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Chapter9-2

挿絵(By みてみん)





 「今日も失敗作の山になっちまったな…」




 上手くいっている様に見える金属板に対して、下巻の書は何一つ反応を見せない。


 材料、分量、熱量、全てうまくいっているはずなのは上巻の間でしっかりと分かっている筈なのだが、肝心の"魔法炉に入れた際の混ぜ方、マナの分量、鎚で叩く際のマナの路の作り方"が圧倒的に駄目という事を理解している。



 普通の魔法道具として使う事は出来るだろう。だがそれではだめなのだ。普通の魔法道具ではなく、作るのは神代魔法を扱っていた時代の魔法道具。繊細な作業に、益々の気配りが必要なのだろう。今のエルミスには材料を均一に魔法炉で混ぜる事だけでも精一杯だ。



「もう少し混ぜる工程を早く…、…マナの路作りにムラが出来るのを何とかしねぇと…」



 ぶつぶつ、と考え事をしながら材料を魔法炉でバラしていると、工房のドアが開いた。てっきり父親が入ってきたかと思っていたエルミスは、目をその高さに合わせて見て、そして少し下へと下げる。少し猫背の祖父が入ってきたのだ。



「爺さん。どうした一体」

「なに。孫の努力を見るのもワシの楽しみじゃからの…どうじゃの?」

「んー、混ぜ方がすごく難しい。全部微妙にアンバランスなんだ、均一にするのがこれほど難しいなんて思わなかったぜ」

「どれどれ……」



 まだ魔法炉に入れていない小さな金属板を手に取った祖父は、簡易スキャニングによって何が入っているか、金属板の細かな成分比率を確かめる。


 青白く輝く祖父と金属板を真剣な面持ちで見るエルミスに、祖父が簡易スキャニングを終えると小さな金属板を机に置く。



「こりゃたまげた、随分複雑な分量をいれておるの。ふむ…この中で一番混ざりにくいのはメリシオ金にホロカ銀じゃ、本来この二つを入れるのは難しすぎてやらんことが多いんじゃが…」

「…じゃが?」

「昔の昔、ワシの爺さんが使っておった。この二つを合わせると"マナの路を精密に作る事が出来る"からの」

「…だから、鎚で打つ時にマナの路がすげー出来るんだな。オレにとっちゃ、無駄に出来るから扱いのハードルが上がってるぜ」

「どれ……」



 困った顔をする孫に、祖父は魔法炉に入っている分離しかけの金属板を鉄鋏で引き上げ、先ほど持っていた金属板を放り込む。側に置いてあった皮手袋を嵌めて専用パネルを操作する手つきは、とても引退した身ではない。



 魔法炉を満たすマナが輝き、金属板が一度綺麗に分解する。エルミスは分解することは出来ても、完全に切り離す技術はまだ出来ない為、祖父の手の動きや魔力の込め方、マナの密度の調整を真剣に見る。



 完全に、全ての素材一つずつ分離した物が、もう一度混ざり合っていく。エルミスは魔法炉の中にある金属板に簡易スキャニングを掛けながら、均一に混ざっていく光景に釘付けになる。



 凄い、この一言に尽きるしかない。



 これ以上混ぜると比率が偏る、という所でしっかりと止めた祖父は操作パネルから手を離して魔法炉から金属板を引き上げると、鎚を握って金属板を叩き始める。

 二本、五本、十七本、五十六本、叩けば叩くほど作られていくマナの路に臆することなく叩く祖父の手に迷いがない。魔力を制御するための行き止まり、魔力の通りをよくするための大路まで完璧に作られていくのが簡易スキャニングを通して見える。



 いける。むしろ完成する。無数に連なるマナの路は確実に道具の一部として完成される、そう思ったその時、



「っ、わっ!!」

「…ううむ、やはりな」

「わ、割れちまった…」



 鎚が金属板を叩いた時、簡単に、まるでストッカーの様に粉々に割れた。あれほど色々な鉱物を混ぜたものがこうも粉々に割れるのか、と思うほど見事に粉になってしまったのだ。



「やはり、って…爺さんの爺さんもこうなったのか?」

「うむ。メリシオ金にホロカ銀を入れるとの、一定以上のマナの路を組み上げると悲鳴を起こす様に割れてしまう。じゃがワシの爺さんは五分五分で割れなんだり、割れたりしよった…」



 粉々に砕けて床に散ってしまった金属片だった物をエルミスは箒と塵取りで回収する。カタン、と軽く音を立てて鎚を置いた祖父は、皮手袋を脱いで椅子に座る。



「エルミス、その破片をよく見るのじゃ」

「……、…!…と、透明になってる…!?」



 祖父の言葉に従って塵取りの中にある小さな破片をじっくりと見る。煤に汚れている様なそれは、塵取りの色を映していた。まるでガラスの様に透明になった金属片に目を見開く。



「それがメリシオ金とホロカ銀を入れた特性じゃ。どんな金属をも美しく透明にする…じゃがとんでもない加工技術が必要になる。…臆すると金属のまま、熱を入れすぎると割れる、繊細かつ難しいものじゃて」

「……」



「……やるか?」



 エルミスは臆する事さえまだできない。均一に材料を混ぜる段階で躓いてしまっている。だが祖父は分かっているのだ、しっかりと目で自分の技術を見た孫なら、いずれ出来るという事を。



「…やる。爺さんがそこまで出来たんだ。オレもやれば出来るはずだ」

「流石はワシの孫じゃ。焦らずとも材料はある、少しずつ確実に前に進むといい」

「ん…」



 祖父の言葉にこくりと頷いたエルミスは、塵取りにある破片を小さな入れ物に入れる。この透明な破片たちにたどり着くまでが一つの目標だと決めて、少し散らかっているエルミスの作業机に置いた。




「そろそろ店じまいだぞ。エルミス、今日は帰るか?」

「いや、今日は十時ぐらいまでやるかな…そのあと帰るから、母さんに晩飯置いといてって言っといて」

「わかったよ」



 時計の短針は五、長針は十二を示している。店じまいの時間に工房のドアを開けた父親がエルミスの帰宅を確認すると、帰宅時間と食事を置いておいてほしいという返事が返ってきた。

 手の空いている時間帯と夜は全て神代技術に割り当てる子供の熱意に感心しつつ、工房を出る父親にドアを開けたまま待機する。



「戸締りよろしくね」

「おう、分かってる」



 が、ちゃん。と扉が閉まる。エルミスはカウンターが見える嵌め殺しのガラスから二人の帰宅姿を見つつ、完全に姿が見えなくなったところでどっかりと椅子に座った。



「ふー…十時には帰ってこれるだろ…」




 茜が地に沈む十八時に第七魔法工場へと向かう。勝負は"セリーニとリーコス、そして工場の作業員がいる二時間"だ。



 セリーニとリーコスがいる、特にリーコスがいる事で、闇属性を見ることが出来る光属性の確保が出来るのと、衰弱ではなく発狂によって暴走した人間を対処できる強いギルド隊員二人がいるということ。


 次に工場の作業員がいる時間帯に侵入することによって、人が居ないときよりの警備が手薄である事。人が居れば警備をうろつかせる事をしなくていいが、逆に無人であったとき警備は必ず見回りをする。そして何より警備魔法が内部に張り巡らされているかもしれないのだ、行動するなら作業員が行動している時間帯が良い。


 二十二時には帰ると言ったものの、果たして帰ってこれるかどうか。素性がばれてしまえばおしまい、犯罪まっしぐらの侵入罪の為、ヘタをすれば母親にみっちりと叱られてしまうどころか、家族に迷惑が確実に掛かる。




(家族に迷惑は掛かる…でも、それでもオレは、使う者を殺す道具は消すべきだ)




 人を殺める道具であっても、使い手を殺める道具はあってはいけない。道具はあくまで使い手を護るためにある。




 茜が沈んでいく。工房に差し込む光はやがて街灯の明かりへと変わり、時間が迫っていることを静かに伝えていた。




ぼんやりしているようで凄い新人専属護衛と、きりっとしてて凄いベテラン専属護衛:)


今日の夜、あるいは深夜にお礼?絵をのせたいなぁと思っていますが、深夜が早朝になる可能性。。。!


妹がミーアキャットを飼ってるんですが、中々にかわいい。


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