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Chapter8-5

挿絵(By みてみん)





 食後のアイスコーヒーを待つ頃には、人の混み具合が落ち着いてきた。食事の匂いではなくコーヒーの香りへと店内が切り替わってきた時、セリーニ達にも食後のコーヒーがやってくる。



「お姉ちゃんハロ~!セリーニちゃんもいらっしゃーい!」

「ハロ~。今日もいい繁盛っぷりね」

「ランチもおいしかったです!」

「あら~、ありがとう!はぁい、セリーニちゃんがアイス、お姉ちゃんはホットね」



 トレイからセリーニの目の前へと置かれたアイスコーヒーは、仄かにグラスを覆う水滴が冷えていることを伝えている。ソーサーに乗ったホットコーヒー入りのカップをクネーラの元に置いたコラーリは、大きな図体をぎゅっと縮こませる様にしゃがむと、セリーニやクネーラにしか聞こえない音量で話し出した。




「まず一言結果だけ。第七魔法工場は、今相当えぐい状況よ」

「……!」

「第七って一年前ほどに破天荒な貴族が工場を買い取っていたわよね?」



 ふー、とホットコーヒーに息を吹きかけ軽く冷ましながら姉のクネーラがそういうと、弟のコラーリはこくこくと頷いて合っている事を伝える。



「そうそう、でもその後からえぐいのよ。まず一つセリーニちゃんに聞いていい?」

「はい、何でしょうか?」



「なんで第七にアルキ・マヒティースが居るってことを知っているの?」



 コラーリの質問はセリーニにとって至極疑問だった。まるで"知っているのがおかしい"と思われている様な言い方だったからだ。



「お孫さんたちから聞きました。私は今回、お孫さんがお爺さんを助けたいという願いを受けて行動しているのです」

「そう…」



(どうやら危ない橋を渡って得た情報じゃなさそうね、安心したわん…)



 セリーニの回答にコラーリは納得をすると同時に安堵する。


 今回の第七魔法工場に関する情報を集めた際、ほぼ危険なものばかりだと気付いてセリーニがどのように情報を握ったか気になっていたのだ。危険な情報を得るにはそれなりに危ない橋を渡らなければならない。コラーリは独自の情報ルートが多数ある為安全面は考慮しているが、それでも外で情報を集める従業員たちが危ない目に合う事だってある。



「まず…第七でアルキ・マヒティースが働いているって情報は一切出されてないの。行政が管理する労働者名簿には彼の名前は載ってない」

「…!!」

「へーぇ、違法ねそれ」




 労働者名簿に名前が無い。



 国が定めた法の一つに、"働く際届け出を提出せねばならない"というものがある。就職、入隊、自店開店、アルバイト、どんな些細な事でも"労働賃金"の発生する場合は、必要な書類に名前と店の名前を書いて行政に提出せねばならない。基本的に従業員を雇う店側が用紙を常備しているため、いざ働くとなったらその場で用紙にサインを書いて行政に届けるのだが、その届け出がされていない事になる。



 届け出が無いという事は、法を破る事になる。



「次、第七の従業員が入職、しばらくして退職…。これが一年間で約三十五回。一見ただのブラックに見えちゃうけど…そんな可愛いものじゃない、退職扱いされている人間の行方が全て知れていないのよ」

「……」



(顔色が悪いの。すごく)



 不意にお爺ちゃんを心配する孫の声がセリーニの脳内に響く。綺麗に整えられた眉を潜ませながらコラーリは重い空気を固める様に続きを語る。



「…大体は予想の通りよ、…全員死んでるの。第七周辺の情報を集めてる子曰く、第七での死因は衰弱、発狂による自殺よ」

「退職扱いって事は…、身内の居ない人、重犯罪を犯した服役中の人間かしら?身内に返さなくていいし、服役中の人間なんて適当に書いてしまうと分からないもの」

「お姉ちゃんは察しが良すぎるわん。でも大正解よ」




 姉弟二人の会話を脳内で響く孫の声と混ざる。一際"衰弱、発狂による自殺"という言葉がぐるぐると思考を掻き混ぜる様に占める。その思考を一つの情景が色を差し込んだ。



 

『うううぅぅぅ…!!』

『まずい…!っ、うわっ。セリーニ!こいつの両手を後ろにやってくれ!』

『はいっ…!!第一王女、私の腰のベルトを外して、この方の手首に…!』

『分かりましたわ!』



 突然に、という言葉が似合うほど首に手を掛けた男子生徒の手を首から剥がして腕を後ろで拘束したのはまだ記憶に新しい方だ。神代魔法を使って男子生徒を正気に戻し、原因である指輪を指から抜いたエルミスは"目的はこれみたいなモン"と言っていた。



「あ、あの…」

「ん?どうしたのセリーニちゃん」

「……アルキ・マヒティースさんって、そこで何をしてらっしゃるんです?お孫さんをお持ちという事は、お年寄りであるということ。普通、体力がそれほどないご老人をその過酷な場に連れて行く理由が分かりません…」

「…そうね。普通なら、ね」



 セリーニは嫌な予感がした。


 嫌な予感がしたからこそ、アルキという老人がなぜ第七工場に必要とされたのか、理解したくなかった。最後のパズルのピースを埋めたくはない。


 だがそのピースをコラーリは持っていた。




「アルキ・マヒティースは第七工場で魔法道具の一つ、指輪を自動魔法炉機械で一から全て設計しているわ。そこの出の指輪を付けると、少なくとも精神汚染の妨害魔法が掛かったかのように人が変わってしまうと、……私の息のかかった一人が言っていたわ」



 ぱちり。埋まってしまった。



 悪魔のような指輪を作った者がアルキ・マヒティース本人であり、アルキもまた謎の衰弱を受けている。セリーニの予測で行けば、その原因は闇属性の魔法となるが、その魔の神秘を見ることが出来ないセリーニには断定することができない。




「あっ、そーだ。あとこのお話を追ってる人物がもう二人いるわ」

「あら珍しい。人目の付かない事件なのに気付いてるのが二人もいるなんて」



 暗い話はおしまい、とばかりに締めに掛かったコラーリは、ぱっちりと目を見開いて二人の追求者がいる事を語ると、ホットコーヒーを飲み干したクネーラが同じようにぱっちりと目を開いて驚いた。


 ギルドのA隊長の一人であるクネーラでさえ知らなかった話を知っている者がいるのだ、そもそもこの話をギルドで持ち上がらない方がおかしいのだが、それほど入念に隠していた向こうが周到だったのだろう。



「そうなのよぉ~!まぁセリーニちゃんもそのうちの一人と、とぉっても仲良しみたいだから言っちゃうけど、エルミスちゃんと王子さまが追ってるわよ…!」

「…!!そうですか…!」



 エルミスと第一王子という言葉に、セリーニは一筋の光をしっかりと掴んだ気分になった。彼らであれば闇属性の魔法が見える、孫の願いを叶えるための大切な鍵となる二人もしっかりと事件を追っているとなれば、情報を共有した方がよさそうだと考えつつ、コラーリに話を振る。



「あの、このお話、エルミスにも話して良いですか?」

「いいわよん。私の事はエルミスちゃんも王子さまも知ってるし、やってることはセリーニちゃんと同じ。一人で無茶するより三人で束になった方がいいわ。王子さまとセリーニちゃんはいいけど…エルミスちゃんは一般人だからねん」



 戦う術が魔法しかないエルミスをコラーリは心配しているのだろう。


 一番ボディーガードになりそうな第一王子も、国の王族に変わりはない。もし第一王子が拘束された場合、助け出すエルミスは力不足だからだ。こくりと頷いて少なくなったアイスコーヒーを飲み干したセリーニを見たクネーラは、十枚のお札を取り出してコラーリの目の前に置いた。


 ぎょ、とセリーニが目を見開くと、そのままコラーリはエプロンのポケットから四百八十レクトをちゃりん、とクネーラの手に乗せてウインクをばっちり決める。



「またご贔屓にぃ~!!」

「ご、ごちそうさまでした…」

「さっ、セリーニちゃん行くわよ」



 ごつ、ごつん、とブーツ音を鳴らして木の床を歩き店を出る。からん、とドアベルがまたのお越しを、と言っている様だった。



「あの…十万レクトが情報量なんです?」

「いいえ、九万五千レクトね。弟の元に居る情報網たち一人一万、六人いるから六万、三万五千は一番危険な情報を喋る弟の取り分」

「料金は固定なんです?」

「えぇ。危険な情報でも固定。信用できるし料金も固定だから、頻繁に利用する客が多いの。情報屋が弟の情報を買いに来ることだってあるのよ?」

「へぇー…」




 "ま、腕の良い子たちがいっぱいいるから成り立ってるんだけどね"と、クネーラはぱちんっ、と軽くウインクを一つして中央ギルド支部へと向かう曲がり角を曲がる。昼時をすこし過ぎた街並みはどことなく落ち着いており、カフェで休憩する人々が磨かれたガラス越しに見える。



「あと、この話は隊長クラスの人たちに伝えていいかしら?流石に人が死んでるとなると扱わないといけないわ」

「あ、はい。お願いします、私はただお孫さんたちとお約束しただけなので…クネーラ隊長がそう判断してくださったなら、私もそうするべきだと思います」

「弟の情報を聞くに内密だったし、出来るだけ大事(おおごと)にはしない様にするけど…首を突っ込んでしまったからには、セリーニちゃんも気を付けるのよ」

「…はい!」



 クネーラは決して"上に任せて"とは言わなかった。それはセリーニが直々に頼まれた"願い事"をしっかり果たそうとしているからだ。もしこの事件が"必須クエスト"案件であれば、Aクラスの部隊を組んで裏どりし対処をするのが普通なのだが、セリーニを頼った孫たちの希望を潰す真似を、クネーラはしたくなかった。




牛肉料理の中でもハンバーグ、特にすきです。お肉料理の中で一、二位を争うほど。その争う対象は焼き肉。奴は手ごわすぎる…:(

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