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刹那の風景 第四章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ダイヤモンドリリー : また会う日を楽しみに 』

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24/43

『 おくりもの 』

【 クロージャ 】


妙な生き物と視線を合わせながら、

言い聞かせるように叱っているアルトを、

俺達は黙って眺めていた。


あの生き物の名前がセセラギなのだろうか?

アルトが何かいえば、抱かれている生き物が、

「う゛ぅーん」といっている。

さっき微かに聞こえたものと同じだ。

なにか文句をいっているようにきこえ、

それはまるで、アルトと会話しているように思えた。


それからしばらくして、

少し疲れた表情を見せながら、

アルトが鞄から何かを取りだした。


「師匠のいうことを聞いて、

 最初からつけておけばよかった……」


アルトがそう呟き、ため息をついてから、

謎の生き物に何かを着せる、

そして、その何かに紐を繋げていた。


その生き物はとくに暴れることなく、

大人しくされるがままになっている。

やっと一段落ついたのか、

アルトが俺達の方へと視線を向けて、

「待たせてごめん」と、

苦笑しながら謝ったのだった。


アルトの話を聞くために、

秘密基地内に戻り、いつものようにそれぞれが、

好きな場所へと座って、持ってきたお菓子を並べていく。

アルトは人数分のカップと水筒を取りだしていた。


「今日は何を持ってきたの?」


ミッシェルが、自分で焼いたといっていたクッキーを、

並べながら聞いた。


「檸檬の果実水の中に、

 フェルドワイスの蜂蜜を入れたやつ」


フェルドワイスの蜂蜜は凄く高価な蜂蜜だ。

俺達が簡単に口にできるようなものではない。

まぁ、その蜂蜜だけで作られた飴を、

沢山もらったわけだけど……。


精霊様へのお礼に、

フェルドワイスの蜂蜜を採取してきたセツナさんは、

その余った蜂蜜を、スクリアロークスと同じように、

紅茶に蜂蜜を入れたものと、果実水に蜂蜜を入れたもの、

2種類を用意して、ハルの住人に贈ってくれた。


他国の人や冒険者達には格安で販売されたようで、

露店にはかなりの行列ができていたと、

姉貴達が話していた。


商人達が目の色を変えて、ギルドに蜂蜜を売ってくれと、

押し寄せたことも話題になっていた。


「あ、紅茶が飲めない人に用意されたもの?」


「そうそう」


「わー、私も飲んでみたかったの」


手をパチンと合わせて、嬉しそうにミッシェルが笑う。


「うん、ミッシェルが残念そうにしてたから、

 作ってもらった」


「ありがとう!」


「どういたしまして」


準備が整い、普段なら食べながら話し始めるのだが、

みんなの視線が、アルトの隣にいる謎の生き物に注がれる。

アルトはみんなの眼差しが、隣に向いていることに気付き、

謎の生き物を抱き上げて俺達に紹介してくれた。


「名前はセセラギ、

 師匠の使い魔ということになってる」


「どういう意味だ?」


「本当は話してはいけないことなんだ。

 でも……俺はセセラギのことを、

 クロージャ達に知って欲しいと思った。

 だから、風の精霊に少しだけ本当のことを伝えてもいいか聞いた」


風の精霊様に許可を貰わなければ話せない内容だといわれ、

皆が緊張した表情を浮かべた。


「……いいといってくれたのか?」


俺の問いにアルトが頷く。


「全部は話せない。

 そして、これから俺が話すことを、

 誰にもいってはいけない。それでも、俺の話を聞く?」


「アルトは俺達に知っていて欲しいと思ったんだろう?」


「うん」


「俺達が絶対に話さないと信じているから、

 風の精霊様に許可を貰ってくれたんだろう?」


「そうだよ」


「なら、答えは一つしかない。

 その信頼に応えるのが親友なんだから」


俺に同意するように、全員が真剣な顔でアルトを見て頷いた。


「ありがとう」


そういって嬉しそうにアルトが笑って、

セセラギを膝の上にのせてから話し始めた。


「古代神樹が精霊に守られていたという話を、

 覚えているよね?」


アルトの確認に全員が頷く。


「古代神樹は精霊達の強固な結界に守られて、

 長い時を過ごしていたらしいんだ。

 その理由は教えてもらえなかったけど、

 そのときにこの子がいることに気付かないで、

 一緒に閉じ込めちゃったようなんだ」


「この子だけ?」


「そう」


ミッシェルが眉根を下げながら、セセラギを見た。

ミッシェルが落ち込んだ様子を見せたからか、

デスが慰めるように彼女の頭を撫でている。


「それは寂しいね」


「可哀想……」


エミリアとジャネットが同時に口を開く。


「うん。だから、セセラギと同じ生き物は、

 どこを探してもいない」


「……」


全員の視線がアルトからセセラギへと向けられた。


「ああ、だからセツナさんの使い魔ということにしたんだな。

 セセラギを守るために」


「うん、そう。

 昨日から、セセラギは俺の友達で家族になったんだ」


「どうして俺達に話そうと思ったんだ?

 別に話さなくても困らなかっただろう?」


セイルが首をかしげてアルトを見る。


「セセラギは生きていて、

 デスやララーベリルと同じように、

 人の話すことを理解できるんだ」


アルトがそういうと、

セセラギが話しかけるように、

「うにゃうにゃ」とアルトに何かをいっていた。


「アルトはセセラギが話している言葉がわかるのか?」


「わからない。わからないけど、嬉しいとか、

 楽しいとか、不満に思っているとか、

 怒っているとか簡単な感情はわかる。

 ミッシェルもデスが何を伝えたいのか、

 なんとなくわかるでしょう?」


「うん。わかるよ」


「そっか、そういえば俺もなんとなく、

 ララーベリルの気持ちがわかる」


「それと同じ。

 師匠が『これまでの使い魔は、基本僕の命令で動いていたけれど、

 この子は違う、自分で考え自分で行動すると思うから、

 危ないことをしそうになったら、止めてあげてね』といっていたんだ」


「……」


「もし、俺が何もいわずにいたら、

 セイル達はセセラギを使い魔だと思っていたはずだ。

 だから、セセラギが危険なことをしていても、

 師匠の使い魔だから何か理由があるんだと考えて、

 止めようと思わないでしょう?」


「いわれてみればそうかもしれない」


セイルが納得したように頷く。


「セセラギは使い魔じゃない。

 好きなものがあって、嫌いなものもある。

 楽しいと喜ぶ。痛みも感じるらしい。

 自分の感情を持っているから、文句をいうし、

 不満そうに鳴いたりもする」


まだ「うにゃうにゃ」といっているセセラギの頭を、

アルトがそっと撫でた。


「普通の動物と同じ、命ある生き物なんだ。

 だから、俺が話さなかったことで、

 セセラギが怪我をしたり、命を落としたりするのが怖いと思った」


「アルト……」


「使い魔じゃないと知っていたら、

 セセラギが危険なことをしようとしていたら、

 セイル達は止めようとしてくれるでしょう?」


「当たり前だろう」


「だから、俺は風の精霊に話していいか聞いたんだ」


アルトの説明に、みんなが「なるほど」と首を縦に振っていた。


「わかった。俺もセセラギを気にかけておくな。

 危ないことしたら、必ず止める」


セイルの言葉を皮切りに、

全員がアルトに似たようなことを伝えていた。

勿論、俺もその一人だ。


「うん! ありがとう」


「キュアァ」


自分の話が終わったことを理解しているのか、

セセラギが体を伸ばして、甘えるように、

自分の頭をアルトの顔にくっつけていた。


「可愛い!」


その姿を見て、ミッシェルが目をキラキラさせて、

セセラギを見ている。


「セセラギ、ここにいる全員、俺の友達だ。

 将来俺達の家族になるメンバーだよ」


そういってセセラギに俺達を紹介してくれた。

セセラギはやっぱり「うにゃうにゃ」と、

何かを話していたけれど、

何を話しているのかはわからない。


ただ、セセラギはアルトから離れ、

一人一人の膝の上に乗ってきて、

頭を俺達の頬にくっつけてくれた。


その仕草に、その可愛さに、

ミッシェルとエミリアとジャネットは、

魅了されてしまったのだろう……。


セセラギを中心に3人で盛り上がり、

セセラギを離そうとしなかった……。


ミッシェルの頭の上にいるデスが、面白くなさそうに、

ミッシェルの頭をポフポフと、叩いているのが面白い。

もしかすると、セセラギに嫉妬しているのかもしれない。


アルトは苦笑を浮かべながら、

「こうなると思った」といって、

お菓子を食べ始め、俺達もお菓子に手を伸ばしながら、

アルトと話し始める。


女の子達の笑う声につられて時々視線を向け、

話を振られたら言葉を返し、

また、自分達の話に戻る。

そんな感じで、それぞれが楽しい時間を過ごしていた。



「これからどうする?」


大方お菓子を食べ終わり、ロイールが俺達に聞いた。


「俺はみんなで露店を見て回りたいと思ってた」


ロイールにそう返事をすると、アルトも頷いてくれる。


「なら、昼食は露店で食べるか?」


「俺達はそのつもりでいる。ロイールとアルトは?」


「クロージャ達に合わせようと思っていたから、

 どちらでも大丈夫」


「俺もアルトと同じだな」


ロイールとアルトの返事を聞いたあと、

女の子達の方へ顔を向ける。


「ミッシェルはどうする?」


「私もみんなに合わせるよ」


もっとかまえと文句をいっているデスをなだめながら、

ミッシェルが答える。


「なら、露店を見て回りながら好きな物を食べるか」


「何を食おうかな、

 セツナさん達のおかげで小遣いが減らなかったから、

 好きな物が食える」


ワイアットがそういって笑う。

催し中ずっとセツナさん達が俺達の食事も用意してくれていた。

アルトが目についた食べ物を、

次から次へと遠慮することなく、

購入していくのには驚いたけど、しばらくすると慣れていた。


絶対に食べきれないと思ったのに、

アルトとエリオさんと酒肴の人達で、

あまりそうな料理を全部平らげていた……。

正直、今でもあれは夢だったかもしれないと思っている。


「昼食はそれでいいとして、

 絶対に買っておきたい物とか、

 見ておきたい物とかは?」


俺の問いに、ロイールとミッシェル以外が首を横に振る。


「ロイールとミッシェルは、

 何か買いたい物があるの?」


アルトの問いに、

ミッシェルが先にどうぞというように、ロイールを見た。


「俺は日記帳が欲しい」


「日記帳? 日記は書かないっていっていたのに?」


「そう思っていたんだけどな。

 忘れたくないことが沢山あって、

 覚えていられる自信がないから、

 兄貴に相談したら、日記をつけろといわれたんだ」


「そうなんだ」


「あと、暁の風に入ったら、

 セツナさんに活動報告を見せることになるだろ?

 日記をつけて、文章を書く練習をしろって」


そういえば……。

ロガンさんがそんなことを話していたなと思い出した。

ワイアットもセイルも思い出したのか二人とも、

「俺も日記帳を買おう」と肩を落としながら呟いていた。


「ミッシェルは?」


アルトがカップを机の上に置きながら、

ミッシェルに顔を向ける。


「私はアルトに渡す贈り物を、買いたいと思って」


「え?」


「……元気でハルにまた帰ってこれるように、

 それから、どこにいっても、

 私達のことを思い出してくれるような物を、

 アルトに渡したいなって」


真面目な顔でミッシェルがアルトと視線を合わせた。


「……」


アルトは心の底から驚いたというように目を見張って、

ミッシェルを見つめている。

そんなアルトに彼女は息を飲んで、少しだけ寂しそうに笑った。


「私の花時計とか、ジャネットの櫛とか、セイルの時計とかと同じ。

 大切な人の無事を祈って贈り物を渡すことは、

 特別なことじゃないんだよ」


ああ、そうか。そうだったのか……。

アルトが驚いた理由がミッシェルの説明でわかる。

彼女が寂しそうに笑った理由も……。


アルトはそういった贈り物を、

あまり貰ったことがなかったのかもしれない。


ずっと、セツナさんと旅していたから。


「それ、俺達も考えてた。

 みんなと別れてから選ぶ予定だった」


「俺達も同じだな、アルトに内緒にして、

 旅立つ前に渡そうと思ってたのにさ」


ロイールとセイルが苦笑しながら、

計画していたことを話した。


「アルトの驚く顔を見る予定だったのに」


「うんうん」


エミリアとジャネットが笑いながら、

ミッシェルに文句をいっている。


「あ、ごめんね。

 私は、アルトが欲しい物を贈りたかったから」


「俺も、アルトが欲しい物を選べばいいと思うけどな」


謝るミッシェルにワイアットがそう告げると、

ロイールも頷きながら「気にしてないと」笑う。


「みんな考えることは、同じだったということだな、

 アルトの贈り物を探しながら、日記帳も探すでいいよな?」


俺が話をまとめると「そうしよう」とみんなが同意した。


「……アルト?」


アルトにもそれでいいかと尋ねるために、

隣に座っているアルトをみて驚く。

それは俺だけではなくみんなも同じだった。


涙を落としていたから。

アルトが瞬きもせず……静かに涙を落としていた。

いつもと同じように、唯々喜んでくれると思っていた。

「ありがとう」や「嬉しい」といった言葉が、

紡がれると思ってた。


なのに……アルトは表情をそぎ落としたような顔で、

泣いていたんだ。そして、俯き俺達の知らない言葉で、

小さく何かを呟いていた。


『…… …… …… …… …… …… 』


何を呟いたのか知りたくて、声をかけようとするが、

その前にアルトが顔を上げて俺達、

一人一人の顔を記憶に焼き付けるように見つめていったあと、

アルトは柔らかく笑って口を開いた。


「ミッシェル達の気持ちは嬉しいけど、

 それなら俺は……全員で同じ物を持ちたい」


機嫌良く尻尾を揺らし、

ふんわりとした耳を動かす様子をみて、俺達の緊張が解けた。


「お揃いの持ち物、いいんじゃないか?」


ワイアットが頭をかきながらそういうと、

ロイールが「戦闘の邪魔にならない物がいいな」と告げた。

その言葉から、エミリアが「邪魔にならない物」と呟き、

ジャネットが「首にかけられる物は?」と提案する。


「アルトはチームのドッグタグを持っているだろう?」


俺の確認ともいえる質問にアルトが頷いて、

首にかけてある鎖を引っ張り見せてくれる。


「じゃあ、鎖に通せる何かを探してみる?

 それなら、私達も緊急用の魔導具の首飾りに、

 つけることができるし」


ミッシェルがセセラギとデスを同時に撫でながら、

俺達を見た。緊急用の魔導具は、

あの一件以来、外にでるときは必ず身につけることにしていた。

どこにいても自分の居場所がばれるというのは、

正直抵抗があったけれど、リオウさんが、

「魔導具に刻まれている魔法が発動しない限り、

居場所を特定することはない」と教えてくれた。


「子供の行動を四六時中監視する暇な人間などいない」と、

呆れたように話していたんだ……。

最初はでかけるときだけつけていたけれど、

段々と面倒くさくなってきて、

最近は外すのを忘れることも多い。


「第一候補はそれにして、

 それよりもいいものがあったら、

 考えるということにするか」


俺の言葉に皆が頷いて、これからの予定が決まった。


「昼食までまだ時間があるけど、どうする?」


「ここにいても暇だし、露店を見にいこうぜ」


そういって、セイルが食べたものを片付け始めたので、

片付けが終わり次第露店を見て回ることになった。


「そういえば、ギルスとヴァーシィルはどうしたの?」


生き物が好きなミッシェルがアルトに問いかける。


「ギルス達は精霊に頼まれて、

 古代神樹の護りにつくことになった」


「え?」


片付けていたみんなの手が止まり、アルトを凝視する。


「2匹はハルに残ることになったんだ」


「寂しくないの?」


「ちょっと寂しいけど、

 ギルスとヴァーシィルは師匠の使い魔だから、

 いつでも呼び寄せることができるって。

 それに、新しい友達も増えたから大丈夫」


「セセラギ可愛いしね」


セセラギとデスが楽しそうに遊んでいるのを見て、

ミッシェルが目を細めた。


「セセラギもなんだけど、

 あと、アリアケとシノノメっていう鳥の使い魔が増えたんだ」


「えー? どうして?

 ギルスとヴァーシィルが、旅にでることができないから?」


「風の精霊が師匠と一緒に、

 使い魔を創ってみたかったんだって」


「……風の精霊様って自由だよね……」


ミッシェルが風の精霊様と一緒に、

行動したときのことを思い出したのか、楽しそうに笑う。


「俺もそう思う」


「優しい精霊様だよね。すっごく物知りだったし」


確かに、どこへいくのにもアルトについてきて、

俺達の知らないことを沢山教えてくれた。

わからないというと、優しくわかるように説明してくれた。


「私、風の精霊様大好き。またいつか会えるといいな」


ミッシェルが少し寂しそうな表情を浮かべて、

そう告げた瞬間……。

俺達の周りを優しい風がふわりと通り過ぎた気がした。


「……」


アルトはミッシェルの最後の言葉には返事をしなかった。


「古代神樹のそばにいったら、

 ギルスとヴァーシィルに会えるの?」


蜘蛛も蛇も苦手なエミリアがアルトに尋ねる。

ミッシェルは2匹を気に入っていたから、

いつでも会えるとわかれば元気が出ると思ったのだろう。

現に、彼女は期待を込めた目をアルトに向けていた。


「……基本会えない」


「基本ってどういうことだ?」


しょんぼりとしてしまったミッシェルを横目に見て、

俺は気になった言葉を繰り返す。


「2匹は姿を隠して見えないようにするって、

 師匠がいってたから」


「そうなんだ。でも、会う方法もあるんでしょう?」


ジャネットがその方法を教えて欲しいというように、声をだした。


「……本当に師匠の助けが必要なとき」


「え?」


「自分達ではどうしようもない、危機が訪れたとき」


笑みを浮かべることなく真剣に語るアルトに、俺達は息を止めた。


「魔物との戦闘中や、命に関わる依頼を受けていた場合は、

 連絡ができない場合もある。

 内容によっては力になれないこともある。

 それでも、できる限り最善を尽くすと師匠が話していた」


誰一人、口をはさむことはない。

アルトが本当に大切なことを、

俺達に伝えているのだとわかっているから。


「クロージャ、セイル、ワイアット、ロイール、

 ミッシェル、エミリア、ジャネット、忘れないで欲しい。

 ギルス達は師匠の使い魔だから、師匠と繋がっている。

 クロージャ達に何かあって、ギルス達に助けを求めたとき、

 その声は必ず師匠に届く」


「……」


「だから、すぐに連絡がなくても、

 最後の最後まで絶対に諦めないで、師匠を信じて待っていて」


アルトが俺達に伝えようとしてくれていることを、

忘れないように記憶に刻んでいく。


「それから……」


ずっとよどみなく語っていた言葉が途切れ、

思案するように俯き何かを悩んでいた。

俺達は急かすことなく、アルトが決断するのを待つ。

話すことに決めたのか、アルトがゆっくりと言葉を紡いだ。


「だけどね、覚えていて欲しいんだ。

 師匠は神様じゃない。

 死んだ人を蘇らせるようなことはできない。

 神の理に反することはできない。

 師匠は人よりも沢山のことができるけど……。

 神様と同じ力は持っていない。

 神様が決めた寿命を変えることはできない。

 師匠は人間だから……」


話し終わり、顔を上げたアルトの表情は、

とても悲しそうで、辛そうだった。

どうして、そんな表情を浮かべるのか、

聞きたい気持ちをぐっと堪えた。


アルトが今ここで話さないということは、

話したくないことだとわかったから。


「……ギルスとヴァーシィルに、

 気軽に話しにいくことはしない」


「このことも、俺達の秘密にした方がいいんだろう?」


俺の言葉に続けるように、

ワイアットがアルトに確認を取る。


「うん」


「魔物との戦闘中に、

 話しかけられたら危険だよな……」


「確かに、意味のない話で気が散ると危ないよな」


ロイールがため息をつきながら思ったことを口にして、

セイルが同意するように頷く。


「デスに話しかけても大丈夫?」


「それは大丈夫」


ミッシェルの眉根を下げながらの質問に、アルトが笑う。


「じゃあ、ララーベリルも大丈夫だよね」


「ララーベリルも大丈夫?」


ジャネットとエミリアの質問にも、

アルトは「大丈夫」と同じく笑いながら頷いていたのだった。


『 刹那の風景3巻 竜の縁と危亡の国 』が発売中。

よろしくお願いいたします。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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