Chapter14-6
特殊転送魔法陣とは違い、少ない魔力で簡単に動くそれには特別身体に負担が掛からなかったことにエルミスは軽く驚いた。
「あの転送魔法陣、全然魔力食わねぇんだな」
「どうやら時計塔に組み込まれているマナ変換術式によって魔力変換しているらしいので、魔力が無い方でも時計塔に上る事が出来るらしいんです」
「へぇー。っつーことはほぼ自分の魔力を使わねぇから、気持ち悪くなることが無いってことか……」
移動先はまだ時計塔内部だったが、どうやら入口よりも人は多い。嵌め殺しの硝子から景色を覗く者や、備え付けの机と椅子、ソファ等でくつろぐ者もちらほらと見える。突然やって来た第一王子の姿に、姿勢を正して挨拶をする住民に、リーコスは片手を上げて受け止めつつ笑みを返した。
セリーニは挨拶を終えたリーコスと確認した後、一際光が差す場所へと靴音を立てて歩き、見晴らしの良いバルコニーへと足を踏み入れた。
ぴゅぅ、と一際強い風がエルミスの頬を撫で髪を攫って行く。一瞬で乾きそうになった目を潤すために瞼を閉じて再び開けると、エルミスの視界に広がったのは一面の緑だ。
「おぉー…!!一望じゃねぇか…!」
「ふふ、ナノス登れる一番高いところがここですからね」
手すりに手を付いて身を乗り出す様にエルミスはナノス全体が見える景色を眺める。ほとんどが緑だが、緑の間に所々家や店が見える。きっと大木を上手く使って木の上に家を建てたのだろうその技術にエルミスは感心しながら、ふと身体が乗りだしている方向とは反対に圧されている感覚を得た。
「……防魔法か?」
「はい、防魔法によって転落防止の透明な柵が魔力によって編まれているんです」
「随分優秀だな…」
「優秀なのはそれだけじゃあないよ」
柔らかな声が後ろから聞こえる。どうやらエルミスとセリーニが賑やかに会話をしていたのを聞かれていたのか、柔らかな声には少し弾みがあり、笑っているのが分かる。
三人が後ろを振り向くと、少し分厚い眼鏡のフレームを指で押し上げつつ、人当たりの良い笑顔を向けた白衣の男に、セリーニが思わず目を見開き駆け寄った。
知り合いなのだろか、とエルミスとリーコスは二人で視線を合わせ、そのままセリーニと白衣の男に視線を注ぐ。
「ネイド先生!!お久しぶりです!!」
「久しぶりだねアンティ君。一年見ない間に、随分と背が伸びた」
老婆に向けた"先生"とはまた違ったニュアンスを含んで白衣の男を呼んだセリーニに、"ネイド先生"と呼ばれた白衣の男は自分の頭の上に手を当てセリーニと背を比べる仕草をしている。"そうですか?"と首を傾げながらも久しさに笑みを深めているセリーニに視線を向けていたネイドは、少し後ろでやり取りを見ている者たちを見て少し驚きの表情を浮かべた。
「驚いた…第一王子ではありませんか、挨拶が遅くなり申し訳ありません」
「いや、構わない。セリーニ隊員、この方は?」
アステラスを収める王族の顔は、たとえ王都以外の地方であっても、各地方に一年に一回以上必ず訪問している王族の顔を知らない国民はそうそう居ないだろう。
第一王子、と呼ばれたリーコスは、頭を下げて挨拶をするネイドに片手を上げて挨拶を受け止めると、紹介してほしいという意味を込めてセリーニに視線を送る。
「薬学専門学校の時、私が居たクラスの担当教員で、お世話になったネイド先生です」
「初めまして、ネイドと申します」
「ネイド先生。こちらはリーコス隊員…、私の後輩にあたります。そしてこちらはエルミス、今回御父上の付き添いでナノスに来られました」
「改めて初めまして、セリーニ隊員に指導を受けています、リーコスです」
「エルミスです。セリーニさんとは仲良くしてもらってます」
互いに握手をする男たちに、セリーニはにこにこと笑みを浮かべたまま眺める。昔世話になった者と、現在仲良くさせてもらっている者達が知り合いになるというのは、嬉しさがどうしても滲みでてしまうのだ。
「いやぁ、アンティ君は立派な先輩になったんだなぁ…友人も出来てるようで、先生安心したよ」
「そんな…まだまだ新人の気が抜けていないと自覚しています」
「昔と変わらず真面目だねアンティ君は」
肩を竦めながら苦笑するネイドに、昔と変わることなく真面目であるという事を知ったエルミスは、"そういえば、あまりセリーニから昔話を聞いた事が無いな"と、ふと思い浮かんだ。他愛もない話を上巻の間や、工房などでしているにも関わらず、"昔のセリーニ"の話は出てこなかった。
だが昔のセリーニを知る人物は"変わらない"と言っているところを聞くと、本当に根が真面目なのだろう。改めてその真面目さによって色々と助かっている事を自覚していると、等の本人はネイドを見てほんの少し疑問の色を表情に見せながら口を開く。
「そういえばネイド先生、どうしてここに…?今はもう授業では……、」
「ん…?あぁ!そういえばアンティ君は知らなかったんだね」
「……?」
セリーニの言葉にネイドも首をほんの少し傾げた後、眉を上げて思い出した表情を浮かべると、まだ説明していなかったかというニュアンスを含んだ言葉を紡いで時計塔の最上部を見上げる。
その仕草にセリーニだけでなく、エルミスとリーコスも同じように最上部を見上げると、ベルの見える場所から六本の魔法文字の輪がパンッ!と一斉に弾ける様に飛び出した。
空を走り、森を照らす魔法文字の光は時計塔を軸にして広がり、やがてナノスの六つの関門を上を回る防魔法文字に吸い込まれる。ぱらぱらと魔力残滓がナノス全土に降り注ぎ、小さな光が色々な場所へと当たって消えていった。
「随分複雑かつ強力な防魔法だな……」
「ナノスの防魔法は、危険な魔獣等が近寄らない様に特別強力だと聞いている。六つの関門にある柱を軸とし、六本の魔法文字を使い複雑な二重掛けをすることによって、ナノスの平和は保たれていると言ってもいい」
エルミスの独り言を耳に入れたリーコスが説明をすれば、ティールブルーの旋毛に乗っている魔力残滓を指で軽く押しつぶした。
「今日が防魔法のメンテナンスでしたか…管理責任者の代表に御用が?」
「いや、代表ではないよ」
「お待たせしましたネイドさん」
「待ってないよメリシア、毎回お疲れさま」
柔いという言葉を形にしたような声がネイドの名を呼ぶ。バルコニーの入り口から出てきた人物は一見普通の女性ではあるが、ぼんやりと見ていたエルミス以外の周りの反応は随分と違っていた。
「メリシア管理官…!」
セリーニの驚く声に、メリシアと呼ばれた女性はさほど気にする事無くにこりと笑って驚きを受け止める。バルコニーでのんびりと過ごしていたナノスの住民も立ち上がって軽く頭を下げたりなど、随分と"位が高い"人物である事をエルミスは知る。
「あら、第一王子ではありませんか。父とはもうお会いに?」
「えぇ、到着時に挨拶を。メリシア管理官もお変わりないようで」
驚いたままのセリーニから、後ろの方に居るリーコスに視線を移動させたメリシアは軽く挨拶をすると、既に知っている仲なのかリーコスは軽く挨拶を返した。
ちらりとエルミスはリーコスに視線を送る。"偉い人なのは確かだが、誰だ"という視線を上手く掴み取ったのか、少し屈んで耳元に唇を寄せたリーコスは、手を添え耳打ちをし始める。
「(メリシア管理官は、時計塔管理者兼ナノス代表の娘だ。尚且つ時計塔管理者は、ナノスの中で最も地位が高く尊重されている、エルミスも軽く頭を下げておくと良い)」
「(まじか、)」
偉い人はかなり偉い人だった。エルミスはリーコスにしか聞こえないぐらいの小さな声で驚くと、メリシアに向かって頭を下げた。
「メリシア、紹介しておこう。彼女はアンティ君、薬学専門学校の時の元生徒だ」
「あなたの元生徒さんでしたか」
「そしてアンティ君、彼女は僕の妻でね、この時間帯だけ授業を空けてもらっているんだ」
「妻……?」
「そう、半年前に結婚したんだ」
にこりと笑ってそう告げたネイドに、セリーニは両方の顔を交互に見た後、
「えぇー!?ネイド先生結婚したんですか!?」
弟とよく似た驚き方をしたのだった。
リングフィット無かったわ!!仕方ないので任さんが入荷したよーって言うまで待ちます。代わりにポケモン剣買ってきました。相方に聞くには盾の方が良いポケモン揃ってるらしいですが、サイトウに会えないので剣買いました。彼氏がいるフラグ?そんなの気にしてるほど二次創作初心者じゃないよ!!!




