Chapter24 歴史の変革
「いやです兄さん、やはり私が変わるべきだ。兄さんがその役目を担ってはいけない!」
「……我が最愛の弟よ、後は頼んだぞ」
「兄さんッ…!!にいさんッ…!!」
仄かな温さを纏う潮風が頬に当たり、一人の男の頬に伝う涙の筋を歪ませる。付き人が涙を流す男の肩に手を添えて制止させながら、別れの言葉を口にする人物に対して涙を堪えながら頭を下げた。
船に乗り上げ"同じ顔をした片割れの弟"の叫び声を聞く。約束された"次期王"の道を歩む"同じ顔をした兄"の顔は、泣き叫ぶ弟とは違い、まるで死神に会いに行く様な物騒な表情を携えていた。剣帯に下げられた国の宝は、風に揺れてかちり、と音をたてつつ月の光を受け止めている。
「街に妨害魔法の類が掛けられているかもしれません」
「昔、とある男……いや、女か。女から警備の薄い道のりを聞いている。二時間ほどで戻るので、少しだけ私の身代わりとしてここに留まっていてくれ」
「それは構いませんが……」
大陸を離れ、丸一日掛けてアステラス国の船着き場である南の港に着き、馬車で中央へと移動した男と護衛の付き人は、王族が用意した高級ホテルに宿泊していた。自身も王族の為外の警備が厳重である事を理解しており、玄関に一歩踏み出せば沢山の隊員達が付いてくるだろう。
黒いマントを手渡した護衛は、"お気をつけて"と口にして、マントを羽織りフードで顔を隠す男の背中に、腰を折ってしっかり頭を下げながら見送った。
"第一王女生誕祭・前夜祭"一日前、他の大陸からやってくる王族や貴族が一斉に中央へと集まるため、警備体制が一層強化された深夜の王都アステラス。裏道を通り抜けて警備をやり過ごす男がたどり着いたのは、仄かな明かりのみしか見えない一つの店だ。
来客を告げるベルを聞いた店主は、キッチンルームから顔を覗かせながら申し訳なさそうな声を上げる。
「申し訳ないわぁ~~ん。今日だけ生誕祭と前夜祭準備でお休みしてるのよぉ~ん……、またお日様が上った時に……」
「…人が居ないのは好都合だ。今が良いと、我儘を言っても?」
「ん、ん、んんんまぁ~~~♡」
マントに付けられいたフードを被ったままの男は、ドアを閉めて顔を見せる為にフードを取ると、目を白黒させた筋肉女装男が大きく縦に頷きながらカウンターに案内する。
「久しぶりねぇハルコ第一王子♡三年ぶりかしらん?よく護衛付けずにここまで来れたねん」
「お前が警備の薄い裏道を教えてくれたからな、コラーリ」
ウェルカムドリンクとして甘めのワインを入れたグラスをコースターと共に出したコラーリは、久々に見た顔の良い王子の登場に頬を緩ませる。グラスの柄を持ちワインを呷るハルコ第一王子と呼ばれた男は、甘さと仄かな渋さが広がる味わいに"うまい"と一言小さく感想を口にして、コースターにグラスを戻した。
「それでぇ?いつもは第一王女生誕祭の後か、第一王子生誕祭の後に、私の店に来てた記憶があるんだけどぉ~~~……なにかあったのかしらん?」
「察しが良い。……これは、前払いだ」
そう言ってハルコは懐から財布を取り出し、挟んであった封筒をカウンターに置いてコラーリの元へ寄せる。封筒を手に取ったコラーリは、ぱらぱらと札束を捲って計算をすると、片眉を上げて唇を尖らせながらハルコに視線を向ける。
「量が多すぎるわん」
「前払いだ。"シェフの愛情たっぷりディナー"を頼む」
「んも~。第一王子だから贔屓しろなんて言わないハルコ第一王子の律儀ぃ…♡はぁ~い、じゃあここに……」
封筒をとりあえずエプロンの大口ポケットに仕舞ったコラーリは、小さなメモ帳から紙を切り取りペンと共にハルコに差し出すと、紙に書かれていく文字を目で追っていく。完成されていく"情報提供依頼"内容に眉を顰めて首を傾げれば、メモとハルコを交互に見た。
「……結果が出てるじゃない」
「今一度、改めて"世界の認識"を聞いておきたい」
「…真意は分からないけど、とりあえず依頼は熟すわ。じゃあご飯作ってくるわねん♡」
"第四大陸、イガンダス国の時期国王は誰だと情報が回っているか、"―――そう書かれたメモを受け取ったコラーリは、ばちーん!と華麗にウインクをキメて奥のキッチンへと戻っていく。その後姿を眺めながら、ハルコは飲みかけのワインを一気に呷って咥内を湿らせると、何れ来るであろう巨大な料理をのんびりと待つのだった。
昨日あまりにも忙しくて疲れがピーク、眠りに眠って今普通に飯食っていつのまにか21時!こんばんは!慌ててあとがき書いてます!!
これも小話、されど小話。お付き合いの程よろしくお願いします~