Chapter24-4(更新3/20!)
王妃―――イスティアはこんな言葉を思い出したのだ。
『―――ドレスとカツラで女性に化けてもらう作戦でいきましょう。筋肉質な腕はショールで隠せばいい』
絶対に怒られると思ってはいるが、ここは藁にも縋る思いで向かったのは"ロドニーティス家"の名札が描かれた家の前だ。貴族衣装ではなく、"親友"から譲り受けた衣服を身に包み、長い髪型を一つに纏めてつばの長い帽子を被れば"王妃"が街を闊歩しているとは国民も思うまい。セルペンも二歩ほど後ろで護衛を遂行しながらロドニ―ティス家の玄関前で足を止めると、呼び鈴のボタンを押す。
「はいはい、あがってあがって!」
「ありがとうございますリーラ、お邪魔しますわ…」
「私は玄関前で、」
「セルペンさんも上がって!」
「は、はい……」
玄関を開けたのは家主のところに嫁いだ親友ことリーラだった。深々と頭を下げたイスティアの腕を引っ張った後、護衛に努めようとしたセルペンの腕も引っ張ってバタンとドアを閉めたリーラは、客間のドアを開けて二人を押し込んでから珈琲と茶請けの準備急いで済ませて二人の元へと戻る。
「急にびっくりしたわよ。王妃が前夜祭の準備で忙しいと思っている中で、街中うろうろしてたら皆びっくりするところよ。まぁ、今から行くって連絡してくれたから、しっかり変装してくるようにって言えて問題なかったけど…」
「ごめんなさいリーラ。でも今日はどうしても……その、……直接頼み事しなければならない事がありまして……」
燻る湯気から漂う珈琲の香りとは裏腹に、イスティアの恐縮した表情がリーラの目に映る。
女王となる事が決まっている第一王女の誕生祭とその前日は、学校の類は全て休みになっており、リーラはのんびりと家で寛いで居たところ、家庭用通信機からリーラ専用の通信音が鳴り響いた。
誰だ、と思いホログラムに映る名前を見て、盗聴妨害魔法をしっかりと掛けた後通信を取り、急いで客間を掃除して今にいたる。
歯切れの悪いイスティアの言葉に、リーラは首を傾げながら茶菓子のメレンゲクッキーを勧めつつイスティアの顔をしっかり見て言葉が出るまで待っていると、イスティアが一歩下がって頭を大きく下げた。
「え、エルミス君を女装させて、今日一日リーコスの婚約者として代理を立てたいのです!」
「…………いいけど」
「そうですよね、やっぱりだめ、え?」
「いいけど」
「………よろしいんですか?」
「えぇ。多分だけど、エルミスもなんだかんだ言って協力してくれるわよ。あの子、現金だし」
てっきり断られるかと思っていたイスティアは、思いのほか親の承諾を得てしまいぽかんと口を開けながら姿勢を正しつつも、思わず首を傾げてもう一度確認を取れば、こくりと頷いたリーラが"エルミス―!"と大声を上げて自室に居るであろうエルミスを呼んだ。
"なにー!?"と返事が遠くから聞こえる。"ちょっと客間きてー!"とリーラが言えば、かちゃん、たんたんたん…と階段を降りてくる音が大きくなり、ひょっこりと客間にリーラの子であるエルミスが顔を出した。
「うお!?こんにちは、王妃さま、セルペンさん」
「こんにちはエルミス君」
「こんにちはエルミス様」
来客が王妃だと知らなかったエルミスは、突然王妃を目の前にして一瞬驚くも丁寧に挨拶をすれば、王妃とセルペンが頭を少し下げて挨拶をする。ちょっとここ座って、と母親に言われてエルミスがリーラの隣に腰を下ろすと、机の上に置いてあったメレンゲクッキーに手を伸ばして一口放り込む。
「あのね、エルミス君。これは王妃としてというより、リーコスの母親としてのお願いなんだけれど……」
「ん、なんですか?」
「…………イエラの誕生祭あるじゃない?その前夜祭の時だけ、リーコスの婚約者として女の子の姿でいて欲しいの…」
「………え?」
母親のティーカップを取って珈琲を飲もうとしたエルミスの手が止まる。聞き間違いでなければ、女装してリーコスの婚約者として一日いて欲しいという願いだと脳はしっかり処理したが、あまりの唐突な願いに驚いたのだ。
「その、なんでか理由を聞いてもいいですか?」
「王族はね、十五歳までに婚約者を決めて、そこから二十五歳まで苦楽を共にした後、婚約者が王家として正式に名を刻める事が出来るの。お披露目は王族の血筋の誕生祭前夜祭、各大陸の王様や貴族の方々に紹介して、顔を知ってもらうのだけど……リーコスは十六まで学業に専念するって、今日まで全く婚約者を作らなくて……」
「あ~~……つまり、あいつの我儘でずるずる引き摺って、もう後戻りできない処まで来たと、」
"王家の顔を立てなければならない"事ぐらいリーコスも分かっているだろうと、エルミスはどこか考えが付いていた。だが女性に対してあの態度であり、尚且つ見合い話も断っている事を知っていたエルミスは、申し訳なさそうに顔をしょんぼりしている王妃の顔を見ながら断る度胸はない。
そしてふと、王妃の言葉に色々と考えを巡らせる。"各大陸の王様や貴族に紹介する"という言葉に、思わず一人の人物の名前が浮かび上がったのだ。
「あの、その前夜祭、イガンダス国のハルコ第一王子って来ますか?」
「ハルコ第一王子は……、確か参加よね?」
「はい、カードには参加ボックスにチェックが付いていました。三年ぶりの参加となります」
エルミスの質問に対し、イスティアが確認のためにセルペンへと言葉を流せば、一つ頷いたセルペンは騎士団員専用の通信機を操作してイスティアへと参加名簿を見せる。
「出ます」
「そうよね、やっぱり少し考え…え?」
「代理出ます」
言葉にするなら"らんらん"だろう。エルミス目が星を集めていると錯覚するほど輝いていた。イスティアもセルペンも"なぜ……?"と首を傾げていたが、ハルコ王子という言葉をよくよく考えてみれば、答えは一つしかなかった。
「一回でいいからイガンダス国の宝剣を目で見たかった……くぅ~~……!今日で叶う日が来ちまうとは……!」
「な?うちの息子ってこういうやつだから」
"準備してくる!"と部屋着姿のエルミスが急いで客間から出て行けば、その後姿を目で追った後、ぽかんとしている二人に笑って肩を竦めた。
明日は水曜日なのでおやすみ!
あと三日でどう森発売か、、、あちあちやな!!