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Chapter11-2

挿絵(By みてみん)




 ごそごそとポケットに手を入れて五つの輝く小さな石を取り出したスピーサは、エルミスの作業机の上に一纏めで無造作に置く。


 桃色の目に浮かぶアスタリスク形の瞳を魔力特有の輝きに変えて魔法を発動させると、一纏めになっていた石が机の上で綺麗な輪の形を成していた。輪の中に色々な模様が描かれた腕を突っ込み、一纏めになった風呂敷を取り出す。



「ほいっ、頼まれとった分全部な。確認してや」

「ん、」



 風呂敷の結び目には丁寧にシゼラスと書かれた紙のタグが引っかけられており、商人の几帳面さを窺わせる。


 皮手袋をしっかりと嵌めごそごそと結び目を解いて風呂敷を開けると、父親とエルミスが頼んでいた素材がしっかりと用意されていた。"父さーん!"と工房からカウンターにいる父親に声を掛けたエルミスは、工房を覗くことが出来る特殊硝子越しから確認する父親に素材を見せる。にこりと笑って指でオッケーサインを作った父親にエルミスは首を縦に振って軽く頷くと、次は自分が依頼していた素材を確認する。



「キアマの涙、クゥェイル石…おっ、キフロス混合石!ダメ元で言ったのに良く手に入ったな」

「当然や!誰やと思てんねん、世界一素材を手に入れる事が出来る甘いマスクの伊達魔人…その名も!ス、」

「ん、全部そろってる。サンキュ」

「ちょい、最後まで言わせて―な」



 取り出した素材を丁寧に木箱へと仕舞い、特に貴重な素材は地下書庫の一部にある素材置き場へと保管する為に、エルミスは力説するスピーサに礼を言いながら地下階段に続くドアを開け階段を降りる。


 スピーサは小さな背中が地下へと降り立っていく様子を見送りながら、タダの布となった風呂敷を丁寧に畳んで魔法が発動している石円の中へと仕舞う。綺麗に並んでいる石を五つ全て回収しポケットに戻すと、ふとエルミスの作業机に置いてある一枚の金属板が視界に入った。



「……これ、どっかで見た事あるな。どこでやろ…」



 魔人として生まれ、生きる事およそ二千年と百年と十七年。十七年はほぼ必要ないが几帳面な己にはたとえ無意味な数字であっても数えてしまう。

 寿命も人よりも格段に長い魔族にとって、二千年と百年と十七年の間…二千百十七年の長い月日の中から"これだ"と断定する記憶を引っ張り出すのは難しい。だがこの金属板はどこかで見た事がある、そう思いながらスピーサは金属板を手に取る。



 重さがある。小さな金属板だが、小ささに見合わない重さを手から感じた。スキャニング魔法を使用できないスピーサは、じっくりと金属板の表面を観察する。ほんの少し色にムラがあるところを見ると、どうやらこれは失敗作として作業机に置かれていたらしい。




(ムラが出来て失敗作……まさか、なぁ…)




 金属板から作業机の端に寄せられた使いかけの素材に視線を移すと、特徴的な二つの素材が丁寧に小さな容器に入れられているのをスピーサは発見する。


 まさか、と思っていた事がどうやら当たっていたようだ。とん、とん、と階段を上がる音と共に顔を出したエルミスは、金属板を持つスピーサを見て一瞬だけ驚きの表情を浮かべたが、地下書庫に繋がるドアを閉めて作業椅子へと腰掛けた。



「商人のアンタなら分かるんだろ?」

「当然や、何年やっとるおもてんねん。…神代時代の技術なんて、もう誰もやってへんさかいびっくりしたわ。どこで知恵付けてきたんや?」

「企業秘密」

「余計気になるやん!まぁ無くなってしもた技術が再び蘇るんはええこっちゃ」



 スピーサの質問にはしっかりと口禁魔法が掛かっているため答えを出す事は無かったが、代わりに企業秘密という単語を使って回避したエルミスは、失敗作を持つ相手の手から金属板を返してもらう。



「スピーサは元々の神代技術は見た事あるのか?」

「あるで。ただ知識はあっても技術者やないでな、やり方はさーっぱり分からん。ワイら魔族のモンで鍛冶屋をやっとるやつなんておらへんかったでなぁ…誰か知っとるやつがおったら、少なくとも今も技術継承はできとったやろけど」

「それはしょうがねぇよ。…そういやさ、」




 魔族の寿命は長い。


 神代魔法や神代技術が絶滅してしまった前の時代に生きている魔族は多くいるだろうが、魔族が鎚を握って鍛冶をする事はほぼないと聞いている。その証拠に魔人や魔人亜種もアステラス王国に足を踏み入れて自分に見合った武器を仕入れるので、魔族の住まう場所に鍛冶屋や武器屋がないのはほぼ確定と言ってもいい。


 凄い技術なだけに残念や、とため息を吐いているスピーサにエルミスが話を切り替える単語を発する。



「ん?なんや」

「魔族って、みんな闇属性の魔法を使うってわけじゃあねぇのか?」



 エルミスの単純な疑問だった。魔族ではなく人間であるエルミスにとって、闇属性というものに出会ったのはつい最近の事だからだ。


 義務教育で"闇属性の魔法は魔族が使用することがある"としか習わなかったが、昨晩魔族と戦っていたリーコスの戦いを見ても、相手の魔族は闇属性の魔法を使用していなかったのだ。


 その疑問に対して魔族であり魔人であるスピーサは"あー…なんて説明したらええんやろか…"と後頭部を軽く手で掻きつつ視線を明後日の方向に向けてどう説明するか考えていると、頭を掻いていた手を下ろしてエルミスの父親が作業する時に使用する椅子を引っ張って座る。



「闇属性にはな、種類があんねん。簡単に言えば疑似と本物やな」


「疑似と本物…」



「せや。ワイらはほとんど疑似の闇属性魔法を使う。好んで使ってるとかそういうことやない、"疑似"が一番"安全かつ簡単"やからや」

「…ちょっとまて、じゃあ本物は安全じゃないっていうのか?」



 スピーサの説明通りであれば、本物の闇属性の魔法が"危険"である事を示している。魔法は必ずしも魔力さえあれば発動するものではない、技術が必要だったり、必要な誓約を掛けて魔法を発動させたりもする。


 だがまるでそんなちゃちなものではないと言わんばかりの真剣な表情で語る奇抜な魔人は、エルミスの質問にひとつ、縦に頷いた。




「まず疑似的な闇属性の魔法は、それこそ多くの魔人や魔人亜種が使う。ただそれは人間が使う"無属性魔法"とほぼ変わらへん。人を眠らせたり、身体を動かされへんようにしたりする束縛魔法。ワイの様な疑似的空間を作って荷物を入れたり、場所から場所へと移動する為の空間魔法。……ただ、人間が使う無属性魔法とちぃとちゃうのは、魔族特有の闇属性の魔力を使って発動させる事によって、無属性が闇属性に変化する…その魔法を使う対象が人であれば威力が無条件に上がるいうこっちゃ」



 魔法には属性があり、人もそれぞれ自属性を持っている。エルミスは火と水、ただの魔力を己の属性に変換し、詠唱をして魔法を発動させる。


 それと同じで魔族も闇属性の魔力を持っており、無属性魔法を闇属性で発動させる事によって、無から疑似闇へと変化するのだろう。理屈は理解できた、それであれば無属性魔法と然程変わらないということだ。




「無属性魔法に色を入れて疑似闇魔法となるって事か?」

「せやせや。簡単に言うならな。ただ人にのみ効き目が凄いいうだけで、無属性の魔法には変わりあらへんさかい"疑似闇魔法"やねん」


「なるほどな…じゃあ本物は?」



 今一度復習を兼ねて簡単に確認すると、エルミスの説明にうんうんと頷くスピーサ。だが本物はなんなのか、という質問に対しては、少しだけ躊躇しているのか一瞬考えこみ、ゆっくりと言葉を発する。



「本物はリスクがあるんや。ほとんど禁忌と言ってもええほど、発動条件をそろえるところからえぐい。ただ絶大な魔法であることには変わりあらへんねやけど…ワイらまっとうな魔族やったら"本物は避ける"」

「…一番軽い本物の闇属性の魔法ってどんなだ?」



 それほど凄いのだろう、そして実際に知っているのだろう目の前の魔人に対し、一番リスクも低く、そして一番簡単でマシな魔法を訪ねると、アスタリスク形の瞳を隠す様に目を瞑ったスピーサは、一呼吸置いて口を開く。



「―――魔族一人と人間三人の命と魂を生贄にして、魔人亜種一人を馬鹿デカく強いバケモンに変える。人格も消える、言葉も喋られへんくなる、大事やった家族も、」


「いい、いい、わかった…軽いのでそれだったら、もう十分…」

「ふぉうは…」



 発動条件からえぐい、と聞いていて覚悟していたが、まさか魂と命を使って発動するものだと聞き、バケモノを想像してしまったエルミスは脳内で人を襲う光景を想像し思わず語っているスピーサの口を手の平で塞いだ。もごもごと口を動かすスピーサの擽ったさに手を離すと、エルミスは肺に溜まった空気を換える様に深呼吸を一つする。



「まっ、やっとるやつなんて相当なアホか馬鹿しかやってへんさかい」

「目の前にいるアホは大丈夫なのか?」

「ワイはイケメンやさかいに――って、誰がアホやねん!!」

「はいはい。とりあえずオレ、次にほしい物ここに書いといたから…」



 スピーサの乗りツッコミで空気を変えたエルミスは、ごそごそと作業ベルトに付いているストッカーポーチからメモを取り出しピリッと一枚破いて渡す。


 人差し指と親指で摘まみメモの文字を見るスピーサは、新しく書かれている二つの素材を見て首を傾げた。



「コーダル輝石…?赤い宝石なんて鍛冶に使うんか?」

「いや、それは飾り用。もしあったらでいいけど、無かったらルビーでいい」

「まかしときぃや。第五大陸のネフェロマに宝石職人のツテがあんねん、ちゃんとエエとこ貰てくるさかい三ヶ月間楽しみに待っとき」

「サンキュ。んじゃお言葉に甘えて楽しみにまってっかなー…」



 黒い皮ジャケットの胸ポケットから可愛らしい手帳を取り出したスピーサは、エルミスからもらったメモを丁寧に挟むと、ぱたんと閉じて元の場所に戻す。


 礼を言ったエルミスは立ち上がってスピーサを見送る為に工房のドアを開け、後ろに立っているはずであろうスピーサが通りやすいように少し身体をドア側に寄せたが、肝心の相手が椅子に座ったまま間抜けな顔を見せていた。



「…?どうしたスピーサ、」


「ロドニーティスはん…?」


「うん…?」

「…!あ、いや、なんもあらへん…あは、あはは!お邪魔したなぁエルちゃん!!」

「おい、声のボリュームが五割戻ってるぞ…」


「ほなお二人さん、三か月後また来るわ~~!!」



 間抜け顔を戻したスピーサは勢いよく椅子から立ち上がり、元にあった場所へと椅子を戻した後小走りの如く工房から出た。


 動揺しているのか声のボリュームを調節する事を忘れて笑いつつ、ドア前に居るエルミスとカウンターに座っているレオンに手を振り人混みへと消えていく。


 歩く大嵐のような騒がしい魔人は、通りの良すぎる声を響かせながらそこら中に挨拶を交わしているのがエルミスの耳へと聞こえてきた。魔人という種族の違う人でありながらも、人気の商人だけあって慕われているのが分かる。



 やがて遠くへ行ったのか、はたまた怒られたのかは分からないが、良く通る声が聞こえなくなったところでエルミスは工房の中へと戻り、常連が来るまでの間神代技術の壁に立ち向かうのだった。




ラグビー決勝を見ながらの編集画面。いい試合している…。

みなさんカプリコってしってます?ちょっと前に上だけが発売していますが、私は下のコーン全てを愛している為、上だけのやつは買った事がないです。


そのカプリコなんですけど、私は毎回ホームセンターのレジ横で買うんですが、夏に買うと毎回チョコレートが溶けてて、上の剥がし紙にちょこがべったりついていて悲しい気持ちになっていました。


今日買いました。ちゃんと頭がありました。っっぱ春秋冬なんだよなぁ~……夏にも食べれるようにしてほしいですコ〇リさんお願いしますなんでもしますから、



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