Chapter13-10
いつもの様にシャツとつなぎ、そして作業ベルトの姿で店に来たエルミスは、魔法炉の前で作業をしている父親の背中に近付いて様子を窺う。
「あれ?一日休みにしたのに、」
「ぐーぐー眠ったら元気になった。今日は早く帰るし、やりたいことあるから来た」
修理の続きをしている父親の手元を見ながら、エルミスは作業椅子に座って魔法炉が空くのを待つ。
「ギルド隊員の子、携帯魔法炉取りに来た?」
「ん。セリーニとリーコスが来た」
「そうなのかぁ。知ってる者に行かせますってカーラ隊長が言ってたから、てっきり父さんの知り合いかと思ってたけど…、…っと」
「ほい」
「ありがとう」
魔法炉から引き上げた魔法剣を作業台に乗せようとした父親に、エルミスは作業台を傍へと持っていきしっかりと手で支えて固定する。礼を言いながら魔法剣を置いて鎚で打ち水を掛けていく父親は、なぜかリーコスとセリーニという異色の組み合わせに若干の疑問を持ちながらも、まぁエルミスの知り合いだからいいか、と気にする事無く作業を続ける。
「魔法炉使うかい?」
「父さんの作業が終わってからでいい。どうせ仮完成の為の組み立てだけだし」
「これでもうおしまいだから使っていいよ。それに、父さんも"仮完成"を見たいからね」
打つ手を止めず、そして魔法剣に注ぐ視線もそのままではあるが、父親の表情は興味津々を現した少年の様だとエルミスは思った。スキャニングで確認し、そのまま研ぎに入るであろう父親に、研ぎ石が設置されている機械の周りを軽く片付けたエルミスは、そのまま自分の作業机の引き出しに入れてある透明な金属板と、魔法陣が刻まれている飴硝子のシートを四枚取り出した。
「飴硝子、結局使うのかい?」
「……この金属板に魔法陣と魔法文字を刻むのがかなり難しくて、妥協に妥協を重ねて、普段の飴硝子シートを使うことにした。疑似的な機能は発揮するはずと思って」
「いずれは刻まないといけないんだろう?」
「ん。……とりあえず機能確認、ってことで」
魔法炉の横に置いてある机に素材を置き、ポーチから皮手袋を取り出して装着すると、エルミスは魔法炉の特殊パネルを操作して準備を始める。その様子を父親は気配で感じ取りながら、研ぎの作業に入る前に、熱を持つ魔法剣を常温に冷ましつつ、次は子の背中から様子を窺い始めた。
「うまくいけば、本来使う素材の代用として飴硝子が使えるかもね?」
「それを一応考えてる。でもそれだったら書いてるはずなんだよなぁ……」
代用品が使えるなら、わざわざ取り寄せるという時間を使うことなく作る事が出来る。だがエルミスが言うように、神代の書物に代用可能な素材が記されていないという事は、本来の力が発揮される可能性は少ない。
踏み台に上って魔法炉の中に必要な素材を入れる。時間を費やし完成させた透明の金属板、禁忌と闇属性に対抗する為の魔法文字と魔法陣を刻んだ飴硝子四枚、そして飴硝子を纏める楔代わりとして三つ編みにした飴硝子の細棒をひとつ放り込んだ。
「うわっ、かっ……てぇ…!」
「あ、そうか…透明且つ柔らかい飴硝子とは違って、それは紛れもない金属板。普通の熱伝導だとだめだエルミス、もっとゆっくり温度を上げて……」
「おう……」
魔法炉の中で輝く透明の金属板に何の反応も無いが、特殊パネルを操作するエルミスが驚きの声を上げる。特殊パネルから伝わる指の感覚が果てしなく重い。魔法炉のマナと連動している為、指一つ動かそうにも壁に阻まれているような感覚がエルミスの指の腹に伝わっている。
普段のストッカー作りをする様に、熱を加える事で簡単に丸くなる飴硝子素材と同じ要領で操作したのだろう。うんともすんとも動かない金属板にエルミスの額に汗が伝う。
父親のアドバイス通りに特殊パネルを操作して魔法炉内の熱を上げながら、金属板をゆっくり曲げていく。細く長いストッカーにゆっくりと近付いてくる素材の中に、それぞれ半端な魔法陣が刻まれた飴硝子を四枚入れ、作っておいた楔代わりの三つ編み飴硝子を重なった四枚の中央に刺す。
「おぉ……すごい。ちゃんと出来ているよエルミス…!!」
「あとは上と下を塞いで……」
スイッチストッカーの上下をしっかりと処理し、特殊パネルを操作してマナが発生する熱を下げる。魔法炉越しから伝わる熱で顔が赤くなるほど熱いが、集中しているエルミスにとって些細な事だった。再び踏み台に上がって金属鋏を使い、マナの中で浮いている疑似神代技術製のスイッチストッカーを一本取り出した。
「ふー…あっつー」
「お疲れエルミス。父さん、色々説明を聞きたいなぁ」
「ん。何聞きたい?」
作業机のマットに出来上がったスイッチストッカーを置く。通常の小さなスイッチストッカーとは違い、どちらかと言えば魔力補充のためのストッカーの大きさであるそれは、黒いマットの上で淡い緑のマナの輝きを映しており、中心に一つの魔法陣が浮かんでいる。
「初めに飴硝子を四枚用意していただろう?半端な魔法陣だけが刻まれていたやつ」
「うん」
「あれはどういった意味があるのかな?」
父親が目を付けたのは四枚用意した飴硝子に刻まれた疎らな魔法陣だ。一枚で済ませれば良い物を、わざわざ四枚用意して一枚に纏める手間が必要になる。
なぜその手間をするのか、何か理由があるはずだと目を付けた父親の言葉に、エルミスはまだ熱を持つストッカーを皮手袋越しに手にとり父親に手渡す。
「スキャニングした方が早いぜ」
「……神代文字とか出てこないかな?」
「オレが作ったから大丈夫」
淡く輝きを放つストッカーを手に取った父親は、エルミスの言葉を聞きながらスキャニング魔法を掛ける。
ストッカーが魔力特有の輝きを放ち、魔力の輪が父親と共に上から下へと落ちていく。エルミスは黙ってスキャニング結果を待っていると、父親の表情がどんどんと新しい物を発見したような少年の顔になった。
「多重魔法のスイッチストッカー…!!」
「どうやらちゃんと出来てるようだな…安心した。四つ必要なのは、一つになると禁忌と闇属性に対抗する為の魔法陣になるから。一つずつだと火、水、風、土の魔法文字と魔法陣として働く」
「つまりこれ一つで四つのスイッチストッカーの役割をするのかぁ、すごいなぁ」
「それはあくまでオマケ。本来は禁忌と闇属性に対抗するための魔法陣が本命だから…、それを道具にセットすれば、闇属性が見えるはずだ。……上手くいってれば」
「オマケでも十分だよ。この技術さえあれば、スイッチストッカーを切り替える作業が減るようなものだからね」
あくまで疑似的なものであり、きちんとした材料で作った物ではない為、なにが起こるかは分からない。だがオマケでありながらも、そのオマケがとてつもなく大きい。
二属性、一属性しか持ち得る事しか出来ない魔法属性において、必須と言って良いほどスイッチストッカーは必需品だ。初級魔法であれば二回、三回連続で使えるが、中級、上級魔法となれば一本すぐに消費してしまう。切り替えをするために何度もスイッチストッカーを挿し込むよりかは、一本のスイッチストッカーでなんども切り替えを行う方が効率は遥かに良い。
「これ、誰に試してもらう?」
「うーん…リーコス、って言いたいところなんだが、アイツは光の使者だし闇属性は見える。オレも見えるし…母さんに渡しても、母さん学校だし……」
程よく冷めてきた疑似神代技術スイッチストッカーをエルミスに返しながら誰に試してもらうか質問する父親に、受け取りながらエルミスは考える。
「父さんはどうだ?」
「父さんは自分で作ったやつがいい」
「……」
拗れた職人は、人が作ったやつを見て"自分も創って試したい"と思うものだ。エルミスはそのタイプだが、紛れもなく父親から受け継がれていると感じた。いずれ習得した子から神代技術を聞いて自作するのだろう、首を振ってパスをした父親に、どこまでも職人気質なんだなとエルミスは心の中で言葉にする。
「しゃーね。とりあえずリーコスに試運転してもらって、感想貰うかぁ」
「それがいい。さて、父さんもこれ研いだらおしまいにするから、エルミス手伝ってくれるかい?」
「おう」
手に収まっていた疑似神代技術のスイッチストッカーをストッカーポーチへと仕舞ったエルミスは、父親の言葉に気前よく返事をしつつもうひと踏ん張りと言わんばかりに両ひざを軽く手の平で叩いたのだった。
今ガチャまわしてます。50連できました。んほ^~アストルフォきゅん~
追記 めちゃくちゃイベントすすめたくてすぐあとがき終わらせてしまった…
明日からchapterが新しくなるので21時更新です!次のお話は最終新人研修です。お楽しみに~:)




