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Chapter24-16

挿絵(By みてみん)





「工房、貸していただき有難うございます!」



 再びストールに巻かれた宝剣を手に、エルミスは腰を九十度しっかり曲げて礼を言うと、アルキは"おう"と一言声を発した。



「ところで、さっきちょこちょこ何か付け足してたが……ありゃあなんだ?」

「あー、なんか薄ーく消えかかってた魔法陣があったんで、復元させました」

「相変わらずおめーの爺さんと一緒で余計な事も良く見えるこった。材料費は宝剣を触らせてもらった授業料でいい。また何かあれば来い」

「あざっす!よし行くぞセリーニ!」

「はい!失礼しました!」



 馬車に乗り込み小さなドアから二人して顔を出す光景に、ぶっきらぼうなアルキも流石に笑いが零れる。手を振って見送る息子も、どうやらその光景が面白くて笑っている様だ。


 馬車が角を曲がって完全に姿が見えなくなると、息子は手を下ろして看板を"営業中"から"準備中"へと変えて工房に戻る。



「客がまだ来る時間だがいいのか」

「あぁ、あの宝剣が想像以上に凄かった。……ちょっと工房で、色々技術を手に馴染ませておきたい」



 張り切る息子の背中を見るアルキは、"それなら仕方ねぇな"と独り()ち、そのまま息子の技術向上に付き合うため足を進めたのだった。







「只今戻りました!」

「お待たせしました、こちらになります……!」

「予想以上に早かった。確認しても?」

「はい!」



 両手で宝剣を持つエルミスの代わりに来客用のドアを開けたセリーニは、茶を飲んで待機しているハルコとリーコス、そしてセルペンに帰還を告げる。駆け足でハルコの元へ近付いたエルミスに、その場に居たハルコ以外の三人全員が"ヒールに慣れた……!?"と驚いた表情を見せつつ、そんな三人の内情など全く知らないハルコが、エルミスの手によってストールが解かれた宝剣を受け取った。




 まるで新品の様、どこに傷があったのかなど分からない程に、見事抉れ融けていた傷が無くなっていた。ハルコの碧の瞳がスキャニング特有の色味を帯び、宝剣にスキャニング魔法を掛け始める。呪文を唱えない簡易のものを掛けて確認をとっているのだろう。



「―――見事だ、修理元の"ターランドス"という店名は、君の身内の店かな?」

「み、身内といいますか、えぇっと、ちょっと遠い親戚のお爺さんでして」

「そうか、横の繋がりがあるというのは良いことだ。……ミス・エリー、感謝する。護衛を務めた貴女も、彼女と宝剣を護ってくれて感謝する」



 しっかりと頭を下げて礼を言ったハルコに、エルミスとセリーニは同じように頭を下げて礼を受け取る。


 剣帯へと収められた宝剣の美しさは、エルミスが初めて見た時よりも光り輝いていた。

 








 夜の潮風が祝福の様だと感じるのは、きっと初めてだろう。多くの船が止まっている船着き場にたどり着いたハルコと護衛一行は、どうしても見送りに行きたいとせがんだリーコス、護衛のセルペンとヴァリーと共に街灯の下で顔を合わせる。



「何かあれば言ってください。俺に出来る事は少ないですが、それでも王族の一人として、貴方の良き交流者として、何か手助けしたいです」

「有難う。……王政が一気に変わって国民が混乱するかもしれない。その時は、リーコス王子とアステラス国王の力を借りたい、そう国王にも伝えてくれ」

「はい」



 今まで変わらなかった王政が急に変わり始めると、少なからず国民の不安が高まり、結果的に他国に攻め入られる隙を与えてしまう可能性がある。それを想定できない程、第一王子という地位に付いていないリーコスは何の迷いもなく頷いた。



「あと―――」

「……?」



 ハルコの護衛、そしてリーコスの護衛をその場に留めて二、三歩程二人で遠くに移動すれば、ハルコは耳打ちの格好をする。



「(エリー、あれはお前の専属鍛冶屋、シゼラスの者だろう)」

「(!?)」

「(当たりだな。男だと聞いていたが……?)」

「(深い事情で……代理として出てもらいました)」

「(そうか、道理で"仲が良い"と思った)」



 特別不自然な動きを見せなかったのが逆効果だったのか、専属鍛冶屋であるエルミスの話をリーコスからよく聞いていたハルコは簡単に言い当てた。何時気が付いたのか、質問をこそりとリーコスがすれば"魔法を共に使用する時"だと返ってきた。



「まぁ私はああいうのも好みだが……次はきちんと専属鍛冶師として紹介してくれ」

「はい……」



 耳打ちの格好から背を正したハルコは、ほんの少し気落ちしているリーコスの肩を軽く叩いてにこりと笑うと、そのまま船へと続くタラップに足を掛けた。



「道中お気をつけて、ハルコ王子」

「あぁ。――――そうだリーコス王子、少し伝言とお使いを頼まれてくれ」



 





 リーコスと別れたアステラス国の輝きが、遠くの方で薄らと見える。魔法船が海を切る音と潮風が鼓膜を震わす音のみが響く海上で、ハルコは護衛の一人に声を掛けた。



「何時だ」

「……まもなく日付が変わる五分前です」

「―――そうか」



 本来のリミットが近い。ハルコは腰に据えていた宝剣の柄を持ち、すらりと刃を抜く。銀と金の装飾が混ざる宝剣が月の光を受けて薄く輝いているのを、下から上に視線を流して切っ先を見つめた後、静かに五分という刻限を過ごす。


 短いと取るか長いと取るか、本来であれば己の身に死がやってくる時間は、ハルコにとって不思議な時間だった。死を受け入れているからだろか、あるいは本当に生きて帰れる夢心地にいるのではないだろうか、そう考えるほどには不思議な感情が時間を支配する。



「……五、四、三、二、一」

「…………」



 風の音も、海を裂く波飛沫の音も大きい。けれど、なぜかその場に居た護衛二人とハルコだけは、カウントダウンの声と時計の秒針の音が良く聞こえた。


 カチリ、と秒針が天に上り、長針と短針が重なり合う。




「…………生きている」

「宝剣の変化も見られません。呪いは本当に……!」

「――――恐れ入った、魔法大国アステラス」



 ハルコがぽつりと零した言葉に、護衛の一人が感極まって涙を流しながら言葉に嗚咽を混ぜ、もう一人の護衛が時計を仕舞いながら涙を流すのを堪えている。


 イガンダス国で呪いを掃う事の出来るほどの魔法使いが居るかと言えば、いない。尚且つ、魔法大国であるアステラスに重なった呪いを解くような魔法使いが居るのかどうかなど考えつかなかったハルコは、本当に己の命と引き換えに呪いを解く算段だった。





(呪いを言い当てたエリーと、呪いを解いたミセス・ロドニーティス……そうか、親子か)




 エリーの正体が何かによって姿を変えているリーコスの専属鍛冶師であるという事は、シゼラスの店の息子となる。親子揃って凄い、そう思いながらハルコは新しく貰った時間を噛みしめる様に、宝剣をゆっくりと鞘に戻した。





雨ごっついこんばんは!!!!最近この時間帯でも明るくなってきましたが、今日は朝からどんよりまっくらで、思わず「まだ夜か、、もうちょい寝れるわ、、、」と思って寝過ごしてしまったのは内緒でもなんでもないです。



関西圏でこれだけのごっつい雨なんで、関東圏の人はお気をつけて!


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