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Chapter7-4

挿絵(By みてみん)




 今日はリーコスのところに泊まるから飯はいらない、と帰ってきた母親に告げれば、せめて手土産を作るから待てと言われてしまったエルミス。仕方がないので母親の手伝いをする為キッチンに入ると、母親がエルミスを見てにっこりと笑い"手提げに入れるだけだから大丈夫よ"、と一言添えて冷却箱を開けた。



「あ、プリン」

「夕食に出そうと思ってたけれど、リーコス君たちと食べなさい」



 小さなガラスコップに入っている冷えたプリンにエルミスが目を輝かせる。甘いものが好きなエルミスだが、母親の作るプリンは特別好きなのだ。

 ガラスコップにカラメルとホイップクリームを入れてラップをした五つのプリンを、保冷剤と共に小さなボックスに入れ、それを母親がエルミスに持たせる。



「迷惑かけない様にね!」

「わぁーってる!いってきまーす」



 玄関を出たエルミスの背中に声を掛けた母親に、少しだけ声を張って返事をしたエルミスは、人通りの少ない道を選んで歩き進んでいく。



「おっ、あの伸びてた枝、とうとう切られたな」



 川を渡す小さな橋を歩き、いつも伸びていて気になっていた屋上庭園の木がさっぱりとしている事に気付いた。流石に柵を大きく飛び越えてしまった枝を切ってしまわないと、いたずらで木に登る子が落ちる可能性や、強風等で枝が折れて下に落ちる事もある。


 やっと気になっていた事が一つ解消されたことにすっきりすると、城へと一直線で行ける道を曲がった。







 本城まで到達するまでに、まず門番のチェックが入る。そして高く、尚且つ重厚、外からの魔法を防ぐ防魔法が掛けられている門を潜らなければならないのだが、……毎回エルミスが城へと泊まるときは、必ず門に幼馴染が待っているのだ。



「やぁエルミス。随分早かったじゃないか」

「…お前、ギルドの仕事サボったのか?随分帰宅が速いぜ」



 なぜ毎回門の前で待機しているのかは謎なのだが、本人曰く"友人に門番のチェックはいらないからね"と言うだけだった。エルミスとしては面倒な事がなくなるだけ有難い話なのだが、第一王子が門で待っている姿を見ている門番の緊張した顔を見ると、ほんの少しだけ不憫に思うのも事実だ。


 まだ夜が目覚めていない夕暮れ時の時間にリーコスがいるのは珍しい。新人ながらもAクラスという地位に居る為、毎回就業時間ぎりぎりまで業務を熟していると聞いていたのだが、サボりという仮説に首を振ったリーコスは、エルミスの元へと近付いて肩に手を掛ける。



「エルミスが来ると聞いてね、早々に切り上げてギルド支部から出て…、…ふむ、」

「む?おわっ…!!」

「……これはどうした?」

「ちょ、くすぐって。耳元で喋んな。目当てのモンが手に入ったから、お前と一緒に解き明かそうと思ってたんだぜ」



 肩に手を掛けていたリーコスが一瞬身体の動きを止めてエルミスを見下ろす。つむじが見える頭から視線をストッカーポーチへと落とすと、肩を抱いている手と反対の腕で軽く抱き、肩を抱いていた手を下ろしてストッカーポーチを開け、傷一つない指輪を取り出した。


 感じるのは闇の属性。明らかに浄化せねばならない対象物をエルミスが持っている事に疑問を持ったリーコスは、門番に聞こえない様に耳打ちする。低く響く声が耳の鼓膜を震わせる擽ったさに軽く身じろいだエルミスは、同じようにリーコスにしか聞こえない声量で喋ると、納得したリーコスはストッカーポーチには戻さずに自身の胸ポケットへと忍ばせた。



「…なにしてんだ?」

「城内は王族か、許可された一部の騎士団のみ魔法が使える様になっている。エルミスが持ち入っても"外部魔法"として防魔法が発動し、門を潜ると正しく魔法が使えなくなる。俺が持って行って第一関門を突破するんだ」

「あぁー。城の防魔法ってそういう類なのか…セキュリティーしっかりしてんな」

「さっ、行こうか」




 城の内部は変わらず広く、廊下に敷かれた赤の絨毯が良く栄える。給仕が忙しく色んな部屋を出入りしているのを見ながらいつものようにリーコスの部屋へと案内されたエルミスは、久々に来る幼馴染の部屋に"かわってねーな"と独り言を零す。



「あ、これ。母さんのプリン。五つあるから、たぶん王さまと王妃さまとイエラの分だろ」

「…エルミスのご両親の食べる分はあるのか?」

「うちは一人二つ食うから、家にあと三つある。父さんと母さんと爺さんの食う分はあるぜ」

「そうか。では食後のデザートにでも出すよう給仕に言っておこう」



 ギルド制服の上着を脱いだリーコスにバスケットごとエルミスが差し出すと、上着をハンガーに掛け、ハンガーラックへと仕舞ったリーコスは差し出されたバスケットを受け取る。


 部屋のドアを開けて近くにいる給仕に話しているリーコスの声を遠くに聞きながら、エルミスはハンガーラックへと掛けられたギルド制服へと近付き、胸ポケットから指輪を引き上げた。



「――それで?どこから入手したんだ?」

「東区域の露店街だ。週一で来る商人が"企業秘密"の業者から卸してるらしいぜ?」

「……商人は黒じゃないのか?」

「オレも疑ったけどな。商人は普通にいいやつだった。…それに、仮にオレが製造元で、コイツを世に広めるなら"露店商人"じゃなくて"店を構えている道具屋"に卸す…モノはいいからな」

「態々色々な場所へと店を移す露店に目を付けた者がいると…」

「そういうこった。多分だが、他の露店にも卸してるはずだぜ。これを作った業者はな、」




 傷のない磨かれた指輪に視線を落とすエルミスは、改めて綺麗な繋目を見つける。


 工場製品と言っていたが、稼働している工場で指輪を作っている場所ははっきり言って数件しかない。第三大陸、機械と魔法の国クラティラスから送られてきている指輪専用の製造機械は新しい方で、余程金に困っていない一部の工場のみ取り入れて稼働している。エルミスはあまり工場の類に詳しくはないので、何処の工場で作られているのかは分かっていない。



「なぁリーコス。指輪を作ってる工場、どこか知ってるか?」

「最初に取り入れたのはアステラ国内北にある第一魔法工場、次に南にある第六だ」

「二つかぁ…んじゃ、そのどっちかだな…」

「工場製品なのか?」

「おう。継ぎ目が綺麗だろ?工場製品だって爺さん言ってた」



 摘まんでいた指輪をリーコスに放り投げて、エルミスは柔らかなソファに身体を寝かせる。まふりと身体を受け止めるソファの寝心地は変わらず、はぁ~と息を吐いて身を任せる。放り投げられ宙を舞う指輪を受け止めたリーコスは片手でキャッチすると、繋目を探す様にくるくると指輪を動かす。注意深く見ることでやっと分かる、薄く、そして整っている繋目に"なるほどな"と呟いた。



「だが、モノはいいんだろう?指輪を扱わない俺でもそれはよく分かる」

「ターランドスって知ってるか?」

「知っている、有名な指輪専門の鍛冶屋の名だ」

「そのターランドスの元鍛冶屋、アルキさんっていう爺さんの作品…って、オレの爺さんは断定してたが…」



 第一王子のリーコスは街をよく見回っていることを抜きにしても、ターランドスという指輪専門鍛冶屋の腕前は良く理解していた。引継ぎで息子に店主を継いでもらい引退したという報告は上がっており、惜しむ声も数年前に聞いた。独特ではあるがすっきりとしたデザインの指輪は、一件"ターランドス"の作品だとリーコスは気付かなかった。似てはいるが、もう少し違うようなデザインだったはずだと記憶していたからだ。



「アルキ氏のデザインはこういったものだっただろか…?」

「試作品にそのデザインを使ってたんだとよ。爺さんはそれをちゃんと覚えてた」

「ほう、こちらのデザインもいいものだが…またなぜこれが出回っている?」

「それが分かればいいんだがなー!ホント…爺さんも"工場に技術を売るような真似はせんような男"って言ってたから、…この指輪の一件、何かキナくせぇぜ」



 むくりとソファから起き上がってリーコスの指に摘ままれている指輪を見る。微かに感じる闇属性の気配に、二人そろって眉を潜めた。








 沈黙を破ったのは二回のノックだった。


 入れ、と短く声を掛けたリーコスは上体を起き上がらせているエルミスへと指輪を渡す。簡易剣帯を外して鞘に入っている剣を専用の剣立てではなくソファに置いたリーコスに"おまえ結構だらしないよな、"とエルミスは言いつつ指輪をストッカーポーチへと仕舞う。同時にドアを開け夕食をワゴンで運んできた給仕たちと、その後ろに輝かしい金の髪を一つに括っている第一王女が入ってきた。



「エルミスごきげんよう。わたくしのお兄様とお食事を取る事を光栄に思う事です。ついでにわたくしも今日こちらでいただきますわ」

「イエラお前…強引なところマジ兄妹だな」



 カジュアルなドレスに身を包み優雅に挨拶をしているイエラだが、物言いは強引さを含んでいる。エルミスはため息を吐きつつ給仕たちがリーコスの自室に用意した食事用のテーブルと椅子に近付くと、テーブルクロスを引き終わった給仕の一人が椅子を引いた。


 "ありがとうございます"と軽く礼を言って座ると、綺麗なクリーム色のテーブルクロスが引かれた円形テーブルに食事と食器が並べられていく。エルミスから見て左にリーコス、右にイエラが座り、最初の皿が置かれた。



 王家に振舞われる食事は、幾度となく泊りに来たエルミスにとって馴染み深くある。お抱えのシェフが変わっていないのか、必ず出てくる最初のコンソメスープの味は毎回美味しく、そして味わい深さを堪能できる。身体を温め、舌を慣らす目的のスープを冷ますわけにはいかない為、スプーンで掬って一口ずつ味わって食す。



 前菜、魚料理、口直しの氷菓子、肉料理と来て、デザートの盛り合わせがやってきた。しっかりと家のプリンが彩られた皿の一部となって出てきているのが、様々なデザートで飾り付けをしたシェフの腕だろう。



「まぁ!エルミスのお母さまのプリン!」

「イエラも好きだよな。母さんのプリン…あれ?お前髪のリングどうした?」



 真っ先にエルミス家特性プリンを見破ったイエラは、ガラスコップを手に取ってスプーンを挿す。カラメルと生クリームごとプリンをしっかりスプーンで掘り起こして口に運ぶイエラは、第一王女ではなく年相応の少女らしい豪快な一口だ。

 味わって食べるイエラの髪を束ねている付け根に、赤い紐が可愛らしく踊っているのを見てエルミスは首を傾げた。髪型が変わっていない為、全く付け根を気にしていなかったのだが、ちらりと見えた赤に気付いたのだ。



「あぁ、あれはゼーシの魔法道具の材料として差し上げましたの」

「ゼーシって…この間オレがカネリさんの店紹介した指輪使いの奴か」

「えぇ。その代わり、このリボンは卒業したら返すと脅迫して奪いましたの。んんー…おいしい」

「……なるほどな」



 イエラの良いところは"正直者で真っ直ぐなところ"だ。だが決して何も考えていないという意味ではなく、道に迷う相手に一筋の道を照らす言葉を与えるのが上手い。脅迫して奪ったという優しいイエラは、大きな口を開けてプリンを放り込んでいく。


 その優しい脅迫を聞いたエルミスは、イチゴのタルトを頬張りながら緩く微笑んだ。





こそこその兄妹あらすじ絵:)


阿部引退試合。引退というには成績が良すぎるほど、とてもすごい選手でした。


パワプロの顔は結構似ていると思います。


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