Chapter24-8
「―――んで、代理をオレが引き受けたってわけ」
「なるほど……王族は十五までに婚約者を作るというのは、親から聞いた覚えがあります。第一王子、私で良ければ代理になりましたよ?」
「駄目だ、セリーニ隊員は私の第二の親同然の人物……私の幼稚な我儘に付き合ってもらいたくはない」
「かっこわりーところ見られたくないんだと」
三人それぞれソファに座り、詳しい説明をお人形……もとい、エルミスの口から詳しく聞いたセリーニは、代理の件に関して言われたら引き受けた事を伝えると、リーコスは首を振って視線を逸らした。本当は今でもかっこ悪いところを見せてしまったと思っている事をエルミスはとっくに気付いている為そうセリーニに伝えれば、リーコスの視線がエルミスを射抜いた。
「今回はマジ反省しろよ。でもオレはラッキーだからいいんだけどな」
「イガンダス国の宝剣は、歴史の教科書にも書かれていましたね。私ももしかしたらラッキーかもしれません」
自国の国宝の類でさえ、祭事のみ遠くから眺める事ぐらいしか出来ないというのに、他大陸の国宝など滅多に見ることは出来ない。
エルミスにとってイガンダス国という鍛冶の栄えた大陸で生まれた国宝である宝剣を見る、というのは、一種の憧れと願いとして入っていた。いつか長い人生で見る可能性はあるかもしれない、とは思っていたが、思いのほか早いチャンスを、男の尊厳云々で渋って逃がすなど考えられない。
「だが、ハルコ王子が宝剣持ってくるとは限らないぞ?」
ゆったりとソファに座り、脚を組んで時間を確かめた後、給仕が持ってきた珈琲を一口飲みつつリーコスがそうエルミスに言うと、エルミスは長い髪を揺らす様にふるふると首を振って否定する。
「絶対持ってくる。ハルコ王子はイガンダス王国の王族直系第一王子、三年前の王位継承争いの時に父親である国王から宝剣を授かって、ハルコ王子が次期国王に内定してる。第一大陸の次期女王たるイエラの生誕祭に持ってこなくていつ持ってくるんだよ」
鍛冶屋特有の症状なのか、自分が手掛ける事の出来る物に関する事には少し早口になりながらも確信をもって語るエルミスの言葉に、流石のリーコスも言い包められてしまう。
ずずー、となんとも着飾った身体に似つかわしくない珈琲を啜る音を立てるエルミスに、隣に座っていたセリーニも"やはり中身はエルミスですね……"と、どこかホッとしながら胸の内でそっと宝剣を目にすることを楽しみにしつつ、使用人が呼びに来るのを待ったのだった。
王城の大ホールは、様々な王族と貴族が集まり賑わいを見ていた。本日の主役であるイエラも、普段じゃじゃ馬らしい一面ではなく、第一王女として、そして何よりも時期女王としての威厳溢れる立ち振る舞いを見せながら、国王と共にあいさつ回りをしているのがエルミスの視界に映った。
「アイツも、一応第一王女なんだなぁ……」
「やはり、エルミスから見て幼馴染の方が強いですか?」
「そうだな。でもオレが見てないところで努力してるのは、イエラが付けてるブレスレットで知ってんだ。アイツ、昔のリーコスと一緒で魔法の才能はちょっとばかし平凡なんだが、ブレスレットに刻まれた情報を見ると、すげー努力して才能を伸ばしてんだぜ」
真紅のドレスに負けない程輝きを得ているブレスレット。王族が受け継ぐ国宝であるそれは、シゼラスの先祖が作り上げたものだ。
今も尚正常に機能し美しさを誇るブレスレットを"受け継ぐ"というのは、決して王族だけではなく、そのメンテナンスをシゼラスの子孫たちも受け継いでいく。
魔法剣を作り上げたエルミスに、ブレスレットの持ち主だったリーコスはイエラへと引き継いだが、似ている様で全く違う魔法系統の二人に、イエラが使いやすいようにオーバーホールするのが大変だったとエルミスが語っていると、王妃を迎えに行っていたリーコスがエルミスの元へとやって来た。
「挨拶回りに行くぞ」
「……なんか言った方がいいか?」
「よろしくおねがいします、だけでいいさ」
裏を返せば"余計な事を言わなくていい"ということ。幼馴染の間は色々な情報が詰め込まれている、うっかり口を滑らせて恥ずかしい情報を伝えたくないのだろう。
リーコスが差し出した腕にほんの少し考えたエルミスは、"腕を絡めるんですよエルミス!"と小声でアドバイスをしてくるセリーニに、"お、おぉ!"と小声で返事をして腕を絡めると、歩き始めた二人の後ろをセリーニともう一人の護衛が付いていく。ちらりとセリーニが護衛の方を見ると、美しさとかっこよさを兼ねそろえた女性が同じように見たので、互いに会釈をしながらセリーニがまず第一声を上げた。
「ギルド隊C…じゃなくて、Bクラスのセリーニです」
「リーコス様から聞いております。親子関係の親として良くして頂いていると……。私はセルペン、騎士団員中隊長ですが、主な任務はリーコス様の護衛にあたります」
手堅く握手をして笑みを浮かべる二人はそのまま軽い雑談をしつつ、挨拶周りをする二人の後を淡々と付いていくと、とうとうエルミスの本命であるハルコ王子の前にやってきた。
「やぁリーコス王子、三年も見ないと背がそれほど高くなるのかな?」
「ハルコ王子、お久しぶりです。俺の生誕祭で顔を出していただいた日には、もうハルコ王子の背も抜かしているかもしれませんね」
「フフ、それは困った。おぉ、それが通信で言っていた例の魔法剣、美しい……っと、魔法剣も美しいが、ドレスによって更に美しさが引き立つ御隣を紹介してくれるかな?」
今までの王族関係や貴族の者達に挨拶をしていた様子とは違い、互いに抱擁し合い、軽口を叩く仲であるという事に、後ろで見ていたセリーニは相当この二人の仲が良いという事を理解する。
セリーニはハルコ王子という存在はラジオ等で知っていたが、この方が"あのイガンダス国"の次期国王になる、という事実は、少なからずセリーニの脳内である噂がちらつく。
(イガンダス国の王位継承争いは、正式的に"どういったもので決まる"のかは知らされていません。……だからこそ様々な噂が流れてはいますが…、)
その"噂"の一つを想像するセリーニとは余所に、笑顔でエルミスの方を見ているハルコ王子。その笑顔に思わずエルミスは背を伸ばして軽く頭を下げつつ挨拶をすると、リーコスがエルミスの方を見ながらハルコに紹介をし始める。
「彼女は婚約者のエリー、小さなころから共に過ごしている、大切なパートナーです」
「へぇ、私の知らないところで良い愛を育んでいた様だね――初めまして、ミス・エリー。私はハルコ、イガンダス国の時期国王として選抜された……唯のしがない第一王子とでも」
そう言ってエリーと呼んだ少女の手袋で覆われた手を取ったハルコ王子は、軽く手の甲に口付けつつ挨拶を終了すると、思わずエルミスも"これをリーコスが出来ればな……"と、幼馴染の心配をしつつ少し高い声を意識して"よろしくお願いします……"と、返した。
(時期国王として選抜された、にしては……随分と護衛の方が少ないですね……)
ハルコ王子が自国から連れてきた護衛は二人。たとえ厳重警備のアステラスと言えど、自国から連れてくる王族護衛は最低五人だ。半分護衛で埋め尽くされていると言っても良い大ホールで、時期国王を約束されているハルコ王子を護る護衛が二人という事にセリーニはどこか引っ掛かりを覚えていると、丁度帯剣に吊り下がっている宝剣の存在に気付いて視線を集中させる。
とにかく一言で言えば美しい。それ以上の語彙など不要とばかりに様々な装飾や模様が施された金の剣は、魔法石ロズ・デアマンティが控えめながらも美しく金に抱かれる様に佇んでいる。あまりの美しさにセリーニも、そしてエルミスも宝剣を眺めていると、エルミスが目元を隠していたヴェールを上げて真剣な表情を浮かべている事にセリーニが気付いた。
「リーコス様、お耳を」
「あ、あぁエリー。なにかな?」
普段"リーコス様"と呼ばないエルミスに、慣れないリーコスは一瞬吃りながらも背を屈めて耳を寄せれば、エルミスは手で口元を隠して耳打ちする。
「(あの宝剣、呪いが掛かってるぞ)」
たった一言。その言葉にリーコスの胸の内がざわりとざわついた。
あつもりたのしー!!!昨日言った?しってる!こんばんは!!
やっと博物館が出来て、外に置いてた水槽化石虫かご全部寄贈してすっきり。今からヤマメチャレンジしながら目指せタランチュラ島…。
明日少し忙しいのでお休みとらせてください!只管移動の時間、、、頑張るぞ、、、