Chapter5-5
ぴゃー、ぴゃー、みゃう、みゃう。海鳥が空を舞い、海岸で毛繕いしている。大きな魔法船が港へ泊っており、その船と地上を結ぶタラップを上っていく三人の魂下ろしの一族をしっかり見守っていると、後ろから走ってくる気配に気付いたリーコスは後ろを見る。
どかどかと大股で走ってきた総隊長の足音に気付いた他の隊員は、整列していた隊列を変えると、それほど息を切らすことなくやってきた総隊長はそのまま列の前へと身体を止めた。
「ご苦労!あの後何もなかったか?」
「はい」
前衛に居た隊員が頷くと、他の隊員たちも頷いた。総隊長はそのままよくやったと労いの言葉を掛けながら、タラップを上り切った三人を見た。笑顔を向けて手を振る双子に総隊長も歯を見せ笑いながら手を振ると、双子は満足したのか長様と呼ばれていた女性に引き連れられて船内へと消えていく。
魔法船には一族を護る人達なのか、護衛のような者達が立ち並んでおり、一切の隙が無い事がリーコスの目に見て取れる。船と陸を繋いでいたタラップが港を管理する者達によって外され出港準備が始まる。
「さて、んじゃぼちぼち帰るか。俺は馬車じゃなくてそのまま馬に乗る、リーコス、次の先頭はお前だ」
「了解しました」
「じゃあ十分後。お前たち、俺も買い物するからお前たちも道連れでなんか買え!」
"えぇ~!"という声が広がりつつ一斉に港を後にしていく隊員たちに、リーコスも付いていこうかと思ったが、ふと後ろを振り向く。いつのまに船上に出ていたのか、女性がリーコスに視線を注いでいたのだ。ちょいちょい、と手招きするので海に落ちないよう近付くと、きらりと太陽の光を反射して何かが落ちてきた。それをしっかり手でキャッチすると、上からほんの少しだけ声を張り上げる女性の声が聞こえる。
「それは、わたし"たち"が受け継いできたものです!」
「……!?そんな大切な物を、なぜ!」
手の中にある物を確認していないが、なぜか温かみを感じ取れる。女性の言葉が本当ならば、なぜ手放すのかと思うのが普通だ。だが、リーコスの言葉を聞いた女性は、笑顔を向ける。
「元はシゼラスの方から預かっていた物です……!それを、それをあなたの、」
「……」
「あなたの、大切な鍛冶屋に!それは、千年前に、」
ザザ、と海を割る音が聞こえる。距離がゆっくりと開き、女性はより声を張り上げる。
「千年前に…!残された魔法道具です……!」
「千年前の道具…!?……必ず渡します!!」
リーコスは大声を張り上げて伝えると、聞こえたのか、女性の泣きそうな笑顔と共に手を振る姿を捉えた。点となり、やがて港を出発した魔法船が徐々に遠くの方へと行く。
リーコスは手の中でずっと握っていた物を広げると、まあるいガラス玉の中に綺麗な赤い光が優しく輝いていた。
なぜ女性は"千年前の魔法道具"を持っていたのかは分からないが、きっとそれほど大切な物を女性に預けていたのだろう。どういった理由でシゼラスに世話になったのかは分からないが、何かあの女性にとって大切な出来事があったのだろう。それに見合う礼が、あるいは滅多に民衆の前に姿を現さない一族だからこそ、道具を預けたのかもしれない、とリーコスは輝く赤の玉を胸元のポケットに仕舞い、買い物をしている隊員たちの元へと駆け寄った。
「長様、渡されたのですか」
「はい。いずれ渡さねばならないと思っていたのです。シゼラスに通ずる者に、確実にシゼラスの血筋に渡る者に」
「彼は大丈夫なのですか」
「……分かりません。"勇者"の言っていたのが、彼であるのかも。もしかすれば、また次の光の使者かもしれませんし、その前の光の使者かもしれない。わたしにはもう、それほど強大な力を持ち合わせていませんから……」
柔らかなソファに座っている女性を挟む様に双子は左右に座って交互に喋る。双子の言葉に一つの指名を果たした女性は、揺れる紫の瞳を瞼で伏せる。
「ですが、わたしの使命は果たされた。あとは解放を待つのみ」
「長様、その時は"名前"を返してもらえるんですか」
「えぇ、……使命が終えれば、必ず」
「やくそくです、長様」
双子はお互いの小指を差し出す。その小指に自分の両小指を差し出して指を契った女性は、小さな島へと戻る間、船酔いを起こさない為に大きなベッドへと身体を横にした。
「何貰ったんだ?」
「……千年前の魔法道具、だと仰っていました」
「へぇー、随分古いな」
王都の関門を潜った時には、世界に茜色がやってきていた。中央ギルド支部に戻った総隊長選抜隊は無事任務を終了し、必須クエスト用紙に済という判が押された。
総隊長の解散という言葉に隊員達は帰宅の準備をしていると、総隊長がリーコスに質問をする。質問を受け取ったリーコスは内ポケットに入れていた魔法道具を取り出し総隊長に渡すと、総隊長は赤く燃える光を覗き込んだ。
「これストッカーか?」
「さぁ…私にはさっぱり、」
「あったけぇな。冬に暖取るにはいいかもなー」
ほい、と言いつつリーコスに返した総隊長は、ロッカーを閉めて"おう!みんなお疲れさん。先帰るからお前たちも気を付けてなー"と言ってロッカールームから出ていった。リーコスもロッカールームに残っている者達へ声を掛けて出ると、中央ギルド支部のエントランスを抜けて玄関へと向かう。
通信機の機能で時刻を確認する。食事をする店の予約は一時間後の為、まだ余裕はあった。脚はシゼラスの方へと向けて歩くと、朝と違って人混みの多いレンガ街を歩いていく。
「第一王子、そろそろこんばんはの時間ですね」
「やぁ本屋のマダム。私の部下がバカンス雑誌を買いに来なかったかな?」
「えぇ!南の特集をオススメしておきました~」
「第一王子!今月の新作の試食、いかがですか!」
「やぁ揚げ物屋の店主。有難う、頂く。……ん、これは美味い。父上が来た時にもこっそりやってくれ」
「有難うございます!仰せの通りに…!」
声を掛けてくれる国民に笑顔を向けながら、一言会話を交わしていき交流する。本屋の老婆に部下が来たことを確認して、しっかりと来たことを把握し、揚げ物屋の店主から渡された湯気の出ている揚げ物を一口で食べて、うまみのある肉の味を噛みしめる。これなら父上も喜ぶだろうと考えつつすれ違う者達と一言ずつ会話を交わしていくと、あっという間にシゼラスの前に到着してしまった。
関係者のノック音を鳴らすと、工房からエルミスの声が聞こえてくる。へぇーい、か、うぇーい、か分からない声だが、確実にノックの音をリーコスが発していることは分かっていることは確かだ。
「や、」
「おう、入れよ」
工房のドアを開けたエルミスが顔を出すと、そのまま大きく工房のドアを開いてリーコスを招き入れた。どうやらまだ入って右にある窓の修繕が終わっていないのか、木で蓋をしてあるのが見える。
工房のドアを閉めて振り返ると、エルミスは魔法炉に脚を進めていた。なにかをしていたらしい。
「なにをしていたんだい?」
「鎧の修理。ヒビ入ってるところを直そうと思ってな」
「へぇ…」
マナの海に浮かぶ鎧は所々へこんでいたり、強い衝撃によってひび割れていたり、強いへこみの中心に小さな穴が開いていた。魔法炉で鎧の成分を確かめ、該当する鉱物を魔法炉に放り投げていくエルミスは、そのまま特殊なガラスパネルで操作して、まずへこみを直していく。熱を加えて柔らかくなっている鎧は、マナの力でググッ…とせり上がり、ポンッと音を立ててへこみが直る。ひび割れた部分も寄せてくっ付け、へこみによって穴の開いていた部分は、金属疲労が激しい為取り除いた。
「なぜ取り除くんだ?」
「直してもそこだけ脆くなるからな。いくら打ち直しで古いものを大切に使い続けても、金属疲労だけは避けられねぇし、新しい素材に入れ替える事もある」
放り込んだ材料を魔法炉の中で混ぜ合わせ、取り除いた部分にしっかりと入れる。寄せてくっ付けたひび割れ部分も強度を増すために薄く上乗せし、操作パネルで冷却に切り替えたエルミスは魔法炉の前から離れた。
「んで?あんな出来の悪い手紙寄越したんだ、なんかあるんだろ?」
「出来が悪い……相変わらず厳しいなエルミスは。本当は二つ話す事があったんだが、三つに増えた」
「じゃあとりあえず一つ目話せよ」
つなぎの上を脱いで袖を腰に巻き付けつつ椅子に座ったエルミスは、先に帰った父親の椅子を引っ張ってきてリーコスに座らせる。"ありがとう、"と言いながら三つに増えたという事を喋るリーコスに、エルミスはとりあえず一つずつ消化しようと人差し指を立てて提案する。
「今日はイエラの入学祝いを、軽くオルティーキで行うらしい。エルミスも来ないか?」
「めちゃくちゃ高級レストランじゃねーか……行きてーけど、お偉いさんもくるんだろ」
「王政に関わる者と、王族の繋がりぐらいだな」
「パスパス。ゆっくり飯食うような集まりじゃねーぞ。大体今日はもうイエラに会ったしな」
入学祝いとして指定された場所は、オルティーキと呼ばれるホテルレストランだ。勿論王族は古くから御用達の店の一つになっており、歴史の長い名店でもある。声を掛けていたのも、イエラと親しくしている者達ばかりだったため、エルミスも呼ぼうと思っていたが振られてしまった。まぁリーコスにはエルミスが首を縦るような集まりではないと思っていた為、父親には"多分来ないと思います"、という言葉を先に掛けておいたのだが。
案の定参加しないとあっさり言ったエルミスの口からイエラと会った事を聞くと、灰白色の瞳を軽く見る。どうやら妹はすでにやらかしていることが分かった。
「イエラはもう使ったのか。王族権限」
「あーもうばっちりな。まぁ仕方なかったんだ、丁度アイツが居る時にアレが現れたからな」
「そうか……詳しい事は後で聞こう」
王族権限は、王族のみ見ることが出来る魔法陣が瞳に現れる。その魔法陣は使用者によってほんの少し違うため、誰が使用したか分かるようになっている。薄らと見えるイエラの王族権限使用の魔法陣に、どうやらエルミスは為す術もなく妹に秘密を暴いてしまったようだ。
「二つ目は?」
「明日、食事でもどうかな?」
「………」
「これは一応今晩の食事を断られた場合、俺が個人的にエルミスと食事を楽しみたいと思った事なんだが…」
「へーへー。じゃあ朝ラグダーキな」
「空腹で向かうよ」
食事の誘いを態々伝えたかった事に入れるというリーコスの良く分からない頭に、思わずエルミスはなんだこいつ、という視線を向けながら黙る。当然の様にその痛い視線を物ともしないリーコスは、至極当然の様に、食事を断る前提で話す事を二つと言っていたのだ。こういう積極的なのをなぜ女性の前で発揮できないのか、エルミスは残念な幼馴染に同情しつつ食事の誘いにOKを出す。
「んで、一つ増えたやつは?」
「……これだ」
「…?なんだこれ?」
新しく話さなければいけない事を聞き出すエルミスに、リーコスは内ポケットで暖かな熱を放つ道具を取り出しエルミスの前に差し出すと、エルミスは両手を受け皿の様に合わせた。その受け手に優しく乗せたリーコスは、そっと指を離す。
「今日の必須クエストで護衛をした女性からもらったものだ」
「女から!?おまえ……とうとう積極的なアプローチを…、おいおい今日はステーキか?」
「誤解だ。それに女性は、正確には俺にと渡してきたものじゃない」
「すぐ否定すんな。ったく…舞い上がっちまったオレが馬鹿みてーじゃねーか」
とても珍しい物言いをする幼馴染に思わずエルミスは舞い上がる。あれほど女性にシャイである男が、まさか女性にプレゼントをもらえるほどアプローチをしたに違いないと思ったからだ。だがしっかりと否定をする幼馴染にがっくりと肩を落としつつ、手の中で輝き灯る赤い光が入った玉を見つめる。
「んで?このアンティークみたいなやつはなんだ?」
「千年前の魔法道具らしい」
「!?な、なんだとー!?こ、これが…これが…」
覗き込んだりしていたエルミスに降り注ぐ"千年前の魔法道具"という単語に、思わず大声を上げて驚く。無理もない、魔法道具は大体五百年前ほどで古いと言われ、千年前と言えば、希少価値の判子が付き、博物館で展示してもおかしくない代物なのだ。
「すっげー…!でもこれなんの魔法道具なんだ…?」
「さぁ…総隊長はストッカーではないか、と言っていたが…試しにスキャニングしてみてはどうかな?」
「そうすっか…」
リーコスの提案にエルミスは頷くと、暖かな輝きを放つ玉に魔力を注ぎ始める。
「 同調 開始 」
どうやら簡易ではなく、しっかりと詠唱をするらしい。エルミスの唇から呪文が零れ、魔法文字がエルミスの周りを包み、魔力の光が溢れる。次に現れる呪文によって、魔法道具の簡易的な情報が分かるのだが…どうやらエルミスの眉間に皺が寄っているのをリーコスは見逃さなかった。
「 … 」
迷っているのだ。通常であれば呪文は自然と術者に流れてくるのだが、なぜかエルミスは悩んでいる。
「 ……犠牲を伴いし制約 結束の盟約 意志と希望の表れ 」
その単語はエルミスにとっても、そしてリーコスにとっても初めて聞く呪文だった。
「 汝 我と同調せし者 互い 一つになりし者也 」
三本の魔法文字が一つに連なり、上から下へ降り注ぐ。どのような情報が魔法文字として現れるのかと思っていたが、どうやらそう簡単に千年の錠は外れてくれないらしい。
「…情報がないのか?」
「いや……、鍵がかかってる」
「鍵…?」
エルミスは椅子の背凭れに深く座って脱力する。どうやらまあまあの魔力を使ったようだ。鍵という珍しい理由にリーコスは首を傾げると、エルミスは茜色の玉を作業机の上に置いてあるクロスの上に置き、メモを引っ張り出してペンを持ちなにやら書き始める。リーコスはキャスター付きの椅子に座ったまま移動し、何を書くのか覗き込んだ。
「スキャニングっていうのは、通常相手に流れる魔力を情報として読み取り、発動させる事によって詳しい情報が魔法文字として現れる」
簡単な人間のシルエットを描き、内側に流れている魔力の流れをエルミスは矢印で表現する。スキャニングする術者が魔力から情報を得る様に、もう一人人間のシルエットを描き、矢印が新しく描いた人間に流れて行っているのが分かる。
魔法文字を表した三本のラインを二つのシルエットに囲み、発動したようなイメージで様々な魔法文字を回りに書き込む。
「だが、この千年の魔法道具は、……詳しい事は伏せる様に、層みたいなのが出来てる」
円を描いたエルミスは、その外側に二つ、ぐる、ぐると円を描き、三重の円が出来上がる。
「オレが読み取ったのはここ、」
外側の円に線を伸ばして矢印にすると、チェックマークを描く。
「だが本当に読み取らねぇといけねぇのが、ここ」
一番内側の円をぐるぐるとペンでなぞり描きするエルミスに、リーコスはなるほどと頷く。
「その間が鍵みたいなもの、なのか。それを解除する方法は……あれば既にエルミスがやっているか」
「まぁな。…っつーか、この中間の層をどうにかするのは、…うーん」
「……どうした、随分歯切れが悪いな」
たとえ鍛冶屋見習の位置に居ようと、エルミスの魔法技術は誰もが高いと認めるほど良い。その魔法技術の高さで、スキャニングによる詳細が事細かく魔法文字として現れる。魔法技術の高いエルミスがこれほど歯切れが悪い物言いであれば、それは、
「多分、そうとう高度な魔法で鍵がかかってるから…まぁ、今のオレでも無理。オレが無理なら、他のヤツでも無理だろ」
「そうか…魔法学校の学校長に聞いてみてはどうだ?学校長であれば、何か助言を頂けるかもしれない」
「なるほど。確かに学校長ならなにか知ってそうだな…今度母さんに言って、また時間取ってもらうことにするか…」
「いや、こちらで手配しておこう。俺もその魔法道具の詳細が気になる」
「そうか?んじゃ頼む」
エルミスよりも高い魔法技術を持つ学校長。神代時代の文字も少しではあるが読めるほどの博学、第二の層に関して何か知っているかもしれないというリーコスの提案に、エルミスも聞く価値は大いにあると考えた。流石に忙しい人物であるとエルミスも知っているため、一番関わり合いのある母親にアポを取ってもらおうと考えたが、どうやらリーコスも学校長がどういった考えを持って発言するかが気になったのだろう、ここは大人しくリーコスに甘える事にする。
「さて、イエラが王族権限を使ったほどの場面を聞こうか」
「ん?あぁ…闇属性の魔法で暴走した生徒が現れたんだ。それで止む終えず魔法を使ったら、兄貴に聞けって言ったのに…俺に問答無用で使ってきやがった。まぁそれは置いといて…、とりあえずこれ、見ろよ」
「…指輪?」
話を戻して妹が王族権限を使用した理由を聞くリーコス。簡単に説明をしたエルミスに、やはり闇属性で暴走した人間が居た事を知る。丁度その時に妹もエルミスと共に居たのだろう。兄しか扱う事の出来ない魔法をエルミスが扱っているのを見れば、気になるのは当然のことで。ぶつくさと文句を言いながらも簡単に話を片付けたエルミスは、大切な物入れになっているストッカーポーチに手を入れてあるものを取り出しリーコス渡すと、それは傷がほとんどついていない指輪型の魔法道具だった。
「ふむ、俺に結婚の申し出を?」
「妙なボケをいれるな!それは巷で噂になってる"呪いの魔法道具"ってやつだ」
「呪いの…一見真新しい魔法道具だが…噂というのは?」
噂というものを耳に入れていないリーコスは質問する。どうやら魔法道具を身に着けた物が、徐々に性格が変わり、命を散らしてしまうという物騒な噂だった。
「…つーわけで、その性格云々が変わるのが、闇属性の魔法が掛かった魔法道具の仕業が強いってことだ」
「だが…これには闇属性を感じないが、」
「そりゃあな。なんせオレが持ち主の暴走と共に解除しちまったし…」
「なるほどな。ではとりあえずその噂とやらは、俺も調査しておこう」
「サンキュー。オレも気になるから適当に探ってみるぜ」
危険な魔法道具を噂程度で片付けて良いものではない事は確かだ。魔法道具から感じる筈であろう闇属性の魔力を感じない理由を聞き納得したリーコスは、指輪をエルミスに返して椅子から立ち上がる。
エルミスも指輪をストッカーポーチに入れてリーコスの見送りをするために工房から出ると、どうやら街灯が灯る時間らしい。エルミスの姿が見えなくなるまで歩く。
ちらりと後ろを振り向けば、手を軽く上げている幼馴染の見送りが遠くに見える。ガサツな物言いをする幼馴染だが、秘めた情熱を持っていることを、リーコスは誰よりも理解しているのだ。物騒な噂とやらも、使い手を護る為にあるはずの魔法道具を、自ら死へ追いやってしまう危険な道具になってしまっている。
エルミスは口では言わないが、許しがたい事態だと捉えているのはリーコス自身感じ取っていた。
角を曲がる直前にまた振り向き、エルミスが片手を軽く上げて挨拶をする小さな姿をしっかりと目に収め、同じように片手を軽く上げて挨拶を返すと、金の髪束を揺らして角を曲がった。
終わりかと思ったんですが、まだあと一話続きます。
明日は多分19時に上げれるはず…。明後日はchapterが変わるので、状況次第でまた21時になるかもしれませんが、出来るだけ頑張ります。
最近涼しくなりましたが、涼しくなっても熱中症にはお気を付けください~…!




