吸血鬼の領主様
以前に書いた小説の設定の供養にお目汚し失礼致します。
初投稿の拙い文ですがお付き合い頂けたら幸いです。
我は女王であった
山深く、高い木々と城壁に囲まれた国で民を治める不死の女王である。
我は不老不死の吸血鬼だ。
伝承にある様に杭で心臓を貫かれても死にはしない。
我は呪われている。
本当に愛し合った者にしか死を与えて貰えない呪いだ。
あぁ、死にたい、死にたいと願いながら、愛する民を治め、守り続ける矛盾の怪物。
殺してくれと嘆きながら何代にも渡り民の営みを見守り続けてきた悲しき獣。
とある国防の為の戦の帰りに、我は浮浪者の少年と出会った。
彼の者は我の国の城門近くの城壁に背を預け死にかけていた。ボロ布一枚に身を包み、飢えで痩せこけ、瞳に何の精気も感じない死にかけた珍しくも無い少年だ。
我の国の者で無いの一目で分かったが、我の城の壁に背を預けるならば我の愛する民も同じ。手を貸し助け起こすと痩せこけた体が我の方へ倒れ込んできた。
受け止めようとした時に我の心臓に電流が走った。
別にこの浮浪者の少年に恋をした訳では無い、先程まで精気の欠片もなかった瞳に憎悪の火が灯り、我の心臓にボロ布の下に隠し持っていた十字架を模したナイフを突き立てきたのだ。
数十年振りの常人であれば致死に至る傷である。実に見事、殺気を隠す為に死に体にまで自らを追い込み此のような深い傷を我に負わせるとは。思わず笑ってしまう、暫く忘れていた愛すべき死の痛みに恍惚としてしまう。
逆賊として少年を処刑しようとする兵を諌め、少年を飼うことにした。
数百年生きた我にしても遠い過去の話のように思い出す。
話を聞けば我が少年の恋人の仇らしい。我が国は国防の為とはいえ戦はする。その被害者かもしれぬし、我に濡れ衣を着せたい者達は山ほどおるであろう。
ふむ、と我は話を聞き終わると少年の耳元に口を寄せ我の殺し方を囁いて教えてやった。
少年は我の顔を怒りと羞恥の混ざった真っ赤な顔で睨み付けてきた。
中々に可愛らしい反応に今後を楽しみにしたものだ。
懐かしい…………………今は全てが懐かしい
今、少年の顔は我の前にある。愛らしく愛嬌のあった少年の顔は、数年の時を経て精悍で実に男らしい面構えになっている。
しかしその男前な端正な顔も涙と鼻水で見るに堪えない、最後に見る愛する者の顔とは……………あぁ、だがこの顔は初めて見るな…何て可愛らしい表情であろうか。
そっと涙に濡れた右の頬に手を伸ばしいつもの様に撫でてやる。
青年は我の心臓に突き立てられたいつかの短剣から血塗られた左手だけを離し頬を撫でる我の手に重ねてくる。
何度となく手を繋いだこの手で我の呪いを解いてくれたのだ。あぁ、なんと愛しい手であろうか。此れを最後にもう触れることが出来ないかと思うと涙が溢れてくる。あんなにも恋い焦がれた死へと誘う痛みが恐ろしい。
あぁ、あんなにも待ち望んでいた死が恐ろしい。
愛する者との永遠の別れが恐ろしい…………………あぁ、もう…………………声も聞こえ無い…………………顔も見えない…………………あぁ、願わくば貴方の…
「……………………………ありがとう…私の…最愛の人」
読んでいただきありがとうございます。
思い入れは深い設定とお話なので反応次第では掘り下げで少し長めに書くかもしれません。
もし機会がありましたらよろしくお願い致します。