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Chapter7-2

挿絵(By みてみん)




 商人から買ったという言葉を元に考えると、工場から出荷された商品を売っている事になる。



 エルミスは中央区にある家から東区域の外れにある露店街に到着した。販売許可を持っている移動販売店が軒並み並んでいるため、アステラスを出なくてもアステラ全土の特産品が見られるとして有名な場所である。


 適当にちらちらと見ていると、一際大きな背中を見つけたエルミスは、その圧倒的なオーラを纏う背中をぽん、と軽く叩く。



「国王さまこんにちは」

「!おぉ、エルミスじゃないか!どうした、随分珍しいところにいるじゃないか」

「それはこっちの台詞です、って…リーコスはギルド?」

「うむ。ギルドの仕事をしっかりと熟しておる。明日休みだから、良ければリフレッシュに付き合ってやってくれんか」

「せっかくの休みを息子と過ごさなくていいのか?」

「なぁに。ワシはちゃんと朝と夜に顔を合わせておるから大丈夫だ」



 控えめな貴族衣装を身に纏っているが、オーラは隠しきれていない国王にエルミスは相変わらずだな、と考えつつ、国王から差し出されたベリーパイを受け取って一口頬張る。甘酸っぱいベリーに、カスタードと生クリームの甘さが上手く合わさっていて美味しい。


 どうやらこのパイ目当てに歩いてきた国王と話しながら、露店をきょろきょろと見回るエルミスに、国王は首を傾げてエルミスを見下ろした。



「何か探し物かな?」

「ん。ちょっと…そういや国王さまは、この露店街は結構来る?」

「うむ。このパイが売っているのはここしかないからな」



 くい、と親指でテイクアウト専門店のパイ屋さんを指す国王に、店主である女性がにこりと笑って軽く頭を下げた。

 どうやら常連なのか、さほど国王が来ることに関して驚いていない様子だった。国王の言葉に、あまりここに来る機会がないエルミスは丁度良いとばかりに話題を切りだす。



「魔法道具を売ってる出店って、どこらへんにある?」

「あの服を大量に売っている場所があるだろう?あの先が魔法道具や素材を売るスペースだな。ワシもたまに覗くが、良い素材を売っている時がある」



 エルミスの目線まで屈んだ国王は、分かりやすく人差し指で服を売る出店の奥を指す。

 入り組んではいるが、大量の服売り場の向こうにちらりと素材を売っている場所が見えたエルミスは、同じようにあそこかと指をさすと、国王が頷いて当たっている事を伝える。



「あそこか…有難う王さま。明日リーコスのところに行くって言っといて」

「うむ。なんなら今日の夜泊まっていくといい。食事もこちらで構わない」

「おっ、じゃあ父さんと母さんに言っとく!んじゃ国王さま、また!」

「うむ!…あ、お嬢さん。土産のパイを四つほど包んでくれ」



 追加の注文を遠くの方で聞きながら、エルミスは指さし案内された場所へと歩き進める。店が多い中央通りと同じように人の賑わう露店街を、エルミスは人波を緩やかに縫って歩くと、古着や独特な衣装を売る出店の向こう側へと踏み入れた。






(……感じる、微量だが…闇属性の気配だ)



 身体を縛るような、重い枷を掛けるような、心臓に直で触れられているような、そんな不快感が微かにエルミスの身体に纏わりつく。


 気配でしかないが、不快感を感じるのは事実だ。身体に直接害のある気配ではないが、嫌なものは嫌に変わりはない。

 ほんの少しレンガの浮き上がり、使い慣らされており整備が行き届いていない道を歩くことおよそ十五歩、エルミスは足を止めて左を向く。



「いらっしゃい」

「…随分良いものが揃ってるな」

「おっ、目が良いね坊や」

「どうも」



 人柄のよさそうな猫背の男商人が、椅子に座って客であるエルミスの言葉を聞きにこりと笑う。男の周りに黒い文字が現れるでもなく、それらしき魔法も掛けられていなかった為、商人自身が悪事を働いている訳ではなさそうだった。



「オレの友達が、ここらへんで良い魔法道具と素材を売ってる店があるって言ってたんだ。…本当にいい素材を扱ってるな、この緑玉虫の薄翅の状態もいいし…これ幾らだ?」

「若いのに目が肥えてるね。それは二千五百レクトだよ」

「おいおい冗談だろ?こんなに状態もいいのにその値段でいいのか?一枚五千するのに二枚で二千五百って……」

「なに、うちは小さいながらも素材用の昆虫も養殖してる場所と契約しているから、その値段でも十分やっていけるんだ」

「すげー…!じゃあ四枚くれ、天然より養殖の方が状態がいいから扱いやすい」



 クッション素材を敷き詰められた透明なケースの中に、きらりと太陽の輝きを反射する薄い緑の翅が二枚セットで入っていた。破れや汚れもない綺麗な翅は、魔法道具に組み込むことでマナをより通りやすくすることが出来る。


 そこらの店で買うと高級品の部類だが、半値で手に入るルートを持っている商人に脱帽するばかりだ。エルミスは作業ベルトに吊るされているストッカーポーチから財布を取り出すと、少しもたつきながらも五千レクトを払って透明なケース二つを手に入れた。



「随分詳しいが、鍛冶屋の子かい?」

「まぁな。小さな店でやってる。……おっ、この指輪…随分綺麗な造りだな」

「だからかぁ、目が良いの納得だ。あぁ、これかい?去年ぐらいから置いているんだが…扱いやすくて人気なんだよ」



 鍛冶屋の子供であることは伝えるが、名が通っている"シゼラス"という単語は出さなかったエルミスは、回りくどい事をせず"自然に目が留まった"と装い、簡易棚に飾られている魔法道具の中から指輪を指で摘まむ為に皮手袋を嵌めて商品に触る。……微かに感じる不快感はここから感じている、未だ黒い文字は出さないが、光属性の魔法を掛ければ出てくるだろう。



「へぇ…指輪は専門外なんだが、勉強と予備ストッカーの為に一つ。いくらだ?」

「予備ストッカーにするなら指輪が一番いいからね。値段は一万二千レクトだよ」

「やっすっ!!おいおい、こんな出来の良い代物、もっと取っていいんだぜ?」

「はははっ、確かにそう思うよ。でも仕入れる所の値段指定がその値段なんだ」



 量産型は決して珍しくはない。工場で作った製品を好んで使い、工場製品を打ち直しに持ってくる者も居るぐらいだ。だがその工場製品でも、最低額二万出さねば物が手に入らない。いくら何でも裏がある、とエルミスは考えるが、変に勘繰っても仕方がない為、とりあえず商人の肩を持ち懐に入り込む作戦に出る。



「すげぇな…はい。一万二千…小遣いは減るが、良い買い物をマジでしたぜ」

「はいよ。…おまけで流水薬草も付けよう。君は扱い方を知っているようだからね」

「いいのか?有難う…!水属性持ってないヤツの道具に使うと、魔法が安定するんだよな。マジでいい買い物したぜ。そういや…おにーさんはいつもここで商売してるのか?」



 薬草と昆虫の素材は、基本的に傷つきやすいものなので店に売っているものだと高い。おまけで素材を貰えるという至れり尽くせりに、今後もこの店を利用しようとエルミスは素直に思ったが、例の指輪の出どころだけははっきりしなければいけなかった。


 この商人は決して"故意に指輪を売ろうとしている"訳ではない事は、人柄を見れば分かる事だ。そもそも闇属性の魔法は、光の魔法を扱う人間でなければ探知や見ることが出来ない事を、既に魔獣侵入事件にて分かっている事なので、何も知らずに売っているこの商人に罪はない。



「いや、週一だね。いつもこの曜日に来ているから、暇があれば覗くといい」

「ん、そうさせてもらうぜ。…しっかし、本当にこの指輪、この値段でいいのか?どこで卸してるモンなんだ…?」

「それが…生憎企業秘密にしてくれって言われているんだ。人が殺到したら困るってね」




 ばつの悪そうに眉を下げた商人に、エルミスは"都合のいい口止めの文句"だな、と考える。


 工場製品であれば大量生産も出来る。人に需要があれば、それだけ多くの供給をすぐに作れることが出来るのが工場製品の強みだ。だが、敢えて"企業秘密"をとったという事は、"企業秘密にせねばならない事がある"ということだ。


 在庫はないのか、棚へと新しい指輪を補充しない所を見ると、色々なところにこの指輪が出回ってしまっている事を考えてしまう。



「そっか。確かに、この値段で売ってたら、マジで人が殺到して店が回らなくなりそうだしな…」



 決して工場製品だと理解していない様に言葉を選ぶと、申し訳なさそうにしていた商人は"本当にごめんね"と言葉を添えた。


 なにかからくりはあると思うが、本当に知らない人間に詰め寄っても何も出てこない為、エルミスはそのまま商人に別れを告げた。






おじいちゃんと孫:)


久々にモンブランを頂いたんですが、あまりにも甘くてびっくり。もっとこう、栗やぞ!!!って前面に押してたような味だった記憶があったんですが…クリームましましのあまあまだも!って感じで、今日は晩御飯いりません…:(

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