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Chapter16-4

挿絵(By みてみん)




 消しゴムを使う度にノートと擦れる袖の音を聞きつつ、エルミスは不意に落ちた木の葉に視線を注ぐ。



「……?」



 拾い上げて確認すれば、それは茶ではなく鮮やかな緑。虫か何かに切り取られたかと上を見上げると、大木の枝の隙間から、何かが見えるのが分かる。目を細めて遠くにピントを合わせていくと、チェック柄が見えた。あれは布だ。と分かると、段々と輪郭がはっきりしてくる。



「レヴァン、あそこで人が寝てるぜ」

「え?……マジだ。どうやって登ったんだ…?」

「そりゃあ魔法じゃねぇのか?」



 エルミスの言葉にレヴァンは一瞬びっくりした顔をすると、首を左右に振って否定する。



「ナノスでは、魔法は使えないんだぜ」

「え?……えっと、法律的な?」

「物理的な、」


「………… "流々たる水の軌道" 」



 信じられない、という顔をしているエルミスは、試しにと、比較的周りに被害のない水の初級魔法を唱える。


 呪文は魔法文字となり、くるりとエルミスの身体を軸として魔法文字が回るが、さらりと魔法文字が光の粒となって消えてしまった。



「マジだ…。え、なんでだ?」


「防魔法の関係だよ。ナノスの防魔法は特定の魔法と使用者以外は全て無効にするからね」

「……!!」

「……!?」



 後ろから聞こえてきた声に、大小の子供二人が一斉に振り向くと、先ほど見たチェック柄のシャツを着た一人の男性にレヴァンは大きく驚く、エルミスが"誰だ…?"という不思議な表情を向ける。

 レヴァンが大きく一礼すると、男性は優しい笑みを向けて軽く手を上げる。そのやり方にどこか"リーコスそっくり"だと考えていると、エルミスに慌ててレヴァンが目の前の男性に付いて説明し始めた。



「この方はナノス代表!ナノスでめちゃくちゃ偉い!そんで凄い!」

「代表…、と、いうことは…時計塔管理者の……?」

「おや、そっちの方は知識があるのかな?そう、私が時計塔を管理している。君はナノス出身ではないみたいだね?」

「はい。王都から来ました、エルミスって言います」



 手を差し伸べたナノス代表に、エルミスも片手を差し出して握手を交わすと、"そうか、王都から来たのか"と、感心したように頷いている。随分と大柄なナノス代表だが、何処となく昨日であった娘と似ているとエルミスは考えていると、ナノス代表はレヴァンの書きかけノートにちらりと視線を送った。



「いいノートの書き方だ。流石はアンティ夫妻の教育だね」

「え、おれの親の事知ってるんですか?」

「君の両親とは、よく会議で交流があるからね。よく"うちのレヴァンが、"と、君の話も聞いているし、なにより君は母親そっくりだ。見たら分かるよ」



 "こいつも母親そっくりなのか"とエルミスは考えつつ、しっかりと個として認識してもらえたことに喜んでいるレヴァンを見ていると、ナノス代表はにこりと笑って先ほどの説明の続きをするために口を開く。



「先ほど君が発動しようとしていたのは初級魔法だね?」

「はい。でも初級魔法も弾くんですか?」

「特定の魔法以外は初級関係なく全て弾くよ」

「へぇー…、…あの、じゃあスキャニングは大丈夫ですか?」



 未だに喜んでいるレヴァンを横目に、エルミスはナノス代表の説明を聞く。特定の魔法以外というざっくりとした括りの説明に、ほぼ全ての魔法が使用できないと悟ったエルミスは、スキャニング魔法は使えるのだろかと考えて質問をすると、ナノス代表は少し驚いた顔をした後、エルミスの姿を改めて見る。

 シャツと少しだぼついたズボンかと思っていたものは、袖を腰で括ったツナギで。上半身部に隠れている作業ベルトから覗く鎚と皮ポーチに"鍛冶屋"の格好である事を悟った。



「そうか、その恰好は鍛冶屋の…君はスキャナーだったのか!大丈夫だよ、スキャニングはナノスでも重要な魔法だからね、きちんと扱えるよ」

「よかった……。剣の修理が出来なかったらどうしようか今から考えるところでした」



 スキャニング魔法が使用できなかったら剣の不具合を詳細に見ることが出来ない。せっかくもしもの為にと、エルミスがナノスへと来たというのに、スキャニング魔法は使えないと気付いたら一旦店に戻って打ち直しをしなければならないところだが、それであれば態々携帯魔法炉を持ち込む意味は無い。


 安心したエルミスはほんの少し胸に留まる息を吐いていると、作業の続きをしようとしていたレヴァンが腰を下ろしかけてぴたりとその動作を止める。その不思議な体勢にエルミスは首を傾げていると、再び立ち上がったレヴァンが林の木々を少し駆け足気味にスルスルと抜けていった。



「おい、レヴァン!どこいくんだ!?」

「おれのダチが近くでフィールドワークしてるっぽい!連れてくるから待っててくれ!」



 そういったレヴァンの向かっていく先にエルミスが視線を向けると、レヴァンと同じような白いカッターシャツを着た背中が一つ見える。


 見慣れた後姿なのだろうその友人を追いかけているレヴァンに、"元気だなぁ"と考えながら腰を下ろしていると、二つの後姿を眺めるナノス代表の視線がどことなく険しさを持っているのをエルミスは見た。



「……ところで、すごいお偉いさんがなんでこんなところに…?」

「少しこのナノスで異常事態が起こっていてね。……君もその異常事態を目の当たりにしてしまう時が――今来てしまった、」

「……?」



 そう言ったナノス代表の身体が魔力特有の青い輝きを帯び、目の色も青に染まる。それは"スキャニング魔法"特有の輝きだった。そのままレヴァンと友人の元に近付くナノス代表に、エルミスも立ち上がって後を付いていくと、レヴァンが友人に話しかけている光景が段々と近付いてきた。



「――、か?――い、」



 レヴァンがなにか必死に語り掛けているのが分かるが、相手の声が何一つエルミスの耳に届くことは無い。レヴァンの語り掛ける横顔が、次第に焦りを帯びてくるのが分かる。



「フローイ、おまえどうしたんだよ、なぁ」

「わかんない、でも、なんか、身体が痛くて、」

「こんなとこに居てねぇで病院行こうぜ、顔が真っ青すぎる」


「病院、行こうと思って歩いてるんだ、ずっと、でも身体が言う事聞かなくて」



 普通の足取りで歩いているにもかかわらず、フローイと呼ばれた少年は真っ青な表情で関門へと歩み進んでいく。言葉と思考に反して行動していると察したレヴァンは、フローイの身体を止める様に肩を掴んだ。



「レヴァン、僕どうしたんだろ…」

「おちつけ。とりあえず病院に連れてってやるから…」

「身体が痛い…いたい、」

「っ、おいフローイ!」



 フローイの身体は止まったが、頭を抱える手が震えるほど力が入っているのをレヴァンは察すると、病院へと行くために抱えようとした時、あまり伸びていない爪が皮膚に食い込んでいる光景が目に入る。



「いたい、すごく」

「やめろ。血が出る、」

「止まらない…!」

「だめだフローイ!!」



 痛みか、あるいは混乱か、涙を流すフローイはそのまま食い込んだ爪を下へと降ろし始めた。だがレヴァンはその両手首を掴んで引きはがすと、頭部からゆっくりと血を流すフローイの身体がますます震え出した。



「レヴァン!そいつどうした?」

「……"例のやつ"かもしんねぇ。急いで病院に連れていかねぇと、」

「今ここで処置しなければいけない。手はそのまま、とりあえず座らせよう」

「は、はい…!」



 病院へと連れて行こうとするレヴァンに、やっと二人の元へと近付いたナノス代表がフローイの身体に軽く触れて細かくスキャニングをして決断すると、座らせるように指示を受けたレヴァンがフローイの身体をなんとか屈ませて無理やり座らせる。投げ出された脚でじりじりと土を踏み、レヴァンの腕から逃れようと身体を揺するフローイ。



「君、魔力を放出出来るかな?」

「……、」



 優しい言葉で問いかけたナノス代表に、ふるふると首を小さく振って出来ない事を伝えたフローイは、ただひたすら"いたい"と呟き続けている。"やはりか…"と、言葉を漏らすナノス代表は、胸ポケットからある物を取り出した。



「空のストッカー…」

「君、これを握って…そう、それに魔力を流すんだ…上手だぞ」



 マナが入っていない空のストッカーを取り出したナノス代表に、エルミスはナノス代表が"まるでこうなる事を予測して持ち合わせていた"のかと考える。


 フローイの手首がそのまま頭に行かない様、ナノス代表は適度に力を入れて握って、小さな手にしっかりと空のストッカーを握らせて上から包む様に大きな手で握ってやると、空のストッカーから微弱な魔力の光と共に魔力が空のストッカーを満たしていく。



「むう…一本では足りないか」

「オレ持ってます」

「流石は鍛冶屋だ、頼めるかね」

「はい」



 青白い輝きを放つ空のストッカーはやがて満タンになっていく。全ての魔力を放出するのか、足りないと言ったナノス代表にエルミスはストッカーポーチから空のストッカーを三本取り出すと、満タンになったストッカーをフローイの手から抜いて、新たに空のストッカーを挿し込む。


 瞬く間にいっぱいになっていくのを見ると、相当魔力量が多いのだろう。再び満タンになったストッカーを抜いてもう一本差し込み、約半分ほど溜まったところでフローイの顔色が少しだけ良くなった。



「…よし、これなら大丈夫だろう。レヴァン君、エルミス君、一緒に病院へ来てくれるかね?」

「は、はい!」

「分かりました」



 満タンのストッカーをポーチに仕舞ったエルミスは、フローイを背負うレヴァンの荷物を持ち、先に歩むナノス代表の後ろを付いていく。

 "例のやつ"とレヴァンは言っていたが、一体どういうことなのかとエルミスは考えつつ、風でざわつく木々の合間を抜けていったのだった。





皆さん誰もが思ったでしょう「今日早いね」

でしょうでしょう。今日はちょっと行動パターンを変えたので、いつもよりも早く小説を上げる事ができました。褒めてくれてもええんやで?そんなことよりカーラ隊長のおπを見せろ?カーラ隊長も日焼け対策ばっちりだから肌見せないよ多分。


明日と明後日、ちょっと忙しいのでお休み取らせてください!明日明後日の忙しいのがおわったらお正月休みにはいるので、その二日必死こいて頑張ってきます…。


長年の目標だったローソンの黄金チキンを食べるという目標を果たしました。味はおいしい。でもやっぱりもうちょっとサクサクしててほしかったなぁ。

あと粒マスタードドレッシングで食べる合鴨サラダがめちゃくちゃうまいです。すき。新発売でした。

なんでローソンのサラダって高確率で蒸した南瓜はいってるんだろ…おいしいから嬉しいんですけどね。

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