉も調達してくる予定でいた。

僕が狙っているのは、リシア周辺にいる大型の魔物だ。


大型の魔物に決めた理由は、

今回参加できない孤児院の子供達にも、食材を届けたかったからだ。

ダルクテウスもマグロも届けるが、

祭りのときに、魚より肉が好きと子供達が僕に教えてくれたのを覚えている。

なので、肉も一緒に届けようと決めていた。

食事会で食べ、ギルドにも大量に売ったとなれば、

オリエさんや大先生達も遠慮なく受け取ってくれるだろう。


オリエさんと大先生が決めたことだけど、

兄弟姉妹が参加できないと知って、

クロージャ達はとても複雑そうな表情を浮かべていたのを知っている。

アルトがそんな友人達を見て、悲しそうな顔をしたことも。

だから、大切にしている兄弟姉妹に気兼ねすることなく、

クロージャ達が食事会を楽しめるようにしてあげたかった。


大型の魔物で、アルトが食べたいといっていたものを数種類候補に挙げ、

そこからリシアの周辺にいそうな魔物を一つ選んだ。


巨大なイノシシみたいな魔物でその肉はとても美味しいらしい。

僕は、ローストポークや塩豚、生姜焼きなどが好きだけど、

アルトならスペアリブを豪華に焼いたものが好きかもしれない。

大きなスペアリブ……きっと喜んでくれるんじゃないだろうか。


ちなみに狩りにいくときは、一人でいくと決めている。

大型を狩りにいくことを話すと、

収拾が付かなくなることが目に見えているから……。


あとは、アルトが自分で釣った魚を焼いて食べたいと話していたので、

バーベキューもすることになった。


バーベキューはリペイドでは驚かれたけれど、

ハルではその道具が普通に売られていた、

なので、説明する必要はなく、酒肴の人達が用意してくれることになっている。


あちらこちらにある、元の世界の痕跡に、

かなでは本当に、ここで好き放題していたのだと改めて思った。

それならば、僕も置き土産としてカイル達の記憶の中から、

リシアにない料理を数品用意しようと思う。

ミッシェル達が僕の作った料理を食べてみたいと話していたし、

丁度いいだろう。


そんな感じで準備を進め、

時々酒肴の人達とどんな料理をだすかを話し合ったり。

黒達と情報交換をしたりしながら時間が過ぎていった。


アルトはセセラギやシノノメ、アリアケと一緒に遊びにいくことが多く、

友人達と過ごす時間を大切にしているようだった。


その合間合間に、アルトも旅の準備をしているようで、

武闘大会で手に入れたお金で、

お菓子や食べ物を補充していっているようだ……。

黒や黒のチームの人からも、色々ともらっているのを見ているので、

アルトの鞄の中に、どれほどの食料が入っているのかは僕も知らない……。


夕食を食べながら、アルトがその日の出来事を僕に話してくれる。

セセラギがいうことを聞かないとか、

アリアケとシノノメが動かないと思ったら寝ているとか、

身振り手振りを交えて楽しそうに語っていく。


だけど、時折ふと会話が止まり、

アルトの瞳が寂しげに揺れるのは、

きっと気のせいではないのだろう……。


僕達の準備が進めば進むほどに、別れのときが近くなる。

食事会は楽しみだけど、友達と離れたくない。

その複雑な感情を、アルトは必死に飲み込もうとしているのかもしれない。


だけどそれはアルトだけではなく、

黒のチームの人達も、多かれ少なかれ持っていた。

寂しいという気持ちを……。


アルトが寝てから、酒肴の人達と飲んでたときのことだ。

カルロさんが「これほど、みんなと離れがたいと思ったことはない」と、

お酒を飲みながら、彼らしからぬ静かな声でこぼしていた。


それほど、ここでの生活が刺激的で楽しかったのだといっていた。

アギトさん達とサフィールさんはトリアに、

酒肴の1番隊から4番隊は、船でヌブルに渡り、

しばらく向こうの大陸で活動するようだ。


リシアには剣と盾と、酒肴の1番隊のブライアスさんとクレマンさん。

そして5番隊が残ることになったらしい。


「今まで、ハルに黒達が集まっていても、

 ここまで濃密な時間を過ごしたことはなかったよね」と、

セルユさんが寂しそうに笑いながらそういうと、

それに同意するように皆が一斉に頷いていく。


「次にこうして、皆が揃うのは……、

 また、ウィルキスになるかもしれないわね。

 でも、そのときには……」


「ルーシア」


「ごめんなさい」


フリードさんがルーシアさんの言葉を遮り、

黙って飲んでいるエリオさんをチラリと見た。


エリオさんは彼らの話に加わらず、

ダウロさんと飲みながら、サーラさんと話しているセリアさんを見つめていた。

エリオさんが飲む酒は、日を追うごとに、苦くなっていくのかもしれない……。


この場の雰囲気が湿っぽくなったので、鞄からお酒を取りだして振る舞う。

彼らにはいつも陽気に笑っていて欲しいと思ったから。

とっておきのお酒と、おつまみでいつものように、

和気藹々としたものへと変化した。


それでも……。

心の中の寂しさは、完全に晴れることはなかったのだろう。


お酒に弱い人達が次々に潰れていくなかで、カルロさんがふと言葉を落とす。

小さな声で、まるで願うようなその声音が部屋に響いた。


「お前、もっとしっかり食べろよ。

 黒より強いことはしっているけどさ……。

 病気に勝てるかどうかは、誰にもわからないんだからさ」


彼のこの言葉に、酒肴の人達の顔が翳った。


「自分で薬を作れるといっても、

 動けなくなったらどうしようもないんだからよ」


「はい。これでも、

 ここにきて、かなり食べるようになったんですけどね」


僕は病気で死ぬことはない。

だけど、彼らのその気持ちが嬉しかったから、その忠告に素直に頷いた。


「……精霊は長距離を転移できるんでしょう?」


ルーシアさんが僕を見て問う。


「できますね」


「怪我をしたり病気になったら、クッカちゃんに頼んで、

 必ずハルに帰ってくるのよ。ここに帰ってきたら、誰かがいると思うし、

 ここにいる誰かが絶対にセツナの手助けをするんだから。

 私がいたら私が手伝うから」


あまりにも真剣なルーシアさんに、僕は頷くことしかできなかった。

彼女の手は軽く震えていて、僕から何かをいうことはできなかったのだ。


「お前達、そろそろ部屋に戻らんか。

 片付けはわしらがやるから、さっさと寝てしまえ」


バルタスさんが気遣うような優しい声で、そういった。

ルーシアさん達は、バルタスさんの言葉に素直に頷き、

自分達の部屋へと戻っていったのだった。


彼女達に何があったのかは聞かなかった。

バルタスさんも他の黒達も事情を知っているようだったが、

僕が踏み込んでいいもののようには思えなかったから。


ただ、誰かが調子が悪いと知れば、

誰かが必ず付き添っていたのは、

雪が積もるなか、子供達の薬の材料の調達に、

愚痴一つこぼさなかったのは、

病に対して苦い経験があったからなのかもしれない。



酒肴の3番隊のクローディオさん達とは、エイクさんの話を少しした。

彼はシルキスから学院に通うことになっている。


サフィールさんがその準備をすべて整えていたはずだ。

エイクさんと一緒に、彼の伴侶であるメリルさんと、

青狼の長であるロシュナさんの補佐をしていた、

トリンさんが共に学院で学ぶらしい。


彼らとは面識があったので、もし家を探すことになるのなら、

この敷地内の余っている家で、生活してもらってもかまわないことを、

伝えて欲しいとお願いしておいた。


僕から手紙をだしてもいいのだけど、

エイクさんからの返事を、いつ受け取ることができるかわからないため、

クローディオさん達に頼むことにした。


一応、エレノアさん達とブライアスさん達にも、

頼んでおいたので、彼らがここで生活するのなら、

手助けしてもらえると思う。


トリンさんは、アルトに青狼のことを色々教えてくれていた。

アイリとユウイとも仲が良く、面倒見のいい人という印象だった。

メリルさんは、ずっとエイクさんを支えてきた芯の強い人だと思っている。


そしてエイクさんは、サガーナをよくするために覚悟を決めた優しい人だ。


『俺は……アイリやユウイに、もっと旨いものを食べさせてやりたい。

 これから生まれてくる子供達にも、もっと豊かな生活をさせてやりたい』


彼のこの言葉は、今も僕の記憶に残っている。

だから、ささやかな応援でしかないけれど、

過ごしやすい環境を提供できたらと思った。


ここには図書室もある。食事は酒肴の人達が作ってくれる。

そして、早朝の訓練ではきっと、エレノアさん達が鍛えてくれるはずだ。

時間がないときは、魔王で経験を積むこともできるので、

勉強と鍛錬を両立するには、いい場所だと思うから。

まぁ……サフィールさん達と一緒に住むことになるが、

同じチームだから気心が知れているだろう……多分。


サガーナがもっと豊かになればいいと僕も思っている。

アイリ達が安心して暮らせる場所になればいい。

愛情深い蒼露様が憂うことなく過ごせる場所になればいい。

そして……いつかラギさんがサガーナに帰ったとき、

誰もが笑っている国になっていればいいと願うんだ。



そして、食事会前日の夜。

僕のベッドの上は僕を中心にして、

ぎゅうぎゅうとアルトと使い魔達でひしめき合っていた……。


アルト、トキア、ギルス、ヴァーシィル、

アリアケ、シノノメ、セセラギ、レウス、シルワ……。


僕が呼んだわけではない。

それなのになぜか、使い魔が全員揃った。

レウスとシルワは、トゥーリや彼女の母親が、

心配しているかもしれないと思ったが、

寝ているのを確認してこっそりでてきたらしい。


セリアさんが声を殺してずっと笑っていたが、

やっと笑うのをやめてベッドの縁に座っていた。


「セツナが旅にでるから、会いに来たのかしラ」


「もしかしたらそうかもしれませんね」


使い魔の中の子供達の魂が、呼び合ったのだろうか? 

いつでも好きなときに僕の所にくることができるのに、

どうして、今日全員集まったのだろう? 

子供達は深い眠りについているはずなのに。


そう思っていろいろ考えてみたが、答えがでることはなかった。

気持ちよさそうに寝ているアルトの頭をなでてから、

順番に使い魔をなでていく。


なで終わった使い魔から好きなところで眠り始める。

シノノメとアリアケはセセラギと。

ギルスとヴァーシィルはアルトと。

トキアは僕の足下に。

そしてレウスとシルワは、

僕の膝の上に乗ってきたと思ったら「きゅ」と鳴く。


まだ、なでて欲しいのかと思い、

ゆっくりとなでていたら満足したのか、転移魔法を使い、

トゥーリと彼女の実家へと帰っていった。一体何だったのか……。


「使い魔が一杯ネ」


「そうですね。僕もこれほど増えるとは思っていませんでした」


アルトを起こさないように、セリアさんがまたクスクスと笑った。

そして、ほっと息をつくと静かに僕を見た。


「セツナ」


「はい」


「……なんでもないワ」


どう考えても何でもないという表情ではないのだけれど、

きゅっと口元を結んで泣きそうな顔をしているセリアさんを見て、

どうするか悩み、聞かないことを選んだ。


だけど、僕の考えだけは伝えておこうと決める。

彼女の不安が少しでも和らぐように。


「セリアさん。僕は最善を尽くします。

 使える手はすべて使うつもりです」


「……セツナ」


番ではないけれど、

大切な人を失い狂ってしまった竜を元に戻せるのかは、

正直僕にもわからない。


ただ、セリアさんと彼は魂の誓約を結んでいないことから、

正気に戻る可能性は高いような気はする。


「最後の最後まで絶対に諦めません。

 だから、セリアさんも諦めないで下さい」


「うん。諦めないワ。

 そのために、今日まで……存在していたのだモノ」


そういって、セリアさんが竜の彼のことを、

ぽつりぽつりと語り始める。


彼女は、今まで僕に彼との思い出を語ったことはあまりなかった。

柔らかく笑ったり、時々涙を落としたり……。


セリアさんはその気持ちのままに、彼との思い出を話していった。

魔王に借金をしているとか、色々気になるところはあったけれど、

口を挟まず最後まで聞いた。


そして最後にセリアさんが僕に告げる。


「セツナ。覚えておいて。彼の名前はイフェルゼア」


イフェルゼア……。どこか懐かしい気がするのは、

かなでの友だったからだろうか。


「イフェルゼアよ……セツナ。彼の名前を忘れないデ……」


セリアさんは、僕にそう願うと寂しそうに笑ってから、

指輪へと消えていったのだった。




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