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Chapter5-3

挿絵(By みてみん)





 人を運ぶ必須クエストの類は、正門ではなく裏門から出る事になっており、馬と馬車を裏門に続く玄関前に手配すると、きっかり十分後に総隊長が玄関前に現れた。


 後ろには三人、"魂下ろしの一族"なのだろうその三人は、総隊長に軽く頭を下げて隊員が扉を開けた馬車に乗り込んだ。リーコスが最後に乗り込みドアを閉め、母親と年齢が変わらなさそうな女性の隣に座る。任務なので然程緊張はしないが、やはり少しだけ鼓動が速くなりそうなのは仕方がない。

 目の前に座っている十歳前後の双子の男子の真ん中に座っている女性隊員に代わってもらおうかと考えたが、随分と仲良く会話している為引きはがすのも大人げない。大人しく口を噤む判断を取ったリーコスは、動き出す馬車の中で、ただひたすらに敵の気配が無いか神経を巡らせた。




「綺麗な剣ですね」




 幾度となく使われ慣らされた道と言えど、小石や小さな穴で馬車が揺れるもので。揺れる度にちりん、ちりん、と女性の髪飾りについていた鈴が鳴っている。未だ先頭を走っている隊員と総隊長から敵襲の掛け声は上がっていないが、鞘に収まっている魔法剣の柄頭に手を添えたまま待機していると、隣から透明感のある清らかな声が耳の鼓膜を震わせた。



「あ、…ありがとうございます」



 上ずりそうになる声を何とか抑えたリーコスは礼を言うと、にこりと笑う女性は魔法剣を見る。装飾の施された魔法剣の美しさは、持ち主となって数か月たった今でも、リーコスはこの魔法剣を美しい剣だと感じている。


 古い知人に会ったような懐かしい目で魔法剣を見る女性は、リーコスの礼ににこりと緩く微笑んで受け止めると、立ち寄る村まで静かに小窓の外を眺めていた。






「休憩だ、各自馬の世話と水分の補給、あとトイレも済ませておけよー」



 緩やかに馬車の速度が弱まり、完全にぴたりと停止する。どうやら南へと向かう途中の村に着いた様で、総隊長の声が馬車の中まで響き渡る。

 リーコスは先に馬車を降り、ドアを開けたまま中にいる四人に手を差し出し、降りる手伝いをしてドアを閉める。小さなギルド支部の建物に入り三人を柔らかなソファに座らせると、腰が少し痛かったのか、女性はゆっくり背凭れに身体を預けている。



「わたし、飲み物取ってきます!」

「分かった」



 双子の護衛の様になってしまっている女性隊員が、飲み物を取りに行くためギルド支部の食堂に向かう三人の背中を見送ると、リーコスは視線を外してギルド支部の玄関外で馬に水をやり、整備をしている隊員と総隊長のやり取りを見る。どうやら最近女性に振られたらしい隊員を総隊長が励ましていた。ばしばしと背中を叩いて励ます総隊長の優しさか、はたまた強すぎる痛みに泣いているのかは分からないが、隊員は男泣きをしながら他の隊員たちにも励ましを受けている。



「にぎやかですね」

「…えぇ、人柄の良い総隊長なので、皆接しやすいのです」

「あなたも笑顔で見ている…」

「ああいった世間話は、普段自分の周りで聞けないものですから…」



 第一王子として城に居る時は、重役や貴族たちの世間話は有れど、国の事情や家族のことぐらいだ。語られるだけ語られておしまいの事が多い。だが、ああいった人の性格や日常が良く分かる第三者同士の会話を聞くのが、リーコスにとって小さな幸せなのだ。

 だからこそ毎日馬車ではなく徒歩で王都を歩き、人々と会話をし、他者の日常を感じ取る。



「人々の日常を見て感情を得る、…優しいのですね」

「……そうでしょうか」

「えぇ、そういった者も、わたしの友に居ましたから…」



 いました。過去形である言葉に、すでに疎遠か、あるいは故人であることをリーコスは悟る。遠くを見つめ、今にも消えていきそうな女性を改めてリーコスはしっかり見る。独特な白い衣装に身を包み、鈴の付いた髪飾りで止めてある髪は、光に当たると仄かに紫色を帯びている。色の白い肌は、日に当たっていないのか、血管が薄らと見えていた。紫の瞳はリーコスの蒼と絡むことなく、魔法剣に集中している。



「それは、魔法剣ですか?」

「はい。私専用として作ってもらいました」

「そうですか…鍛冶屋の名を窺っても?」

「"シゼラス"という鍛冶屋です。私の家族は古くから常連となっています」



 シゼラスという言葉に、紫の瞳は揺れる。次に口角が緩く上がった。揺れる瞳を隠す様に瞼が伏せられ、長いまつ毛がほんの少し震えているのをリーコスは見逃さなかった。希少な一族でも、シゼラスという鍛冶屋を知っているのだろか、と考えていたが、どうやらその答えはすぐにやってきたようだ。



「懐かしい名です。昔、とても昔、世話になった事があります」

「なにか道具を?」

「いいえ…わたしを助けてくれたのです…」

「シゼラスの人間は腕っぷしもいいですからね」



 懐かしむ相手にリーコスは、ふと代々腕っぷしが強かったという話、そして自身も腕っぷしに自身があったというエルミスの祖父の話を思い出して語る。どうやら語った言葉が良かったのか、うんうんと相槌をゆっくり打つ女性に、少なくとも会話が出来た達成感でリーコスは満たされてしまった。



「お待たせしましたー!」

「「長様(おささま)!みかん味とリンゴ味、どちらがよろしいですか!」」



 食堂から帰ってきた三人は、蓋の開いていない瓶を持ち込み長机に並べると、双子は声を重ねて長と呼ぶ女性へと質問した。長様と呼ばれた女性は、その二つではなく女性隊員が持ってきた炭酸水へと手を伸ばす。



「みかんとりんごは、あなた達が好きでしょう?好きなものを飲みなさい。わたしは丁度これが飲みたかったです」

「わかりました!では僕はりんごを、」

「僕はみかんを、」

「はいはい待ってねー。先にこの子たちから開けさせていただきますね」

「お願いします」



 女性隊員は早く早くとせがむ双子を見ながら女性に声を掛けると、優しい笑顔と共に頷いていた。カコン、と蓋が少し曲がる音と共に専用の栓抜きで抜かれた瓶を双子に差し出すと、双子は一斉に飲み始め、ぷは、と息を吐きながら一息つくタイミングが揃う。にこにこと笑う女性隊員はそのまま炭酸水の蓋を開けて紫の瞳を持つ女性に渡すと、女性は礼を言って口を付け喉の渇きを潤していた。



「リーコス隊員はどれにしますか?」

「余った物を貰おう」

「ではリンゴをどうぞ」



 唐突の声掛けにほんの少し、本当にほんの少しだけ早口になるリーコス。眩しい笑顔と共にリンゴ水の入った瓶を差し出されてしまい、誤魔化す様ににこりと笑顔を作って出来るだけ女性隊員の手に触れない様に瓶を受け取るが、やはり付いてしまう。


 ぴたりとつっくいた所から感じる温かな皮膚、柔い肉の感触に鼓動が上がらない様にゆっくりと息を吐きながら礼を言うと、専用の栓抜きで蓋を取る。


 カコンと、リーコスの内情とは全く違うひょうきんな音を聞きつつ、落ち着くためにリンゴ水と言う名の糖分を、脳に落ち着けと言わんばかりに補給した。




柔らかかったり、良い匂いがするとドキッとしますよね。同性の私も同じことを考えたりします…:-)

明日も19時か21時を予定しています。またおひとりとブクマ人数が増えて嬉しい限りです、少しずつ私と共に歩んでいただける方々がいるという事を実感して、頑張っていきたいと思っています:)



活動報告は毎日書いているのですが、ほとんどゲームや雑談ばっかりで、活動報告の意味がない気がしますが、私は至って元気です。

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