Chapter8-4
「あらセリーニちゃん珍しいじゃない。こんな場所で出会うなんて、」
「クネーラ隊長!お疲れ様です!」
資料をしっかりと戻して情報部門から出ると、セリーニを見つけたクネーラが軽くウインクをして声を掛けた。どうやら隊長室から出てきたところなのだろう、廊下を歩く姿は優雅そのものだった。クネーラへと敬礼をした時、丁度昼のチャイムが鳴ったので、食堂へと向かうクネーラの後ろをセリーニが付いていく。
「何か調べものしてたの?」
「はい。…といっても、あまり良い成果は得られませんでしたが…」
「あら、クラス制限の掛かってた物だったら、総隊長の髭でも抜いて脅せば権限貸してくれるわよ?」
「そ、そんなお恐れ多い事出来ませんよ…!」
想像しただけで恐ろしい事を言うクネーラに、セリーニが慌てて首を振りながら発言する。"そう?あなた総隊長のお気に入りだから怒られないわよ"なんて言うクネーラは、冗談ではなく本気で言ったことが分かる。
「調べ物は、何かクエストの関係かしら?」
「……、」
「…ふふ、内緒にしてあげる。滅多に規則を破らないセリーニちゃんが、それほど熱心にやっている事だもの。なにかあるって分かるわ。私の方から"ちょっと調べ物をしてもらった"って言っておくから」
「有難うございます…!!」
"クエスト関係の情報模索のみ。私用禁止"なのが情報部門だ。
本来であれば受け付けたクエスト内容において、足りない情報を手に入れたり、古い情報を元にクエストを遂行することがある。基本的にはクエスト登録時に情報部門がそのクエストに応じた情報を添付して書類にし、遂行する隊員達に見せるのだが、たまにセリーニの様に足りない情報を埋める様に資料を見に来る者も居るにはいる。セリーニはその"居るにはいる"の部類だと思われているようだが、実際に私用禁止の部類なのだ。
滅多に規則を破る事が無いセリーニの事をよく理解しているクネーラは、訳アリのセリーニに対して自分の命令によるものだと後で伝えておくと言うと、"そうだ!"と綺麗に上を向いているまつ毛を更に上へと上げながら目を見開きつつ両手を合わせた。
「もしよかったら、うちの弟のお店にお昼行かない?」
「ラグダーキさんのところですか?私は構いませんけど…」
「ふふ、セリーニちゃんにラグダーキの"本当の使い方"を教えてあ・げ・る」
ぱちーん!と可憐なウインクから発せられる力強いオーラが、セリーニの頭に当たった気がした。
朝早くにしか来たことのないセリーニが、昼のラグダーキへと来たのは初めてだった。
ゆったりとした空気が流れ、珈琲の香りが店内を満たす朝とは違い、昼は人の声と料理の香り、そして店員の活気な声で溢れかえっている。昼にのみ解禁している二階のスペースに案内されたクネーラとセリーニは、メニューを見ながら店員が水を持ってくるのを待っていると、"プラティー"と書かれた名札をエプロンに付けている店員が注文を取りに来た。
「ご注文はお決まりに?」
「私は日替わりAランチで、えっと…食後のコーヒーはアイスでお願いします」
「はーい、日替わりAのアイスコーヒーですね。店長の姐さんは?」
(店長のあねさんって呼ばれてるんですね…)
すらすらとセリーニの注文を伝票に書くプラティーは、メニューを畳んだクネーラに視線を送る。
「シェフの愛情たっぷりランチ」
「え…?」
そんなメニューあっただろうか、とセリーニがメニューを開いて一文字ずつ確認するが、何処にもそんなメニュー名が存在していない。もしかして常連御用達のメニューなのだろか、と考える。どうやらその疑問はすぐに解決する様だった。
はーい、と店員は返事をして、エプロンのポケットから真っ白なメモ用紙を一つテーブルに置くとメニューを一冊残してテーブルから離れた。他のテーブルで空になった皿を回収しながら店員が降りていくのをセリーニが目で追い、再び白いメモ用紙に視線を戻す。
「弟はね、情報屋もやってるの。どちらかと言えばそっちの方が本業よ」
「…ではあのメニュー名は、」
「情報屋のコラーリに向けて、ってことよ。その紙には、セリーニちゃんが今一番欲しい情報を書くといいわ。店員が食事を持ってきたときに渡して」
「分かりました…」
情報屋というのはどことなく聞いていたのだが、てっきり昔やっていただけの話だと思っていたセリーニは、胸ポケットからペンを取り出してペン先を走らせる。
クネーラは"どんなことを書くのだろか"、と覗き込むと、走らせたペン先によって滲むインクが描き出す文章に"珍しい名前が出てきたわね"と驚いた。
"アルキ・マヒティースが勤務している第七魔法工場の内情"
食事を運んできた店員に紙を渡して、日替わりAランチに舌鼓を打つ。ぱりっと皮がしっかりと焼かれている鶏もも肉のソテーは、たまごとマヨネーズをふんだんに使ったソースが掛かっている。彩りとして添えられている野菜はしっかりと山をつくっており、ドレッシングが掛けられていた。
一方シェフの愛情たっぷりランチを頼んだクネーラの元に来たのは、鉄板によって熱された巨大なハンバーグだ。まごう事なき肉の塊と言ってもいいそのハンバーグは、クネーラ曰く"弟が毎日厳選した肉を愛情込めてミンチにしているの"――つまりひき肉にする際、愛情という筋肉を使っているらしい。
添えてある温野菜を一口食べながら、果敢にハンバーグを頬張るクネーラに"そんなに細い体で入るのだろか…"と考えつつ、甘酸っぱいタレとマヨネーズソースによって美味しさを二倍にも三倍にもしているジューシーな鶏もも肉を頬張った。
今日はいつものデフォルメではなくちゃんと描きました:)
ギル祭りお疲れさまでした。今回は卵が落ちない、ボックスに入ってなかったので周回しなかったんですが、剣クッキー泥と高難易度の面白さでチャラです。個人的にエリちゃんみたいなギミックのやつが増えると良いなぁ:)




