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Chapter24-19

挿絵(By みてみん)





『―――そして、前王が謎の魔族によって殺されました。犯人は捩じれた二本の角、上半身に入れ墨が施された褐色の男と目撃情報が出ています。もし何らかの情報をお持ちの際は、イガンダス国家軍まで情報提供の程お願いしますとの事です。以上、臨時ニュースをお伝えしました』

「前の王様が殺されたのか……」



 アステラス国、ロドニーティス家。第一王女生誕祭当日、昨晩の忙しさから一転して家で暇を持て余すエルミスは、縁側で野鳥に餌をやりながら、リビングで流れているラジオの臨時ニュースに耳を傾けて情報を得る。ハルコ第一王子が王様になったという喜ばしいニュースから、前王の死まで同時に伝えられる衝撃は、きっとエルミスだけでなくアステラス全土、そして他の大陸の国民たちも驚きの感情が心を埋め尽くしているだろう。




(オレが装飾剣の消えかかってた光属性の魔法陣を刻んだから、てっきりヴィシニスが何らかの理由でイガンダス国を狙ったと思ってたが……、そもそもあいつ角生えてねぇしな)



 エルミスが「魔族、殺し」で、真っ先に思い浮かんだのが全身黒のヴィシニスだ。だが角は生えておらず、褐色ではなく病気を思わせるほどの色白の肌をしている為、ヴィシニスではないと頭に浮かんでいた顔を消す。


 どの王族の城も厳重かつ複雑な防魔法が掛けられており、たとえ魔法を駆使する魔族でも魔法の仕様は不可能に近い。余程身体に自信のある魔族が侵入し、兵の強い護衛を掻い潜って前王を倒したのだろう。城の侵入、そして手練れの前王が殺されるという二つの情報は、華やかな第一王女生誕祭の日に衝撃を与えた。



「……前王が装飾剣を持ってれば、ワンチャン魔族の退治が出来たかもしんねーけど……、」



 既に現国王となったハルコに渡ってしまった装飾剣を思い出す。光属性の魔法、それは魔族にとって最大の痛みを伴う魔法であるという事を総合義務教育で習う為、もし前王が装飾剣を持っていれば、襲ってきた魔族に大きな痛手を打てる可能性があった。


 だが、いくら可能性を考えても、すでに前王の命は散ってしまっている。



「新しい国王の誕生に、前王の死か……イガンダス国の人たち、かなり混乱するだろな……」



 混乱と共に国を落とそうとする小国も出てくるかもしれない。しかしそれを黙って指をくわえて見ている程、貿易国であるアステラス国が何もしないわけがなく、



『―――臨時ニュースです。先ほどアステラス国王が"イガンダス国の防衛支援"に対し、受け入れると発表しました』



 だろな、とエルミスの独り言がラジオの声に被さる。国の為に王政から変えようと自らの命と引き換えに呪いを解こうとしたハルコ王子、……ハルコ国王が、唯々あたふたとするはずがないのだ。すぐにアステラス国と力を合わせる声明を出す事により、自国の国民たちの不安を少しでも解消しようとしたのだろう。アステラス国も、貿易国であり友好関係であるイガンダス国を護らないわけがない。



「さーて、未来の王女様のお祝いパレードでも見に行くかぁ……」



 第一王女生誕祭のメインイベントと言っても過言ではない王都を練り歩くパレード。そしてその後ラジオを通してアステラス全土にスピーチを届け、盛大な祝いの魔法が行われる。




 芝生に埋もれた餌を啄む野鳥を見ながら縁側から腰を上げた―――その時、屋根の上から大きな黒い物体が落ちてくることだけはエルミスの動体視力で確認できた。


「うわっ!?」

「…………」



 思わず重い腰を再び縁側に下ろしたエルミスの目の前には、長い前髪を裏に流したヴィシニスの姿があった。一斉に飛び立った野鳥は空を旋回して庭の木の枝に止まる音が、賑やかな外の音と混じって消える。



「…な、なんだよ」

「……ロズ・ディアマンティの剣身に、光属性の魔法陣を刻んだ理由を聞かせろ」



 決して怒ってはいないのは何となく理解できるエルミスは、良く言えば端的、悪く言えば愛想がないその言葉に対して、色々聞きたいことを抑えて答えを投げる。



「魔法陣の消え方にあった。あれは光属性の魔法を使って消えかかったモノじゃねぇ、"故意"に道具で魔法陣を傷つけた痕だ。そんな消し方するって事は、"余程この魔法陣を消さなきゃならん理由があった"からに違いないって思ってな」

「…………」

「…加護をもたらす魔法陣をああやって消すってのは、よっぽどあの魔法陣があって"分が悪い"と思う奴がその当時居たって事だ。誰にとって悪いとはまではわかんねーけど……まぁお節介だとは思ったが、あの魔法陣込みでロズ・ディアマンティは完成だ。未完成を渡せるほど職人辞めてねーよ」

「……職人の癖か」



 理由は分かった。そう言ったヴィシニスがエルミスに背を向けたが、その背に向かってエルミスは少し慌てて声を掛ける。



「ちょっと待てよ」

「……なんだ」

「なんでロズ・ディアマンティの事、光属性の魔法陣が刻まれてるって知ってんだよ」



 エルミスの質問は、きっとエルミス以外の人間が同じ事にあっていても思うだろう。そもそもロズ・ディアマンティの剣身に光属性の魔法陣を刻んだとはっきり理解しているのは、打った本人であるエルミスのみだ。アルキや、その息子店主は魔法陣が光属性のものであるという事を知らない。ヴィシニスがその場に居たわけでもない為、どうやって"光属性の魔法陣が剣身に刻まれている"と分かったのか、その理由を知りたかった。



「……」

「……」



 沈黙を彩る賑やかな国民の声が遠くに聞こえる。魔族特有のアスタリスクの瞳が灰白色の瞳を捉え覗く長い長い沈黙の後、先に動いたのはヴィシニスだった。



「……そのうち分かる」

「な、なんだそりゃ」



 答えを先延ばしにされて首を傾げない人間はいないだろう。そのまま屋根に飛び乗ってしまったヴィシニスの姿を追いかける様にエルミスも立ち上がって屋根を覗き見たが、既に黒い姿はどこにも無かった。



「魔族がスキャニング魔法を使えるはずないしな……」



 エルミスの仮説はスキャニング魔法を使える人間に装飾剣をスキャニングさせたという説だ。魔族は基本的にスキャニング魔法を扱えない。何故かは知らないが、長きに渡りスキャニング魔法を扱える魔族は決して生まれなかったという。魔族に聞いても、今までスキャニング魔法を扱った魔族はいないと口を揃えるほど、その魔法は人間に与えられたものであると総合義務教育から習う常識だ。



 仮説諸共頭の片隅に放り込み、雑に履いたサンダルを脱いで縁側に上がると、改めて未来の女王様の御顔を見る為に玄関へと向かったのだった。





次回更新は予告通り五月ぐらいです!


それまでみんな健康に過ごしててね!!!

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