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Chapter5-6

挿絵(By みてみん)





 レンガ道を歩き進めていくたびに、日が沈んでいき茜が薄紫へと変わっていく。キラリと輝く一番星を筆頭に、そろそろ星が目覚める頃合いに目的のホテルへと入ると、ボーイが綺麗なお辞儀を見せた後リーコスを案内する。


 話によればどうやら既に殆どの者が集まりオードブルをつついているらしい。遅ければ食事を先にとっていいとリーコスは言っていたので、報告をするボーイに理解の頷きを一つする。



「遅くなりました」

「おぉ!リーコス、先に食べておるぞ~」

「久々のカロリーはいかがですか父上」

「最高だな!ハッハッハ!」



 ボーイがドアを開け、リーコスは流れる様に中に入る。楽しそうに食事をしている者達に軽く頭を下げて遅くなった詫びを入れると、アルコールとカロリーを入れて上機嫌な父親に緩く笑いながら側へと寄る。いつも父親の健康を気遣っている母親も、たまの贅沢は許しているのか、上機嫌に王族の者と話す父親の話を静かに聞きながら食事を楽しんでいのが見える。



「お兄様!!イエラは待ちくたびれましてよ!」

「フフ、すまないイエラ。まず入学祝いを…」

「まぁ…!有難うございます!」



 適度な衝撃と重みが腰にやってきた。どうやら後ろからイエラが突撃してきたようで、軽く腕を上げて覗き込みつつ内ポケットから入学祝いにと買っていたプレゼントを渡す。ぱっ!と腰に巻き付けていた腕を離して綺麗にラッピングされていたプレゼントを受け取ったイエラは、家に帰ったら開ける為に後ろへ控えていた護衛へと渡している。

 くるりと後ろを向いているイエラの髪を留めているクリップリングが、リーコスが卒業前まで欠かさず身に着けていた魔法学校制服の赤いリボンになっていることに気付いた。だがそれがリーコスが身に着けていた物よりも、幾らか生地が新しい事に、ほんのわずかに首を傾げる。



「イエラ、クリップリングはどうした?」

「将来の投資に使いましたわ」

「……?」



 取り皿を持ち大皿の食事を乗せているイエラの言葉に、リーコスは疑問を浮かべたまま、一つに括られている髪の付け根を飾る赤リボンを見る。リボンの端に名前が必ず書かれているのを知っている為、確認する為に手を伸ばそうとしたとき、イエラがリーコスの為に食事を寄せた皿を差し出してきた。



「側近契約をしましたの」

「…そういえば、イエラは側近を自分で決めると言っていたな…その未来の側近に?」

「えぇ、道具の材料として差し上げましたわ」

「また新しいクリップリングが欲しいなら買うが…」



 エイらが差し出した皿を受けとったリーコスは、フォークを取りつつ提案するが、どうやらイエラは珍しく兄の提案に首を横に振った。



「今は結構ですわ。そのかわり、卒業祝いに買ってくださいお兄様」

「…フフ、分かった。ではしっかり勉学と魔法技術を上げる為に励んでくれ」



 卒業、という高い目標をしっかりと指し示す妹に、リーコスは笑顔を向けつつ頷いた。リーコス自身も主席で卒業をした身だが、決して余裕をもって卒業出来たわけではない。


 勉学も、魔法技術も、気を抜けばすぐに振り落とされるような学校の為、食らいついていかなければ知識と技術に引き離されてしまう。勿論適度に知識と技術を身に着けるだけでも、最低限のボーダーラインを越えれば卒業は可能だが、それでは"立場"というものが無くなるのだ。

 一国の第一王子が、上位に入ることなく卒業したとなれば、他国の笑いものになってしまう。だからこそリーコスは出来るだけ主席に拘った。


 イエラもそれは分かっているのか、敢えて卒業という壁を高く設定しているらしく、しっかりと卒業をするという目標を持って行動していることが分かる。


 揺れる赤いリボンを飾っている妹が他の者に話しかけているのを見ながら、リーコスはぷつりと茹でたエビにフォークを刺し口に持っていく。噛む度にぷつん、ぷつん、と歯ごたえが歯に伝わり、バジルとレモンのソースが舌を撫で甘いエビの味と混ざった。








 楽しい笑い声は食事会が終わるまで続いた。王族揃って城へと戻ったときには、顔を真っ赤にしつつ千鳥足になりながら部屋へと戻る父親を多くの護衛が支えており、リーコスも付き添いで歩く。


 広く、そして遊び心のあるブリキのおもちゃが並んでいる国王の私室に入ると、給仕が酔っ払いの国王の服を脱がし護衛達と共に寝巻に着替えさせていた。リーコスはベッドに水と果物を置く様に給仕に言いながら、寝巻に着替えさせられた父親をベッドに寝かせる手伝いをする。



「うぅーん…」

「よく眠っている……皆、ご苦労。夜勤の者は適度に息抜きをしながら城の見回りを頼む。今いる給仕は明日の昼まで休んでくれ」



 護衛として働く騎士団員と城の給仕がそれぞれリーコスに頭を下げると、国王の私室から退出する。リーコスは扉の内側から鍵をかけ、この部屋から自分の部屋へと続く扉を開けて自室に入ると、まだまだ馴染まないギルド隊服を脱いだ。



「ふう…また暫くは研修か…」



 専用通信機を指で操作してスケジュールを出す。魔力の光を纏った文字が、リーコス専用の一週間スケジュール内容を表しており、細かく書かれている明日のスケジュールを確認する。暫く中央ギルド内で研修が続くが、数週間後には東の森にて最後の研修があるため、それに向けて鍛錬を怠らない様にせねばならない。それをクリアすれば、晴れて一人前となりクエストを受けることが出来る。



「明日の為に、早くシャワーを浴びて寝るとするか」




 専用通信機の電源をスリープ状にして腕から外したリーコスは、そのままシャワーを浴びる為にシャワー室に消えていく。



 こうして第一王子の長い一日は終わり、また新たな一日を迎えるのである。





次はchapterが新しくなるので、保険として21時予定です…!


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