Chapter24-9
宝剣に呪い――――、その言葉を聞いて表情に出す事は無かったが、リーコスは内心驚きでいっぱいだった。ここでなにかを悟って宝剣に目をやってしまえば、きっとハルコに気付かれる……その可能性を考慮したリーコスは、エルミスの方へと軽く視線を向けた後、再び耳を貸す。
「(今は王城の防魔法が効いてる、でも宝剣に呪いなんてよっぽどだ。お前聞いた方がいいぜ。オレの事は"部屋で飯食いたいって駄々こねてる"って理由付けて追いやった方が良い)」
「―――すみません、どうやらエリーが人前で食事を取るのが恥ずかしいようで……部屋で食事を取ってからまた合流したいと、」
「それはそれは、随分と愛らしいね」
リーコスの言葉にハルコはエルミスの方へと向いて笑顔を向ける。―――どうやら怪しまれていない、とエルミスは少しホッとして一度頭を下げると、セリーニの手とセルペンの手を引いてその場から離れた。
「ハルコ王子、三年分の積もる話もあります。少し場所を移動しませんか?」
「あぁ、そうしようか」
「では……祝いの街が良く見えるバルコニーへ」
提案に頷いたハルコは空いたグラスを給仕に渡し、シャンパンの入ったグラスを持ってリーコスの後ろを付いていく。
大きくなった。本当にそう思う程、三年という長い月日は色々なものを変えていく……そうハルコは思いながら、リーコスと軽いやり取りをしつつバルコニーを目指した。
「呪いですか!?」
「あぁ、あれは紛れもなく呪いの類だ」
エルミスが向かったのは大ホールに向かう前に居た客間だ。給仕に頼んで大ホールに置かれていたケーキやムースといったありとあらゆるスイーツを持ってきてもらうように頼んでいたので、ローテーブルいっぱいに小さな皿やカップが並んでいる。
コルセットが聊かきついか食えない事はないな、とティアラのヴェールを上げてフォークを持ち、さっそくとばかりにチョコレートムースから手を付け始めたエルミスの言葉に、セリーニはびっくりした表情を浮かべており、同じようにセルペンも薄らと驚きの表情を浮かべていた。
「しかし、私も宝剣を見ていましたが、それらしいような呪いの類は……」
「王城に入る前の検査はしっかり受けていました。呪いの類は探知されていなかったそうです」
エルミスと同じように宝剣を見ていたセリーニの言葉と、通信機で魔法道具の検査を行った者とやり取りを終えたセルペンに言葉を聞いたエルミスは、フォークをデザート皿を手に取り食べ進める。
「抑えきれない闇属性がうっすら見えてたから、リーコスも気付くのに時間掛かっても、二人きりになったら流石に分かるはず」
ムース、ケーキ、焼き菓子、……ぽんぽんとエルミスは口に菓子を詰め込みながら仮説を立てる。防魔法によってスキャニングも出来ないエルミスは仮説しか立てることが出来ないが、大体合っているだろうと推測する。
「……ところでセルペンさん、リーコスとハルコ王子って仲いいんですか?」
「はい、リーコス様の生誕祭から来訪し祝いをなさった方の一人です。一年に一回顔を合わせる他に、家庭用通信機にて多くの会話を交わしていました。リーコス様はハルコ王子の事を、兄の様に慕っていると言葉にしていた事があります」
「私の目から見ても親し気でした。兄の様に慕っている、というのは納得できます」
親しい理由を聞いたエルミスにセルペンは簡単に説明をする。度々通信機で語るリーコスを見ていたセルペンは、リーコスに対して"仲が宜しいですね"と声を掛けた事があった。その時に"あぁ、遠いところに居る兄だと思っているよ"と、返した事を思い出す。
セリーニは、リーコスの社交的な態度ではなく、友人や親族の類に向けられた感情で接していた事に改めて納得すると、訳を聞いているであろうリーコスと、呪いが掛かった宝剣を持つハルコ王子を気に掛けながら窓の外を眺めた。
「もしかして、気付かれてしまったかな」
「……気付いたのはエリーです」
「そうか……」
クラシックと上品な笑い声が響く大ホールの賑やかさとは違い、バルコニーは遠くから聞こえる賑やかな国民の声がリーコスの耳を撫でる。
小さな楕円のテーブルにグラスを置いたハルコは、明るい街並みを手すりに手を付きながら眺めつつ、心地よい涼風を胸いっぱいに吸い込みながら、隣へとやって来たリーコスへと視線を向けずに一言声を掛ける。
エリーが気付いた、という言葉にほんの少し驚きながらも、ハルコは左程取り乱しはしなかった。ガラスドア越しに待機している護衛に一言"隠し事は難しいな"と心の中で伝えつつ、遠くから聞こえてくる軽快な音楽と笑い声が風に乗って二人の耳を撫で去る。
「その呪いは……俺が見た限り唯の呪いではありません、……どのような類の呪いか聞いても?」
「――――長く続く王位継承争いの、不必要な呪いだ」
そう言い切ったハルコの瞳は、ただ遠くを眺めているにも関わらず、どこか近くに存在している敵を見るような眼光だった。
ハルコが語ったのは、イガンダス国の王位継承争いの真実だった。長く続く王位継承争いの"儀式"は、どの国も噂程度にしか把握しておらず、真実は一切聞かされていない。全てを聞いたリーコスは驚愕と戸惑い、そして小さな怒りと悲しみだった。
「……駄目ですハルコ王子、それはいけない。貴方が"それ"を理解しているのであれば、"決め事を変える"のはハルコ王子の役目だと俺は思います」
「だが、今更呪いを解くことは出来ない。"十人分"の呪いを魔法石に纏めてしまった。呪術師でも解くのは難しいだろう」
カチャリと小さな音を立てて宝剣の柄を持ったハルコは、宝剣が受けとった呪いを感じてぴりりと掌に痛みを受けると、そっと柄から手を離す。
「呪い発動の期限はいつですか、」
「……今日の日付が変わり次第だ。前夜祭だけでも、と顔を出そうと思ってね……今日という日が終わる前に船を出そうと思っていたんだ」
「そんな……」
現時刻は夜八時。南の船着き場までの移動に早くても約二時間。余裕を見積もっても三時間だろう、ハルコに許された最期の時間は約一時間だ。
リーコスは話を聞いて、他国に関わる事に手を出すリスクを考えた。この先何があるか分からない、他国の事情に首を突っ込むなら未だしも、呪いというものが王位継承争いに関わっているという事を知れば、それに加担したと言っても過言ではない。
だが、それでも。
「……俺は、ハルコ王子を助けたい。もし、貴方が無事だったら、その後の事は考えていますか?」
真っ直ぐな目だった。真剣な表情で質問するリーコスに、ハルコは口を噤む。"その後"の事に"自分がいる"事を考えていなかったからだ。
「時期王となるのは、王位継承争いが終了した後すぐだとも父上から聞いた事があります。貴方なら、その根源を絶つことが出来るのでは」
「…………だが呪いはそう簡単に、」
「俺に考えがあります。なので、その後の事を考えてください。頭のキレるハルコ王子、俺はそういう貴方に憧れているんですよ、今も昔も」
戸惑うハルコにリーコスがそう言葉を語りつつ笑みを浮かべると、ハルコの手を取ってバルコニーから出る。突然の行動に慌てる護衛も付いていけば、行き当たった先はドレスルームだった。
おそい!!いつもどおり!!まだ19時!!!こんばんは!!!
今日も結局忙しかった、、、寒暖差で体調がやられていますが、まだ大丈夫!!
いまあつもりでやってることって、ひたすら潮干狩りなんですよね。ずっとあさり取ってる。あさりとってイトウ釣らなきゃ、、、