Chapter16-7
「今日シゼラスのエルミスが泊ってるところに泊まりに行ってくる!」
「えぇ!?いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「フッフーン。出会った時から!男は常に出会えば兄弟ってな!」
「…レヴァンあなた、なんかすごく機嫌いいわねぇ。そんなに楽しみにしてるなら、エルミス君って子に迷惑かけない様にね?」
「ほいほいほーい」
レヴァンが家に帰ってきた時には、既に母親が書類とにらめっこしていた。父親はまだ研究所に居るのか、いつも持って帰ってくる大荷物がない。
母親にエルミスの元へと泊まりに行くと言えば、驚きながらも駄目とは言わずに書類を置いて何か手土産の準備をし始めた。
家族にも指摘されて改めて自覚するが、かなり気分が良い。おまけに身体がどこか軽く感じている。
レヴァンは自室に入って鞄を置き、制服を脱いで入浴をする前に体温と血圧を測り、身体の調子を事細かにノートへと書いていく。普段の体温と血圧よりほんの少し高めだが、健康に被害が出るほどの差ではない。ただほんの少し、身体がぽかぽかとして代謝が良くなったかと感じる程度だ。
「そういや……フローイは、"調子が良かった"って言ってたな…。風邪っぴきのあいつだから、最近身体が丈夫になったのかと思ってたが……」
病室で調子が良かったと語っていたフローイに、"最近調子がいいんだって"とにこやかに友人の話していた姉を思い出す。
「(……やっぱ、そうなのかもな)」
確実に他者によって命を奪われてしまった三つ上の姉の友人。レヴァンはノートを閉じて出かけ用のボディバッグに必要なものを詰め込み、風呂場へと向かった。
「うおおおお!!ひっろ!!」
「ここだけは特別らしい。隣に作業場があるからな、その関係で広いんだろ」
「ここエルミスだけで泊ってんのか?うおっ、作業場に魔法炉がある……!」
"父さんは別の部屋だからな、"という説明を聞きながら、きょろきょろとホテルの一室を見渡し、作業場のドアを開け、魔法炉を見て大興奮しているレヴァンに、エルミスはどことなく初めて工房に入ったセリーニの反応に似ていると感じた。
ぱたんと作業場のドアを閉めたレヴァンは、母親が持って行けと用意した紙袋をエルミスに渡す。
「んぉ、気ぃ使ってもらってすまねぇ」
「押しかけてるのはおれだし、ねーちゃんの魔法道具のお礼も兼ねてるんだと思うぜ」
「……お、キッシュじゃねーか」
紙袋からケーキボックスを取り出し、机の上で蓋を開けると、中に入っていたのは見た目も匂いも美味しいと分かるキッシュだった。エルミスは目を輝かせてホテルに置いてある使い捨てのナイフを取り、器用にキッシュをカットしていく。
「本当は今日の晩飯だったらしいんだが、おれが家に居ねぇし、かーさんはとーさんが帰ったら外食するから、これは二人で食べてくれって」
「いいのか?」
「おう。ちなみにこのキッシュ、がちで美味いぜ」
自信ありげに言いながら椅子へと座るレヴァンに、エルミスは再び机に座って綺麗にカット出来たキッシュを取り一口齧る。卵とベーコン、ホウレンソウの複雑且つ旨味のある味わいに、キノコ類の歯触りがいい。下手をすれば味が全体的にぼやけるキッシュだが、卵、ベーコン、きのこ、ホウレンソウの味がどの食材とも邪魔をしていない。最後にふわりと香るチーズの後味に、エルミスは満足そうに最初の一口を飲み込んだ。
「うまい!」
「だろ!」
固唾をのんでエルミスの感想を待っていたレヴァンは、笑顔でうまいと言うエルミスに釣られて笑顔になりながら自分もキッシュを摘まむ。うん、いつもの美味い味だと思いつつ食べ進めると、あっという間に二人で完食してしまった。
その後、ホテルに置いてある軽食等を軽く摘まんで他愛もない話をしていると、エルミスがふと気になっていた事をレヴァンへと向けて質問をする。
「そういや惹起の誘花の種は、花と違って個人所持してもいいのか?」
「個人所持は一応オーケー。ただそれまでに国家資格を持っている事、種は必ず魔法でナンバリングして持ち主と結び付ける事、用途は必ず報告して、実際に研究員か国家のお偉いさん立ち合いの元使用する事。破ったら厳罰…と、まぁ……厳しい!」
「…………わかった。聞かなかったことにしとく」
最後の方は、もはや"違法を犯しています"と言わんばかりの声色で説明しきったレヴァンに、エルミスは自分の頭を数回人差し指でトントンと叩いた後、記憶が空へ飛んで行けという気持ちを込めて指先を空へ投げた。
「種をナンバリングするって事は、違法栽培した花も誰が所持してた種って分かるんじゃないのか?」
「それが、ナンバリングされてない種だったらしくてな。なんでナンバリングされてない種が外に出たのかさえ意味不明で、……だから下っ端から色々聞き出そうとして、くるくるぱーだ」
「ナンバリングされてない種……」
以前セリーニから聞いた話だと、花は特定の施設にて厳重に管理されており、持ち出しは禁止されている。既に野生の惹起の誘花は自生していない。
そして種を外に持ち出すには、魔法で種にナンバリングし、持ち出し主と結びつける事、使用する際は必ず立会人が居るという事。
(花を持ち出すのはまず不可能だな。厳重に管理されてるなら、必ず監視も居る。防魔法も働いてるはずだ)
厳重管理の施設は、法律によってセキュリティー用の防魔法が必ず掛けられている。用途を間違えれば危険物になる魔法炉を使用している鍛冶屋にも必須なので、エルミスは花の持ち出しが絶対に出来ない事を理解している。
(だが種はどうだ…。持ち出す事を前提にしているから、防魔法が種のみ働いてなかったら…?)
花は施設で製造から加工するからこそ持ち出し厳禁であり、防魔法の対象であるならば、持ち出す事が可能な種なら、誰かがその穴を見抜いたものが居る可能性がある。
「なぁレヴァン。種を勝手に持ち出す事って可能なのか?」
「栽培施設からか?うーん…社会科見学の時に施設の見学コースを回ったけど、特別そんな風には見えなかったが…、……いや待てよ」
考え事をするようなレヴァンの表情から一変、何かを思い出したかのように真剣な表情へと変化する。
「巨大会議室で栽培研究員から説明を受ける時に、一回警報が鳴った後に花の植木鉢が来たんだが、種を持ってきた時は警報が鳴らなかった…。……もしかして!!」
「……種だけ持って行った奴がいるって事だ。それも、そのことを知っている、な……!」
レヴァンとエルミスはお互いの顔を合わせながら一つの結論にたどり着く。だがこれ以上は子供の力では無理だと気付いた二人は、そのまま一気にがっくりと肩を落とした。
「犯人特定は大人にやってもらうか…。所詮これも推測だし、ガキのオレ達じゃ無理だ……」
「そうだな……」
エルミスは軽く数回頷いた後、レヴァンの肩に手を置いて魔力の様子がどうなっているか簡易スキャニングを掛ける。ほんの少しだけ乱れ始めた魔力の流れに、"やはり夜中に掛けて徐々に暴走してくるのか"と考えつつ、"記録取っとけよ"とだけ伝えて夜のナノスを窓辺から眺めた。
ハッピークリスマスイブ…明日上げる分でchapterが終わります。
クリボッチ?私はポケモンで忙しいから!!!!




