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刹那の風景 第四章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ダイヤモンドリリー : また会う日を楽しみに 』

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25/43

『 手紙 』

本日、3月26日発売のコンプエース5月号から、

『刹那の風景』のコミカライズの連載が始まりました!

活動報告に、漫画家寺里甘様のラフ画を公開してます。

【アルト】


セセラギに師匠から貰った服みたいな物を着せ、

そこに紐を装着してセセラギが自由に歩けないように、

紐の反対側をミッシェルが握っていた。


自由を奪われているというのに、

セセラギは気にすることなく機嫌良く「キュキュル」と、

歌うように鳴きながらデスを背中の上にのせて、

女の子達の前を歩いている。


時々、止まって俺達の方を向いて「うにゃうにゃ」と、

何かを話しているようだけど、

何を話しているのかはわからない……。


だけど、その仕草が可愛くて、

思わず笑ってセセラギに返事しているのは、

俺だけではなかった。


師匠からこの胴輪一式を貰ったときは、

自由に動けないのは可哀想だと思っていた。

だけど、セセラギはムイやギルス達とは違い、

とにかく興味の持った方へと走っていき、

小さい手で掴もうとするし、口に入れようとする……。


目新しい物ばかりだから、

落ち着かないのかもしれないと考え、

しばらくしたら慣れるかなと思っていた。


しかし、一向に落ち着く様子はなく、

一目散に魚屋に走っていったときは肝が冷え、

用水路に飛び込んだところで、

これは駄目だと考え直し、俺はセセラギを繋ぐことに決めた。

可哀想だとかそういった問題ではないことに気付いたから!


紐を外すにしても、

セセラギがやってはいけないことを学んでからだと強く思った。

まぁ、セセラギは繋がれていることを、

とくに不満に思っているわけでもないようなので、

「待て」を覚えるまでは繋いだままでいようと思う。


「やっぱり、注目を浴びるよな……」


俺の隣でセイルがそんなことを呟きながら、苦笑している。

確かに、あちらこちらから俺達の方へと視線が向けられている。


「セセラギもデスも珍しいから」


「いや、それもあるけど、

 一番注目を浴びてんのはお前だって」


「ああ、リシアに獣人の子供は俺だけだし」


今更だなと思いながらも頷いた俺に「それもあるけど」といって、

クロージャが会話に混ざる。


「アルトが「黄昏の弟子」だからというのが、

 一番の理由だろうな」


「え?」


セイルから視線をクロージャに向けた俺に、

ワイアットとロイールも苦笑した。


「今までもアルトと一緒にいると視線を感じてはいたけどさ、

 ここまで注目されることはなかったと思うんだよな……」


ワイアットがそういって肩をすくめる。


「……もしかして、俺みんなの迷惑になってる?」


「そうじゃない」


ロイールが間髪入れず俺の言葉を否定した。


「んなわけないだろ」


「そうそう」


ワイアットとセイルが呆れたような視線を俺に向ける。

ジャネット達はこっちをチラリと見ただけで、

自分達の話へと戻っていた。


「俺達も将来同じ視線を貰う予定なんだからな」


どこか楽しそうに、セイルがニシシっといった笑い方をした。


「ああ、暁の風に入るからか」


「そうそう」


嘆息しながらクロージャが笑い、セイルがまた笑った。


「俺達の二つ名も「黄昏」がつくといいよな」


「いや、無理だろう」


調子のいいセイルの願いに、ロイールが冷静に返答し、

ワイアットが「何をくっつけるんだよ、何を」と突っ込んだ。

そこから黄昏に似合いそうな言葉を探すことに夢中になっていき、

こちらへと向けられる視線から意識がそれていった。



「アルト、セセラギを抱き上げてもいい?」


「人が多くなってきたから、踏まれると困るしね」


ミッシェルがデスを肩に乗せながらいった言葉に、

エミリアも心配そうにセセラギを見た。


セセラギは「うにゃうにゃ」と何かをいったあと、

タタッと俺の方へと走ってきて、一気に俺の肩まで登り、

俺の頬に顔を寄せてから「うなうな」と鳴くと、

そのまま肩の上でじっとしていた。


動く気配のないセセラギをみて、

ミッシェルが残念そうにしながら、

俺に紐を渡してくれる。

俺はその紐をベルトループに結んでから、

セセラギの頭を軽く撫でた。


「あ、俺、唐揚げ食おう!」


ワイアットが嬉々としながら、

唐揚げの露店へと歩いていく。


「俺も唐揚げにしよう」とセイルがワイアットの後を追う。

女の子達は3人で顔を見合わせたあと、

違う露店を指さしていた。


その露店では薄いパンを焼いたものに、

野菜やチーズなどの具を乗せて、

くるくると巻いたものを売っているようだ。

俺も気になったので、お金を渡して俺の分も頼む。


「具はなんでもいいの?」


「肉とかチーズがいい。唐揚げいる?」


俺の問いに、女の子達3人が同時に首を横に振って、

「いらない」といった。唐揚げ美味しそうなのに……。


女の子達と一旦別れて、クロージャ達と最後尾に並んで順番を待つ。

俺達のそばにいる人達が、不思議そうにセセラギを見ているが、

声をかけられるようなことはなかった。


しかし、露店のおじさんが器用に肉を揚げながら、

セセラギのことを聞いてきたので、

師匠の使い魔だということを伝えると、

「守護者様に感謝!」といって、

セセラギの分をおまけにくれた……。


俺がお礼をいうと、

セセラギもおじさんの方へと顔を向けて、

「うにゃうにゃ」いっていた。

多分、お礼をいっていたのだと思う。


それぞれの手に唐揚げを持って露店を離れて、

ミッシェル達と合流する。人の少ない場所で立ち止まり、

熱々の唐揚げを食べる。


セセラギには唐揚げを少し冷まし、

セセラギ専用の入れ物に入れると、

器用に手で掴んで匂いを確認してから口に入れていた。

家では魚にしか興味を示さなかったのに……。


「なぁ」


「なに?」


「どうして、セセラギは上を向きながら食べているんだ?」


ロイールの問いに、みんなの視線がセセラギから俺へと集まる。


「やっぱり疑問に思うよね」


セセラギの食べ方は、ちょっと変わっている。

食べ物を両手で掴んで口に入れると、

上を向いたまま食べ物を咀嚼して飲み込んでいる。


「どうして、そんな食べ方をしているのか、

 俺にもわからない。師匠もわからないっていってた」


「セツナさんにもわからないことがあるんだな……」


「うん」


「神々の時代の生き物の記録なんて、残ってないか」


ロイールが古代神樹がそびえていた方を向いて小さく呟いていた。



屋台を巡り興味の惹かれた物を食べ歩く。

俺以外はお腹がいっぱいになったのか、

食べるよりも話す方に夢中になっている。

俺はそんなみんなの話を食べながら聞いていた。


ふと……知らない人の声が耳に届く。


「はい、じいちゃん」


「ありがとう」


声が聞こえた先にいたのは、俺より小さな子供と祖父らしき人。

子供が手渡しているのは、肉を刺した串焼き……。

ああ、そういえば、リペイドの建国祭で、

俺もじぃちゃんと串焼きを食べたんだ。

なぜか幸せそうに串焼きを食べる二人から、目が離せなくなった。


「欲しい物や食べたいものがあったらじいちゃんが買ってやるぞ?」

『アルト、欲しいものや食べたいものがあったら買ってあげるからの?』


俺の周りから音が消え、

じいちゃんの声が脳裏に蘇り思わず足が止まる。


「アルト?」


少し離れたところから、

クロージャ達が俺を探しながら呼んでいる。

だけど、その声にすぐに返事することができない。

声をだしてしまうと、何かが溢れそうだったから……。


俯いて一度ぎゅっと目をつぶって、

寂しさが通り過ぎるのを待った。


そして、顔を上げて息を吐き出してから、

俺を待っているクロージャ達の方へと足を進めた。


「何かあったのか?」


「まだ食べるか考えてたら、はぐれてた」


俺の返答に、みんなが口を揃えて、

「食べ過ぎ!」といって笑ったので、つられて俺も笑った。


「はぐれないように、真ん中にいろよ」


ワイアットがそういうと、

みんなが俺の周りを囲んで歩き出す。

俺は後ろを振り向きたい気持ちを抑えて歩く。

セセラギが俺の肩の上で小さく鳴いて、

俺を見ていたので、大丈夫と伝えるようにそっと頭を撫でた。



露店に日記帳は売ってなさそうだということで、

ミッシェルのお勧めの雑貨屋さんに立ち寄ることになった。

結構大きな店で、品揃えが豊富そうだ。


クロージャが使ってきたノートの説明を聞きながら、

ロイール達がお気に入りの日記帳を探している間、

俺も店内を見て回る。


とくに何かを買う予定はなかったが、

目についた物を前に少し考えて、近くにあるかごを一つ持ち、

気に入った色や柄の物をかごの中に積み重ねていく。


「……そんなに買うの?」


「そんなに買ってどうするの?」


エミリアとジャネットが俺のそばにきて、

目を丸めてかごをのぞき込んでいる。

ミッシェルは、セセラギに手を伸ばして「おいで」といっているが、

セセラギはそっぽを向いていた。

多分、デスが凄く嫌そうにしているからいかないのだと思う……。


「何か買うのか?」


日記帳を選び終わったのか、

セイル達もこちらへと移動してきて、俺のかごの中身を見て驚く。


「手紙を書くよ。一度に全員は無理だけど、

 みんな宛に順番に手紙を送るから、時々ギルドで確認して。

 ギルドがある町や村についたら手紙を出すから、

 纏まって届くこともあるかもしれないけど」


「……」


俺の説明に、みんなの顔が悲しそうに歪んでいる。

でも、誰も「いかないで」とはいわない。その気持ちが嬉しい。

だから、そのことには触れずにできるだけ明るい声をだして、

話を続ける。


「便箋をたくさん買っていくのは、

 小さな村なんかは、いい紙が置いていないことがあるんだ。

 それに、町や村に立ち寄らないことも多いから、そのため」


「簡単に手に入らない国もあるんだね……」


「うん、ハルは色々な物で溢れているけど、

 そうじゃないところの方が多い」


「そうなんだ……。私も一つ買って帰ろう」


「私もアルトに手紙書きたい」


「……」


エミリアとジャネットが納得したように頷くと、

二人が棚の方へと顔を向けて、真剣に便箋と封筒を探し始めた。

ミッシェルは家にあるから買わないと二人にいっていた。


「日記帳より、便箋の種類のほうが多いな……」


「これだけあると、目移りする」


「兄貴が持っていた便箋を使っていたから、

 自分で選ぶのは初めてだ」


ロイールとクロージャがそんなことを話しながら、

奥の方へと歩いていく。


「俺、手紙なんて書いたことないぞ。

 どうやって書くんだ?」


「……あとで教えてやるから、

 先に便箋と封筒を選べよ」


セイルの問いに、ワイアットが適当に答えながら、

棚から便箋を取りだしてはしばらく眺めて戻すを繰り返していた。


「どれを選べばいいんだ?」


「好きな物を選べって」


二人の会話に、ミッシェルがちょっと呆れたような顔を、

向けていたのだが、俺を見て口を開く。


「アルトは、もう買わないの?」


「うん」


「なら、お会計してきたら?」


俺が、みんなと一緒に支払いにいくと口にする前に、

ミッシェルが先に話す。


「封筒とか便箋って、選ぶ人の個性がでるから、

 届くのを楽しみにするのもいいよ?」


ミッシェルのこの言葉で、全員が俺の方を向いて、

「先に支払いをしてこい」といった視線を貰った。


本当はここにいたい。

俺のために便箋を選んでくれるクロージャ達を、

見ていたかった。


俺が手紙を出せば、返事をくれるだろうってわかってた。

わかってたけど、俺のことなんて、

すぐに忘れてしまうかもしれないって、

思うこともあって……ずっと不安だったんだ。


「うん、店の外で待ってる」


だけど、その不安がゆっくりと消えていく。

その不安があった場所に残ったものは、

嬉しいという気持ち。それと……。


「アルト一緒にいこう」


「ミッシェルも外にいくの?」


「うん。私は何も買わないから」


「そっか」


支払いを済ませてから店の外にでて、

ミッシェルとみんなを待つ。


「どうして、セセラギは私のとこに来てくれないの?」


「……」


ミッシェルがセセラギに話しかけているが、

セセラギは知らんぷりだ。


「セセラギ」


名前を呼んで興味をひこうとしているけれど、

セセラギは聞こえない振りをしている。


とりあえず、デスの嫉妬をどうにかした方がいいと思う……。

デス、ものすごく怖い顔で、セセラギを見てるから……。


「あ、そうだ手紙を送る順番だけど、

 私は最後でいいからね」


ミッシェルの唐突な言葉に首をかしげる。


「あー、俺は後ろから2番目でいいぞ」


「じゃあ俺は、後ろから3番目で」


俺がその理由を聞く前に、

ロイールとクロージャが店から出てきて、言葉を重ねた。

どうして後ろからなのかと疑問に思って、理由を聞こうとするが、

今度は少し遅れてきたセイル達が会話に入ってきた。


「何の話?」


「アルトから手紙を貰う順番」


クロージャがそう告げた瞬間、

セイルとワイアットが口を揃えて同じことをいった。


「俺が最初な!」


「あ、俺が一番な!」


「俺だって!」


「お前は二番でいいだろ!」


にらみ合い口論し始めた二人を見て、

ミッシェルが最後でいいといった理由を理解した……。

セイルとワイアットを最後のほうにすると、

色々と面倒だと思ったのだろう。多分。


お店の迷惑になるからと、

落ち着けるところに、移動することになったのだが、

セイルとワイアットは、まだ、どちらが一番かで口論している。


二人の口論に周りが飽きてきた頃、

クロージャがじゃんけんで決めろといったことで、

決着がついた。俺が手紙を出す順番は、

ワイアット、セイル、ジャネット、エミリア、

クロージャ、ロイール、ミッシェルになった。


嬉しそうなワイアットと悔しそうなセイル。

リシアからトキトナまでは、かなりの距離があるから、

最初の手紙は複数届くと思うのだけど、

黙っていることにした……。



「さっきの木の指輪かなー」


「私達でも買える値段だったしね」


色々な露店を見て回りながら、目的の物をみんなと探す。

エミリアとジャネットが話している木の指輪が、

今のところ一番の候補として上がっているけど、

なんとなくしっくりこない。


顔を上げて道の先を見ると、

残っている露店も少なくなってきている。


「こっちの道の露店は?」


ミッシェルが指さすほうを見ると、

あまり人通りがない通りに、何かの露店が並んでいる。


「そっちはお金では買えない露店だ」


ロイールの言葉に、全員が顔を向けた。


「職人が珍しい素材と交換するために、開いている露店?」


「そうそう」


こんなところにあったんだと、

ミッシェルが少し身を乗り出してその先を見ようとしていた。


「金で売って、その金で素材を買えばいいんじゃね?」


セイルが不思議そうに首をかしげてそんなことをいった。


「俺も兄貴から簡単に聞いただけなんだけどさ、

 色とか形とか手触りとか、その職人の欲求を満たす物を、

 自分で探すための露店だって話してた」


「お金を儲けるために、

 商品を並べているわけじゃないんだな」


「そうみたいだ。

 だから、どれだけお金を積んでも売ってくれない。

 欲しいなら、その職人の気に入る素材を持っていって、

 交渉するしかないらしい」


「へー、なら俺達が見て回っても無……」


セイルが口に仕掛けた言葉を最後までいわずに飲み込んだのは、

女の子達がそちらの方向へと歩き始めていたからだ……。


「なんで、買えないってわかっていて、

 見にいこうとするんだよ……」


ため息と一緒にセイルがそう呟くのに、

ワイアットやクロージャが同意するように苦笑した。


「まぁ……珍しい物も多いから、

 見るだけでも楽しいとは思うぞ」


ロイールがセイルを慰めるように肩を叩きながら、

女の子達の後を追って歩き出した。


目を輝かせながら話す女の子達の後ろを歩きながら、

綺麗な飾り箱や置物を見ていく。


物の善し悪しなどあまりわからない俺でも、

ここに並べられている商品が、凄い物だということがわかる。

その商品一つ一つに強い力を感じたんだ……。


「凄いね……」


「ああ、凄いな。歩くのが怖い」


俺の呟きに、クロージャがそういってため息をついた。


「子供も俺達だけだし……どう考えても場違いだろう……」


確かに、俺達以外に子供の姿を見ていない。

いろんな所から視線を感じるけど、

何もいわれないから大丈夫だと思うけど。


クロージャやセイルやワイアットは居心地が悪そうだったけど、

ロイールは真剣な面持ちで色々なものを見ていた。

多分、ロイールは物作りが好きなんだと思う。


だけど、その才能がないとロガンさんに話していた。

冒険者になると決めていたけど、後悔はないんだろうか。


「どうしたんだ?」


あまりにじっと見すぎたのか、ロイールが俺を見る。


「鍛冶屋にならなくていいの?」


「……」


俺の言葉にロイールが軽く目を見張って息を飲み、足を止めた。

しかし、ミッシェル達が振り返ったのに気付き、

手を振って何もないと伝え、少し困ったように笑ってから歩き出した。


ロイールはしばらく考えてから、話すことに決めたのか、

声量を落として話し始めた。


「……鍛冶屋になるのが俺の夢だった」


「うん」


「でもさ、俺には兄貴達みたいに鍛冶の才能がないんだ。

 ある程度のことはできるようにはなると思うんだ。

 だけど、親父や兄貴達のような物は一生作れない」


ロイールには、ロッフェさんとロガンさんという、

二人のお兄さんがいることはみんな知っている。


「俺の家はちょっと特殊でさ、

 爺さんや親父や兄貴達が作った物には、力が宿るんだ」


俺達にしか聞こえないぐらいの小さい声で告げる。


「力?」


「そう。詳しくは話せないけどな。

 ここの露店の物にもそういった力を感じるものがある」


そういって、ロイールが指さした物に目を向けると、

俺が目を惹かれた物と同じだった。


「でも、俺が作った物には……宿らないんだ。

 本当に簡単な物しか作ったことがないけど……」


そういって、寂しそうな表情を浮かべながら手を下ろした。


「俺と同じ年で、兄貴達が力が宿る物を、

 作ることができたと知っても、

 親父もそうだったと聞かされても、

 俺は俺ができることをすればいいと、思っていたんだ。

 アルトもそうだろう?」


「俺?」


「セツナさんに自分を越えることができないといわれても、

 気にしてなかっただろ?」


「気にしてない」


「俺にとって親父や兄貴がそうだった。

 俺とは違うということだけは、小さい頃から知ってたんだ。

 それが間違いじゃないと知ったのは、

 爺さんと親父が話しているのを偶然聞いたからだ。

 一族の血を引き継いでないって。

 俺には爺さんや親父や兄貴達が引き継いだ何かを、

 引き継げなかったようだ……てさ」


「ロイール」


「そんな顔するなよ」


ロイールが俺達の顔を見て笑う。


「その話を聞いたときは、どうして俺だけって思った。

 苦しかったけど、悩んだところで手に入るものでもないから、

 すぐに諦めた」


そういって、ロイールがそっと息を吐いた。


「ロイールは、ちゃんと乗り越えたんだね」


苦しみや、悲しみや、悔しさから目をそらすことなく、

自分と向き合って……。それは、とても痛くて辛いことだ。


「そうだな。今は全然平気だ。

 俺は、それを受け入れた上で鍛冶屋になろうと思ってた。

 だけど、親父がロッフェ兄貴と喧嘩して、

 俺を後継にしようとしたんだ」


ロイールがぎゅっと拳を握る。


「俺にその資格がないのを一番わかっているのは、

 親父のはずだ……。俺が家を継いだとしても、

 誰も俺についてこない。それを知っているのに、

 くだらない喧嘩で俺を後継にすると宣言した。

 俺は親父のその言葉が許せなかった」


「……」


「俺の苦しみも、悲しみも、

 覚悟もすべてを踏みにじられたと思った。

 だから、俺は……学院に行くためにといって、

 家を出たんだ。もう二度と家には戻らないつもりで」


ワイアット達が軽く息を飲んだ。

俺は、ロイールがロガンさんに冒険者になると、

話していたときに聞いていたから、驚かない。


「俺が戻らなければ、

 ロッフェ兄貴が家を継ぐしかない」


「ロガンさんは?」


「あー、兄貴はハルが気に入って、バートル国籍を破棄して、

 リシア国籍を取る予定だといっていた。

 だから、バートルには帰らないと思う。

 俺も、リシア国籍を取得したいと思ってる」


「そっかー」


「ハルにきたときの俺は……その苛々を……、

 セイル達にぶつけてたんだ。ごめん。何度謝っても……」


「やめろ!」


「やめろよ!」


「もう、何度も謝ってくれただろ」


ワイアット、セイル、クロージャの順で、

ロイールの言葉をさえぎって、肩や背中を軽く叩く。


「俺も、苛々をアルトにぶつけてたしさ……」


「俺は、みんなを殺すところだったしさ……」


「……」


「……」


ワイアットとセイルの言葉に、

なんともいえない微妙な空気が流れた。

それぞれ顔を見合わせ、そして誰からともなく笑い出すが、

一頻りに笑ったあとクロージャが、

セイルに「笑えているのは、運がよかっただけなんだからな」と釘を刺し、

セイルもわかっていると真剣な顔で頷いていた。


ワイアットも何かいいたそうに俺を見ていたけれど、

俺は首を横に振った。全部終わったことだ。


「話を元に戻すけど、

 俺の鍛冶屋になりたいっていう夢は、

 家をでたときに置いてきた。そこに後悔はないよ。

 それに、俺は新しい夢を見つけたから」


「俺達と一緒に冒険者になるんだもんな!」


セイルが笑いながらそういうと、

ロイールも楽しそうに笑いながら頷いた。


「心配してくれてありがとうな、アルト」


「うん。でも、何か作りたくなったら作ればいいと思う」


「……」


「ロイールは鍛冶は嫌いじゃないんでしょう?」


「好きだ」


「なら、俺達と魔物を狩って、

 その素材で剣と盾が武器や防具を作っているように、

 ロイールもなんか作ればいいと思う。

 剣と盾とは同盟を結んでいるから、

 色々教えて貰ったらいいと思うんだ。」


ロイールは瞬きもせずに俺の話を聞いていた、


「師匠も冒険者だけど薬を作ったりしてるし、

 魔導具も作ってるし……よくわからない物も作ってる。

 だから、作ることをやめる必要はないと俺は思う」


「……」


「ミッシェルも冒険者をしながら、お菓子を作るみたいだし、

 ワイアットも新しい薬草を探すんでしょう?」


「おう! 探して持ち帰る!」


ロイールが立ち止まり俯いた。

だけどすぐに顔を上げて頷くと口を開いた。


「そうか、そうだな……。

 作りたくなったら、作ればいいんだよな」


「うん。俺達は未知の領域を目指すんだ。

 新しい物が沢山見つかるはずだ。

 だから、それを使って変な武器とか面白い武器とか作って、

 自慢したらいいと思う」


「なんで、変な武器なんだよ」


「面白い武器ってなんだよ」


「まともな武器でよくないか?」


セイルとワイアットとクロージャが、

口をはさんでくるけど気にしない。


「俺も冒険者をしながら、食べる人になるから!」


「食べる人って何だよ」


「それ、本気だったのかよ!」


「きっと料理するのはセツナさんだよな」


「もう、うるさい!」


俺が真剣にロイールと話しているというのに!


「え? 俺達が悪いのか?」


「俺は悪くないだろう!?」


「……」


ロイールから視線を外し、

セイルとワイアットと口論していると、

ロイールが吹き出して、思いっきり笑っている。

笑いすぎて苦しいのか目に涙が浮かんでいた。


「あー……もう。笑いすぎて死にそうだ」


「笑いすぎ」


俺の言葉にロイールがまたちょっと笑う。

そして自分の手のひらに視線を落としてから、

何かを掴むようにその手を閉じた。


「そうだよな。好きな物を諦める必要はないんだ。

 俺は、冒険者になるけど、

 自分が作りたいと思ったものも作っていくよ」


「うん」


それが面白いものかはわからないけどなと、

いったあと、深く息を吐いた。


「……親父にも今の俺の気持ちを手紙に書くよ。

 跡継ぎの資格がないことを知ってることも……。

 それで全部丸く収まるような気がするから」


「……」


「あー、ずっと悩んでいたのが嘘みたいに楽になった……。

 ずっと……兄貴の手伝いをするだけで、

 自分で作るのをやめていたけど、

 久しぶりに何か作ろう。楽しみだ……」


そういってロイールはとても晴れやかな顔で笑っていた。

励ますように、俺がロイールの腕を軽く叩くと、

それに続いてクロージャ達も軽く叩いてから歩き出した。



「あいつらどこにいったんだ?」


「かなり先にいったのか……?」


ワイアットとセイルが周りを見ながら、

女の子達を探し始める。


「攫われたりしてないよな」


「……デスがいるから大丈夫だろう」


ロイールが顔色を悪くしながらそんなことを呟き、

その呟きを拾ったクロージャが少し考え、

それはないと首を横に振りながら答えた。


デスが強いということは、

風の精霊から聞いてみんな知っていた。


全員で女の子達を探しながら歩いていると、

少し先の露天で真剣に何かを見つめている女の子達を見つけた。


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2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
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