Chapter13-3
自空間とは、空間魔法の応用ではあるが、通常の空間魔法は"移動魔法"や、物を保管するための小さな"入れ物"を指す。
だがカルティアが作る"自空間"は、スキアによる"魔王直属の特権"という魔法効果によって、小さな一室を魔法で作り上げた物だ。この自空間はカルティアが死ぬか、スキアが死ぬかしないと永遠に消えることはない。
そんな改造によって出来た趣味の一室に、吸血鬼が来るのは三度目だ。どれも闇魔法の掛け直しによる訪問だが、吸血鬼にとってカルティアの趣味部屋を一言で表すと、
(……相変わらず、気味の悪い部屋だ)
コツ、と靴音を慣らして赤い床を歩く吸血鬼は、ポップな壁紙によってチカチカとする目を擦りたい気持ちを抑えつつ、目の前を歩く黒い少女を追いかける。
可愛らしい部屋ではあるが、その部屋の色に似つかわしい鉄格子が、通路を残してびっしりと一面に広がっていた。
「ツインズさ~、新しい素材を"接いだ"から、闇魔法は既にほつれちゃったんだよね~……」
「……なぜその時に言わなかった」
"接いだ"と言うカルティアに、吸血鬼は事後報告になってしまっている事を指摘する。背中を飾る黒いリボンを揺らしながら、振り返ることなく頬を軽く指で掻いている目の前の少女は、"ごめんごめん~、まさかツインズを使うなんて言うと思わなくって!"と言い返すような、独り言の様な、どっちつかずの声量で答えた。
「ツインズー、闇魔法の掛け直しだよ~」
一つの鉄格子の前にで足を止めたカルティアは、アスタリスクの瞳を輝かせて魔法を発動させると、鉄格子の鍵を外して入室する。
ツインズとは、魔獣の一種であり、必ず番で行動する魔獣である。木の実や魚を好んで食べる、黒い毛皮で覆われた四足歩行の魔獣ではあるが、臆病な性格の為魔族や人間の前から姿を現す事はあまりない。
普通の動物で例えると"クマ"という種類に近いが、決定的に違うのは"目がない"という所だろう。その代わりに耳と嗅覚が発達しており、歩く時に鳴る草や落ち葉の音が様々な物に当たる反射で距離を測り、嗅覚によって嗅ぎなれていない物や危険な物には近づかず、すぐに逃げる。
だがこの牢獄に入っているツインズはどうだろう。
幾度となく混ぜ合わさった物は既に吸血鬼は見ていたが、つい最近も接いだと言った少女の力作は、もはやツインズの欠片も感じさせない程になっていた。
「イスキオス様の元から返ってきてからさ、やっぱり目を付けた方がいっかなーって思って、余ってた人間と魔族の目を適当に付けたんだよね。六つもあれば最強じゃない!?」
「……どうでもいい。…闇魔法が全て解けているのは今更報告をしても余計な事なのでしないが、次は必ず言う事だ。……スキア様が必ず、と言っている事を熟せ。俺に余計な手間を掛けさせるな…」
「ほいほいほーい。しっかし、ワタシもちゃんとした闇魔法が使えたらなぁ…特権を得ても、闇魔法の使える範囲が限定されちゃってるし……」
一室の端で番を護りながらも怯えるツインズに近付いた吸血鬼は、小言を言うカルティアを余所に懐からランプを取り出す。儚く、そして侘しさを感じる青と赤の光が二つずつ閉じ込められていた。
アスタリスク形の瞳を輝かせて魔法を発動する。魔法文字が形成され、一本、二本、そして三本と瞬く間に完成されていく魔法文字は吸血鬼の周りをくるくると回り、一つに纏まって吸血鬼の足元に魔法陣が現れる。
ランプの中身が全て魔法陣に吸収されると、輝きを放ちながらも黒い魔力がツインズを包み、そして身体に溶け込む様に魔力が消えていった。
「おぉー、"魂と生命を形作る為の闇魔法"……相変わらずすごいねぇ」
「……魂と生命の回収は最優先事項だ。解れた報告は必ずしろ、……いいな」
魂と生命を形作る為の闇魔法が解けてしまっては、せっかく回収しようとしても、行動対象に魔法が掛かっていなければ、殺してしまった魂は形を留めず昇華してしまい、生命はそのまま費えてしまうからだ。殺し損、と言ってもいい。
"魂と生命を回収する"事が使命の吸血鬼にとって、闇魔法が解けた対象が幾ら魔族や人間を攻撃しても、回収できなければそれは余計な時間でしかない。余計な事を嫌うからこそ、念を押して伝える。
「……用は済んだ、…帰る」
「えー、もう帰っちゃうの?ちょっとぐらい遊んで行かない?」
「……余計な事はしない主義だ。留まる事もない」
「冷たーい!!……帰っちゃった」
パチン、と指を鳴らして空間魔法を発動させた吸血鬼は、早々とその場を後にする。冷たいと叫んだカルティアの声が室内に響くころには、もうすでに魔法陣は消えてしまっていた。
「むっ、おかえリ」
「……南の回収はどうだ」
「んー、順調だナ。なに使ってるかさっぱり分からないガ…多分暫くは安泰だロ」
独特な趣味で彩られていたカルティアの部屋からイスキオスの居る根城へと飛び、要件を聞いた後吸血鬼が次に足を着けたのは己が根城にしている小屋の床だった。
小さな椅子に座って可愛らしい机の上で発動している魔法陣の上に置かれたランプを見つめながらエスリーアは報告をすると、"……そうか"と呟いた吸血鬼は、降りている前髪を後ろへと撫でつける為にワックスを懐から取り出す。
「おっ、ラグダーキいくのカ!?」
「……アルバイトの日だ」
「カツサンドが凄く美味しかっタ!あれを持ち帰りの箱ごといっぱい詰めてくれって言ってくレ!」
「……分かった」
特別気にはならない前髪ではあるが、後ろに撫でつける事によって視界がよりクリアになる。見えすぎる、というのが少しだけネックなのだが、人前に出るというのに前髪が降りたままだと人相が分からない、と店主に言われてしまったのだ。
持ち帰りが大変気に行ったのか、尻尾をちぎれんばかりに振って注文をするエスリーアに、ヴィシニスはほんの少しだけ表情筋を動かし穏やかな瞳を向けた。
蜂駆除の映像って、なんであんなにおもしろいんだろう。私の前世はきっと天敵の鳥に違いない。
ハチの巣、家のサッシにちっちゃいのを作っていたのを発見したのは良いんですが、垂直にハチの巣を作っててびっくりしました。そんなので大きいの作れへんやん…と思いながら壊した思い出。
水曜日おやすみ実施してみます!木曜日19時の三十分遅れに会いましょう!!




