Chapter10-5
中間地点で、死、それほど詳しくは書いていませんが残虐な表現があります。マイルドに言うと脳がぱーんとしています。苦手な方はさらっと読んで飛ばしてください。
「参謀に任せておけば大丈夫だな」
「恐縮です第一王子。私もこの事件を追っていたのですが、第一王子の手を煩わせてしまったことに謝りを入れなければいけませんね…」
「気にするな。これはどのみち私も出向かなければいけなかった案件に違いない。後は頼むぞ」
「畏まりました」
参謀と第一王子のやり取りを罪人専用の荷台で聞いていた男は、誰も見ていない暗い荷台の中で細く微笑んだ。
助かる。
誰も分かっちゃいない。最終的に女神が微笑んだのだ。まだ自分を利用する者がいる。だからこそこうして助けの手が差し伸べられた!そうアルマンは歓喜した。
ごとんごとん。レンガ道の音が運命の階段を上っている様だった。縦に二本、小さな空気入れの為に開けられた穴から景色を眺めつつ、罪人を入れる為の施設が見え始める。暫くして景色は外ではなく建物の中に入った。ゴゴゴゴ…ガ、タンと厳重な扉が閉まる音がする。
ギィ…と、重い音を立てて荷台の扉が開くと、男は軽い足取りで荷台から降りた。
辺りを見回すと二人見回りが見えるだけだったが、アルマンは素直に参謀の指示に従って深い深い独房へと入り込んだ。密室になっている厳重な場所に進んで足を踏み入れたアルマンは、背中にある縛られた手首を参謀へと見せた。
「参謀さんよ。早くこれ解いてくれよ。俺を生かしたって事は、"また俺を使ってくれる"って事だよな?」
参謀自ら独房へと案内したということもあって、警備の者はだれ一人としていない。アルマンはそれを分かっているため声に出して錠を外す事を頼んだが、参謀は表情を崩すことなく眼鏡のフレームを上げるだけだった。
「お、俺は何も言わなかったぞ!何も言わない、何も語らないっていうのが約束だっただろう!!俺は守った!!あんたに金を貰って工場を買い取り、罪人も雇った!死体は分からない様に処分した!やばい仕事が長く続いたんだぞ……これ以上ないだろう!!」
手を振る事もままならない為、アルマンは上体を大きく使って訴える。
多くの資金を与える代わりに、こちらの言い分を実行してほしいという参謀直々の命を受けた。下級にあったアンヴォス家の地位を上にしたい、という思いもあってか、金か人の命か、という天秤を掛け、アルマンは"自分の命を天秤に乗せているわけではない"という答えを出し、参謀の指示通りに金を使って工場を買い取り、罪人を雇い、出た死体を秘密裏に処理した。すぐに暴かれると思った悪事も一年続いた。なぜバレたかは分からないが、
「次はうまくいく!!」
アルマンはその言葉を確信として口にした。
次やるとしたら、決して自分の姿は表に出ることはないだろう。だが金を使う事、人を動かす事、命を自らの手で握る事への愉しみを味わってしまった。
「――君に、次があると思っているかね?」
「なっ…、そ、それなら貰った金は返す!自分の資金で人を買ってアンタのやってる事に協力する!だから命だけは、」
「命だけは、という言葉を口にしたという事は…今から君は"命を散らす"という事を分かって言っている…」
「……!!」
興奮で血色の戻っていたアルマンの顔が、さっと青くなる。それは、と言葉を漏らしたアルマンに、コツと足音を立てて参謀が一歩近付いた。
じり…と革靴の底に付いた砂利が床を鳴らし、アルマンが一歩下がる。
「金は要らない」
「な、なら…」
「人間は金という無価値なものに執着しすぎる」
スッ――と眼鏡を外した参謀は、目の色を碧から赤へと変えると、瞳の形をアスタリスクへと変化させる。ヒッ!と短く上がった悲鳴は何度も聞いたことのある、死ぬ前の人間の特徴である事を参謀は良く知っている。
「金をいくら積んでも、魔王様が蘇る事はない」
「ヒィッ!!」
勢いよく後退りしたアルマンの背中に当たる硬い壁が現実であることを伝えている。逃げ場がない。そう思った時には大きな手がアルマンの頭を掴んでいた。
「百万、一千万、一億の金よりも、」
「ひ、ぁ゛、あ゛!」
「一人の命と魂の方が、一歩魔王様の復活につながるというものだ」
「ア゛ッ―――…………」
ベキッ、グシャッ。硬い頭蓋骨を潰し、柔らかな脳に指を食い込ませる。
あれほど震えていたアルマンの身体は一瞬ビクッと痙攣したが、芯が抜けたようにだらりと身体の力が抜け落ちた。溢れ出る赤と青の灯を、懐に仕舞っていたランプへと丁寧に入れると、誰もいない独房の真ん中でパチンと指を鳴らした。
ズズズ…と地面に浮かび上がる魔法陣から、二人の魔族が現れる。一人は黒く長い髪を二つに括り、愛らしいシックな黒い衣装を身に纏っている小柄な女魔族。もう一人は白く短い髪と、飾りっ気のないさっぱりとした白い衣装を身に纏っている背の高い男魔族。色と身長は正反対だが、どこか一纏まりしている二人を呼び寄せた参謀は、床に崩れ倒れている人間だったものを見ながら口を開く。
「元に戻しておけ」
「はぁ~い!スキア様、今日は結構綺麗に壊してくれたから早く直せそう!」
「そうか、今日は比較的綺麗な方か」
にこにこ、と笑いながら頭の皮膚から飛び出した頭蓋骨を摘まみ出し、飛び散り落ちてしまっている脳を拾って押し込む女魔族は、紫に輝く魔力を手に纏わせてぐちゃぐちゃになってしまった頭を、まるで粘土の様に形成していく。
脳を押し込み、頭蓋骨を接着し、切れた皮膚を指でぐにぐにと撫でながら馴染ませると、魂のない人間の形に戻った。
「スキア様…"どんな性格にしますか"」
「裁判にて判決を下す際、受け答えが出来る様に…元の魂から必要な分だけ情報を形成し、"イエス"と応えれるほどの余力があればいい」
「分かりました」
スキア、と呼ばれた参謀は手に持っていたランプを背の高い魔族に渡すと、澄んだ金の目の中に携えたアスタリスク形の瞳で青く輝く魂を覗き込む。
ランプの周りを回り始める魔法文字は二本目が完成したと同時に一つに纏まると、青く輝く魂から様々な情報が魔力を纏う文字として周りに漂う。持っていたランプをスキアに返した長身の魔族は、漂う情報文字を吟味するように視線を滑らせつつ顎に指を掛けて考えを纏める事、約十秒。
長身の魔族が漂う情報の文字を指で摘まんでいく。名前、年齢、性別、生命活動に必要な筋肉の動かし方、喋り方、家族構成、最近の出来事、必要な物だけ全て摘まんだ後、残った情報を手で掃って消すと、摘まんだ指二つを軽くくにくにと腹で揉み合わせて離す。青白く輝く情報の塊がビー玉ほどの大きさとなって現れると、"直した"人間の中に入れた。
びくんっ。と、大きく"人形"が跳ねる。三人の魔族がじっと見つめて様子を窺うと、起き上がった人形に長身の魔族が声を掛けた。
「名は、」
「アルマン…アルマン・アンヴォス」
名を口にした。少々ぎこちないのは筋肉の伝達がまだうまくいっていない証拠だが、慣らなければならない。
「笑え」
「へへ…」
笑えと指示を出すと、口角を上げて笑い声を静かに上げる。機械的な動作ではあるが、笑う機会はそうそう訪れないだろうと考えた。
「深呼吸しろ」
「すぅ…はぁ…」
「お前はこれから死を待つ。いいな」
「"はい"」
深呼吸をさせ、最後に"イエス"と言えるかを確認する。否定する言葉を言わさない様に、死から逃れられない事を理解しているように情報を植え付けたのが成功している。
「…上出来だ。下がって構わない」
「失礼しました」
「いつでも呼んでくださいねぇ~!」
確認を見届けたスキアは懐にランプを仕舞いながらそう口にすると、呼び出しの魔法陣を展開して二人を元の場所へと帰す。
魔法陣へと吸い込まれていく二人、長身の男は丁寧に頭を下げ、小柄な女性は手を振って挨拶をしつつ二人が完全に魔法陣に吸い込まれたのを確認したスキア――参謀は、瞳の色を元に戻し眼鏡をかけ直すと、動かずぼうっとしているアルマンだった人形を置いて裁判の手続きを取るべく独房から出たのだった。
やだー!もうこんな時間じゃないの~~~~(コラーリ)
いつの間にか20行っててわーいわーいしてます。ただここから一個減ったりするんでしょ?ヒカキンキッズなので知ってる(突破動画とか見てる)でも本当にうれしいです、ありがとうございます。20ゾーン安定したら、クネーラのパイでも描きてぇなおい。
明日で忙しいのが終わります。いやー、いつもより多く動いているので、身体がバキバキです。いまならSASUKEにだって出れる。はず。




