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Chapter6-3

挿絵(By みてみん)




 ラグダーキでの食事の後、手土産を持って中央ギルド支部へと向かう。

 夜勤勤務の隊員に軽く挨拶を交わしながら女性専用のトレーニングルームを開けると、やはり一人だけ先客がいるのだ。モンブランクリームのような色合いの髪を横に束ねて括っており、毛先まで柔らかくウェーブを描いている。汗を流している為化粧はしていないが、化粧をせずともハリのある綺麗な顔は、とてもではないが一回り以上歳が上だとは思えないほどの美しさだ。



「おはようセリーニちゃん。相変わらず早起きね」

「おはようございますクネーラ隊長!クネーラ隊長も早起きですよ、」

「フフフ、そうだったわ」



 トレーニングをしているクネーラと呼ばれた女性は、Aクラスの隊長の一人だ。セリーニはCクラスの為、勤務時間中直接関わる事はあまりない。だがこの早朝だけは一人でトレーニングに勤しんでいるクネーラに会うことが出来るのだ。

 強く、そして美しさを兼ね備えたクネーラは女性隊員の憧れの的で、セリーニも尊敬の念を置いている。軽いやり取りをしながらロッカールームに行き、手土産を仕舞ってトレーニングウエアに着替えて再びトレーニングルームに戻る。



「さっきの、ラグダーキの紙袋ね」

「はい。朝食を作ろうと思っていたら、食材を買い忘れてしまっていて……食事のお世話になってきました。初めてだったんですけど、皆さんの評判通りの美味しさでした」



 ついうっかりしていたんです、と言いながら、重りの付いているダンベルを両手に取り、ゆっくりと上げ下げを繰り返しながら、片足を上げてバランス感覚を得る。小さな頃から祖父の修業に必ず入っていた基礎メニューを今でも熟すセリーニは、そろそろダンベルの重さをもう一段階上げるべきかと考えていた時、クネーラは汗を拭いながら自然な流れて言葉を発した。



「でしょう。私の"弟"って、私と違って料理が上手なのよねぇ」

「へぇ…随分器用な弟さんを……、えっ?」

「ん?」



 ダンベルを動かす腕が思わず止まる。もしかしたらダンベルを動かしている際に、カチャン、という音が邪魔していたのかもしれない。軽く首を傾げているセリーニに、思わず釣られるようにクネーラも首を傾げており、まるで"何か変な事を言ったかしら、"というような表情を浮かべている。先ほどの会話の流れから察するに、



「………コラーリさんと、クネーラ隊長って、姉弟なんです?」

「あら、知らなかったかしら…?フフフ、実はそうなのよ。意外と似てると思わない?」



 バチーン!と、効果音が付きそうなほど美しいウインクを決めたクネーラの背後に、コラーリの残像が見えた…気がした。思わずダンベルを落としそうになるほどの驚きに、セリーニは目を見開きながら"今知りました…!"と声を絞り出すしかなかった。


 確かに、よくよく見てみると似ている個所はある。血がつながっているから部分的なパーツが似ているのも当然だとは思うが、奇抜且つ大胆な化粧をしているコラーリと、綺麗に整えた化粧を普段からしているクネーラの二人を、何の知識もなくぱっと見で姉弟と言える者はいないだろう。

 どことなく目の形、唇の形、鼻の下が良く似ているなとセリーニが確認をしたところで、コラーリらしき残像が消えた…気がした。



「と、いう事は……クネーラ隊長は西地方のご出身だったんですね」

「えぇそうよ。今の総隊長がまだAクラスの隊長だった時に、西地方のギルドで活動していた私に声を掛けてくれたのよ」

「いつぐらいのお話ですか…?」

「十五年前ぐらいだったかしら…、その時は確か西の農場を荒らす魔獣を退治するのに暴れまわっていたのよねぇ…」



 懐かしいわ、とにこにこ微笑みながらトレーニングをするクネーラ。だからか、とセリーニは一人で納得する。

 西地方は農業が盛んな街の為、農作物を狙う害獣や魔獣が数多くいる。勿論追い払うのが主流なのだが、余りにも農作物の被害に比例するように、害獣や魔獣も強くなってしまえば討伐することになっている。

 マナの密度が濃く、薬草を食べてしまう東地方の魔獣も暴走故に強いが、西の魔獣は純粋に栄養を付けて身体が成長し体力もある為強い。その純粋な強さに対応する為、西地方のギルド隊員は体力も血の気も多い事で有名なのだ。

 年齢不詳とも言える美しさを持ち、尚且つ優しい顔立ちをしているクネーラは、魔獣を"追い払う"事と"始末"することになると、随分と生き生きと活動する。それはもう、生き生きと。



「魔獣といえば…、今日は午前中セリーニちゃんと一緒ね」

「あ、あの魔獣退治ですね。私は補欠として入ったらしいので…」

「フフフ、安心しておサボりできちゃうわね」

「クネーラ隊長…」

「じょーだん、ジョーダンよ。髭だるまちゃんと私、セリーニちゃんとあと一人、計四人で討伐に行くらしいから、詳しい事は髭だるまちゃんに聞きましょ?」



 軽く冗談を言いながらトレーニングマシーンから立ち上がったクネーラは、そのままロッカールームへと脚を運んでシャワー室へと消えていく。"髭だるまちゃん"、というのは総隊長の事だ。総隊長が出る、ということは"ただの魔獣討伐"という事ではない、ということだ。本来セリーニの枠に入る人物が誰なのかは気になるが、少なくともクラスの低い隊員を補欠として出す理由があるに違いない。



「…よし、頑張ろう」



 誰もいない、遠くの方でシャワーの音が聞こえるトレーニングルームで一人呟いたセリーニは、ダンベルを元の位置に戻すと下半身を鍛える為に器具に座った。









「東と中央を跨ぐ林道で、親子二人が襲われた。親は救難信号の魔法を空に飛ばして子を抱えながら魔法を使いつつ魔獣を追い払ったらしいが、父親は左腕と左足を負傷している。救難信号を見た巡回中のギルド隊員達が二人を病院へと運んだらしいが、襲ってきた魔物まだ見つかっていない」



 クエスト内容を伝えながら整えられている髭を指で擦る総隊長に、三人の視線が降り注ぐ。


 一人は隊長会議からそのまま総隊長と共に居るクネーラ、二人目はトレーニングを終えたセリーニ、そしてそのセリーニに視線を軽く移し、"本当に補欠はこの隊員で良いのか、"という少々不安と疑問を混ぜた色を見せつつも、総隊長に視線を移す男の隊員。その色を読み取ったのか、総隊長は軽く口角を上げるだけで特別なフォローは入れなかった。



「魔獣の名は?」

「……エイクス」

「…!!…、」

「エイクスって、草食動物代表みたいなものじゃない。人を襲うなんて…それ本当なのかしら?」



 魔獣の名を問う隊員に、総隊長は一呼吸置いて名を口にする。名を聞いた三人は驚くが、驚きのあとセリーニは何か思い当たる事があるのか、顎に手を当てて考えを巡らせる。驚きながら言葉を紡ぐクネーラは、エイクスという動物の特徴をよく知っている。

 温厚な鹿で、人を襲うどころか外敵に襲われそうになる時は逃げる動物。知能が良い為、神の使いとまで言われている鹿だが、その鹿が人を襲うというのはにわかに信じがたいのだ。



「特徴的な角をしっかりと親子が確認しているそうだ」

「…温厚すぎる草食動物が人に傷を負わせただけで、討伐までしなきゃならんのか?」

「ガリファロ隊長の言いたいことも分かるが、討伐しなきゃならん理由は"人を襲った"という事だけじゃあない。それは、そいつが説明してくれる」



 ガリファロ隊長と呼ばれた男は鍛え上げた腕を組んで総隊長に質問をする。無理もない。エイクスはそれほどまで人や動物を襲うことがない為、もしかしたら何か突発的な危険を感じて人を襲ったのかもしれない、と考えたからだ。

 だがエイクスという草食動物は、襲うよりも逃げる方が多い。強靭な四つ足で森を縫うように掛けていくため、人に襲われるという線もほぼない。

 それほどにまで人と関わる事が無さすぎる動物を"殺す"選択肢を取らなければいけない理由を知っている者へ、総隊長は視線を送る。



「……現地へ行きましょう、」

「実践が一番いいな。よーし、んじゃ行くとするか!」



 百聞は一見に如かず。セリーニは口で説明するよりも、実際に見てもらった方が早いと考え、三人の隊長に向けて現地へ行く選択を伝えると、報告書を三つ折りにして内ポケットに仕舞った総隊長は颯爽と執務室から出て行ってしまった。


 相変わらずの行動力の速さに、セリーニは慌てて総隊長の大きな背中を追いかける様に執務室から出て行った。



「あの隊員は総隊長の引き抜き…セリーニ・アンティだったか?」

「そう、セリーニちゃん。安心して、腕は私も保証するわ」

「……」



 執務室から消えていった背中をゆっくりと追いかける様にガリファロとクネーラは歩く。傍から見れば親子のような二人の後姿をじっと見ているガリファロは、同期であり友人でもある総隊長と食事を取るときに、話のネタとして度々挙げられている少女の話を思い出した。


 腕は保証する、と言っているクネーラはお世辞を言うタイプではない為、腕は確かにあるのだろう。


 Cクラス相応の腕が――……。





宇宙ねこちゃんならぬ宇宙セリーニちゃんのあらすじ絵です:)

皆さんめっきり寒くなってきましたね。冷え性の私には少々つらい季節に突入してきました。


ブクマありがとうございます。評価も入れていただけるだけで充分満足です:) いつかブクマ数が安定して伸びてきたら、お礼絵か、四コマ等描きたいなぁと思ってる次第です。

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