Chapter13-5
未だに疑惑が残っているのだろう、普通に働いて金を稼ぐ、という事を実行している事に変わりない態度に、しぶしぶ納得するしかなくなった子孫が、はぁ…とため息を吐く。
「……名は、エルミスというのか」
「…?オメー、オレの名字は知ってて、名前は知らなかったのか?」
「…………そうだ」
"へんなの"という表情を浮かべているエルミスに視線を軽く送った後、再び店主へと戻す。変、というのは確かにそうだ。顔を見て苗字を言い当てたのであれば、名を知っていてもおかしくはないはずなのだ。だがヴィシニスは苗字のみを理解していて名を知らなかった、エルミスはそれを"へんなの"で終わらせた後、こくりと頷いて"エルミス、エルミス・ロドニーティスな"と付け足す。
「はぁ~い、おまたせ!エルミスちゃん今から寝るなら、量は半分にしておいたわよ!」
「ありがとコラーリさん。いただきまーす」
「ヴィシニスくんの分もいまから作るわねぇん♡」
「……俺も、これと同じものを貰えますか」
「あ~~らっ!!いいわよぉ~♡」
これ、とエルミスが一口掬った半オムライスを指したヴィシニスに、フライパンを洗うコラーリがバチーン!と完璧なウインクを決めると、新しく材料を用意し始める。慣れた手つきで炒める食材をみじん切りにしているコラーリを見ているヴィシニスを、エルミスは少しだけ物珍しさを感じながらグラスの水を飲む。
「そういえばエルミスちゃん、今日はもうお家に帰るって事は…根詰めしてた事が終わったのん?」
「まだ完全に、って訳じゃないんだけど……一応目途が付いたのと、眠気で集中力が切れそうだから、体勢を整えてもう一回チャレンジする為に一度休んだほうが良いって考えてな」
「あらそうなの?じゃあもう一回チャレンジして成功したら、晴れやかな気持ちで東の森でキャンプできるわねん」
「コラーリさんって新人最終研修に行ったことあんの?」
二人の会話を隣で聞いていたヴィシニスは薄らと目を見開き、キュッとアスタリスク形の瞳が一瞬狭まった後瞳孔が少し広がる。会話を続けている二人の声を、動揺という色で少し染まる思考が掻い摘んでいるが、どれも話題の補足ばかりだ。
会話内容が始まるきっかけは何だったか。そうだ、店主の東の森でキャンプという話だ。そこにロドニーティスの子孫、エルミスと名乗る者が"新人最終研修に行ったこと、"と話を続けている。つまりこれは、
「……エルミス、貴様は来週東の森に行くのか」
「ん?あぁ、といっても比較的ナノス地方に近い場所で待機するっぽいから、あんま森の中って訳じゃねぇらしい。…なんだよ?」
「…………迷子にならないように、な」
気を付けろ、あるいは行くな、という事は簡単だが、下手に勘繰られしまっては"最優先事項"である"魂と生命の回収"に支障が出てしまう可能性がある。余計な事をされてしまっては、己も、隣にいる子孫も護る事が難しくなる。
危険な場所へと出来るだけ向かってほしくは無いが、引き留める術はない。ならば出来るだけ気遣いながらも、魂と生命の回収をした方が効率が良い、そうヴィシニスは考えをまとめた末の"迷子にならない様に"という言葉だった。
"…?おう、"と、首を傾げながらも素直に返事をするエルミスに、向けていた視線を戻したヴィシニスの前にオムライスがやってきた。ケチャップで特大のハートマークが書かれているソレを、容赦なくオムライス全体にしっかりと塗る様にスプーンを動かすヴィシニスに、ハートを潰されても尚"思いっきりで、す・て・き♡"と、腰をくねらせていた。
食事を食べ終えてホットミルクも飲んだエルミスが、眠たげな目を擦りつつコラーリへと代金を払う。
「おねむねぇ、やっぱりお店で寝た方がいいんじゃなぁい?」
「なんだかんだ言って、家のベッドが落ち着く、ちゃんと帰れるから大丈夫」
「そーお?はい、おつりの30レクト。気を付けて帰るのよん?」
「ん、」
こっくりとエルミスの頭が上下に動く。店を出る小さな背中を心配そうに見送ったコラーリは、出来上がった土産をヴィシニスに渡すと、ほんの少しだけ申し訳なさそうな顔色を浮かべた。
「ヴィシニスくん、お仕事上がりで悪いんだけど…エルミスちゃんをお家まで送ってってくれないかしらん」
「……分かりました」
「ありがとう。あの子、根気詰めると仮眠もとらずに熱中するから、この前玄関前でしゃがんで眠ってたってエルミスママが言ってたのよぉ。じゃあお願いねん♡」
店を離れる事の出来ない店主にそう言われてしまえば、土産を受け取ったヴィシニスは素直に頷くしかない。まだ出て時間は経っていない為早く合流できるだろうと考え立ち上がると、投げキッスをする店主にぺこりと頭を下げて店を出た。
薄明るいが、まだ太陽は出ていない。人は店の前を掃除する老人や、店内を準備する店員がいるぐらいだ。がらりとした大通りの奥に見える小さな影をよく見ると、眠気を纏う小さな頭がふらふらとしている。
懐に土産を入れると同時に空間魔法を展開して大事に仕舞うと、屋根に一度上ってエルミスの元へと近付こうと決めたヴィシニスは軽々と屋根を上って移動し、あっという間に小さな頭を目で捉えて地に着地する。
急に現れたヴィシニスに一度びっくりした表情を浮かべたエルミスは、"なんだお前か…"と、警戒心が無くなった表情を浮かべて歩き出した。
「……送っていけ、と店主に言われた。抱えるぞ」
「…は?へあ…!?」
「……家は、あの青色の屋根の三つ隣、蔵がある場所か」
「ん…そうだけどよ、なんで知ってうわっ!?」
襲わない、と言ったのは確かだが、やはり警戒心は少しだけ持ってほしい、とヴィシニスは思いながら、小脇にエルミスを担いでもう一度屋根に上り移動する。
的確な家の位置情報を唱える相手に、エルミスは何で知っているのかとぼんやりした思考と共に言葉として吐き出した途端、勢いよく風を切って移動する魔族に軽く悲鳴を上げた。
次第に慣れてきたのか、風が頬を撫でる心地よさに余計眠気を誘われながらも、重い瞼を何とか上げて耐えていると、あっという間に家へと着いてしまった。
すとん、と地に足を着けたヴィシニスは小脇に抱えていたエルミスを玄関前に立たせると、鍵を開けるまで監視する。その視線にストッカーポーチから鍵を取り出そうとしているエルミスが気まずそうに見ている。
「…なんだよ」
「……玄関前で丸まって眠ってしまっては、送った意味がない」
「げっ、…コラーリさんだな。ちゃんと入るし、ちゃんと歯磨きもするし、ちゃんとベッドに入るって…」
そういってガチャリとドアを開けたエルミスは、完全にドアを閉めきる前に"サンキュ"と声を掛けてドアを閉めた。
ドア越しから聞こえる廊下を歩く音にヴィシニスは大丈夫だろうと考えつつも、やはり不安を感じ取って屋根に上り、エルミスの魔力がどこに居るのかを探る。今は一つに留まっているが、時折動いているという事は歯を磨いているのだろう。そのまま長く移動し、丁度ヴィシニスの真下に魔力の反応がある。
人の形から蝙蝠へと姿を変えると、屋根の先に掛かっている雨どいにぶら下がる。薄く開いているカーテンから見えるエルミスの姿に、どうやらちゃんとベッドに着いたことを確認すれば、そのままステーキハウスへと向かう為に、羽を伸ばして飛び立った。
実は可愛い女の子が歌っているポップコーンメーカー、やったことがないです。顔をお食べよと言ってくれる方の機械では作った事があるんですが…一応機械はどっちも地元にあります。やるか、やらないか、ただそれだけ。
一年ほど前に映画館でキャラメルポップコーン食べました。やっぱうまいわキャラメルコーン。あれが家で食べれたら…と思うけど、絶対太るから家で食べれる手軽さはやめてくれ。




