Chapter23-9
「テストをした理由は、テストが返却された日に語られたよ。"これは本当に四年間しっかり学校生活を送った者であれば簡単に解ける"と言っていた。現に、入れ違いで出て行った卒業生に同じテストをさせたら、平均九十五点、最高得点は満点だった」
"そのテスト用紙が黒板に貼られた時は、思わず皆の視線が黒板に集中していた"とリーコスは語る。四年前、うんうんと唸りながら参考書や教科書を見て製作していたアレは、本当にちゃんとしたテストを作っていたのだとエルミスは今一度理解すると、マナの路を魔法剣に刻むため槌を振るいながら母親の真面目さを心の中で誇った。
「そしてロドニーティス先生は、俺たち生徒にこう言った」
『どんなに秀才で、天才で、完璧な人間であろうと、私の作ったテストに答えられる者はいない。なんでか教えてやろうか?それは入学したてのお前たちが"まだ学校生活の全てを堪能していない"からだ』
暖かな陽射しがカーテン越しから降り注ぎ、普段であれば心地よさで転寝でもしてしまいそうになるのを堪え、あくびの一つでも零すであろう教室内は、まるでその色を全く見せることなく空気が張り詰めていた。
普段とは違い、幼馴染の様な口調で語る教師に思わずリーコスは押し黙る。前後左右、全ての生徒たちも言葉を噤んで、解答用紙と教師の顔を交互に見た。
『もちろん、私のテストで答えられなかった問題は、勉強すればすぐに答えることが出来る。でもな、その問題はあくまで"私がお前たちにテストという形で教えたもの"に過ぎない。この学校にいる全教師は、"教科書に載っていない事を平気で教えに掛かる"』
教科書に載っていない部分が全て答えられなかった結果がテストに出た。入学試験を満点で合格しても、四年間で習う勉強を全て頭に入れている天才でも、テストは平気でその努力を裏切ってきたのだ。
『学校生活において必要でない知識を問題として出すのはどうか、と考えている者もいるだろうが、私は"学校を楽しむ事も立派な勉学"だと思っている』
学校を楽しんだ結果が、黒板に貼られている百点満点のテストである事を、静まり返った教室で理解できない者は居ない。解答用紙の百点が眩しい。
『大事な話を今からする。まず、頭一つ抜きんでていると思っている者は、残念だがさっきのテストで皆平等となった』
その言葉に、数人の気配が変わった。焦りや、悔しさ、そして小さな挫折を味わったような、負の感情をリーコスを肌で感じ取った。だが、すぐに切り替えた気配を感じる。頭が良い者は切り替えが早い。ここで切り替えなければ、いつまでも足元を掬われてしまい、きっとこの学校生活もやっていけないだろう。
『皆スタートラインを一緒に立ち、そして隣の顔を見ながら卒業していけ。その理由はいくつかあるが……一つ、先生との約束を交えて話そう』
一つ。そう言って人差し指を上げたロドニーティス教員に、まだ制服に着られている生徒全員の視線が集まる。
『三年生に上がるまでに、様々な挫折や困難が待ち構えている。立ちはだかる壁を越えようと努力する者に、共にと手を差し伸べた者は必ず卒業していき、努力を嘲笑う者は皆消えていった』
魔の三年進級。それは他属性の重ね掛けによる中級魔法が行えるかを卒業基準としている魔法学校において、二年の間に習う他属性の重ね掛け授業は至極難しいと言われており、多数の挫折を味わって三年のクラスに上がることなく去っていった者が数多くいる―――そういった噂だが、その噂は実際に事実として語られている。中退した、と語る元生徒が多くいるからだ。
『私はお前たちが初めての自分の生徒であり、四年間の付き合いをする生徒だ。他者を馬鹿にして足を引っ張ろうとするような、幼稚な生徒を持ちたくはない』
随分とはっきりと言う。そういう人物だったな、とリーコスは心の中で思いながらちらりと他の生徒の表情を見ると、びっくりしている様な、あるいは少し怯んだような表情をしている。
『だから、"足を引っ張って他者を蹴落とし卒業しよう"とか考えている幼稚な生徒は、入学金払い戻しが可能な一か月間の間に、退学を勧めておく』
冗談でもなく本気の目でロドニーティス教員はそう口にすると、あまりの言葉にクラス全員の息が一斉に止まる。まさか入学したての生徒を脅すような言葉を平気で口にするのだ、リーコスも思わず背筋を正して四年間付き合う教員の表情を見る。
『―――この学校で、クラス全員揃って卒業した代は経ったの四組。歴史の古い学校でありながら、全員が揃って卒業を出来ない事が不通となっている。挫折していった人間を見送る人数の方が多いクラスだってあったそうだ。私も挫折した者の背を何度も見た事があるし、手を差し伸べきれなかった者だっていた』
どこかの教室から笑い声が聞こえる。だがその笑い声を、ロドニーティス教員率いる教室で耳に入れている生徒は誰一人としていない。皆ロドニーティス教員の言葉のみを脳に入れようと、耳を傾け、呼吸を浅くしながら音を取り入れまいとしている。
『卒業生の私が言っておく。この四年間、卒業の壁が最も厚いこの学校で、他者を嘲笑う余裕など何一つない。だからこそ、私はお前たち全員卒業出来るように努力するし、お前たちも他人の足を引っ張る努力があるのであれば、手助けする努力をしてくれ』
"以上だ"―――そう締めくくったと同時に、学校のチャイムが鳴った。一層賑わいを見せる校舎の中で、唯一つの教室のみ、いつまでも静まりかえっていた。
chapterの小番が9まで言ってるけど、これは小話なんですか?と考えているそこの読者よ、、、私が小話と言えば小話なこんばんは!!!
小話=chapterいっこに纏めただけのもの。短編?そんなものまじすかの頭になんかないです皆分かっている筈。。。
そろそろ暖かくなってくるかなーと思ったらまた寒かったりと忙しい気候ですが、ウイルスの脅威は最後まで気がぬけません。みなさん精一杯の自衛と、信頼できる情報を得てくださいね。
あと、明日少し忙しくなるかもしれません。19時(30分)更新に音沙汰が無かったら、21時に確認しに来てください。まぁ多分大丈夫だとは思いますが、念のためにおつたえてしておきま~す。